魔法世界の例外術者《フェイク・マジック》 - 魔力とは無力である -

風見鳩

前夜祭『文化祭の準備3』

「……というわけで、宣戦布告ですケンジくん!」
「お、おう……」

 夏休みの間に改築された女子寮の食堂内にて、本日二度目の宣戦布告をされていた。
 Fクラスの学級委員である友人、柏原優梨はガタリと席を立ち上がって俺を見下ろすような形でビシイッと指差すが、「あっ、食事中でしたね、ごめんなさい」と慌てて座り直す。

「……えーっと、つまり優梨はあの比良坂皐月って男の方に付いたってこと?」
「そういうことです、京香ちゃん! つまり、今まで共に戦ってきた友が対立した立場に! このポジション、やってみたかったんですよ!」
「あんた、そんな役をやってみたかったの……?」
「というかそれ、体育祭でもやったよな……?」

 むしろ対立しかしてないような気がする。
 ちなみに何故俺が女子寮にいるのかは、色々な事情があってのことだ……そろそろ慣れてきてしまった自分が怖い。

「ちなみに、何か理由があったりするのか?」

 という俺の問いに、優梨はうーんと唸る。

「強いて言うのなら……ケンジくんに似ているから?」
「………………は?」

 飛び出してきた優梨の台詞に、思わずぽかんとしてしまう。

「俺が、あいつと似てる……?」

 ……いやいや。いやいやいやいや。
 いくらなんでも、それはありえないだろう。
 ないない、と首を横を振る俺に優梨が指摘する。

「その反応も皐月くんと似てますね」
「…………」

 悪気のない優梨に、上手く返事を返すことが出来ずに黙り込んでしまう。
 夏休みにプールへ遊びに行った時もそう言われた覚えがある。確か偶然鉢合わせした寮長あねに、「弟に似ている」とかなんとか。
 ……俺とあいつ、そんなに似てるのか?

「ふーん、ケンジくんみたいな人ね……なんか嫌だなあ」
「うるせえよ、みさと」

 と心底嫌そうな顔をするのは、優梨と同じFクラスの吉岡みさと。『みさと』というのは俺たちが決めた渾名で、本名は……なんだっけ? 『みさと』がしっくり来すぎて本名の方はよく覚えてない。

「だって絶対卑屈そうじゃん。前髪も長そう」
「ちなみにみさとちゃんも二人に似てますよ」
「誰がこんな奴らと!」
「その反応よ、その反応」

 目を吊り上げて怒鳴るみさとに指摘する京香。
 いや、誰だってこういう反応するだろ。似てるって言われたくない人に似てるって言われると、尚更に。

「確かに、俺はこんな馬鹿じゃないからな」
「誰が馬鹿だ!」
「お前だ、お前! 魔法実技だけAAに対して、魔法学がCのお前だよ!」
「うるさい、歴史に関しては意味わかんない発言ばっかするくせに! C以下だよ、C以下!」
「なんだと、この野郎!」
「なんなら、今やる!?」
「受けて立つ!」

 みさとと共にガタリと立ち上がるが、後頭部からパアンという衝撃が走る。

「やめなさいっての、食事中でしょうが」
「みさとちゃんも、落ち着いてくださいっ」

 うずくまる俺に、京香は後頭部を叩いた手をヒラヒラさせながらため息をつく。
 ちなみにみさとは優梨に羽交い絞めにされていた。京香のように叩いたりしない限り、優梨らしいな。

「うぐ……だが俺は認めないぞ!」
「それはこっちの台詞! 誰がこんなやつと!」
「……そういう所がそっくりだって言ってるのよ」

 京香が何か言っているが、気にしない。とにかく、認めるもんか!

「話を戻すけど……優梨も魔法射撃大会に参加するってことなのね」
「はい! 京香ちゃんは参加しないんですか?」
「私はパス。特にやりたい理由もないしね」

 今回、京香は参加しないらしい……まあ、俺も参加する気はなかったんだけど。

「でも稽古はいつも通り付き合うわよ、ケンジ」
「……まあ、その、よろしく頼む」


 夏休みの間は出来なかったが、食事後に稽古場で京香と稽古をしているのが俺の日課だ。
 知っている通り俺には魔力がないが、その代わりはある。しかし、それもある程度制限がかけられている為に、完璧に代用できているとは言いにくい。

 だから魔力がなくたって他の人と代わりがないと証明する為に、俺は毎日京香と訓練しているというわけである。

 そしていつものように、この日も稽古をすることになる。

 ……まあ、最近はちょっと違ってきているけど。
 と、いうのも。

「はあっ!」
「ぐっ!」

 みさとの横薙ぎをギリギリの位置で躱す。
 不気味な青白い光と、バヂッという空気が焼けたような音を鳴らしながら模擬刀は通り過ぎていった。

 反撃する為に、手にしているマジックデバイスから今みさとが使ったのと同じ魔法を起動。みさとの腹部へ青白く光るデバイスを沈みこませる。

「っ!」

 だが、みさとの反応は速かった。
 横へ薙いだ勢いを利用して、そのまま体を捻るようにして回転し俺の攻撃を躱す。

 すかさず攻撃してきたみさとの一太刀を腕で受け止めるが、雷の魔法が腕を伝って身体中に走る。

「ぐ、ううっ!」

 全身に伝わってくる痺れに、俺は一歩二歩後退する。
 だが、みさとの攻撃は終わらない。隙だらけの俺に向けて、突きを放つ。

 そこが俺の狙い目だ!

「――!!」
「なっ!?」

 マジックデバイスを起動し、さっきと同じ魔法を起動。突っ込んでくる刀の位置にに合わせて攻撃を逸らす。

 全体重を乗せた突きを放ったみさとは勢いで体が俺の方へと近づいて来てしまう……つまりチャンスというわけだ!

「はあっ!」

 俺は雷魔法を継続させたまま、突っ込んできたみさとの腹部にデバイスを当てる。

「うっ!?」

 バヂッという音と確かな手応え。みさとの身体から力が抜け、倒れる――

「こん……のおおおおおおおおおおおおおお!!」

 ――筈だった。

「っ!?」

 みさとは俺の腕を掴むと、持っていたデバイスを無理矢理もぎ取り、床へと投げ捨てられる。

「しまっ――」

 ――唯一の攻撃手段を失ってしまった。

 みさとは目を見開くと、そのまま俺の後ろへ回り込む。
 慌てて逃げようとするが、時すでに遅し。後ろから俺の首を刀で通される。

「はい、そこまで!」

 と、ここで京香の声が割って入り、すっと模擬刀が首から離れた。
 俺は情けないことに、思わずそこで膝をついてしまう。

「ケンジくん、最後のは駄目だよ。勝ったと思って、油断したでしょ?」
「うっ……」

 みさとの指摘に俺は何も言い返せない。確かに勝ったと思ったからだ。

「君の攻撃手段はそのデバイスだけなんだよ? それを失ったら、何も出来なくなっちゃうんだから」

 と言うみさとに、京香もうんうんと頷く。

「ケンジが私に勝てない理由はそれもあるわ。『もしも、こうなったら』というのに対応できていない」
「もしも……」

 もしも、さっきのように攻撃手段デバイスを失ったら。

「そのことを考えなければ、あんたはあいつ――比良坂皐月にも勝てないわ」
「…………」

 みさとが俺の稽古に手伝ってくれているのは、夏休みが明けた新学期からである。

 俺が京香に稽古付られていることは優梨から聞いていたようで、一回だけ見せてくれと頼んできた。
 どうやらみさとは、自分も実技は得意だったので少し気になっていたらしい。
 そして稽古を見ていた時に、俺の動きが気になって半ば無意識的に色々とアドバイスをしてしまい、それを京香に目をつけられ「一緒にやってみない?」と誘われたのだ。

 そして、今に至るのである。

「……もう一回、お願い出来るか?」
「うん、いいよ」

 俺はぐっと立ち上がると、みさとは模擬刀を構えなおす。

 負けるのは、嫌だ。
 別に比良坂だけにではない。
 誰にだって負けたくないのだ、俺は。

 デバイスを手にすると、再びみさとに向かって駆け出していく。


 * * *


「あっ、皐月くん!」

 同刻、男子寮。
 皐月は寮の外へ出ると、既に待っていた優梨がブンブンと手を振る。

「……おう、本当に来たのかお前」
「こんな時間に女の子一人を男子寮に呼び出すなんて……もうっ、皐月くんってば」
「いやいやいや、お前からこっちに来たんだからな!? 俺は何度も拒否したぞ!?」
「えへへ、冗談です」

 濡れ衣を着せられツッこむ皐月に、優梨ははにかむ。

「まあ、それはいい。ここに来たってことは、本当にやるんだな?」

 と、問いただす皐月に優梨はコクコクと頷く。

「はい! ケンジくんに勝つ為、特訓です!」
「……じゃあ、稽古場を使うか。着いてこい」
「はいっ!」

 そう、優梨がやってきたのは何も皐月をからかう為ではない。
 ケンジに勝つ為に、特訓をしに来たのだ。
 二人は男子寮に入っていき、稽古場へと向かっていく。
 畳式の稽古場へ入っていくと、「さて」と皐月は優梨に振り返る。

「で、お前はどんな魔法が得意なんだ?」
「ええと、主に支援系で……京香ちゃんたちみたいなのはあまり……」
「それで魔法ペンなのか……よし、ちょっと待ってろ」

 そう言うと否や、皐月は優梨を残して出ていき、やがて再び戻ってきた。

 「ほれ」と、持ってきたものを優梨に渡す。

「こ、これは……?」
「魔法道具の一つ、『魔力銃』だ。風魔法とかじゃなく、『魔力の塊』を放つ仕組みになっている」

 白銀に光る銃を手に、優梨は「おぉっ……!」と唸る。

「得意魔法に関係はない魔力という形で攻撃出来るから、お前でも扱えると思ってな。大会終了まで貸してやるよ」
「い、いいんですかっ?」
「ああ。むしろ、お前が攻撃してくれないと駄目なんだ」
「私が……?」
「そうだ、俺は防御の方に徹することになるだろうからな」

 ――そう、それこそが俺の必勝法だから。

 皐月はニヤリと笑うと、よくわかっていない優梨に声をかける。

「じゃあ、特訓するか」
「は、はい! よろしくお願いします!」

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