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転生しました。本業は、メイドです。

岡パンダ

ー21ー襲撃④


走り出した獣達は凄まじい勢いで女との距離を詰めると、一斉に飛びかかった。

先程は足止めだった為直接攻撃を加えるような事はなかったが、今回は明らかに殺意のある動きだとわかる。

「すげぇ……。」
その光景に思わず大男の口から声が漏れた。

女が立っていた場所には獣達が覆い被さり女の姿は見えなくなってしまった。
「一瞬だったな。ははは……呆気ねぇ。」
重なった獣達の様子に大男は安心すると共にもしも自分があそこにいたらと考えたらゾッとした。





しかしそう思ったのも束の間、

「素早い動きですね、油断してました。正直危なかったです。」

突然上から声が聞こえ咄嗟に見上げると空中に女の姿があった。

「な!?いつのまに!!」

彼女はローブをはためかせながら離れたところに着地すると腰の辺りから剣を抜いた。

「あまり剣術は得意ではありませんが、直接触らない方が良さそうですからね。」

得意では無いと言うわりに慣れた手つきで剣を慣らすと片手で剣を構えた。

「お嬢様を返して頂きます。」

低く唸るように呟いた女は地面を強く蹴り姿を消した。
そして素早い動きで向かってくる獣達を切りつけていく。
切りつけられた獣達はすぐ再生し、何事もなかったかのように再び女に襲いかかる。

「なるほど、実体はないのですね。なら……」

女は、攻撃が無意味であると解ると獣を切りつけるのを止め、獣の攻撃を軽やかに交わしながら大男の方を向いた。

「術者を叩くまで。」

「!?」

そして標的を大男に変えた女は素早く移動を開始する。もはや人の動きではないそれは目で追うのも難しい。

ーガキンッッ!!

大男の目の前に現れた女は彼の腕を目掛けて剣を振り下ろす、が、大男との間に滑り込んできた影狼シャドーウルフの牙に剣を受け止められてしまった。

「なかなかやりますね。」

女は悔しげに声を漏らすと体制を立て直すために後方に飛んだ。
そんな彼女に間髪いれずに黒い獣達が襲いかかる。

女は切りつけては避け、切りつけては避けを繰り返しながら大男を襲う機会を狙うが絶え間無く襲ってくる獣達に苦戦を強いられた。

先程は隠れて姿を現すことの無かった本体も積極的に姿を現し、女と交戦している。

リカルド達を襲った時とは明らかに違う動きをする獣達に、大男は恐怖と違和感を感じていた。

「本当にさっきと同じなのか……?」

「同じですよ……本質は……ね?」

思わず大男が漏らした声に若い男が反応し答える。が、その声はあまりに小さくて大男には届いていない。

「はぁ、はぁ、」

ひたすら続く攻防に徐々に女の体力は奪われていく。
目視できなかった彼女の動きは目に見えて鈍くなり、当たらなかった獣達の攻撃は彼女に傷を与えていった。

『時間の問題』まさにその言葉が相応しい状況だった。


大男はその状況に確信した。
天は自分達に味方したのだと。

馬を確認すると大分落ち着いてきていて震えもない。
そろそろ行けるかもしれない。

仲間に指示を出しこの場を去ろう、そう思ったその時、

「ねぇ、もう終わり?」

若い男が突然女に話しかけた。

若い男の方を見るといつの間にかシルヴィア嬢を自分の馬に乗せていた。そして目を細め笑みを浮かべながら一歩一歩女に近づく。

明らかに様子がおかしい。こいつはどうしたんだ?
大男は見知ったはずの若い男にも獣と同じように違和感を感じた。

「あっけないね。もしかしたらって思ったけど違ったのかな?
あ~残念。」

女は剣を構えたまま片膝をつき、苦しそうに肩で息をしている。
度重なる獣達の攻撃により露になった女の顔は「少女」と言っていい程若いが、前髪で隠れていない深い緑色の左目は尋常ではない程鋭い目付きをしていた。

「あんた、いい目をしてるね。その黒髪も似合ってる。あ、このお嬢様は離してあげないよ?本当に依頼も受けたしね。殺せって。」

若い男は一人でペラペラと一方的に話し続ける。

不思議な事に絶え間なく襲い続けていた獣達は若い男が話始めた途端に攻撃を止め、少し距離を空け少女を囲むように陣取っている。


まるで若い男がこの獣達を統べる別の存在に見えた。
俺の知っている奴ぢゃない。一体こいつは誰なんだ?
大男は逃げる事も忘れただただその光景を見つめた。


若い男はさらに少女に近づき、少女を囲う獣達の側まで来るとその歩みを止めた。

そして再び口を開く。
興奮した子供のように頬を赤らめた満面の笑みで。

「でもさ~殺しちゃうのは勿体ないよね?こ~んなに顔も可愛いくて、魔力も高いし。闇オクに出したら高値で売れるだろうなぁ。あ、闇オークションの事ね?
まぁ、コッチ・・・ぢゃなくてアッチ・・・の闇オクだけどね。アッチ・・・はエグいよ~、この子どうなっちゃうかな。あんたは魔力少ないけど、アッチ・・・でウケが良さそうな顔してるね!せっかくだし、あんたも連れて行こうかな。

あんたも少しでも一緒に居たいでしょ?

お嬢様と……………っ!?」


ーーブワッッ!!

若い男が言い終えた直後、ボロボロな少女から風とは違う空気の圧のようなものが吹き出した。そして辺りの空気がいきなりズンッと重くなり酸素が極端に薄くなる感覚に襲われる。動機が激しくなり一気に汗が吹き出す。

それは最初に彼女が放ったものとは比べ物にならないくらい強く禍々しい殺気だった。


ーーードサッ、ドサドサッ、バタンッバタンッ、
「うわっ!」
「うぉ!」
「なっ!」

突然の声と物音に若い男が振り返ると馬が殺気で気絶してしまったようで泡を吹き倒れていた。
馬から落とされた男達も顔面蒼白で怯えている。

「はは……プロテクトをかけてたのに、こっちも駄目そうだね。」
若い男は、辛うじて立ってはいるが今にも崩れてしまいそうな程震え口から泡を滲ませる自分の馬を見て言った。
彼は小脇にシルヴィアを抱えるとヒョイッと馬から降りた。
ーードサッ、
降りた直後、限界だったのか乗っていた馬も気絶し倒れた。

「あーこんな感覚久しぶり。やっぱりこの体だから・・・・・・多少影響を受けやすいのかもなぁ。」

若い男は顔中にかいた汗を袖で拭きながらヘラッと笑った。

「感情の概念を持たない獣ちゃん達までこんなに怯えるなんて……本能で危険を感じてるのかな?しかたない、影狼シャドーウルフ、お前は森に入っときな。」
ーウォゥ。
影狼シャドーウルフは小さく鳴くと森の中に消えた。

「念には念をってね。」
影狼シャドーウルフが森に入るのを見届け少女の方に視線を戻した若い男は思わず声を上げた。


「…良かった………やっぱり、当たってたみたいねぇ……やっと、見つけたわ。」

恍惚な表情をした若い男の口調がまるで元々そうだったかのように滑らかに女性の口調に変わる。

熱い視線の先の少女は若い男とは対照的に鋭くこちらを睨み付けている。





「……もう……殺す。全員。」
ゆらりと立ち上がりながら小さく呟いた彼女の深い緑色だったはずの左目は深紅に染まっていた。

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