少女寿命

こむぎ子

初恋処女(後編)

純血種の悪。先天性の悪。
生まれた時聖水ではなく泥水をかけられた悪。
…蔑んでも無駄。結局私は救えない。
これからは、もっと、ずっと。

君は、"付き合っている人"が出来てから図書室に来る頻度は減ったが、私、知ってるんだ。君は図書委員で、水曜日には必ず来ること。律儀だもんね。そういうところも、好きだった。

水曜日。初夏の訪れ。
本の積み重なった箱庭。二人だけの、淡い時間。
「私、家出しようと思うの。」
ぽつり、話し始めた。貴方は私の事情は知らないけれど、私と共にいて、なんとなくは察しているようだった。
「だからね、別れる前に、最後にやりたいことがあるの。」
「いいよ。どんなこと?」
その了承は、純粋な貴方には、とても酷な決断で。
「目を閉じて。」
これが、最後の願い。
貴方は言われたまま目を閉じる。あぁ、愛おしいんだろうなぁ。見るのもこれで最後か。
私は制服のリボンを解き、貴方の顔にゆっくりと手を伸ばし、
そして、

___貴方の首を絞めた。

動揺。貴方が抵抗しようと椅子から浮かぶ、逃がさない。離さない。ずっと、ずっと、ずっと!!!!!
貴方が苦しむ、貴方の嗚咽が聞こえる、貴方が私を睨む。いいよ。もっと見て。貴方の目には、貴方の脳には、今私しかいない。とてもとても嬉しいの。
手首に爪が立ち、血が滲む。そんなことさえ愛おしい。貴方がつけてくれた傷なのだから。

やがて、貴方は動かなくなった。
踏まれた花は、貴方と共に死んだ。
私はゆっくりと立ち上がり、そのまま図書室を飛び出した。
笑っていた。
幸せだ。あぁ、こんなにこみ上げる幸せが人生にあっただろうか!!?
指紋なんか、隠滅なんかどうでもいい。
このまま、どこか遠くへ逃げていく。
犯人の判明した追跡。それが目的。
そうすれば、私の名前は、私の行為は、私の愛情は、電波で県内へ、国内へ、世界へ!!
届くのですから!!!!!
「ふふっ…あは、あはははははははははははははははははははっ!!!!!!!」
外は天気雨。狐の嫁入りとも云う。なら私は、入れたのかしら?
人の面を被って人を喰らった狐。
私は地獄に嫁入り確定ね。
でも幸せ。この罪は、この愛は、死んでも続くのですから。

雨の中傘をささずに少女は駆ける。
水溜まりはローファーに踏み潰され弾ける。
その様はなんとも異様で、なんとも幸福そうに見えた。

幼児のような少女の卒業式。

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