転生しました。本業は、メイドです。
ー19ー襲撃②
「ちっ、逃げた後か。メル、お前は逃げたやつらを追え。そう遠くには行っていないだろう。そっちにお嬢様がいるはずだ。わしとリトは馬車の方に行く!」
「承知しました。」
「メルさん、気をつけて。」
拠点でお嬢様が狙われていると聞いた後、私は今日がその日になるのではないかとオヤジさんに言った。
今日は森を抜けた先の町に行くと行っていたので、森で襲われる可能性があると思ったからだ。
そしてその予想は的中してしまった。
私達は森でお嬢様達の馬車を発見したが襲われた直後のようで、馬のいない馬車の側にリカルド様と護衛らしき二人の姿があった。そしてその三人を囲む沢山の黒い獣達。
ん?リカルド様の側にいる二人の内の一人……もしかして…………いやいや、今はそれどころではない。早くお嬢様を助けにいかないと。
私はオヤジさん達と別れた後、木々を飛び移りながら襲撃者達を追った。情報が正しければ向かう方向は分かっている。このまま行けば発見できるはずだ。
森ならこの方が馬で追うよりも確実に早くて奇襲も仕掛けやすいので都合がいい。
お嬢様待っていて下さい。
今助けます。
捕まえて全て吐かせてやる。
徐々に馬の駆ける音が聞こえてきた。
奴らが森を抜けるまでに必ず追い付く。
絶対に、逃がさない。
ーーーーーーーーーー
「あの女に貰った獣、相当優秀だな。魔法も物理攻撃も効かない分身を出すことができて、結界みたいなのの中で馬車を迷わせて足止めもできちまうなんてな~。お姫様も簡単に捕まえちまったし、本当驚かされるぜ。」
茶色のローブの大男は並走する仲間に向かって上機嫌で話しかけた。
大男はリカルド達から離れた後、仲間と共に隣町に向けて馬を走らせていた。
「本体を隠しておきゃいいんすもんね?」
「まぁ初だったし今回は隠れるよう指示したが本体もなかなか強いらしいからわざわざ隠す必要もないかもな?」
「そうなんすね!いや~ほんと良いもの貰いやしたね!」
「あぁ、楽に仕事が終わりそうだ。」
ハハハと笑い合っていると前方の少し開けた場所に数体の馬の影が見えてきた。
完全に姿がハッキリした時、その内の1人がフードを取り笑顔で片手をあげた。
「アニキ!」
「お!お前達か。お姫様はどうした?」
「ご覧の通り回収しやした。睡眠薬も嗅がせ済みですぜ!」
声をかけた男は自分の前に眠った状態の銀髪の少女を座らせていた。
「よ~し良くやった。このまま森を抜けちまおう。そんで、とっととお姫様を引き渡して飲みに行こうぜ~」
「おぉー!!」
「誰に、引き渡すのですか?」
「誰だ!?」
ーードンッッ!!
「ぐぁッッ!」
突然背後から聞き覚えの無い声が聞こえアニキと呼ばれた大男が振り向くと、その瞬間馬に乗っていた仲間の一人が呻き声を上げ木に激突した。
そして仲間の乗っていた馬の側には先程の声の主であろう漆黒のローブを纏った人物が馬の手綱を持って立っている。フードを深くかぶり顔はほぼ見えない。
「なんなんだ!!」
「誰だテメー!!」
「くそ、なにしやがった!!」
「一頭確保。ではもう一頭。」
身長が女にしては高いが声からして女であろう漆黒のローブの人物は喚く男達を一切無視し持っていた手綱を木に縛ると、品定めするように男達……ではなく、男達の乗っている馬を見回した。
そして、
「その馬にしましょう。」
女は一ヶ所で顔の動きを止め、獲物を狙う獣のように体制を低くした刹那、大地を蹴り姿を消した。
「おやすみなさい。」
その次の瞬間獲物の目の前に現れ、馬に乗っている男を勢い良く蹴り飛ばした。鳩尾に激しい蹴りを喰らった男は吹き飛ばされ先程の男のように木に激突する。
ほんの僅かな間に起こった一連の光景に場が静まり返った。
「…確保。……さて、あなた達こそ何者ですか?先に名乗るのが礼儀では?」
もう一頭の手綱も手早く木に縛り終えた女は、その沈黙を破り大男の方を向いて言った。
丁寧な口調なのにその声は殺気が含まれているかのように冷たく男に突き刺さる。
「は、ははは。そうだな。俺達には礼儀もクソも関係ねぇが教えてやるよ。いいか聞いて驚くなよ?俺たちは、フェンリルだ。」
男は汗を滲ませながら精一杯平常を装い女に答えた。
身のこなしと様子からして相手も裏の人間だろう。
裏の人間がフェンリルを知らないはずが無いし、ビビらないはずがない。きっと尻尾を巻いて逃げ出すはずだ。あの女もそう言っていた。
大男は女の反応を待った。
「……。」
対する女は大男の言葉に沈黙した。
「驚いて声も出ねぇってか?まぁ、無理もねぇな。はははは」
女のその反応に男は笑い声を上げ安堵する。
予想通り女はビビっている。
さぁ、尻尾を巻いて逃げ出せ。
男がそう思ったその時、
「えぇ、驚きました。何故なら私も……フェンリルですから。」
予想していなかった言葉が女の口から発せられた。
「は!?なっ!?馬鹿な!勝手にフェンリルの名前を語って無事でいられると思っているのか!」
そう、男の自信はこれだった。フェンリルの名を偽るということは死を意味する。いつからかそんな噂が流れ始め、今は偽る者など最近出てきたばかりの組織の奴か命知らずのイカれ野郎ぐらいだ。
だから女の答えは大男にとって衝撃の一言だった。
「お、お前は……本当にフェンリルなのか……?」
予想外の事に明らかに動揺し怯えた様子の男が震えた声で言うと、
女はハァと分かりやすくため息き男に近づきながら口を開いた。
「だからそうだと言っているではありませんか。私も組織の人間を全て把握している訳ではありませんので、あなた方がフェンリルでは無いと見た目で判断する事はできませんが、軽々しくフェンリルの名を使う者などほぼいないのも事実です。……しかし、たとえフェンリルの人間であっても個人の縄張りを勝手に侵害する事は許されません。」
女は淡々とした丁寧な口調のまま最後まで言い終えるとグローブをはめた両手をローブから出し、作った両手の拳同士を静かに合わせた。そして、
ガンッガンッ
強く二回拳を合わせた。
あきらかに金属が仕込まれているであろうその音は男達により強い恐怖を与えた。
そして男達は本能で感じ取った。
フェンリルかそうでないかなんて関係ない。
この女は間違いなく危険な存在だと。
「お、俺達はお前の縄張りだなんて知らなかった!フェ、フェンリルの女に頼まれたんだ!!」
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