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転生しました。本業は、メイドです。

岡パンダ

ー23ー襲撃⑤


「は、はは……顔はあの子・・・に似なかったのね……。」

立ち上がった少女の顔を見つめながら、若い男はボソリと小さく呟いた。先程の嬉々とした表情とは違い切なげで寂しげな表情で。

「あなたは感情が高ぶると染まる・・・のね。ねぇ、そんなにこの子が大事?……ねぇ?………がっ!?」

ーードスッバキボキッ

「……返して頂きます。」

若い男が小脇に抱えていたシルヴィアの襟首を持ち目の前に突き出そうとした瞬間、少女が瞬時に移動し若い男の胸部に蹴りを入れた。
自分の耳に自分の骨が砕ける音が入ってきて、衝撃と激痛、そして内から込み上げてきた液体が口から溢れる。若い男は受け身を取ることも出来ず地面に何度かバウンドしながら転がり俯せで動かなくなった。

「ひぃっ!」
若い男が転がった近くで腰を抜かしていた男は小さく絞り出したような悲鳴をあげた。他の男達もガタガタと震えている。

少女は蹴りの勢いで若者から引き剥がしたシルヴィアを大事そうに横抱きにすると愛しそうに彼女を見つめた。彼女は薬で深く眠らされているようで規則的な寝息をたてながら眠っている。

「ここで待っていて下さい。」

少女は少し離れた木の下まで移動すると自分の着ていたローブを脱ぎそれを地面に敷き、その上にシルヴィアをそっと寝かせた。

優しくシルヴィアの頭を撫でた後、スッと立ち上がり男達と獣達の方を向く。


ギラギラと輝く赤い瞳で睨み付け、全身から殺気を溢れださせながら。

「……消えてない。」

少女は術者だと思っていた若い男を倒したにも関わらず消えることなく威嚇し続ける獣達を見て呟いた。
ただ、威嚇するだけ。まるでご主人様にマテを命じられ、指示を待っているかように。

指示出す者とは別に何か本体があるということか……。
少女は辺りを見回すが、倒れている若い男以外には腰を抜かしガタガタ震えている男達しかいない。

「……本体は額に瞳がある獣ですか……。こっちを片付けてから探します。」

指示が出せないなら獣は放っておいて問題ないと判断した少女は威嚇だけの獣達を素通りし、腰を抜かしている男達に近づく。息の根を止めるために。

一人の男の前まで来ると腰の剣をスッと抜き、切っ先を男に向ける。
「あ、あ、うぁ、」
「一瞬で終わらせます。」
恐怖で声が出ない男を冷たく見下ろしながら言うと、躊躇なく剣を横にして首目掛けて払った。

当然男の首は体から離れ、辺りが血で染まる………はずだった。

少女の剣は男の首にうっすら血を滲ませただけだった。

「うわぁ!」
「え?」

男が間抜けな声を出すと同時に少女も声をあげる。
剣を払った瞬間先程まで威嚇しかしていなかった獣が突如現れ、男の衣服を咥えて後ろに引っぱったのだ。

指示役を倒した筈なのにどうして…。
少女はそう思いつつ先程倒した若い男の方を見た。

「!!」

そして、目を見開いた。

「ゴホッゴホッ……油断してしまったわぁ。だめねぇ、久しぶりに体を動かすと。」

彼女の視線の先には口元を血で汚し、血だらけのローブを着た若い男がヘラヘラと笑いながら立っていた。
相当深く入った蹴りは胸部の骨を砕き内蔵を潰し背骨にまでも達したはずだった。出血も多かった。
立てる筈が無い。いや、死んでいてもおかしくない。

「ふふふ、驚いているのね。そうよね、普通なら死んでるもの。普通なら……ね。」

若い男は怪しげにニヤリと口角を上げると少女を指差した。そして、

「いきなさい。」

ーーウォォォォン

一斉に獣達が少女に襲いかかる。

「この人間達を殺されては困るのよ。あと、もう少しだけあなたの力を見たいの。さぁ、魔法使って見せて?」

少女は先程とは格段に違う動きで獣達の攻撃をかわしていく。
だが、少女は切りつける事はしつつも魔法を放つ様子は無く、若い男はそれに若干の苛立ちを感じ始めた。

「ねぇ、魔法は?手の内を見せたくないからかしら?……それとも、魔法使えなかったりして?……え…まさか。」

若い男の顔が見る見る青ざめていく。

この世界で魔法は普通だが使いこなせる者は多くない。
魔力は生きる者全てが持っているが、その魔力を魔法として使えるかどうかは別の話だ。
だから少女が魔法を使えなくても何らおかしな事ではない。
だが、若い男にとってこの少女・・・・が魔法を使えない事は衝撃的な事だったらしい。

「ちょっと……どういうことよ……まさか……そんな……。」

衝撃過ぎたのか、若い男は急にブツブツ言いながら頭を抱えた。
そして同じ所をグルグル回っている。
その様子に少女が『狂っている今のうちに今度は剣で首をはねるか』と、若い男に意識を向けかけたその時、


ーーニャーン。
森から何故か猫の声が聞こえた。
少女はその声に素早く反応すると声の方に目を凝らす。

「……あ、いた。」

そこには伏せた状態の大きめの黒い獣がいた。

本体を確認できた少女は、スッと目を細め獣達を捉えると一瞬で獣達を剣で切り刻み黒い霧にした。
霧になった獣達はなかなか元の姿に戻ることが出来ないようだった。

「あら、なかなかやるじゃない。この子達も長く出しすぎたせいで限界が近いみたいね。」

いつの間にか若い男は正気を取り戻してしまった様で何事も無かったかの様に先程と同じ笑みを浮かべていた。
少女はそんな若い男を無視して本体の元に向かおうとしたが、本体は自ら若い男の側に飛び出してきた。


「もう少し遊びたかったんだけど、もう限界みたい。」

若い男はそう言うと本体の背に乗った。まるで、女性のように横乗りで。

「……逃がしません。全員殺します。」

少女はザッと地面を蹴り若い男に斬りかかるが、若い男はその剣を持っていた短剣で受け止めた。

「ふふふ、また遊んであげるから今日はもうおしま……っ、ゴフッ!」

ーーザシュッ

若い男は話の途中でいきなり口から血を吐いた。

「間に合って良かったです。」

「!?」

若い男の腹部にはブスリと深く剣が刺さっていた。
そして少女のすぐ横にはその剣を握る漆黒のローブを纏った男。

「がはっ!」
ローブの男は一気に剣を抜くと、少女の腰を抱いて後ろに飛んだ。
若い男の腹部から大量に血が溢れ出している。


「……その目……あ、いや、これ羽織ってください。後から王子の護衛が馬で来ます。」

ローブの男はそう言って漆黒のローブを少女に渡した。

「……え?あ、ありがとうございます。良く持ってましたね。」

「はい、スペアはいつも丸めて持つようにしているので………!!」

急に言葉を止めた事に不思議に思いローブの男の視線の先を追うと、

「もう、痛いじゃない。」

なんと先程大量に血を流していた若い男が平然として本体の獣に乗っていた。確かに剣は体を貫通していたし、大量に血を流していたはずなのに……。

「あの傷でどうして……。」

回復魔法を使うという手もあるが、使える者は極めて少ない。
それに魔法を使ったような気配もなかった。


「ふふふ、私とーっても丈夫なの。ごめんなさいね。」

若い男はそう言ってニコリと笑うと右手を高く挙げパチンと指を鳴らした。

鳴らした直後、黒い獣達が腰を抜かしている男達の側に現れ次々に黒い靄で男達を飲み込んだ。



そして男達が全員飲み込まれた事を確認すると、若い男は少女に満面の笑みを向けた。

「はい、おわり。また会える日を楽しみにしているわ。じゃあまたね、メル・・………。」


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