魔法世界の例外術者《フェイク・マジック》 - 魔力とは無力である -

風見鳩

前夜祭『文化祭の準備1』

 夏休みが終わると、桟橋学園は一気に『学園祭』ムードへと変貌する。
 桟橋学園における学園祭は、他と比べてさほど変わらない。クラスだけではなく、委員会や部活動などでも出店や発表会で学園全体が賑わう行事なのだ。
 中には理事長が開催する『大会』があり、優勝者には賞品が出るとのこと。まあ出る気なんて微塵もないが。

「じゃあ、ちゃちゃっと決めるわよ。はい、何か提案がある人は挙手をしなさい!」

 ぬぼっと教壇の上に突っ立っている俺の隣で、教卓に手をついてクラスメイトに元気よく声を張り上げている赤髪赤目の少女の名は篠崎京香。俺と同じAクラスの学級委員である。
 容姿は実年齢より少し幼げであるが、学年トップの成績を持っているのだ。
 それに加えて皆を引っ張っていく指導力、困った人を助けずにいられない人の良さから、クラスの間では密かに「お母さんみたい」と言われている(ちなみにお母さんと呼ぶと、京香はキレる)。

「アイスクリーム屋とか?」
「たこ焼き屋じゃね?」
「いや、劇っていうのも楽しそうじゃないかしら」
「はいはい、意見があるんだったらちゃんと挙手して言いなさい!」

 それぞれ自分が考えている意見が飛び交いざわつくクラスに、京香がパンパンと手を打って周りを静ませようとする。
 思ったんだが、京香って教師とかに向いてそうだよな……とそんな事を考えながら、京香を横目で見る。

 そんな中、ピシッと真っ直ぐに一本の腕が伸びた。

「はい、シュウ。どうぞ」

 京香に指名され、手を挙げていた白髪の男子はすくっと立ち上がる。

「美術展はどうだろうか?」
「……は?」
「美術展はどうだろうかっ?」

 思考停止する京香だが、その男は尚も自信ありげに発言を繰り返す。
 たった今発言をしたのは大崎シュウ。
 整った顔立ち、成績はそこそこ優秀、運動能力も比較的高めと女子にモテる要素を数多く持ちながらも、情熱的すぎる性格のせいでそういった話が一切ないという何とも残念なイケメンである。
 このおかしな性格はどうやら小さい頃からだったようで、シュウの妹であるリンも手を焼いているとかなんとか。

「えーと……ごめんシュウ、美術展って?」
「そのまんまだ京香くん! 僕は夏休みにロンドンへと行ってきたのだが……僕は感動したのだ! あの美術館に数多くある美術品の数々、造形、そして正に『美』を呼ばれるべき美しさに!」

 どうやらロンドンの熱で頭も壊れてしまったらしい。

「なに、別にそこまで難しいことではない。ただ僕たちが、絵やら創作物を制作して展示するってことだ」

 なるほど、それなら出来そうだな……本物の美術品を持ち込むとか言いだしたらどうしようかと思ってた。

「所詮僕たちが制作したものなど、大衆からしたら何の価値もなく見えるかもしれない。だが、僕たちにとってはそれが『美』で――」
「はいはい、わかった、わかった。じゃあ板書して」

 まだ話を続けようとするシュウを京香は軽くあしらう。
 しばらくして、『美術展』が候補として仮想ノート版に書き写された。

「他には……はい、三縁」
「はいはーい!」

 と、今度は小さな手を伸ばしていた黒髪ツインテールの少女が元気よく立ち上がる。

「お化け屋敷なんてどうかな? 絶対、楽しいと思うよっ!」

 先程の発言よりは、まだまともそうな提案をしたのは秋原三縁。
 底知れぬ元気と、少し子供っぽい性格をした少女だ。正直子供っぽいのはいいけど、もう少し友人にイタズラをする頻度を減らして欲しい。

「ああ、それなら楽しそうだな」
「確かに沢山人が来そう!」
「お化け役とか、一回やってみたかったんだよなあ」

 三縁の提案に周りの反応も悪くない。確かに良い案ではありそうだ。

 ――ここに立っている人物を除けば。

「お、お化け屋敷……そ、そうね。一応、候補にあげようかしら」

 京香が若干頬をヒクつかせる。
 それもそのはず、この篠崎京香という人物は『お化け』とか『幽霊』といった類が苦手なのだ。
 三縁もその事を知っているし……もしや、わざと提案したな?

 え? 俺はどうなのかって? 幽霊とか怖くないか? ……馬鹿馬鹿しい。
 そういうのは全て見間違いや錯覚、もしくは人為的な工作でしかない。存在すらしてないものを怖がっても損しかないのだ………………………………お化け屋敷は、選ばれないで欲しいなあ。

 それから他の意見も取り上げていき、候補が二桁になるくらいまで挙がっていく。

「ケンジ、あんたからは何か意見ないの?」

 ふと京香が俺の方を向いて、意見を求めてくる。
 意見、意見ねえ……正直、お化け屋敷以外なら何でもいいんだけど。

「飲食店がいいかな……」
「大変食いじが張っている意見のところ悪いけど、志野くんの言った飲食店は数多く該当するわ。もっと具体的に言いなさい」

 俺の言葉に水色と青が入り混じった髪の少女が厳しい返事を返す。

「ああ、ごめんなさい。志野くんにとってはそれさえも難しいのね、頭にあるのは機能停止した脳みそなんだし」
「誰が機能停止した脳みそだ。死んでいるじゃねえか」
「そう、つまり志野くんは既に死んでいる……」
「人を勝手に殺すな!」

 豊岸千恵子。基本的に無表情、しかし男子――主に俺ぐらいしかいないが――に罵倒するときは実に楽しそうな表情をするという嬉しくないサービスを提供する少女である。
 容姿は悪くないのに男子限定に発動する毒舌のせいで、男子はおろか女子にも距離を置かれている。もっと普通にしてればいいと思うんだけどな、こいつ。

 ちなみに、先程から仮想ノート版に候補を板書してくれているのは豊岸である。彼女は学級委員の書記係だったりするからだ。

「というか、そういう豊岸は何か意見ないのかよ」
「そうね……志野くんの意見を統合して考えた案なら一つだけあるわ」

 豊岸はそう言うとノート版に自分の案を書いていく。
 えーと、なになに。

「……『コスプレ喫茶』?」
「そう、コスプレ喫茶。良い案だと思わない?」

 いや、思わない? って訊かれてもな……。

「大体、なんでコスプレを入れる必要がある? 別にいらなくないか?」
「わかってないわね、志野くんは」

 俺の疑問に、やれやれと肩を竦める豊岸。

「いいかしら? みんなが普段通りの制服姿なんて画にならないのよ。観ている人、読んでいる人を楽しませるためには違う服装にする必要があるの。売るためには必要な手段なのよ」
「……なあ豊岸、それはコスプレ喫茶の話だよな?」
「ええ、コスプレ喫茶の話よ」

 という事は『売る』っていうのは店の商品って意味なのだろうが……何か違うような気がするのは、気のせいだろうか?
 すると、ずっと黙っていた京香が前に出る。

「確かに千恵子の案はいいけど、残念ながら衣装を購入する予算が足りないわ」
「……そう」

 京香の言葉に 豊岸が若干残念そうな表情を見せる。

 もう説明するまでもないが一応補足しておくと、今の今まで話していた内容は文化祭のクラスの出し物についてだ。

 確かに購入するとなると相当な値段がするだろうな。
 そうなると、他の案も色々考えないといけない。出来れば自分たちで用意できる物の方が…………あ。

「……一つだけ」
「?」
「一つだけ、豊岸の案に似たようなものなら思いついた。予算の件をクリアする案が」

 そう言うと、俺は一回間を置いて口を開く。

「『私服喫茶』だ」
「……………………はあ?」

 京香はシュウの時よりも意味がわからないという風な反応をする。

「服装は自分が持っているものを使えばいいし、用意するのは多少の備品のみ。だが豊岸の言う普段通りの制服姿じゃないし、恐らく他のクラスとも被らない」
「……それで思いついたのが、その『私服喫茶』ってやつなの?」
「ダメか?」
「いや、うぅん……」

 俺は説明するが、京香の表情はぱっとしない。何か問題でもあるのだろうか……?

「衛生面も気をつけるように、アルコールやビニール手袋の用意もするつもりなんだが……」
「しつもーん、ケンジくん!」

 と京香が何か言う前に、三縁が元気よく立ち上がる。

「私服で営業するとさ、どっちが店員でどっちがお客さんかわからなくならない?」
「…………」

 あっ、そうだった……そっちの面も考えるべきだったな。

「ああ三縁さん、それなら全員腕に同じ柄のバンダナとか何か目印がつくようなものでも付けていれば問題ないんじゃない?」

 今度は俺が何か言う前に豊岸が意見を出す。

「あーそっか、それなら大丈夫かな」
「ええ、用意するメニューは簡単なものでもいいし、何より私たちも楽しめると思うの。私は志野くんの意見、いいと思うわ」

 珍しく……本当に珍しく、豊岸が俺の意見に賛成している。
 こんなこと、今まで見たことがないくらいだ。

「……豊岸は、賛成なのか?」
「ええ、賛成よ……何よ、その意外そうな目は」
「いや、だって……」

 だって、意外だし。あの俺の意見を全て否定するかのような毒舌少女が、俺の意見を「良い」なんて言うとは。
 豊岸は嘆息し、じろりと俺を睨む。

「夏休みの時にも言ったと思うけど、志野くんは私のことを何か勘違いしているわね。私だって良いと思った意見には素直に賛同するのよ?」
「そ、そりゃそうか……すまない」

 言われてみると、確かにそうだ。普通に考えればなんてことないことである。
 確かプールの時も同じようなことを言われたんだったな……。

「そうだよな、豊岸だって普通の女子高生だよな」
「普通の……」

 と。
 一瞬、豊岸の表情が固まる。

「え、何かおかしな事を言ったか?」
「……いえ、何もないわよ。ええ、私だって普通の女子高生なのよ」

 首を捻って訊いてみたが、豊岸はいつも通りの無表情になっていた。
 でもそうだな、豊岸も男子を褒めることだってあるのか。もっとそういう面を出せば、みんなも距離を置かないと思うんだけど。

「ゴミみたいな脳みそを持った志野くんがよく考えついたわね。褒めてあげるわ」
「一応言っておくが、それは褒めたとは言いにくいぞ」

 そのニコニコとした表情で毒舌を吐くのをやめろって言ってるんだよ。

「まあ、確かに楽しそうだね」
「うん、学校でオシャレ出来るし」
「私もさんせーい!」

 と、女子たちが次々と賛成の意見をくれる。

「俺も賛成かな!」
「志野にしてはなかなか良い案じゃないか!」
「俺も志野の意見に一票!」
「俺も!」
「僕も!」

 続いて、男子たちも賛同してくれる。
 賛成してくれる事は嬉しいけど、ちょっと恥ずかしいというかなんというか……。

「本当、良い案だぜ……!」
「ああ、女子たちの私服姿を拝めるなんて、俺たちには滅多にないからな……!」
「…………」

 前の列の男子たち……伊東と片山がヒソヒソと話していた内容は聞こえない事にした。

「ちなみに僕はケンジだから賛成したのだぞ!」
「お前も他の男子と同じ理由でいいんだよ!」

 男に言われても全く嬉しくない!

「……じゃあ、クラスの出し物は『私服喫茶』でいいかしら?」

 京香の言葉にクラス全員が頷く。

「オーケー、わかったわ……ああ、それと『魔法射撃大会』の参加者は――」

 バン、と。
 まだ学級会議が続いている中、Aクラスの扉が突然開いた。
 クラスメイトは全員席についているから、堂々と入ってきたのはクラスメイトではない。

 何より、俺はこの男子を見たことがないからだ。

 入ってきた男は俺より若干背が低いくらい、黒髪で右目を隠している。
 勝気な目を持った男子はキッと棒立ちしている俺を睨む。

 ……ん? 見たことがない?
 俺は自分で言った言葉に、自分で疑問を抱く。

 ……違う。
 確かに見たことがない。だが、どこかで見た・ ・ ・ ・ ・ような・ ・ ・……。

 男は俺の目の前までやってくると、一言こう述べた。

「……志野ケンジ。お前に宣戦布告をしに来た」

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