魔王曰くチート系勇者達を倒せっ!

風見鳩

プロローグ

 人には様々な感情がある。
 喜び、悲しみ、諦め、怒り、嫌悪、安心、愛しさ、後悔、嫉妬、恐怖、苦しみ、絶望、殺意そして勇気。
 これが感情の全てではないのだけれども、こうして並べてみると人の感情の半分以上はプラスの感情よりマイナスな感情である事に気がつく。
 それくらいに人は脆いものなのだろう。知的な頭脳と引き換えの代償であるかのように。
 しかし、こうして負の感情を多く持っている人間が今尚も生き続けることができるのは喜びや安心、愛しさそして勇気といった感情が強いからである。
 褒められると喜ぶ。成功すると安心する。好きなものはとことん愛する。

 そして勇気。
 悲しみにも、諦めにも、後悔にも、恐怖にも、苦しみにも、絶望にも対抗できる力。
 人類が皆欲しがる最高で最強の感情。
 だから『勇者』というのは称えられ、今も尊敬の眼差しで見られるのだ。
 しかし、勇気にも怒り、無謀、殺意といった感情が苦手だ。
 人によってはどれが勇気であるのか、わからなくなる時がある。
 そう考えると勇者というのは道を間違えると狂人、悪魔になり得ないかもしれない。
 ……いや、違うか。
 どれが勇気であるか区別できるからこそ、『勇者』なんだ。
 だから勇者というのは――英雄なんだ。

 しかし、そんな感情も上手くいかないから人というのは時に愚かになってしまうのだろう。
 それならいっそ感情全てを捨ててみるべきか?
 いや、それはおすすめ出来ない。
 何故なら、そうなるともう人ではなくなるからだ。『人間』というただの生き物の一種になってしまう。
 ではマイナスの感情――特に怒り、絶望、殺意といった他人に危害を及ぼしかねない大きく分けた三つの感情だけを捨ててみるべきか?
 それはもっとおすすめ出来ない。
 何故ならそれを捨ててしまった私がそう言ってるんだから。
 これ以上の説得力はないだろう。

 これは一部の感情を捨てた少女のお話。
 怒ることも、絶望することも、殺意も芽生えない勇者――『私』の物語。

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