海の声

漆湯講義

115.次は絶対。

「海美はゼッタイ元に戻るからッ…俺たちが絶対目覚めさせるから!!」

静かな室内に俺の声が響き、それと同時に頬を伝っていくモノを感じた。

『ウン…私も…頑張るね。』

俺たちは暫くその場で静かに眠る海美を見続けた。

なんだか不思議なカンジだ。
俺にとっての海美は沖洲へ来てからほぼ毎日顔を合わせ、喋ったり、一緒に歩いたり、泣いたり笑ったり…色んな海美を見てきた。

だけど本当の海美はこうやって静かに朝陽を浴び、何も変わらないまま1日を終えていく。

同じ海美なのに、そんな毎日を過ごしている海美が居るなんて可哀想過ぎるよ…

室内に酸素を供給する音だけが虚しく響いて、窓の外はだんだんとその色を変えていく。

何も変わらない。何も変えられない。

そんな自分が嫌になっていく…

どうすれば良い?何をすれば…

『あの…ごめんね、そろそろ面会時間が…』

その声にふと辺りを見回す。

気がつくと俺たちは椅子に座ったまま壁に寄りかかって眠ってしまっていたようだ。

蛍光灯の光がベッドで眠り続ける海美の顔を照らしている。

『何度か声を掛けたんだけど…よっぽど疲れてたのね。私も忙しくて、こんな時間まで起こしてあげられなくてごめんね。』

看護婦のおばさんが申し訳なさそうにそう言った。

「いぁ、すいません、帰りますね。」

『きっと赤嶺さんも喜んでるわ。また来てあげてね。』

「俺は海美に何にもできてないんで。次来る時は海美を迎えに来る時です。」

俺はそう言うと美雨と海美を起こして部屋を出た。

ドアが閉まりきる前にふと後ろを振り向くと、看護婦のおばさんが海美の座っていた椅子を不思議そうに眺めていた。


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