海の声

漆湯講義

113.海美とウミ

「海美…大丈夫、きっとうまくいく。」

『そうだよっ、海美ねぇなら大丈夫ッ。』

無言で頷く海美を見てから俺は病室の扉に手を掛けた。

『待って!!やっぱり最初はボクと海美ねぇで入る!!』

何を思ったのか、突然美雨が俺の前へ立ちはだかり俺の入室を止めた。
だけど俺はその理由がなんとなく分かる気がして、何も言わずに足を止めた。
もし俺が逆の立場なら、ずっと眠り続けているジブンを見られる前に"下見をしたいだろうなっ"て思ったからだ。
俺は頷いてから海美に視線を送ったまま、もういちどゆっくりと頷いた。

俺はドアが閉まってから廊下の壁に背中をつけぼーっと天井を見つめた。

すると室内から海美を呼ぶ美雨の小さな声と…何故か海美の啜り泣くような声が聞こえた。

俺はドアの前に立ちそっと右手をドアに伸ばす。

と、ドアの向こう側から『やっぱりボクらだけでやってみるからゴメン。セイジはそこで待っててくれる?』と美雨の声がした。

中の様子が気になったけど…俺はドアに伸ばした手をゆっくりと下ろした。

中から美雨の声だけが聞こえる。

『海美ねぇ、ジブンの身体に重なるように横になれる??横になったら何か合図してッ。』

それからしばらく沈黙が続く。

『あれ…何でだろ…もう一回やってみて。』

もしかしてうまくいってないのか…

海美は大丈夫なのかな…

もしかして海美に何かあったんじゃ…

不安が更に高まり、どうしようもなくなった俺はドア越しに声を掛けた。

「海美っ…大丈夫??」

何も返事が無い。

「ねぇ海美っ?」

室内からは美雨の声すらもしなくなってしまった。
ただならない胸騒ぎを覚えた俺は、気づいた時には病室のドアを力強く開いていた。



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