海の声

漆湯講義

102.普通のために

「えっ…そ、そう。美雨の言う通り。俺は皆んなで"普通に"遊べたらいいなって…だめかな?」

海美は少し黙ると静かに頷いた。

『私だって普通に遊びたいよ?けど…』

「けど?どうしたの??」

『"今までの私"に戻っても普通には遊べない…』

そういうことか…
海美は身体が弱くてずっと部屋にいたって言ってたもんな。

「俺はどんな海美でもいいけどさぁ、美雨は、目を見て喋って、お互いの表情見て、触れ合ってさ…ただそこに海美が居るってだけで十分だと思うよ?」

『なんか分からんけどセイジの言う通りだよ、海美ねぇ♪』

すると海美は少し下を見つめたまま自分を納得させるように微かに頷くと『分かった。そう…しよっ♪』と微笑んで見せた。

「それじゃぁ早速作戦会議だッ!!」

そこで俺は一つの提案をした。これはあくまで推測に過ぎないけど、今目の前にいる海美は"幽体離脱をしているような状態"なんじゃないかということだ。もしそうであれば"幽体"が"肉体"へと戻るコトで元の一つの身体になる筈なのだ。
そこで俺は再び、海美の眠る病院へ行くコトを提案した。

『確かにそーかも…じゃぁ、早速明日行こっ♪』

「えっ、明日っ?!」

『明日ッ??…まぁ早いほーがいっか、ヨシ、けってーぃ♪』

そんな訳で明日、俺たちは海美の眠る病院へと向かう事になった。

その日の夜。

『ねぇ、セイジ。ねぇってば。』

波の音だけが静かに響く、月明かりに染まる部屋に小さな声が聞こえた。
俺は重い瞼を持ち上げ、声の方向に顔を向けた。

『セイジぃ、トイレっ。』

そこには俺の顔を覗き込む美雨の姿があった。

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