魔王曰くチート系勇者達を倒せっ!

風見鳩

 太陽はてっぺんに昇っていて、ジリジリと暑い中、俺たちは森を抜けて草原を歩いていた。
 しばらく歩くこと十分程度。目の前に街らしき建造物がいくつも見えてきた。

「おお、ようやく見えてきたか! よし、あそこで情報を集めるぞナナト」
「なあ今更なんだが、俺たちこの格好のままで大丈夫か……?」

 鼻歌交じりの上機嫌に歩いて行くノノンに俺はおずおずと質問をする。
 黒い甲冑はともかく、俺にもノノンにも角が生えている。もし街で正体がバレたら袋叩きに遭うかもしれないし。
 そんな不安げな俺に対してノノンは気楽そうにこっちを向く。

「ん? そんなに不安にならなくとも、大丈夫じゃよ。むしろ堂々としていた方がバレる可能性も低い」
「そ、そうなのか……?」
「ああ、実際にわらわは一度もバレたことがない」
「…………」

 自慢げに胸を張るノノンだが、それは要するに過去にも同じことを繰り返ししていたということだ。暇そうだな、魔王様。

「それにこの世界には人族、魔族、獣人族、アンドロイドという人種がいるからな。角が生えている程度ではわらわ達は目立たんよ」

 というノノンの言葉を聞いて俺は安心する。
 そうか、それならば安心出来るな……。
 と、少し安心した俺だがここである疑問が芽生える。

「そういえば……ノノン、この世界のことに詳しいな。前にも来たことがあるのか?」
「…………」

 ノノンの足がピタリと止まった。

 この世界での人類の敵、勇者の情報、人種……何故か異様に詳しいので、俺は少し違和感を感じたのだ。
 いや、それだけじゃない。これ以外にも色々とおかしい点はあるのだ。
 まず、何故ノノンは一人なのか。魔王であるのならば、仲間が複数いてもおかしくないだろう。仲間がいらないというのであれば俺をあの場で殺していただろうし、かと言って欲しいのであれば俺みたいに無理やりにでも転生させればいいだけだ。
 そしてノノンが俺に言った台詞。「十二人の勇者達を倒すのを手伝ってほしい」……これはつまり今現在のノノンの力では勇者達に勝てない、と確信している意味なのだ。
 まるで――。

「……ふん」

 さっきまで上機嫌だった表情は消え失せ、不機嫌そうな顔をするノノン。

「まあ大方お主が考えていることはあっていると言えよう」
「じゃあ、もしかして――」
「ああ、お主に会うまでにわらわは十二人の勇者達に敗れている」

 十二人の勇者達に敗れている。
 勇者達に敗れているからこそ――この世界の事もよく知っている。
 勇者達に敗れているからこそ――仲間は全滅している。
 勇者達に敗れているからこそ――自分一人では勝てないと確信している。

 なるほど、そう考えるとおかしい点の説明もつくということだ。

「わらわ達は手を抜くなんて事をしなかった。全力で勇者達にぶつかり合った。……だが」

 だが、負けた。
 全敗だった。

「全敗で皆全滅した、わらわ以外はな。それは純粋に、かつ単純にあやつらの力の方がわらわの力より上回っていたって事なんじゃが。勇者として能力を持っていたお主並みにの」
「俺並み……」
「ああ、それくらいあやつらは強い」

 つまり――今、俺らが探している『多重人格』の勇者もそう簡単には倒せないということなのか。
 じわり、と頬に冷や汗が流れる。

「まあそんな不安がることはない。奴らとわらわはそれぞれ一戦を交えているんじゃから、勇者達の情報は完璧じゃよ」
「……ん? それならお前はこの世界の勇者の情報も知っているわけだろ?」

 なんだ、それでは情報収集する意味がないじゃないか。

「まあ知っているには知っているが――勇者が今、どこで何をしているのかなんて詳しい事は知らんからのう」
「あー……」

 それはそうか。だからこそノノンは今まさに街へ向かっているのではないか。
 ノノンは再び歩き出す。

「まあそんなわけじゃ。わかったらとっとと勇者の情報を集めるぞ」
「……ああ」

 再び上機嫌に戻ったノノンは元気な声を出しながらずんずんと歩いていくが、俺は足を動かすこともなく、ただ曖昧な返事をする。
 手下である俺の前だからこそ元気にしているものの、本当は悔しいのだろう。
 敗れて、完敗して、それで他の人に頼って。
 ノノンのあの不機嫌そうな顔はそういうことなのだろう。
 もし――もし、それをあっさり俺がやってのけてしまったのなら、あいつはどう思うだろうか。
 もしそうなったら……。

「おいナナト! いつまでそこでボーッと突っ立っているんじゃ! おいていくぞ!」
「わ、わかった」

 ノノンの怒鳴り声が聞こえ、俺は慌てて反応して足を動かし彼女についていった。




 着いた街はどうやら中心街らしく、色々な店や人で溢れかえっていた。
 ノノンが言っていた通り、この世界の人種は人族、魔族、獣人族、アンドロイドであるらしく、街にはコスプレ会場かと見間違えるくらいの個性的な人ばかりである。……いや、コスプレ会場とか行ったことないから、行ってみたらこんなんだろうなあという俺の勝手な想像だけど。

「ふむ、前に来た時より人口が増えている。大体察するに、勇者のおかげで、ということじゃな。わらわ達にとっては皮肉なことじゃが」
「で、どうするんだ? 歩いている人全員に聞いていくのか?」
「そんな事したら日が暮れてしまうわ。もっとてっとり早い方法を使うぞ」
「手っ取り早い方法?」
「ふふん、教えてやろう」

 俺は首を捻るとノノンはドヤ顔をする。

「この街……というか、この世界には『ギルド』っていうもんがあるんじゃ。ほれ、ゲームとかでもあるじゃろう?」
「ああ、確か冒険者とかが集まって、クエストを受ける場所だっけ」
「本当の意味は違うのじゃが、まあこの世界ではそれが『ギルド』という意味だと思ってくれてよい。で、そこで何が行われているのかといえば、この世界での人類の敵であるモンスターの討伐依頼を主にしている」
「討伐、ねえ……」
「まあそんな世界で魔王のわらわが来た時には『人型モンスター』とも呼ばれたのう。ハッハッハ、化物が敵の世界だとまるでわらわがモンスターから人になったみたいじゃな」
「……ん、ちょっと待てよ。それってお前の顔はそいつらに割れてるんじゃないのか?」
「ん? ああ、その心配は必要ない。ここに来た時と姿形がまるで違うからの。ただの女の子じゃと思われる程度じゃろ」

 まあ、それなら問題ないか……。

「で、じゃ。この世界の勇者は『世界最大の恐怖』と呼ばれるモンスターを討伐したとして、英雄と称えられているんじゃ」
「世界最大の恐怖……」
「うん、まあわらわが姿を変えた、化物みたいな見た目の女なのじゃがな」
「…………」

 世界最大の恐怖と呼ばれる程に強かったノノンを倒した勇者。それなりに強いのだろう。

「まあそれは置いといて。世界を救った勇者が主に活動場所にしているギルドでは当然有名じゃろ?」
「……つまり、ギルドで訊けば勇者について、何かしらの情報を得られると?」
「うむ、そういうことじゃ」

 なるほど、それは確かに手っ取り早い方法だ。

「それなら早くギルドに向かおうぜ」
「えー、それじゃつまらんから少し買い物でもしようではないか」
「…………」

 さっき言っていることと今言ってることが矛盾してるぞ。

「なあー、いいじゃろいいじゃろ?」
「いや、いいも何も……お前、お金持っているのか?」

 買い物をする、ということは当然ながらお金が必要となるだろう。それをこの魔王妖女が持っているとは思えないんだが……。
 と、ノノンはそこに気がついていなかったらしく、はっとした顔をする。その様子だとやはり持っていないのだろう。

「持ってないのなら仕方ないだろ。ならさっさと――」
「待てぃっ!」

 さっさとギルドに行こう、と言おうとしたところでノノンが突然大声を上げたので俺はビクリと体を震わせる。

「なら……なら、稼げればよいのではないか!」
「……はい?」





「うーん……この掲示板の中で一番高い報酬は……と。おっ、これじゃな」

 街の中にあるギルド。中に入るとかなりの広さで、十数人の人々が中に多くいても十分にスペースがある。
 クエストを受けるカウンター、飲み食いする用のテーブル席、クエストの依頼内容を貼る巨大な掲示板が設置されていた。

 ノノンは小さい体で椅子の上に乗って掲示板を眺めてしばらくして一枚の紙を剥がす。

「おい、このクエストを受けるぞ」

 その見た目幼女が堂々とした態度でカウンターの女性にクエストを受注する光景に周りの人々は目を丸くしたり、馬鹿にするかのように吹き出したりと様々なリアクションを取る。
 俺ももし傍観者だったら周りと同じような反応をするんだろうな、と思いながらため息をつく。

「え、えーっと……」

 カウンターの人は困った様子でノノンとそのすぐそばに立っている俺の顔を交互に見つめる。

「ほれ、何をもたもたしている。受けるって言ってるんじゃ」
「し、しかし」
「わらわ達は受けると言ってる。クエストの難易度に関係なく誰でも受けることが出来る――そういう決まりじゃろうが」

 それはあくまで『自己責任である』のだから誰でも受けれる決まりじゃろう、とノノン。

「おいおいお嬢ちゃん。常識的に考えてみろよ!」

 そんな声がしたと思うと、そんなノノンに三人組の男達がニタニタと馬鹿にしたような雰囲気で近寄ってくる。
 剣を腰につけたガタイのいい男と、ローブを深く被ったヒョロヒョロの男、銀色の髪をして獣耳を生やしている男の三人組だ。

「お嬢ちゃんみたいなガキがそんな高難易度のクエストを受けられるわけねえだろうが」

 おそらくリーダーであろう、大柄な男がノノンに話しかける。

「ふんっ、馬鹿は黙っとれ。っていうかお主らに用はないんじゃ、わらわはこっちの――」
「おいおいおいおい、随分と馬鹿にしてくれるじゃねえか! 子供が大人に舐めてかかると痛い目見るぜ? 実力の差も知らない、お嬢ちゃんの方が馬鹿なんじゃ――」
「――っ!」

 途端にノノンから鋭い殺気が放たれ、三人組はビクリと体を震わせる。……無論、近くにいた俺もだが。
 さ、流石は魔王。威圧感が半端ではない。

「わらわを怒らせたな……」
「……お前を怒らせたら何になるっていうんだ」

 と、大柄の男も先程の馬鹿にしたような口調は消え失せ、ドスの効いた低い声になる。
 まあ怒った理由は沢山あっただろうな。子供、実力の差、馬鹿とか。
 ノノンは相手を睨みつけながら、いつもより低い声で男たちに向かって叫ぶ。

「わらわは――わらわは、他人の話を聞かぬ奴が嫌いなんじゃ!」

 怒った理由はそこかよ。もっと他にもあっただろうが。

 いや、しかしこのツッコミはしないでおこう……なんか緊迫した雰囲気だし。というか、俺もその喧騒の中の一人だなんて思われたくないんだけど。
 ジリジリと少しずつノノンから離れようとするが、案の定それは出来ず、ガシリと俺の腕をしっかりと掴む細っこい手がそこにはあった。

「ああそうか、そりゃ悪かった。だが俺の意見も言わせてもらうぞ。実力のねえ奴がそんな危険なクエストを受けようとするな」
「ならわらわ達が強い事を証明すれば良いのじゃろう? 試してみるか?」
「いいぜ、そこまで言うなら全力でやってやるよ――決闘をな」

 ……マジか。





「じゃあ始めるか」

 場所が変わって近くの草原。例の三人組とノノン、それに不本意ながら俺が対峙していた。
 男は決闘だと言った後、「ここじゃ人に被害が出るから場所を変えるぞ」ということで草原までやってきたというわけだ。
 まあしかし、あんな大声で話したりしていたもんだから、それを聞きつけた野次馬達が面白そうに見にきている。

「わらわ達が勝ったらあのクエストを受けさせてもらう。それで良いな?」
「ああ、だが俺らが勝ったらそのクエストを受けることを諦めろ。どうしても受けたいというのなら、自分の身丈にあったクエストを受けな」

 男はゆっくりと剣を抜き、他の男もそれに続く。
 何も俺は今まで戦ったことのないド素人ではないのだから、その構え方を、表情を見て言えることがある。
 ……あいつらは強い。
 幾千の死闘をくぐり抜けてきたのだろう、決して相手を見くびらない、真剣な瞳で妖女を見つめる。

「勝負はどうする? 一対一の三回勝負にするか? それとも二対二の――」
「はんっ、どちらも面倒じゃ。三人まとめてかかってこい」
「ちょっ、おま――」
「じゃあ――行かせてもらうぜ!」

 反論しようとした俺の台詞を遮るかのように大柄の男が俺に向かって突っ込んでくる。は、速い!

「ぐっ――!」

 俺はなんとか男が振るった一太刀を躱す。
 と、今度は後ろにいたローブの男が杖を俺に向ける。
 途端、火の玉が複数出現し、俺に向かって襲いかかってくる。

「甘い!」
「なっ!?」

 それを何とか避けた俺だが、いつの間にか獣耳の男が音もなく近づいてきていて、蹴りを放つ。
 俺はそれを防御することが出来ず、そのまま蹴りを食らってしまって威力で後ろへと吹き飛び地面へ転がる。

「くっ……!」

 俺はすぐさま起き上がり、相手との距離を取る。
 ……というか。

「なんでお前は戦わないんだ、ノノン!」
「え? だってわらわは戦闘できないじゃろうが」
「なら何で三対一なんて、明らかに不利な戦いを挑ませるんだよ!」
「ああいう台詞の方がカッコいいじゃろうが!」
「なんて自分勝手な理由で!」

 いつの間にかギャラリー側で観戦している妖女とぎゃあぎゃあと言い合う。
 と。

「よそ見してんじゃねえ!」
「うおっ!?」

 と、男が間合いを詰め、剣を振るう。俺はそれを転がって躱す。
 ……とりあえず文句を言うのは後だ。会話しながら倒せる相手なんかじゃない。
 俺は大きく息を吸って、呼吸を整える。

「行くぞ!」
「――っ!」

 と、再び素早い動きで突進してくる男に合わせて、俺も男の方へと駆ける。

「おらあっ!」

 俺はその瞬間タイミングを合わせて跳び、横に振るう剣の上を踏み台にして、更に高くジャンプする。

「何っ!?」

 俺が勝つ方法は一つ。全て一対一に持ち込むことだ。
 その為には、まず援助する攻撃を防がなければならない。つまり――。

「つまり、まずはお前から倒すべきということだ!」
「ぐっ――!」

 俺が跳んだ先にいるのはローブの男。
 この中で唯一の遠距離攻撃であるこいつを先に倒した方がいいだろう。

 ローブの男は杖を振るう。と、氷の刃がいくつも出現して勢いをつけて来る俺に向かって放たれる。

土壁つちかべ!」

 そこで俺はダンッと大きく地面を踏む。
 と、地面から土の壁が一瞬にして浮上し、氷の攻撃を受け止める。

「なっ――」
火球かきゅう!」

 驚いている男の隙を逃さずに、俺は次なる魔法を繰り出す。
 作り出した火の球はそのままローブ男の方へと接近していき――。
 ぐんっといきなり現れた獣耳の男がローブ男の首根っこを掴むと、ありえないスピードで走ってそのまま火球を躱す。

「ちっ――!」

 あと少しで倒せそうだったのに――と俺は舌打ちをする。

「このっ!」
「っ!」

 と、背後から剣を振るわれ、俺は咄嗟に横へと転がる。


 そうしていること数分。俺は未だ一人も倒せずに苦戦していた。

「く、くそっ……!」

 こいつら、連携が上手い……!
 近接は剣士、遠距離にローブ男、そしてその補助や誘導に獣耳の男。
 剣士を狙おうとすると遠距離の魔法が放たれ、ローブ男に攻撃すると獣耳の男が咄嗟に補助をし、獣耳男を狙うと、剣士が俺の隙を伺って斬りかかってくる。
 自分の望む一対一に持ち込む事が出来ないのだ。

「はあっ……はあっ……」

 それに――息も上がってきている。
 当然だ、三対一で余裕のやつなどいるわけがない。

「なかなかしぶといな……だが、これで終わりだ!」

 大柄の男が再びこっちに突っ込んでくる。
 ……そろそろ俺も決着をつけないときついな。

 俺は間合いを詰めてくる剣士に向き合う。
 と、剣士の背後から突然、火の玉が飛び出してくる。
 剣士という体で視界を遮った魔法攻撃か!

「火球!」

 俺は咄嗟に火の球を繰り出し、相手の魔法攻撃とぶつける。……のだが。

「がはっ!」

 いつの間にか背後を取っていた獣耳の男の蹴りによって俺は前へと吹き飛ぶ。
 そう、剣士の攻撃はフェイク、ローブ男の攻撃もフェイク、そして獣耳の男がこっそりと背後から攻撃――というわけだ。

 しかし、その事は『読めて』いた。

「なっ!?」
「――っ!」

 あいつの蹴りに『わざと』大きく吹き飛んで、剣士を通り越えてローブ男へと一気に接近する。
 空中の最中、バッと俺は右腕を振り上げる。

「させるかっ!」

 と、後ろにいたはずの獣耳の男がいつの間にか真横まで接近してきていた。
 だが……これも『読み』通りだ。

「重力空間!」
「ぐあっ!?」

 俺はそれを獣耳の男のいる方に向かって打ち出す。
 実際は相手の重さを変える、ただのハッタリ攻撃。
 しかし、身体がいつもの倍の重さになるというのは、一瞬でも怯むのだ。
 獣男の怯んだ瞬間を俺は見逃さず、再び魔法を発動させる。

火渦ひうず!」
「うぐあああああああああ!」

 もろに攻撃を喰らい、獣男はその場で倒れる。――まずは一人!

「てめえ!」

 ローブ男は俺に杖を向ける。

「おせえよ!」

 俺は素早く肉薄して低く屈むと、足払いをする。

「うあっ――!?」
「くらえっ!」

 バランスを失ったローブ男の腹部に俺は拳を叩きつける。
 拳を受けた男は地面に叩きつけられるように倒れ、そのままぐったりと動かなくなった。


「さて……最後にお前だ」

 ようやく――ようやく、一対一のバトルになる。
 俺は残りの一人と向きあう。

「…………」

 男が剣を構え、俺も体勢を整える。
 幾度も戦闘をしていた男だ、勢いのまま動くのは確実にやられると理解している。
 そうして大柄の男と俺が対峙すること数秒。
 いや、数分かもしれないし、もしかしたら一秒も立っていないのかもしれない。
 その位、長く感じ――瞬間の出来事だった。

「――っ!」

 男の身体が動いたかと思うと――一瞬にして俺に間合いを詰めてきた。

「重力空間!」

 俺は後ろへと飛び退きながら、魔法を発動させる。

「ぐっ――!」

 と、男が一瞬怯む――チャンス!

光矢こうや!」

 俺は続けて魔法を放つ。
 光のごとくスピードの矢は咄嗟にガードした剣を吹き飛ばす。
 武器が相手の手から離れた――もらった!

「う――おおおおおっ!」
「なっ――!」

 怯んだのは俺だった。
 男は拳を握ると、俺に肉薄してきたのだ。
 男の拳を躱すことが出来ず、そして――!

「ぐっ!」

 ガキッ!という音がして、俺の頬と男の頬にそれぞれの拳が食い込んだ。

 そして、俺は殴られた衝撃で地面へと叩きつけられる。
 頭にガンッという嫌な音が響き、視界が一瞬にして真っ白になった。
 そこから俺の記憶は途絶えた。

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