魔女の図書館
2
僕の引っ越してきた町は自然で溢れる田舎にある為、公共施設などが片手一本で数えられる程に少ないのである。
商店街があり、お菓子屋があり、八百屋があり、スーパーやコンビニはほぼ無いと言えるくらい。ここだけ1990年代で止まっているみたいだ。
図書館も町に一つしかなく、しかも図書館の半分はこの町の昔の話などの本で埋め尽くされているのであり、新刊の入荷など年に1度しかないと聞くくらいである。
しかしそういう本はむしろ好きなので、学校の帰りに毎日読むのが僕の楽しみである。
正直、若い者にしては変わっていると思うが、放っておいて欲しいところである。
「今日は何の本を読もうかなぁ」
五月六日、連休が明けた日。僕はいつものように学校帰りに図書館へ行き、新たな本を物色していた。
町の始まりから戦争時の時の歴史、町に残る人の話などなど……。一ヶ月に渡って本を読んでもまだ半分も読んでない。まさに宝の山だ。
そんな風にいつも通り本棚に目を通すと、ふとある本に目が止まった。
「あれ……?」
目を止めた理由の一つは違和感。毎日のごとくここに来ている僕が見たことがない本であった事である。
新刊だろうか?――いやそれなら新刊コーナーにあるはず。あそこに置いてある本をあまり見たことがないが。
そして背表紙に文字が何も書かれてない真っ黒な本ということも気になったのである。本を取り出してみると著者名も書いてない、ただ本の題名が金色に輝いていた。
本の題名は『魔女の歴史』。
「……!」
魔女の図書館の噂なら僕も聞いたことがある。北東にある森のどこかに図書館があると言われていて、その図書館に入った者は二度と帰ることが出来ない――確かこんな話だ。
そのあまりに住民が恐がる為、どの本にも魔女に関する内容が書かれている事はない。
僕個人としてはそういう話にも興味がある為、一度調べてみたのだが、結局何も手がかりもない、噂だけというのは残念で仕方がなかった。
しかし、どうだろう。この本にはどこを探しても見つけられなかった、「魔女の歴史」というずっと探していた魔女の話が書かれているのである。
僕は夢中で本を開いた。
『魔女がいるという噂が出始めたのは戦後の1980年ごろです。ある猟師が森にある建物を偶然見つけました。』
……なんだか物語のような書き方だな。
僕は続けて読む。
『その猟師はあまりの気味の悪さに建物に入りませんでしたが、その話を友人に話したところ、友人は興味津々で自分をその建物に連れて行って貰うように猟師に頼みました。
自分は絶対に入らないという条件で猟師は了承し、翌日に友人を連れて行く事にしました。』
まあ未知の領域に踏み入れるのは怖いしね。友人の度胸はすごいもんだ。
『その友人はオカルト系の話が好きであり、その建物も何かあると思い、嬉々として入っていきます。
しかし1時間たっても2時間たっても帰ってきません。流石に心配した猟師が建物に入ろうか迷った時です。
建物がまるで蜃気楼のように消えたのです。
猟師は何が起きたのか、わかりませんでした。目の前にあるのは元からあったように生い茂る木々――そこに友人の姿は当然ありませんでした。
ようやく起きた事態に気がつき、慌てて友人を呼びます。しかし、結局友人は見つかりませんでした。
その時、猟師は魔女のような高笑いを聞こえたような気がしたのです。まるで友人を奪われた自分をあざ笑うような――これが魔女の噂の発祥元である、最初の事件でした。』
その後も人や物が消えたり、ありえない状況で人が殺されたりと、何かと魔女の仕業だとかなんとか騒がれて町全体に噂が広まった――そうだ。
「なんだかなあ」
いきなり建物が消えるとか、魔女の高笑いが聞こえたとか、現実味のないことばかりである。
正直、あまり信憑性がないようにも見える。
しかもここには『図書館』なんて一文字も書いていない。どうして、猟師は建物の中身が図書館だなんて知ったんだ?
元々この話が発祥であるから他の人には聞くって手段もない。
廃墟となって森にあった建物は元図書館であり、その事を町の住人に聞いた。――いや、そんな描写はどこにもなかった。まるで猟師は元から知ってるような感じでもある。
今の話ではどれもこれも謎や疑問が多すぎる。
しかし、どんなにこの本の真偽を疑っても手がかりはこれだけである。それなら魔女の謎を解くにはこれに頼るしかないのではないのか。
――今日はこれを借りて行くかな。
誰に聞いてもわからないままである『魔女』の正体。正直、ちょっと怖いけど、もっと知りたいという気持ちもあるのだ。
『九斗優樹』と自分の書かれた図書カードをポケットから出すと、セルフのカウンターでバーコードをスキャンする。
ピッという電子音と共に本のバーコードがスキャンされる。
「……?」
やはり妙だ。普通、本をスキャンすると、その本のタイトルや著者名などが画面に表示されるはずなのだ。
しかしこの本は何も表示されないのである。
少し疑問もあったが、魔女についての好奇心の方が上回り、僕は図書館を後にしたのだった。
商店街があり、お菓子屋があり、八百屋があり、スーパーやコンビニはほぼ無いと言えるくらい。ここだけ1990年代で止まっているみたいだ。
図書館も町に一つしかなく、しかも図書館の半分はこの町の昔の話などの本で埋め尽くされているのであり、新刊の入荷など年に1度しかないと聞くくらいである。
しかしそういう本はむしろ好きなので、学校の帰りに毎日読むのが僕の楽しみである。
正直、若い者にしては変わっていると思うが、放っておいて欲しいところである。
「今日は何の本を読もうかなぁ」
五月六日、連休が明けた日。僕はいつものように学校帰りに図書館へ行き、新たな本を物色していた。
町の始まりから戦争時の時の歴史、町に残る人の話などなど……。一ヶ月に渡って本を読んでもまだ半分も読んでない。まさに宝の山だ。
そんな風にいつも通り本棚に目を通すと、ふとある本に目が止まった。
「あれ……?」
目を止めた理由の一つは違和感。毎日のごとくここに来ている僕が見たことがない本であった事である。
新刊だろうか?――いやそれなら新刊コーナーにあるはず。あそこに置いてある本をあまり見たことがないが。
そして背表紙に文字が何も書かれてない真っ黒な本ということも気になったのである。本を取り出してみると著者名も書いてない、ただ本の題名が金色に輝いていた。
本の題名は『魔女の歴史』。
「……!」
魔女の図書館の噂なら僕も聞いたことがある。北東にある森のどこかに図書館があると言われていて、その図書館に入った者は二度と帰ることが出来ない――確かこんな話だ。
そのあまりに住民が恐がる為、どの本にも魔女に関する内容が書かれている事はない。
僕個人としてはそういう話にも興味がある為、一度調べてみたのだが、結局何も手がかりもない、噂だけというのは残念で仕方がなかった。
しかし、どうだろう。この本にはどこを探しても見つけられなかった、「魔女の歴史」というずっと探していた魔女の話が書かれているのである。
僕は夢中で本を開いた。
『魔女がいるという噂が出始めたのは戦後の1980年ごろです。ある猟師が森にある建物を偶然見つけました。』
……なんだか物語のような書き方だな。
僕は続けて読む。
『その猟師はあまりの気味の悪さに建物に入りませんでしたが、その話を友人に話したところ、友人は興味津々で自分をその建物に連れて行って貰うように猟師に頼みました。
自分は絶対に入らないという条件で猟師は了承し、翌日に友人を連れて行く事にしました。』
まあ未知の領域に踏み入れるのは怖いしね。友人の度胸はすごいもんだ。
『その友人はオカルト系の話が好きであり、その建物も何かあると思い、嬉々として入っていきます。
しかし1時間たっても2時間たっても帰ってきません。流石に心配した猟師が建物に入ろうか迷った時です。
建物がまるで蜃気楼のように消えたのです。
猟師は何が起きたのか、わかりませんでした。目の前にあるのは元からあったように生い茂る木々――そこに友人の姿は当然ありませんでした。
ようやく起きた事態に気がつき、慌てて友人を呼びます。しかし、結局友人は見つかりませんでした。
その時、猟師は魔女のような高笑いを聞こえたような気がしたのです。まるで友人を奪われた自分をあざ笑うような――これが魔女の噂の発祥元である、最初の事件でした。』
その後も人や物が消えたり、ありえない状況で人が殺されたりと、何かと魔女の仕業だとかなんとか騒がれて町全体に噂が広まった――そうだ。
「なんだかなあ」
いきなり建物が消えるとか、魔女の高笑いが聞こえたとか、現実味のないことばかりである。
正直、あまり信憑性がないようにも見える。
しかもここには『図書館』なんて一文字も書いていない。どうして、猟師は建物の中身が図書館だなんて知ったんだ?
元々この話が発祥であるから他の人には聞くって手段もない。
廃墟となって森にあった建物は元図書館であり、その事を町の住人に聞いた。――いや、そんな描写はどこにもなかった。まるで猟師は元から知ってるような感じでもある。
今の話ではどれもこれも謎や疑問が多すぎる。
しかし、どんなにこの本の真偽を疑っても手がかりはこれだけである。それなら魔女の謎を解くにはこれに頼るしかないのではないのか。
――今日はこれを借りて行くかな。
誰に聞いてもわからないままである『魔女』の正体。正直、ちょっと怖いけど、もっと知りたいという気持ちもあるのだ。
『九斗優樹』と自分の書かれた図書カードをポケットから出すと、セルフのカウンターでバーコードをスキャンする。
ピッという電子音と共に本のバーコードがスキャンされる。
「……?」
やはり妙だ。普通、本をスキャンすると、その本のタイトルや著者名などが画面に表示されるはずなのだ。
しかしこの本は何も表示されないのである。
少し疑問もあったが、魔女についての好奇心の方が上回り、僕は図書館を後にしたのだった。
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