声を失った少年の物語
13.道中
俺達は今ハルミナの町に向かっている。
「ところで何故クロさんは喋れなくなってしまったのですか?」
ナリアさんがそう聞いて来た、先ほど魔物に襲われていた少女だ。
『小さいころに高熱に見舞われてね、そのせいか声が出なくなってしまったんだよ。
本当に熱が原因かは分からず終いだけどね。』
あの時ドラゴンに襲われず、お父様の知人の医者の所へ行っていたらこの声は治っていたのだろうか。
実際に師匠と出会い念話という無詠唱魔法を覚えたことで声が戻らなくとも生活を送る中で苦にはならなくなった。
「そんなことがあったのですね..」
俺の話を聞きナリアさんは少し暗い表情となった。
『でも現在はこうして魔法で喋れるようになりましたし、支障はないです。』
そう俺は答え、微笑んだ。
「あっ、あれがハルミナの町への門です。」
話ながら進んでいるうちにハルミナの町の前まで来たようだ、
ハルミナの町へは門があるのか。
『この町には門があるんですね。』
「はい、先ほど私が襲われていたようにこの周りには魔物が出ますので町に魔物が入らないように防衛も兼ねているんです。ちゃんと門番の人もいるんですよ。」
ほらといいながら、指をさした方向を見てみると門番の人が1人いる。
その人は槍を持っていて体格がよく、なかなか腕が立ちそうだ。
「おっ、ナリアじゃないか。お帰り怪我はなかったかい?」
「はい!道中で魔物に襲われましたが、この方助けて貰ったんです!」
『初めましてクロです、この街へ向かう際に襲われていましたので助けに入らせてもらいました。』
「うおっ!魔法か?しかしそんな魔法珍しいな。」
この人は一瞬でこれが魔法だと気づいたようだ。
「何はともあれ、ナリアを助けてくれてありがとう。
この子は生まれた時から知っていてね、俺以外の大人たちからも可愛がられているんだ
よ。」
この町の人は皆優しそうな人ばかりのようだ。
「この町に入るには身分を示すものが必要なんだが、持っているか?」
『いえ、持ってないです。』
身分証か、昔も住んでいた町から出たことがなかったし、身分も知れていたから身分証というものを貰っていなかったな。
「だったら今ギルド宛の紹介状を書くから、そこまで持って行って発行してもらえばいいよ。」
『この場所で紹介状が貰えるんですか。』
「そうだ、この町は他の町や国から商人たちがやってきたり身分証を持たない冒険者などが来たりするからこの場所でも書いているんだ。主に理由としては後者だけどな。」
それは便利な制度だ、身分証を持たない人をその場で追い返したりもせず中に入れてくれるとは。
そのような話をした後、門番の方が1枚の紙を渡してきた。
「それが紹介状だ、失くさないようにな。」
『ありがとうございます。早速持って行ってみます。』
「じゃ、門を開くぞ。」
門番の方が門に手をあて押すとギィっと音を立て、扉が開く。
「ようこそ、ハルミナの町へ。」
そこから覗いた街の風景は明るく、活気が溢れていた。
『それでは行ってきます。』
『ニャーン』
師匠…静かにしていればよいものを。
『折角猫の姿になっているんだ、鳴かないと不自然だろう?』
分からなくもないが、まぁいいか。
「皆さんこちらですよ。」
そう、ナリイさんが前を行き先導をしてくれている。
育った所以外の町へ入るのは初めてだから、ここにはどんなものがあるのか楽しみだ。
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