海の声

ある

67.海辺の小屋より

『ちょっと待ちなさい…お礼って言ったわね?私が伝えておくから。』

俺が振り返ると、先程の怪訝そうな表情が嘘のように、どこか寂しげな、秋の夕陽のような優しい表情へと変わっていた。

「いや、大丈夫です。直接伝えたいので…すいません!ありがとうございます!」

俺はそう言うと逃げるように海美の家を後にした。

坂を下り切ろうとした時…

木陰から、白い影が"ふわり"と道の真ん中へと出てきた。

「あ、海美…」

俺は足を止め俯く海美の前へと立った。

「あの…ちょうど探してたんだよ。その…貝殻…ありがと。」

『…さん…ってた?』

木々の葉の擦れ合う音や蝉たちの声に混じって微かな声が聞こえた。

「えっ?なに?」

『お母さん、なんか言ってた?』

海美は下を向いたまま消えてしまいそうな声でそう言った。

「いや…特になんも。海美はココに居ないって言ったから俺帰るトコだったんだ。」

『そっか…なら良かった。ここじゃなんだからどっか行こ♪』

そう言われやって来たのは海美の家から砂浜へと降りた小さな船着場のようなところだった。砂浜から少しだけ伸びた桟橋には小さなボートが括り付けられており、その桟橋は砂浜の上に建てられた小さな木造の小屋へと続いている。

海美に続いて小屋の中へと入ると、何もない室内に置かれた小さな一枚板のベンチが目に入る。

夏の陽射しが遮られた室内には心地良い潮風が通り抜け、木材のいい香りがそれと一緒に俺たちを包み込んでいた。

ベンチに座り足をぶらぶらさせている海美は、やはり少し下をじっと見つめて、何か考え事でもしているのだろうか。何を喋る事もなく白いブラウスの裾をゆらゆらさせ、俺はただ、その白いすらっと伸びた足に見惚れていた。

『夏祭り…もうすぐだね。』

突然海美が口を開いた。


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