海の声

漆湯講義

34.ホントのキミ

「か…可愛いと思うよ…」

『えっ!そ、そうじゃなくて…』

海美は俺に背を向けて下を向いてしまった。
俺に恥ずかしい事言わせといて"そうじゃない"なんて酷すぎだッ…

『よくココにお参りに来てたのッ。お母さんと。』

「えっ、こんなとこに?」

言っちゃ悪いが誰かがお参りに来るような所には思えない。完全に"忘れ去られた神社"って感じがする。

『ここね、お父さんとお母さんの思い出の場所なんだってさ。このお辞儀の角度とかッ、この拍手のやり方とかッ…』
そう言って説明をしながら実演する海美をぼーっと眺める。
『お父さんに褒められたんだぁ…"海美は巫女さんに向いてるかもなっ"って。…あ、拍手のこと柏手(かしわで)って言うんだって、知ってた?』

一瞬見えた寂しげな表情…それは夏の陽射しのせいだったのかもしれない。

「い、いやぁ知らなかったけど…」

『ん?どうかした?』

「いや、赤嶺さんってそんな喋るんだなってさ。」

『え?それは…んと、私はホントは喋るの好きだよ。』

今までそういう風には見えなかったけど…

すると海美は再び俺に背を向け社の前に立った。
『なんかモヤモヤが無くなったから。』
海美が"うんと"背伸びをした。

「モヤモヤ?まぁいいけど、俺は喋るお前の方が好きだけどな。…あ!別にそういう"好き"じゃねーけどッ!!」

慌てて否定する俺をよそに、海美は何かを考え込んでいるようだった。


『うん。ありがと。実は私ね…』

「えっ?なに?」

"ガサガサッ!!"

その時、俺たちの会話を遮るように一羽のカラスが飛び立っていった。

『あ……ううん。何でもない。』

「あ、そう…」

"何を言いかけたんだろう"と気になったが、なんだか聞き返してはいけない気がした。

『そうだ、この先に見晴らしの良さそうな崖があるんだ。行ってみない?"誠司くん"』





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