転生しました。本業は、メイドです。
ー15ーデェトです。
「リカルド様、メルへのお土産は何がいいと思いますか?」
「そうだね~お菓子なんてどう?珍しいお菓子がいっぱいあるよ。」
「本当ですか!?メルに買って帰りたいです!」
今日はリカルド様とのデートで森を抜けた先にある小さな町に来た。
小さい町だが、今日は隣国の商人達が集まるイベントとあって沢山の人で賑わっている。
最初は上手く楽しめるか心配だったけど、メルが言っていた通りリカルド様が上手にリードしてくれて私はただただリカルド様のエスコートに身を任せ楽しい時間を過ごしていた。メル、デート楽しいよ!!
「リカルド様、シルヴィア様、お菓子であればあそこはいかがでしょうか?人気の焼き菓子の様ですよ。」
そう後ろから声をかけて来たのは、リカルド様の従者のヴァイエルさん。リカルド様と私の4歳年上でリカルド様とは幼なじみらしい。国家騎士団に勤めていて今日は私達の護衛として同行してくれている。
栗色の短髪と切れ長の瞳、線が細そうに見えて体躯のしっかりした身体、そしてこの物腰の柔らかさ、要するに絶対モテるメンズである。
リカルド様も安定の顔立ちなので二人が一緒にいると目立つ目立つ……ってわたし今すごい贅沢ぢゃないか!?
あぁ、二人共キラキラして眩しいな…。
「そうだね、そこにしよう。ん?シルヴィア、どうしたの?」
「ヴァイエルさんもリカルド様も眩しくて。」
「は?」
「あ、いえ、なんでもないです。それより、ヴァイエルさんとリカルド様は幼なじみなのですよね?親戚なのですか?」
「いや、ヴァイエルの父上が国家騎士団長を長年務めていてね、それで将来僕の近侍にする為に小さい頃から共に育てられたんだよ。血の繋がりは無いけど、友というよりは兄弟に近いかな。アーノルドも良く懐いているよ。」
なんと!まるでわたしとメルみたいな関係だわ!!
メルもグランベール家の使用人で血は繋がってないけど、わたしにとっては姉のような存在だもの!
「リカルド様がやっと友人と呼べる方を作られたと思ったらすぐ婚約されたので大変驚きましたが、本日お会いしてみて納得致しました。シルヴィア様これからもリカルド様共々宜しくお願い致します。」
「そ、そんなわたしの方こそ宜しくお願い致します!!」
おおう、どう納得したのか分からないけど褒められたんだよね?
ありがとうございます!
でも申し訳ありませんヴァイエル様………婚約(仮)なんです……。
リカルド様に好きな人が出来て友人に戻っても宜しくお願いしますね。
「リカルド様の事で何かあればいつでもご相談下さいね。」
「は、はい!わかりました!」
「いやいや、何かあれば直接僕に言えばいいよ。」
「リカルド様、ヤキモチですか。」
「……うるさいよ、ほら早くお菓子買いに行こう。」
ヤキモチ……兄を取られたくない弟のような感覚かな。
何か私と同じ匂いを感じる。
その後は、メルとアーノルド様にお菓子のお土産を買い、隣国の特産物や工芸品を見て回った。
本当に珍しい物や面白いものが多くて目移りしてしまう。
中でも隣国の名産品である七色に輝く宝石を使った装飾品が一際目を引いた。
「わぁ~綺麗ですね!初めて見ました!」
「僕も実物を見るのは初めてだけど、すごく綺麗だね。」
「この宝石は隣国の名産ではありますが、なかなか希少価値が高い宝石なのですよ。」
なるほど……ヴァイエルさんのいう通り、かなり良いお値段の代物ばかりだ。
そこまで装飾品に興味はないのだが、この宝石は本当に美しくてついつい魅入ってしまう。この宝石の髪飾り、メルの黒髪に似合いそうだなぁ。
メルはお洒落をしない。『最低限度の身だしなみ』がメルにとってMAXだと思う。
もちろん仕事用に化粧はしているが、それも『最低限度の身だしなみ』に含まれる程度の薄いものだし、アクセサリーも身につけたところを見たことが無い。たぶん持っていないんだと思う。
「……メルとお揃いのアクセサリーほしいな……。」
「ん?何か言った?」
「な、なんでもありません!改めて綺麗だなと思っただけです!」
わわわ、声に出てしまってた!聞こえてなくて良かった~。
よーし、いつかメルの誕生日にこの宝石の髪飾りをプレゼントするぞ~!メルから貰ったブローチは私の宝物だし、メルも宝物にしてくれるかな~!ふふふ、貯金の計画を立てなければ……。
「シルヴィア大丈夫?疲れた?」
「あ、ボーッとしてしまって申し訳ありません!大丈夫ですわ!リカルド様は何か買われましたか?」
「あぁ、うん、僕の用は済んだよ。さて、もう大分見て回ったしそろそろ一旦馬車に戻ろうか。」
大丈夫とは言ったものの、本当は結構歩いたのでちょっと疲れた。
でも、珍しい物をたくさん見れたしお菓子も沢山買えたので来て本当に良かった。メルに報告するのが楽しみだな~!
「お帰りなさいませ、リカルド様、シルヴィア様。」
「ただいま、留守をさせてしまってすまない。何も無かったかい?」
「はい、こちらは何もございませんでした。どうぞ、リカルド様とシルヴィア様は馬車の中へお入り下さい。ヴァイエル、報告を頼む。」
「はい、承知しました。」
馬車に戻ると、もう一人の護衛のラウドさんとメイドのマリアさんが馬車の外で待っていてくれた。
ラウドさんはいかにも強そうでムキムキでとても大きい人だ。ヴァイエルさんと同じ国家騎士団でヴァイエルさんの直属の上官らしい。あぁ、私服でも強そうに見える。いや、絶対強い(確信)。
「シルヴィア様、お疲れでしょう、さぁどうぞ馬車の中へ。」
そう声をかけてくれたのはメイドのマリアさん。とにかく小柄でとても可愛らしい。150センチの私より小さいということはメルと並んだらすごい身長差だろうなぁ。座わると一層コンパクトだなぁ。
「小さい……可愛い……。」
「えっ、あの、シルヴィア様?」
「ふふ、メルと比べたんでしょ。メル、女性にしては大きいもんね。」
「!!」
考えてた事がバレてる!リカルド様すごい!!
そうなのだ、メルは普通の女性より身長が高い。メイドのリアが言うには『胸に行くはずだった栄養が全て身長に行ってしまった』らしい。そう言った直後リアはどこからともなく現れたメルによって連れていかれ、次に見かけた時には椅子に座って青い顔でカタカタ震えていた。メル、恐ろしい子。
「シルヴィアの基準は本当にメルだよね。羨ましいな。」
え、リカルド様………それって。
「ダメですわ!いくらリカルド様でもメルは譲りませんわ!」
「あー、うん、そうだよね、そうなるよね。知ってた。」
「リカルド様……お察ししますわ。」
むむ、やはりマリアさんもリカルド様の味方なんですね。いくらメルが可愛くてたまにドジで有能で可愛いくて可愛いから側に置きたくなる気持ちはすごーくよく分かりますが絶対メルは譲りませんよ!
ーーコンコンッ
「談笑中申し訳ありませんリカルド様、今ヴァイエルから報告を受けていて一件気になった事があるのですが宜しいでしょうか。」
ノックの後馬車の外からラウドさんの声がした。何かあったのかな?
「教えて。」
ガチャッと馬車のドアが開き、ラウドさんが顔を出した。
「何やら買い物中チラチラとこちらを伺う視線を感じたとヴァイエルが申しておりまして……。」
「それは、女性がヴァイエルに熱い視線を送っていたのでは無く?」
わたしもそう思います。
「本人曰く、『間違いなく違う』との事でした。」
あ、ラウドさんも女性の視線だと思ったんですね。
「この人の多さならそういう輩もいるだろうね。でもシルヴィアに何かあってはいけないし、今日はもうそろそろ帰ろうか。」
「はい、その方が宜しいかと存じます。」
「ごめんね、シルヴィア。もっと見たかったよね?」
「いえ!十分満喫出来ました!メルに早くお土産も渡したいですし、帰りましょう!」
「……いいなぁ、メル。」
「リカルド様……お察ししますわ。」
だからメルはあげませんってば。
「でわ、馬車を動かしますね。ヴァイエル!」
「はっ!」
ラウドさんの声でヴァイエルさんが馬車を出発させた。
馬車の中は私の隣にマリアさんで正面にリカルド様が座っている。
「あの、わたしラウドさんとマリアさんにもお菓子買ったんです。はいどうぞ!」
わたしは隣に座るマリアさんに今日買ったお菓子の包みを2つ渡した。1つはラウドさんの分だ。
「まぁ!ありがとうございますシルヴィア様!」
「ラウドとマリアにも買っていたんだね。通りで沢山買っていると思ったよ。」
「お留守番をして下さっていたのでお礼も兼ねてです!」
「シルヴィア様は本当にお優しいですわ。リカルド様、次のお出掛けの際も是非私をお連れくださいませ。」
「ふふ、わかったよ。シルヴィア、メルのお土産はどれにしたの?」
「はい、メルのお土産はコチラとコチラ以外全部です。」
「……えーと、コレは?」
「アーノルド様の分です。」
「コレは?」
「沢山入っているものを買ったので家族と使用人の分です!」
「他は?」
「メルの分です!」
「……。」
「………頑張ってくださいリカルド様。」
メルとお茶するの楽しみだなあ~どれから食べようか悩む~!
気がつくと、もう町を離れ馬車は森の中に入っていた。
メル、今日はお休みを貰って出掛けると言っていたけどもう帰っているだろうか。
もし帰っていなければわたしがおかえりって言ってあげよう!
そして夕食の後は今日の報告をしながら明日どのお菓子を食べるか一緒に品定めをしよう!ふふふ~楽しみ~!
「………あれ?」
「シルヴィアどうかした?」
「いえ、今動物の鳴き声が聞こえたような………。」
「森の中だから動物はいるよ。でも魔獣はいないから安心して。ここは国で管理している森だから。」
「そうなんですね!魔獣はウィングバードしか見た事ありません。」
「ふふ、魔獣は人前にはあまり出て来ないし、町に近い森は魔獣を追い払っているから野生の魔獣を見ることは滅多にないだろうね。」
訓練されて使役されている魔獣も少なくないと聞くけどやっぱり珍しいんだろうな……学園に入ったら実物を見る機会があるかな?ちょっと楽しみかも。
ーーーーーーー
ー森の中ー
「ウォーーン。」
ズズズ……ズズ……
一匹の獣が遠吠えをすると、その声に反応したように獣の周りの地面が黒く染まり、そこから十数体の黒い塊が生まれた。
黒い固まりは次第に形を形成していき、声の主と同じ姿になる。
ただし目も鼻も口も無い。ただ影が立体になったようなそれは黒い靄を纏いあきらに異質な存在だった。
「終わったか。」
木々の影から、声と共に茶色いローブで身を隠した数人の男達が現れた。
獣がリーダーと思われる男の側に近寄ると男は獣の頭を撫でる。
「よくやった。」
獣は狼の姿形をしているが瞳は鮮血の様に赤く、額にはもう1つ瞳ががあり、あきらかに普通の狼とは違っていた。
「さぁ、仕事だ。あの女が寄越したコイツらが使えるかどうかお手並み拝見といこうぢゃないか。」
周りの男達が無言で頷き、それぞれの馬に乗る。
そして勢いよく駆け出すと異質な獣達がその後に続いた。
森が危険を知らせるかのようにざわつき出し、辺りは不穏な空気に包まれていった。
「そうだね~お菓子なんてどう?珍しいお菓子がいっぱいあるよ。」
「本当ですか!?メルに買って帰りたいです!」
今日はリカルド様とのデートで森を抜けた先にある小さな町に来た。
小さい町だが、今日は隣国の商人達が集まるイベントとあって沢山の人で賑わっている。
最初は上手く楽しめるか心配だったけど、メルが言っていた通りリカルド様が上手にリードしてくれて私はただただリカルド様のエスコートに身を任せ楽しい時間を過ごしていた。メル、デート楽しいよ!!
「リカルド様、シルヴィア様、お菓子であればあそこはいかがでしょうか?人気の焼き菓子の様ですよ。」
そう後ろから声をかけて来たのは、リカルド様の従者のヴァイエルさん。リカルド様と私の4歳年上でリカルド様とは幼なじみらしい。国家騎士団に勤めていて今日は私達の護衛として同行してくれている。
栗色の短髪と切れ長の瞳、線が細そうに見えて体躯のしっかりした身体、そしてこの物腰の柔らかさ、要するに絶対モテるメンズである。
リカルド様も安定の顔立ちなので二人が一緒にいると目立つ目立つ……ってわたし今すごい贅沢ぢゃないか!?
あぁ、二人共キラキラして眩しいな…。
「そうだね、そこにしよう。ん?シルヴィア、どうしたの?」
「ヴァイエルさんもリカルド様も眩しくて。」
「は?」
「あ、いえ、なんでもないです。それより、ヴァイエルさんとリカルド様は幼なじみなのですよね?親戚なのですか?」
「いや、ヴァイエルの父上が国家騎士団長を長年務めていてね、それで将来僕の近侍にする為に小さい頃から共に育てられたんだよ。血の繋がりは無いけど、友というよりは兄弟に近いかな。アーノルドも良く懐いているよ。」
なんと!まるでわたしとメルみたいな関係だわ!!
メルもグランベール家の使用人で血は繋がってないけど、わたしにとっては姉のような存在だもの!
「リカルド様がやっと友人と呼べる方を作られたと思ったらすぐ婚約されたので大変驚きましたが、本日お会いしてみて納得致しました。シルヴィア様これからもリカルド様共々宜しくお願い致します。」
「そ、そんなわたしの方こそ宜しくお願い致します!!」
おおう、どう納得したのか分からないけど褒められたんだよね?
ありがとうございます!
でも申し訳ありませんヴァイエル様………婚約(仮)なんです……。
リカルド様に好きな人が出来て友人に戻っても宜しくお願いしますね。
「リカルド様の事で何かあればいつでもご相談下さいね。」
「は、はい!わかりました!」
「いやいや、何かあれば直接僕に言えばいいよ。」
「リカルド様、ヤキモチですか。」
「……うるさいよ、ほら早くお菓子買いに行こう。」
ヤキモチ……兄を取られたくない弟のような感覚かな。
何か私と同じ匂いを感じる。
その後は、メルとアーノルド様にお菓子のお土産を買い、隣国の特産物や工芸品を見て回った。
本当に珍しい物や面白いものが多くて目移りしてしまう。
中でも隣国の名産品である七色に輝く宝石を使った装飾品が一際目を引いた。
「わぁ~綺麗ですね!初めて見ました!」
「僕も実物を見るのは初めてだけど、すごく綺麗だね。」
「この宝石は隣国の名産ではありますが、なかなか希少価値が高い宝石なのですよ。」
なるほど……ヴァイエルさんのいう通り、かなり良いお値段の代物ばかりだ。
そこまで装飾品に興味はないのだが、この宝石は本当に美しくてついつい魅入ってしまう。この宝石の髪飾り、メルの黒髪に似合いそうだなぁ。
メルはお洒落をしない。『最低限度の身だしなみ』がメルにとってMAXだと思う。
もちろん仕事用に化粧はしているが、それも『最低限度の身だしなみ』に含まれる程度の薄いものだし、アクセサリーも身につけたところを見たことが無い。たぶん持っていないんだと思う。
「……メルとお揃いのアクセサリーほしいな……。」
「ん?何か言った?」
「な、なんでもありません!改めて綺麗だなと思っただけです!」
わわわ、声に出てしまってた!聞こえてなくて良かった~。
よーし、いつかメルの誕生日にこの宝石の髪飾りをプレゼントするぞ~!メルから貰ったブローチは私の宝物だし、メルも宝物にしてくれるかな~!ふふふ、貯金の計画を立てなければ……。
「シルヴィア大丈夫?疲れた?」
「あ、ボーッとしてしまって申し訳ありません!大丈夫ですわ!リカルド様は何か買われましたか?」
「あぁ、うん、僕の用は済んだよ。さて、もう大分見て回ったしそろそろ一旦馬車に戻ろうか。」
大丈夫とは言ったものの、本当は結構歩いたのでちょっと疲れた。
でも、珍しい物をたくさん見れたしお菓子も沢山買えたので来て本当に良かった。メルに報告するのが楽しみだな~!
「お帰りなさいませ、リカルド様、シルヴィア様。」
「ただいま、留守をさせてしまってすまない。何も無かったかい?」
「はい、こちらは何もございませんでした。どうぞ、リカルド様とシルヴィア様は馬車の中へお入り下さい。ヴァイエル、報告を頼む。」
「はい、承知しました。」
馬車に戻ると、もう一人の護衛のラウドさんとメイドのマリアさんが馬車の外で待っていてくれた。
ラウドさんはいかにも強そうでムキムキでとても大きい人だ。ヴァイエルさんと同じ国家騎士団でヴァイエルさんの直属の上官らしい。あぁ、私服でも強そうに見える。いや、絶対強い(確信)。
「シルヴィア様、お疲れでしょう、さぁどうぞ馬車の中へ。」
そう声をかけてくれたのはメイドのマリアさん。とにかく小柄でとても可愛らしい。150センチの私より小さいということはメルと並んだらすごい身長差だろうなぁ。座わると一層コンパクトだなぁ。
「小さい……可愛い……。」
「えっ、あの、シルヴィア様?」
「ふふ、メルと比べたんでしょ。メル、女性にしては大きいもんね。」
「!!」
考えてた事がバレてる!リカルド様すごい!!
そうなのだ、メルは普通の女性より身長が高い。メイドのリアが言うには『胸に行くはずだった栄養が全て身長に行ってしまった』らしい。そう言った直後リアはどこからともなく現れたメルによって連れていかれ、次に見かけた時には椅子に座って青い顔でカタカタ震えていた。メル、恐ろしい子。
「シルヴィアの基準は本当にメルだよね。羨ましいな。」
え、リカルド様………それって。
「ダメですわ!いくらリカルド様でもメルは譲りませんわ!」
「あー、うん、そうだよね、そうなるよね。知ってた。」
「リカルド様……お察ししますわ。」
むむ、やはりマリアさんもリカルド様の味方なんですね。いくらメルが可愛くてたまにドジで有能で可愛いくて可愛いから側に置きたくなる気持ちはすごーくよく分かりますが絶対メルは譲りませんよ!
ーーコンコンッ
「談笑中申し訳ありませんリカルド様、今ヴァイエルから報告を受けていて一件気になった事があるのですが宜しいでしょうか。」
ノックの後馬車の外からラウドさんの声がした。何かあったのかな?
「教えて。」
ガチャッと馬車のドアが開き、ラウドさんが顔を出した。
「何やら買い物中チラチラとこちらを伺う視線を感じたとヴァイエルが申しておりまして……。」
「それは、女性がヴァイエルに熱い視線を送っていたのでは無く?」
わたしもそう思います。
「本人曰く、『間違いなく違う』との事でした。」
あ、ラウドさんも女性の視線だと思ったんですね。
「この人の多さならそういう輩もいるだろうね。でもシルヴィアに何かあってはいけないし、今日はもうそろそろ帰ろうか。」
「はい、その方が宜しいかと存じます。」
「ごめんね、シルヴィア。もっと見たかったよね?」
「いえ!十分満喫出来ました!メルに早くお土産も渡したいですし、帰りましょう!」
「……いいなぁ、メル。」
「リカルド様……お察ししますわ。」
だからメルはあげませんってば。
「でわ、馬車を動かしますね。ヴァイエル!」
「はっ!」
ラウドさんの声でヴァイエルさんが馬車を出発させた。
馬車の中は私の隣にマリアさんで正面にリカルド様が座っている。
「あの、わたしラウドさんとマリアさんにもお菓子買ったんです。はいどうぞ!」
わたしは隣に座るマリアさんに今日買ったお菓子の包みを2つ渡した。1つはラウドさんの分だ。
「まぁ!ありがとうございますシルヴィア様!」
「ラウドとマリアにも買っていたんだね。通りで沢山買っていると思ったよ。」
「お留守番をして下さっていたのでお礼も兼ねてです!」
「シルヴィア様は本当にお優しいですわ。リカルド様、次のお出掛けの際も是非私をお連れくださいませ。」
「ふふ、わかったよ。シルヴィア、メルのお土産はどれにしたの?」
「はい、メルのお土産はコチラとコチラ以外全部です。」
「……えーと、コレは?」
「アーノルド様の分です。」
「コレは?」
「沢山入っているものを買ったので家族と使用人の分です!」
「他は?」
「メルの分です!」
「……。」
「………頑張ってくださいリカルド様。」
メルとお茶するの楽しみだなあ~どれから食べようか悩む~!
気がつくと、もう町を離れ馬車は森の中に入っていた。
メル、今日はお休みを貰って出掛けると言っていたけどもう帰っているだろうか。
もし帰っていなければわたしがおかえりって言ってあげよう!
そして夕食の後は今日の報告をしながら明日どのお菓子を食べるか一緒に品定めをしよう!ふふふ~楽しみ~!
「………あれ?」
「シルヴィアどうかした?」
「いえ、今動物の鳴き声が聞こえたような………。」
「森の中だから動物はいるよ。でも魔獣はいないから安心して。ここは国で管理している森だから。」
「そうなんですね!魔獣はウィングバードしか見た事ありません。」
「ふふ、魔獣は人前にはあまり出て来ないし、町に近い森は魔獣を追い払っているから野生の魔獣を見ることは滅多にないだろうね。」
訓練されて使役されている魔獣も少なくないと聞くけどやっぱり珍しいんだろうな……学園に入ったら実物を見る機会があるかな?ちょっと楽しみかも。
ーーーーーーー
ー森の中ー
「ウォーーン。」
ズズズ……ズズ……
一匹の獣が遠吠えをすると、その声に反応したように獣の周りの地面が黒く染まり、そこから十数体の黒い塊が生まれた。
黒い固まりは次第に形を形成していき、声の主と同じ姿になる。
ただし目も鼻も口も無い。ただ影が立体になったようなそれは黒い靄を纏いあきらに異質な存在だった。
「終わったか。」
木々の影から、声と共に茶色いローブで身を隠した数人の男達が現れた。
獣がリーダーと思われる男の側に近寄ると男は獣の頭を撫でる。
「よくやった。」
獣は狼の姿形をしているが瞳は鮮血の様に赤く、額にはもう1つ瞳ががあり、あきらかに普通の狼とは違っていた。
「さぁ、仕事だ。あの女が寄越したコイツらが使えるかどうかお手並み拝見といこうぢゃないか。」
周りの男達が無言で頷き、それぞれの馬に乗る。
そして勢いよく駆け出すと異質な獣達がその後に続いた。
森が危険を知らせるかのようにざわつき出し、辺りは不穏な空気に包まれていった。
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