海の声

漆湯講義

43.胸の奥のモノ

「ただいまぁー…」

『ちょっと、こんな遅くまでドコほっつき歩いてたのよ!!心配したじゃない!』

玄関へ入るなり母さんがオタマ片手に凄い勢いで迫って来た。

「遅くなるっつったじゃん。」

俺は靴を脱ぎながら素っ気なく返答する。
そんな俺の背後では物凄い威圧感が俺を押し潰さんとしている。

『遅すぎますぅ!!せめて暗くなる前には家に帰って来なさい!分かった??』

「ごめん…なさい。気をつける。」

威圧感の風船がスゥーっと萎んでいく事を確認してから気になっていた事を質問した。

「母さん、やっぱ子供が暗くなるまで帰ってこなかったら心配になるよね?」

母さんは拍子抜けした顔で俺を覗き込んだ。

『当たり前でしょ、急にどうしたのあんた。』

「いいからっ!あと、心配性なのに心配しないってどゆこと??」

『はぁ?訳わかんない。ホントどうしちゃったのよ。まぁ…その子の事を信用してるか…あっ、その"彼氏"を信用してるかじゃないっ?ふふ♪』

俺の肩にポンと手が置かれる。母さんを見上げるとカンに触る顔でニヤニヤと俺を見下していた。

「だからちげーっての!!!!聞いて損した。」

『さっ、早くご飯食べちゃって!今日は今のアンタみたいにアツアツなカキフライよっ♪』

ったくめんどくせー…聞かなきゃ良かったマジ。

食事を終え自分の部屋に入ると、窓から差し込む月灯りがレースのカーテンの模様を床に映し出しいた。それはまるで俺を海の奥底に沈んでいくような感覚にさせた。

海美が…渡し子…か。
なんで俺に言ってくれなかったんだろ。

そう考える度に胸の奥のモヤモヤとしたものが俺の心臓に纏わりつき海の奥底に引き込んでいく。

明日、聞いてみよっかな。

俺はカーテンを開け潮風を招き入れると、静かに繰り返される波の音と共に眠りに落ちた。

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