海の声

漆湯講義

1.プロローグ

 ジメジメとした暑苦しい空気とは裏腹に星雲のような煌きを放つエメラルドグリーンの海面。その上に広がる蒼く透き通った空にはマシュマロみたいな大きな入道雲がどっしりと腰を据えて俺を見下ろしている。

「それにしても暑いなこの島は……」

 ポツリと呟いた俺の一言も、島中から哮り立つような蝉の大合唱に飲み込まれてしまった。
 ……額の汗を拭った手首に光る貝殻のブレスレットも、今ではすっかり馴染んでしまった。
 俺もこの島に来てもう三年になるのか……。あれから、三年……。
 遠い水平線を眺め、道端に人知れず咲いた野花のような過去の記憶をひとつひとつ摘みあげていく。

"ボォーゥッ、ボォーゥッ"

 遥か遠く、フェリーの汽笛が島に響き渡る。

 ……いまから逢いに行くからな。

 俺はフェリーのチケットを取り出すと、それを澄み渡る空に向かって掲げた。



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