海の声

漆湯講義

28.いつもの場所へ

俺は"バネ"のように身体を起こすとカメラを片手にベランダへ出た。

"それっぽく"カメラを構え、レンズを海原へと向ける。

とりあえず1枚っと…

とはいえ一眼レフカメラというものを使った事がない為、とりあえず見様見真似でファインダーを覗き込んだ。

おっ、見える見える。これで…ズームは…

カメラの先端に付いた筒を左右に回転させてみる。が、何も変化は無い。

あれ?これ壊れてんのかな?

もう1度ファインダーを覗き海原へとカメラを向けてみる。

その時ひらひらと風に靡く白いモノが目に入った。

あ…またアイツ。

ファインダー越しに"海美"の姿を見つけた。

俺は階段を駆け下りて玄関へと向かい、砂浜用に出したビーチサンダルへ履き替える。

『あんたどこ行くの??』

「海っ!!父さんに頼まれた仕事あるからちょっと遅くなるかも!」

ジリジリと焼き付くような暑さの中、それを助長するように島中から蝉の大合唱が響いている。

そして砂浜へと続く階段を駆け下りて"いつもの場所"へやってきた。

「よっ。今日も貝拾い?」

海美が座りながらこちらを向く。

『あ、瀧山くん。そうだよ。なんとなく"そろそろ来てくれるんじゃないかな"って思ってたトコ。』

待ってたってこと??
何でもない一言に妙にテンションがあがる。

「えっ…うん、そ、そっか。うん。」

冷静を装うも、落ち着かない。

あれ?だけどそれって…

俺が"海美に会いにきている"という事が露呈してしまったような気がして急に恥ずかしさが増した。

俺はカメラを分かりやすく首から下げると、あえて海美の目線までしゃがみこんだ。

そんな俺の心を見透かしたようにこちらも見ずに海美が尋ねる。

『どうしたの?それ。あ、私は写さないで欲しいな。その…写真苦手っていうか…』




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