転生しました。本業は、メイドです。
ーアーノルドと猫ー
「にゃっ、にゃっ、はぐっ、はぐっ」
「この猫、只者じゃない……。」
今僕の目の前では、猫がおいしそうにクッキーをバクバク食べています。
決して僕が自主的にあげたのではありません。
奪 わ れ ま し た。
遡ること約30分前ーー
僕、アーノルド・ウィルヘルムは兄上が僕を置いてシルヴィアとヴァイエル兄さんを連れて出掛けてしまったので、同じ置いてけぼり仲間のメルとお茶でもしようとグランベールを訪れた。
が、
「アーノルド様申し訳ありません。メルは本日外出しておりまして、戻りは夕刻でございます。」
メルは不在だった。
事前に連絡をしなかった僕が悪いので諦めて帰ろうとした時、話していたメイドの後から一人の男性がひょこっと顔を出した。
「これはこれはアーノルド殿下ではないですか。ご機嫌麗しゅう存じます。」
「あ、ごきげんようクラウド殿!」
顔を出したのはシルヴィアの兄上のクラウド殿だった。
クラウド殿はどこかに向かう途中だったのかバスケットを抱えている。
「本日は如何致しましたか?シルヴィはリカルド様と出掛けられて不在ですよ?」
「はい、存じております。今日はメルとお茶をしようと来たのですが不在だったので帰ろうとしていた所です。」
「メルと?左様で御座いましたか。では私が代わりに、と言いたい所なのですが、誠に残念ながらどうしても終わらせないといけない作業がある為お力になれません。」
クラウド様はお忙しいですね。学園では生徒会長をされているそうですし、それに時折アンドレアについて王宮に来て仕事を勉強なさっていると聞きます……今日もそのどちらかの作業を自宅でされているんでしょうね。
「クラウド様!!早くお戻りください!ゴミの分別が進みません!」
階段上から口布をしたメイドらしき人が顔を出し叫んだ。
リカルド様、
一体何をされてるんですか?
「ア、アーノルド様!?申し訳ございません!とんだ失礼を!しかもこの様な格好で……。」
僕の存在に気づいたメイドはそう言って口布を取りながら階段を下りてきた。
メイドの服は激しく汚れている。
本当に何してるんですか?
「すまないフリージア、このクッキーを避難させたら戻るつもりだったんだよ。」
クラウド様は抱えていたバスケットの蓋を開けて見せた。
中にはギッシリとクッキーが詰まっている。
分別された物ですか?
「そうだ!アーノルド様、お時間お有りでしたら庭でお茶でもされていっては如何ですか?今、薔薇が見頃で美しいですよ。」
「ですが……。」
いきなり来て一人でお茶させていただくなんて……。
「お茶菓子にはこのメル特製クッキーをどうぞ。」
「でわお言葉に甘えて……。」
メルのクッキー食べたいです。
「そうと決まれば、リア!庭にアーノルド様をご案内してティーセットを用意してくれ。」
「はい!かしこまりました。さぁ、アーノルド様ご案内致します。」
ーーグランベール家・庭園ーー
リアと呼ばれたメイドに案内されて庭に行くと、本当に見事な薔薇達が迎えてくれた。
そしてバラ達を見ながらさらに進むと少し高くなった所に白い石造りの柱と屋根だけの建物があり、その中央にテーブルセットが見えた。
その周りは薔薇だけでなく他の花も色鮮やかに美しく咲いている。
「わぁ、素敵な場所ですね。」
「ありがとうございます。アーノルド様、ただいま紅茶をご用意致しますので、あちらに掛けてお待ちください。こちらのクッキーも別の器に盛ってまいりますね。」
「あ、そのままで結構です!食べきれないときはそのまま持って帰らせて頂きますので。」
「左様でございますか。では、ティーセットだけお持ち致しますね。」
そういうと彼女は僕にクッキーを預け元来た道を戻っていった。
リア、一字足すと我が家のメイドのマリアと同じ名前ですね。
そういえばマリアは今日兄上に付いていったはず……あ、思い出したらまた羨ましくなってきました。
残ったクッキー、絶対兄上にはあげませんからね。
「はぁ、僕も行きたかったなぁ………あれ?」
クッキーを持ってテーブルに近づくと、テーブルの上に何か黒っぽいものが乗っていることに気がついた。
「何か乗って………うわっ!」
「にゃう?」
黒っぽいかたまりは丸まっていた猫だった。
「どうしてこんな所に猫が……」
グランベール家の猫でしょうか。でも首輪はしていない様ですね……。
「フンフンッ」
猫がクッキーが気になるようで近付いてきたので、
勝手に餌付けしてはいけないと、ささっと猫からクッキーを遠ざけた。
「あ。これは君にはあげられないんだ、ごめんね。」
「にゃあ。」
猫は理解したのかそれ以上近付く事は無く、テーブルでゴロンゴロンしている。可愛い……。
「僕の言葉が分かるの?君はお利口さんだね。さて、僕はまだ紅茶の来てないけど先にメルのクッキーを頂こうかな。………うわぁ!」
「にゃふっ!」
クッキーを1つ取り、口に運ぼうとした瞬間猫がクッキー目掛けて飛びかかって来て僕の手からクッキーを奪っていった。しかも手に持っていたのは一枚だけなのに猫の元には何故か10枚くらいのクッキーが転がっている。。
「この猫、只者じゃない………。」
ーーこうして冒頭に戻る。
「興味が無いと思わせておいてのフェイントか……しかも僕が持っていたのは一枚だけなのにどうやってあんなにたくさんのクッキーを……。。」
「ね、猫!?」
声がして振り返ると、ティーセットを持ったリアが立っていた。
ま、まずい……。
「こ、この子はこちらで飼われているわけではないのですか?」
「いいえ、お屋敷で生き物は飼育しておりません。」
やっぱり迷い猫なのですね。
「てっきりこちらで飼われているのだと思い、この子が欲しそうにしていたのでついクッキーをあげてしまいました。勝手に餌付けしてしまい申し訳ありません。」
もし、この子が奪ったと言ってしまったらこの子はどうなるかわからない。。
「なるほど左様で御座いましたか。ご安心ください、私の胸だけに留めておきます。メルのクッキーは香りも味も最高ですからね、猫ちゃんが食べたくなってしまうのもしかたございません!私も大好きですから!」
リアはそう熱く言うとうっとりした顔をして自分の頬に両手を添えた。
相当メルのクッキーが好きなんですね、この人。
でも、良かったです。これでこの子の事は安心ですね。
「にゃふん。」
鳴いたので猫を見ると、
さっきまで一心不乱にクッキーを食べていたのに今は僕をジッと見つめている。
まだ食べたいのかな?
「もう、食べ過ぎだからダ……」
ーースリスリ……。
猫はいきなり僕の膝の上にトンっと飛び乗り前足を肩に乗せ、背筋を伸ばし自分の頬を僕の頬に擦り寄せた。
ーありがとうー
スリスリされた瞬間
そう言われた気がした。
突然で驚きすぎて反応できずにいると猫はパッと膝からおり、どこかへ走って行ってしまった。
「アーノルド様!お怪我はありませんか!?」
「あ、はい、平気です。スリスリされただけですから。綺麗で利口な猫でしたね。」
「はい、珍しい毛色でした。黒のような青のような……。でもまたお庭に来てしまった時は可哀想ですが追い出さなくてはなりません。」
確かに黒に所々青い毛色が混ざったようなキラキラした毛色だった。
「そうですよね………でわその時は僕が王宮で引き取りますよ。」
「よ、宜しいのですか!?」
「はい、ですから保護した際は僕に知らせて下さいね。」
「かしこまりました……。って、あぁぁ、アーノルド様!紅茶の事をすっかり失念しておりました!冷めてしまいましたのですぐに新しいものをお持ち致します!」
「あはは、いえ、それでいいですよ。せっかくですからリアも一緒にクッキーを食べましょう。」
「よ、宜しいのですか!?嬉しいです!!」
メルがいなくて残念でしたが、来て良かったです。
美味しいクッキーも食べられましたし、美しい庭も見ることが出来ました。
そしてあの不思議な猫にも会えました。
また会えるでしょうか。
「アーノルド様!美味しゅうございますね。」
「………。」
リアには失礼ですが、体型通りの食べっぷりですね。
お持ち帰り分が無くなりそうです。
「アーノルド様、こちらの味もオススメでございます!」
すみません兄上、やっぱりクッキーは差し上げられそうにありません。
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