LIFE~僕と君とみんなのゲーム~
平原の大将3
ただ戦闘と言っても、当然ここはゲームの世界なのだから現実世界の戦闘とは異なる部分がある。
普通に刀の『突き』や『斬る』などのような、現実でも出来るような攻撃は普通に自身の力で行う事ができる。
まあこんな簡単だという風には言ってはみるが、普通ならそれすらも難しいだろう。当然だ、刀一本でもかなりの重さがあるのだ。
だが、この世界での武器の重さ設定は現実より相当軽くなっている為、誰でも扱えるようになっている。
とまあ、誰でも扱えるのだが、『回転斬り』などという普通では有り得ない技などはどう頑張っても自力では出来ない。
そこでVRMMOならではの『音声認識機能』が発揮される。
自分の登録されている技名を言うと自動的に身体が動いてくれるという、何とも便利なシステムである。
そうすることによって高速で相手を切り刻んだり、凄まじい破壊力を持つ一撃を使うことが出来る。
しかし、ユーコさん曰く千人のプレイヤーの中で唯一の職業である『テイマー』の僕には武器の技など登録されていなく――。
「ユキ、突進!」
という僕の掛け声と共に元の姿――つまりスノーベビータイガーの姿になっているユキは敵モンスター――ハイエナに突進をかます。
△▼△▼△▼△▼△▼
『ハイエナ』 レア度:1 属性:なし
平原を縄張りとするモンスター。
集団行動が多い為、集団で襲いかかってくることが多い。
攻撃力は油断ならないが、その反面防御力が乏しい。
△▼△▼△▼△▼△▼
ハイエナの頭上に表示されている青いバーが今の攻撃によって半分まで持っていかれる。
「よし、そのまま噛み付きだ!」
ユキは素早く動き、怯んでいる敵の身体に思いっきり牙を突き刺す。
敵は唸り声を上げ暴れまわるが、しばらくすると動きが弱くなり青いバーが消えたときに、ハイエナは消滅する。
と、いきなりユキの頭上にアイコンが現れ、次のように表示された。
△▼△▼△▼△▼△▼
レベルアップ!
ユキ Lv.2 → Lv.3
体力 22 → 24
攻撃力 13 → 15
△▼△▼△▼△▼△▼
「あ、レベルアップした!」
「うむ、この調子なら我ももっと強くなっていくな」
戦闘を終えたユキは満足そうにうんうんと頷いている。
続いて、次のアイコンが表示される。
△▼△▼△▼△▼△▼
アイテムドロップ!
『ハイエナの牙』 レア度:1
獲物を狩る為のハイエナの鋭い牙。
△▼△▼△▼△▼△▼
「おお、アイテムもドロップしたの」
「うん、この調子でもっとレベルアップしてボスを倒そう!」
「その意気じゃ、レイ」
「よぅし! ……って」
と僕はひと呼吸すると、大空に向かって本心を言葉に出す。
「なんか、思っていた戦闘とちがああああああぁぁぁぁぁうぅぅ!」
「うう、どうして僕だけ某ゲームみたいな、パートナーに指示を出すだけの戦い方なの……?」
「まあ、それはテイマーを選んだレイが悪いんじゃろ」
少し休憩しようという事になり、僕はその場に体育座りで蹲っていた。
「まあまあ。そのゲームに例えると我はあの伝説の分類じゃから十分じゃろう?」
「いや、その姿は流石に最初らへんに出てきそうな水色の身体を持った四足歩行の可愛い小動物だと思う……」
虎ってだけで、某ゲームの伝説三体の中の四足歩行で雷タイプの虎に似ている奴とは違うと思うんだけど。
「そうじゃなくて、僕自身も戦いたいというかなんというか……」
「ふむ、それなら普通にレイも戦えばよかろうが。ほら、サブ武器を使って」
「そうしたらユキの指示は誰が出すのさ」
「……それもそうじゃな」
ちなみにユキは一人で行動出来る自我を持っているが、戦闘面に関しては僕が指示を出さないと攻撃が出来ないという事になっているのだ。
「まあこれもゲーム上のシステムじゃな。あくまで我はレイの武器なのじゃ、武器が持ち主の意思に反して勝手に行動できぬ。――そう考えるとレイ、お主はお主自身で戦っていると考えても良いではないか」
「うーん……」
どこか納得出来ないが、ユキは「さてと」と立ち上がり獣の姿に変わる。
「休憩はこのくらいで良いじゃろ。レベル上げに戻るぞ、レイ」
「……うん、そうだね」
僕達――僕とユキ、アユコ、ケイタがまず最初に何をするべきか考えたところ、『ボスに備えてレベルを上げる』という案になった。
武器レベルというのは上がりやすいので平原のモンスターだけを相手にするとおおよそ二日あたりでレベルは最大になるという。
まあ、武器レベルを最大にまで経験値を得ることが出来れば、職業レベルの方も一つくらいは上がる。
それにゲームなのでモンスターは無限に湧くし、平原と一言で言ってもかなりの広さである。プレイヤー同士のレベル争いも多くはない。
自分に自信がある人たちはどんどんと奥の方へと行ってレベルを上げているらしいけど、僕はそこまで自信などないので街の近くの平原で敵と対峙していた。
ちなみにアユコとケイタは「奥の方がモンスターが多く出るから」という理由で奥の方へと向かってしまった。
「まあレイが行きたくないのであればここでレベル上げをすればいいだけの話じゃよ。……おっ、向こう側にハイエナが三体いるな」
ユキはモンスターであるのか、敵モンスターの気配が近づくと察する事ができる。そのおかげで比較的的に遭遇しにくいこの場所でも効率よくレベル上げが出来ている。
僕はユキと共に相手に気づかれないように、音を立てずに近づいてく。
見えてきたハイエナ達三体は僕たちに気がついていない。
「じゃあ、行くよユキ」
「了解じゃ」
ユキは音もなく更にハイエナに近づいていく。
そしてハイエナ達が気がつくであるような距離まで詰めると、僕は声を張り上げる。
「電撃!」
とたんに、ユキの全身がバリバリと音を出し、油断していた敵にユキから放たれた電撃をくらう。
『電撃(小)』の『(小)』は別に言わなくてもいいらしい。
と言っても、(小)なので威力や範囲もそれなりに小さいのだが、これだけ近づいているし何より最初の敵なのだから、相手の体力を結構削る事ができる。
「よし、次に一番近くのハイエナに突進!」
と、ユキは電撃をまともに浴びてよろめいている敵に突進をする。
敵は電撃の攻撃をくらっているせいもあり、ユキの突進をくらうと消滅した。
これならもう一体も連続で倒せるだろう。
「もう一回突進!」
ユキはギラリと次のハイエナの方に向くと突進をかまして倒す。
しかし、残り一体がユキの方に向かって大きく口を開けてユキに牙を突き立てた。
「――っ!」
「ユ、ユキ!」
ユキの顔が苦痛に歪み、ユキの上にある体力ゲージが減っていく。
――その時、僕の中に得体の知れぬ恐怖が走った。
僕はショートソードを持ち、ユキに噛み付いているハイエナへと駆け出す。
「う、うああああああ!」
情けない叫び声をあげながら、ハイエナの身体に思いっきり剣を突き立てる。
ハイエナは悲鳴をあげて――やがて消えていった。
僕はユキの小さな身体を抱き上げる。
「ユキ、大丈夫!?」
「……なんじゃ、そんな泣きそうな顔をしおって。別に我はこんなのでやられるわけが――んぐうっ!」
と、呆れているユキの言葉を遮るかのように僕は回復アイテム『回復丸』をユキの口に押し込む。
ユキの体力ゲージが回復したのを見て、僕は安堵する。
「……レイは相手の事ばかり気遣って自滅しそうなタイプじゃな」
と、再びユキの呆れた声。
「さっきも言っとろうが。我はまだ戦えるから別に回復しなくとも大丈夫じゃ」
「そんな事言っても、僕の代わりに戦っているユキが傷ついているのは放っておけないよ」
「……出会った時から思っていたが、レイは優しすぎるな」
ユキはフッと笑い、僕の腕からヒョイッと抜け出す。
「まあここから街までは近いし回復アイテムがなくなったらすぐに買いに行けるし……あの二人に負けぬよう、我らも頑張ろうぞ」
「……うん!」
* * *
「……で、調子に乗って回復アイテムを大量購入した挙句、全て使い切って更に一銭もない、と?」
「『一銭もない』とは失礼な! 5Eはあるよ!」
「10Eの回復丸一つも買えない状態は一銭もないと言ってもいいと思うんだけどね」
「くうっ……!」
時刻は夜になり、僕たちは予約していた宿屋で落ち合った。
僕とユキは今日の報告を話すと、アユコに「二人共、そこに正座しようか? ん?」とニコニコしながら言ってきて、今の状態に至る。
「まったく、お金を全部使うなんて何を考えてるの?」
「で、でもアイテムは沢山手に入れたよ? これを売れば換金できるし……」
「私が今話しているはそういうことじゃないの。ちゃんと、意味わかってるの?」
「は、はい……」
青筋を立てながらニコニコと笑っているアユコが怖いです……。
「の、のう、アユコ。レイも反省してるんじゃし、もう許してやっても……」
「私はユキにもお話をしてるんだよ? わかってる?」
「は、はい……」
ユキもアユコの笑顔が怖いのか、顔を青くしながらうつむく。
「で、レイ。私に何か言うことはないの?」
と矛先を再び僕に向けてくるアユコ。
い、言うことか……とりあえず謝るのが先決、だよね。でも、ここは冗談を一つ入れて和ませた方が……。
「わ、笑っているアユコはユーコさんにそっくりだね……ひいっ!」
「次そんな事言ったら本当に斬るよ?」
「ご、ごごごごめんなさい!」
急に真顔になり腰に収めていた刀を抜いて僕に向けるアユコが恐くて、僕は正座している状態で両手を床につけて更におでこを床につけるような体勢になったまま謝る。
まあ簡単に言うと土下座だ。
「はあ……あのね、レイ。現実だけじゃなくてゲーム内でもお金っていうのは大切なんだからね?」
「は、はい……」
「回復アイテムだけじゃなくて、新しい武器を買ったり、食べ物を買ったり、今みたいに宿で部屋を貸してもらうのにも必要なの。わかる?」
「わ、わかります……」
「その大切なお金が一銭もなくなったらどうなると思う? レイは飢え死にするんだよ?」
「はい、反省しています……」
そういえばユーコさんが「このゲームでも睡眠や食事は大切だよ。何日か寝てないと、場所に構わず強制的に眠らされるし、何日も食べてないと体力ゲージが何もしてないのに徐々に減っていくからね」とさっき教えてくれたっけ……。
「まあ、その辺でいいんじゃないか? レイもユキも反省しているみたいだし……」
と、助け舟を出してくれたのは今まで部屋の隅で傍観していたケイタ。た、助かった……!
「……仕方ない。じゃあ二人共、今後はお金の使い方には気をつけてね」
「「わ、わかりました……」」
アユコの釘を刺すような一言に僕とユキの返事がハモる。
「ところで、レイはどこまでユキのレベルをあげたの?」
「えーっと……10」
「「最大!?」」
僕は正直に答えるとアユコとケイタは目を見開いた。
「ちょ、ちょっと待って! 私たちですらまだ武器レベル6なのに、どうやって!?」
「え、えーっと……敵って倒すと、しばらくしてまたどこかで復活するじゃん? 何回も同じ場所で戦っているうちにどのタイミングでどこに敵が復活するのかわかってきちゃって、それを繰り返していくうちに……」
しかも本気でレベル上げしたい人たちは全員奥の方へと進んでしまっていた為か、そこら一帯は僕とユキが独占してたことも理由にあるだろう。
まあそうやってサクサク敵を倒していくと――少し不謹慎かもしれないけど、なんだか楽しくなってきてしまってずっとユキと戦闘し続けていたらいつの間にか最大になっていた、というわけだ。おまけに職業レベルも上がったが……今のところ、変化が見られないのである。
「そ、そんな裏技が……!」
「あっ、でもサブ武器はまだレベル3だよ」
ユキに戦闘ばっかさせて自分は指示している事が多かったので、ショートソードのレベルは上がっていないのである。
「いや、それでも十分なくらいだよ。こっちなんてほとんどが獲物争い。モンスターが出やすいって言っても人がいすぎて話にならないよ」
「そ、そうなんだ……」
この平原ステージはかなりの広さだからプレイヤー同士の争いは起きないと思っていたのだが……どうも、奥の方はそうではないらしい。
「……あ、そうだ。明日はレイとユキで奥の方に行ってほしいな」
「えっ、どうして」
「平原の大将の住処とかの情報を集めてきて欲しいんだ。だから別にプレイヤー同士で通常モンスターのレベル争いをしなくてもいいし、万が一の場合が起きた時にはユキは索敵が出来るから問題ないと思うし……ね? いいでしょう?」
「うーん……」
つまり最初の目標を予定より早く終えた僕とユキは次の行動をしてほしいってことか。
確かに目的がレベル上げじゃなくて、ボスの情報集めなら僕にも出来そうな事だ。ユキには索敵のような能力を持っているから危なくなったら逃げる事もできる。
それに……ユキはもうレベル最大なのだ。もうそこら辺の通常モンスター相手だったら普通に勝てるだろう。
「わかった、平原の大将の情報集めだね。アユコたちはどうするの?」
「私たちはまだレベル上げが残っているから……。今日、レイたちがずっと戦っていた浅いところでやろうかなって思って」
「なるほど……。まあこっちは任せてよ。ね、ユキ?」
「んむ? ああ、そうじゃな」
「じゃあお願い、二人共」
「くれぐれも無理はするなよ」
とお願いするアユコと心配するケイタに僕は力強く頷く。
この時。
正直、僕は浮かれていたんだ。
ただユキが強くなった事に自分の中で達成感を得て、それに酔ってしまっていた。
問題はレベル上げ争いでも、索敵能力でも、ユキのレベルでもなく。
もっと基本的な――根本的な部分にあったのだ。
普通に刀の『突き』や『斬る』などのような、現実でも出来るような攻撃は普通に自身の力で行う事ができる。
まあこんな簡単だという風には言ってはみるが、普通ならそれすらも難しいだろう。当然だ、刀一本でもかなりの重さがあるのだ。
だが、この世界での武器の重さ設定は現実より相当軽くなっている為、誰でも扱えるようになっている。
とまあ、誰でも扱えるのだが、『回転斬り』などという普通では有り得ない技などはどう頑張っても自力では出来ない。
そこでVRMMOならではの『音声認識機能』が発揮される。
自分の登録されている技名を言うと自動的に身体が動いてくれるという、何とも便利なシステムである。
そうすることによって高速で相手を切り刻んだり、凄まじい破壊力を持つ一撃を使うことが出来る。
しかし、ユーコさん曰く千人のプレイヤーの中で唯一の職業である『テイマー』の僕には武器の技など登録されていなく――。
「ユキ、突進!」
という僕の掛け声と共に元の姿――つまりスノーベビータイガーの姿になっているユキは敵モンスター――ハイエナに突進をかます。
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『ハイエナ』 レア度:1 属性:なし
平原を縄張りとするモンスター。
集団行動が多い為、集団で襲いかかってくることが多い。
攻撃力は油断ならないが、その反面防御力が乏しい。
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ハイエナの頭上に表示されている青いバーが今の攻撃によって半分まで持っていかれる。
「よし、そのまま噛み付きだ!」
ユキは素早く動き、怯んでいる敵の身体に思いっきり牙を突き刺す。
敵は唸り声を上げ暴れまわるが、しばらくすると動きが弱くなり青いバーが消えたときに、ハイエナは消滅する。
と、いきなりユキの頭上にアイコンが現れ、次のように表示された。
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レベルアップ!
ユキ Lv.2 → Lv.3
体力 22 → 24
攻撃力 13 → 15
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「あ、レベルアップした!」
「うむ、この調子なら我ももっと強くなっていくな」
戦闘を終えたユキは満足そうにうんうんと頷いている。
続いて、次のアイコンが表示される。
△▼△▼△▼△▼△▼
アイテムドロップ!
『ハイエナの牙』 レア度:1
獲物を狩る為のハイエナの鋭い牙。
△▼△▼△▼△▼△▼
「おお、アイテムもドロップしたの」
「うん、この調子でもっとレベルアップしてボスを倒そう!」
「その意気じゃ、レイ」
「よぅし! ……って」
と僕はひと呼吸すると、大空に向かって本心を言葉に出す。
「なんか、思っていた戦闘とちがああああああぁぁぁぁぁうぅぅ!」
「うう、どうして僕だけ某ゲームみたいな、パートナーに指示を出すだけの戦い方なの……?」
「まあ、それはテイマーを選んだレイが悪いんじゃろ」
少し休憩しようという事になり、僕はその場に体育座りで蹲っていた。
「まあまあ。そのゲームに例えると我はあの伝説の分類じゃから十分じゃろう?」
「いや、その姿は流石に最初らへんに出てきそうな水色の身体を持った四足歩行の可愛い小動物だと思う……」
虎ってだけで、某ゲームの伝説三体の中の四足歩行で雷タイプの虎に似ている奴とは違うと思うんだけど。
「そうじゃなくて、僕自身も戦いたいというかなんというか……」
「ふむ、それなら普通にレイも戦えばよかろうが。ほら、サブ武器を使って」
「そうしたらユキの指示は誰が出すのさ」
「……それもそうじゃな」
ちなみにユキは一人で行動出来る自我を持っているが、戦闘面に関しては僕が指示を出さないと攻撃が出来ないという事になっているのだ。
「まあこれもゲーム上のシステムじゃな。あくまで我はレイの武器なのじゃ、武器が持ち主の意思に反して勝手に行動できぬ。――そう考えるとレイ、お主はお主自身で戦っていると考えても良いではないか」
「うーん……」
どこか納得出来ないが、ユキは「さてと」と立ち上がり獣の姿に変わる。
「休憩はこのくらいで良いじゃろ。レベル上げに戻るぞ、レイ」
「……うん、そうだね」
僕達――僕とユキ、アユコ、ケイタがまず最初に何をするべきか考えたところ、『ボスに備えてレベルを上げる』という案になった。
武器レベルというのは上がりやすいので平原のモンスターだけを相手にするとおおよそ二日あたりでレベルは最大になるという。
まあ、武器レベルを最大にまで経験値を得ることが出来れば、職業レベルの方も一つくらいは上がる。
それにゲームなのでモンスターは無限に湧くし、平原と一言で言ってもかなりの広さである。プレイヤー同士のレベル争いも多くはない。
自分に自信がある人たちはどんどんと奥の方へと行ってレベルを上げているらしいけど、僕はそこまで自信などないので街の近くの平原で敵と対峙していた。
ちなみにアユコとケイタは「奥の方がモンスターが多く出るから」という理由で奥の方へと向かってしまった。
「まあレイが行きたくないのであればここでレベル上げをすればいいだけの話じゃよ。……おっ、向こう側にハイエナが三体いるな」
ユキはモンスターであるのか、敵モンスターの気配が近づくと察する事ができる。そのおかげで比較的的に遭遇しにくいこの場所でも効率よくレベル上げが出来ている。
僕はユキと共に相手に気づかれないように、音を立てずに近づいてく。
見えてきたハイエナ達三体は僕たちに気がついていない。
「じゃあ、行くよユキ」
「了解じゃ」
ユキは音もなく更にハイエナに近づいていく。
そしてハイエナ達が気がつくであるような距離まで詰めると、僕は声を張り上げる。
「電撃!」
とたんに、ユキの全身がバリバリと音を出し、油断していた敵にユキから放たれた電撃をくらう。
『電撃(小)』の『(小)』は別に言わなくてもいいらしい。
と言っても、(小)なので威力や範囲もそれなりに小さいのだが、これだけ近づいているし何より最初の敵なのだから、相手の体力を結構削る事ができる。
「よし、次に一番近くのハイエナに突進!」
と、ユキは電撃をまともに浴びてよろめいている敵に突進をする。
敵は電撃の攻撃をくらっているせいもあり、ユキの突進をくらうと消滅した。
これならもう一体も連続で倒せるだろう。
「もう一回突進!」
ユキはギラリと次のハイエナの方に向くと突進をかまして倒す。
しかし、残り一体がユキの方に向かって大きく口を開けてユキに牙を突き立てた。
「――っ!」
「ユ、ユキ!」
ユキの顔が苦痛に歪み、ユキの上にある体力ゲージが減っていく。
――その時、僕の中に得体の知れぬ恐怖が走った。
僕はショートソードを持ち、ユキに噛み付いているハイエナへと駆け出す。
「う、うああああああ!」
情けない叫び声をあげながら、ハイエナの身体に思いっきり剣を突き立てる。
ハイエナは悲鳴をあげて――やがて消えていった。
僕はユキの小さな身体を抱き上げる。
「ユキ、大丈夫!?」
「……なんじゃ、そんな泣きそうな顔をしおって。別に我はこんなのでやられるわけが――んぐうっ!」
と、呆れているユキの言葉を遮るかのように僕は回復アイテム『回復丸』をユキの口に押し込む。
ユキの体力ゲージが回復したのを見て、僕は安堵する。
「……レイは相手の事ばかり気遣って自滅しそうなタイプじゃな」
と、再びユキの呆れた声。
「さっきも言っとろうが。我はまだ戦えるから別に回復しなくとも大丈夫じゃ」
「そんな事言っても、僕の代わりに戦っているユキが傷ついているのは放っておけないよ」
「……出会った時から思っていたが、レイは優しすぎるな」
ユキはフッと笑い、僕の腕からヒョイッと抜け出す。
「まあここから街までは近いし回復アイテムがなくなったらすぐに買いに行けるし……あの二人に負けぬよう、我らも頑張ろうぞ」
「……うん!」
* * *
「……で、調子に乗って回復アイテムを大量購入した挙句、全て使い切って更に一銭もない、と?」
「『一銭もない』とは失礼な! 5Eはあるよ!」
「10Eの回復丸一つも買えない状態は一銭もないと言ってもいいと思うんだけどね」
「くうっ……!」
時刻は夜になり、僕たちは予約していた宿屋で落ち合った。
僕とユキは今日の報告を話すと、アユコに「二人共、そこに正座しようか? ん?」とニコニコしながら言ってきて、今の状態に至る。
「まったく、お金を全部使うなんて何を考えてるの?」
「で、でもアイテムは沢山手に入れたよ? これを売れば換金できるし……」
「私が今話しているはそういうことじゃないの。ちゃんと、意味わかってるの?」
「は、はい……」
青筋を立てながらニコニコと笑っているアユコが怖いです……。
「の、のう、アユコ。レイも反省してるんじゃし、もう許してやっても……」
「私はユキにもお話をしてるんだよ? わかってる?」
「は、はい……」
ユキもアユコの笑顔が怖いのか、顔を青くしながらうつむく。
「で、レイ。私に何か言うことはないの?」
と矛先を再び僕に向けてくるアユコ。
い、言うことか……とりあえず謝るのが先決、だよね。でも、ここは冗談を一つ入れて和ませた方が……。
「わ、笑っているアユコはユーコさんにそっくりだね……ひいっ!」
「次そんな事言ったら本当に斬るよ?」
「ご、ごごごごめんなさい!」
急に真顔になり腰に収めていた刀を抜いて僕に向けるアユコが恐くて、僕は正座している状態で両手を床につけて更におでこを床につけるような体勢になったまま謝る。
まあ簡単に言うと土下座だ。
「はあ……あのね、レイ。現実だけじゃなくてゲーム内でもお金っていうのは大切なんだからね?」
「は、はい……」
「回復アイテムだけじゃなくて、新しい武器を買ったり、食べ物を買ったり、今みたいに宿で部屋を貸してもらうのにも必要なの。わかる?」
「わ、わかります……」
「その大切なお金が一銭もなくなったらどうなると思う? レイは飢え死にするんだよ?」
「はい、反省しています……」
そういえばユーコさんが「このゲームでも睡眠や食事は大切だよ。何日か寝てないと、場所に構わず強制的に眠らされるし、何日も食べてないと体力ゲージが何もしてないのに徐々に減っていくからね」とさっき教えてくれたっけ……。
「まあ、その辺でいいんじゃないか? レイもユキも反省しているみたいだし……」
と、助け舟を出してくれたのは今まで部屋の隅で傍観していたケイタ。た、助かった……!
「……仕方ない。じゃあ二人共、今後はお金の使い方には気をつけてね」
「「わ、わかりました……」」
アユコの釘を刺すような一言に僕とユキの返事がハモる。
「ところで、レイはどこまでユキのレベルをあげたの?」
「えーっと……10」
「「最大!?」」
僕は正直に答えるとアユコとケイタは目を見開いた。
「ちょ、ちょっと待って! 私たちですらまだ武器レベル6なのに、どうやって!?」
「え、えーっと……敵って倒すと、しばらくしてまたどこかで復活するじゃん? 何回も同じ場所で戦っているうちにどのタイミングでどこに敵が復活するのかわかってきちゃって、それを繰り返していくうちに……」
しかも本気でレベル上げしたい人たちは全員奥の方へと進んでしまっていた為か、そこら一帯は僕とユキが独占してたことも理由にあるだろう。
まあそうやってサクサク敵を倒していくと――少し不謹慎かもしれないけど、なんだか楽しくなってきてしまってずっとユキと戦闘し続けていたらいつの間にか最大になっていた、というわけだ。おまけに職業レベルも上がったが……今のところ、変化が見られないのである。
「そ、そんな裏技が……!」
「あっ、でもサブ武器はまだレベル3だよ」
ユキに戦闘ばっかさせて自分は指示している事が多かったので、ショートソードのレベルは上がっていないのである。
「いや、それでも十分なくらいだよ。こっちなんてほとんどが獲物争い。モンスターが出やすいって言っても人がいすぎて話にならないよ」
「そ、そうなんだ……」
この平原ステージはかなりの広さだからプレイヤー同士の争いは起きないと思っていたのだが……どうも、奥の方はそうではないらしい。
「……あ、そうだ。明日はレイとユキで奥の方に行ってほしいな」
「えっ、どうして」
「平原の大将の住処とかの情報を集めてきて欲しいんだ。だから別にプレイヤー同士で通常モンスターのレベル争いをしなくてもいいし、万が一の場合が起きた時にはユキは索敵が出来るから問題ないと思うし……ね? いいでしょう?」
「うーん……」
つまり最初の目標を予定より早く終えた僕とユキは次の行動をしてほしいってことか。
確かに目的がレベル上げじゃなくて、ボスの情報集めなら僕にも出来そうな事だ。ユキには索敵のような能力を持っているから危なくなったら逃げる事もできる。
それに……ユキはもうレベル最大なのだ。もうそこら辺の通常モンスター相手だったら普通に勝てるだろう。
「わかった、平原の大将の情報集めだね。アユコたちはどうするの?」
「私たちはまだレベル上げが残っているから……。今日、レイたちがずっと戦っていた浅いところでやろうかなって思って」
「なるほど……。まあこっちは任せてよ。ね、ユキ?」
「んむ? ああ、そうじゃな」
「じゃあお願い、二人共」
「くれぐれも無理はするなよ」
とお願いするアユコと心配するケイタに僕は力強く頷く。
この時。
正直、僕は浮かれていたんだ。
ただユキが強くなった事に自分の中で達成感を得て、それに酔ってしまっていた。
問題はレベル上げ争いでも、索敵能力でも、ユキのレベルでもなく。
もっと基本的な――根本的な部分にあったのだ。
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