運命論者と意思論者の異世界生活(仮)

桜月

Prolog

ヒュー と風が吹く。
少女の溜息がホウと響く。
穏やかに揺れる白い靄に右の人差し指を刺し クルリ クルリ と時計回りに回す。
開いた穴を除き、少し目を大きく見開いたあと フワリ と花のように笑う。
鈴の転がるような声で。

「…………待っていたわ。」

と。
踊るような足取りで歩いて行く。
何も無い空間に手をのばすと、ふと本棚が現れ、一冊二冊と本を迎えに抜き取っていく。
1番上に深い緑に鮮やかな天色の刺繍の入った本を重ねどこからともなく現れた椅子に座り、膝の上にに本を置く。

「……ここもいいわ。………ここも。」

何かを調べているのか パラ パラ と頁を捲っては空に指で文字を書く。
ある程度見終わったところで長い銀髪を揺らし身体を伸ばしながら席を立つ。
少女が白く細い腕を肩の高さに伸ばすと扉が カチャリ と音を立て開かれる。
ふいと顔だけ振り返りその青く澄み渡った目がこちらを見る。
形のいい唇が弧を描くとまた前を向いた。
一歩踏み出すと姿は見えなくなり、自然と扉は閉まり消え去っていった。
がらんとした何も無くなった部屋にただ風だけが軽やかに ソヨソヨ と吹いていた。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品