魔法世界の例外術者《フェイク・マジック》 - 魔力とは無力である -

風見鳩

序章 - 魔力とは読解力である -

 豊岸千恵子は至って普通の女子高生である。

 ……「いきなり何言ってんだ、こいつ」と思った人、ごめんなさい。
 私は京香さんのように主観的に話を進めることが出来ないし、優梨さんのように会話だけで前置きをすることも出来ないし、三縁さんのように話をまとめて短文で表現することも出来ない。
 自分を客観的な視点でしか見れないのが私なので、この話のプロローグは第三者視点のように話させてもらうわ。
 退屈かもしれないけど、少しだけ付き合って頂戴。



 ごく普通に生まれ、ごく普通に育ってきた豊岸千恵子には、特にこれと言った悩みも迷い事もない。

 篠崎京香のように魔力が特別高いわけでもなく、柏原優梨のようにもう一人の人格として姉がいるわけでもなく、秋原三縁のように自分を騙してきたりしているわけでもなく、志野ケンジのように魔力がない事を気にしているわけでもない。

 それが豊岸千恵子という人間である。

 しかし、『普通』と言っても、何を基準に普通なのかわからないと思うので、彼女の特徴を上げておいた方がいいだろう。

 趣味は読書、得意魔法は水系統、男子に対して拒絶反応が見られる。
 拒絶反応だなんて言葉を使うとやはり普通ではなさそうだが、要するに男嫌いなだけである。
 元々彼女は男子限定だけではなく、全般的に人付き合いが苦手なのだ。

 では、そんな彼女が何故こうして物語に関わりがあるのかというと。
 それは志野ケンジと篠崎京香の二人が原因であるのだろう。



 それは春――まだ入学したばかりの頃だった。

 特にこれと言った目的もなく入学した彼女は、ちょっとした気まぐれで学級委員の書記係として立候補した。
 小学校、中学校でそういう経験がないので、やってみたら面白いかもという気持ちで、だ。

 果たして彼女はめでたく就任し、数日後女子学級委員代表の篠崎京香と男子学級委員代表の志野ケンジとの初会議が開かれた。
 もっとも、会議と言ってもただの顔合わせのようなものだったが。

「豊岸さん、よろしくね!」
「よろしくな」
「……こちらこそ、よろしく」

 篠崎京香はにこやかに。
 志野ケンジはやや面倒そうに。
 豊岸千恵子は無表情に挨拶をする。


「いやあ、立候補してくれてありがと、豊岸さん!」
「いえ、別に……」
「どこかの推薦されただけでやることになった馬鹿とは違うわね」
「京香も推薦されてやることになった馬鹿だろうが!」
「何よ! あんたが余計なことを言わなければこうならなかったのよ!」
「…………」

 最初から気がついていたけど、この二人って仲が良いわね――と豊岸は思う。
 席も一緒、食事も一緒、登下校も一緒、寮内でも一緒。
 女子の間では『既に夫婦なのではないか』と噂されている程、仲が良い二人であった。

「大体、俺はそういうつもりで言ったわけじゃねえ!」
「でもその結果がこれでしょうが!」

 ふと見ると、まだ二人は言い争いをしていた。
 今読んでいる文庫本の続きが気になるから、早く終わらないかしら……豊岸は終わるまで二人をボーッと見ていることにした。

「あんたなんて、自業自得じゃない!」
「あ、あれは、大崎があんな事を言うから……!」

 早く終わらないかしら……。

「あんな安い挑発に乗るのが悪いのよ!」
「なんだとっ!」

 早く……。
 …………。

「俺にも譲れないものが――」
「……いい加減にしなさい、志野くん」

 とうとう耐え切れなくなった豊岸は冷たい声で志野の言葉を遮った。

「男のくせにギャーギャーうるさいわね、犬や猫だってそんなにうるさくないわよ……ああ、もしかして志野くんはそれ以下ってことかしら?」
「「…………」」

 突然ベラベラと喋りだした豊岸に志野と篠崎は絶句し、豊岸ははっと我に返る。
 しまった――豊岸は後悔するばかりであった。

 豊岸の昔からの悪い癖。
 男子に対しては異様に当たりが強くなってしまい、つい毒舌を吐いてしまうことだった。
 呆然と見つめる豊岸は必死に言い訳を考える。

「あの……えと……これは……」

 何か言おうとする豊岸だが、結果として何も言うことができなかった。
 そんな豊岸に篠崎は一言。

「豊岸さん、あなた……面白いわね!」
「……………………は?」

 目の前にいる赤髪の少女が何を言っているのか、一瞬理解できずに青髪少女の目が点になる。

「そうよ、もっと言ってやりなさい豊岸さん! 男のくせにうるさいのよ!」
「え、ええと……」
「……いや、その、豊岸」
「言い訳は聞き飽きたわ、この生物以下」
「生物以下!?」

 篠崎の言葉に困惑する豊岸だが、志野の言葉にはしっかりと反応していた。

「大体、さっきから聞いていると、『別に俺がやりたいわけじゃないけど、みんなに言われちゃ仕方ないな。俺、超人気者』って自慢しているようにも聞こえるわよ?」
「いや、そんなつもりじゃ……」
「ああ、ゴミ以下にそんな自慢できることなんてないわね。これは失礼したわ」
「本当に失礼だと思うなら、そのゴミ以下って認識を改めろ!」
「これは失礼、存在以下」
「とうとう存在すらなくなった!?」

 ――楽しい。

 これだけが、この短い会議の間に豊岸が嬉しいと思ったことだった。

 ――この人を馬鹿にする事が、この人に毒を吐く事が、この人のツッコミを聞くことが、この人と会話する事が楽しい。

 だが、それだけで充分だった。
 さっきまで無にも等しい程、表情を変えなかった豊岸の顔には、自然と笑みが零れていた。

「じゃあこれからよろしくね、志野くん……ああ、手を握ろうとしないでくれる? 触れた部分の存在が消えるわ」
「なら、握手を求めるかのように手を出すな! っていうか、触れただけで存在は消えねえよ!」

 とまあ、斯く言うことで。
 非常に捻じ曲がったような感情から、豊岸千恵子はここまでやってきたのである。

 そしてこれから始まるのは、そんな彼女の物語。

 ごく普通で。
 本が大好きで。
 水魔法が得意で。
 人、特に男が嫌いで。
 失踪してしまった実の兄を忘れられない。

 ――そんな少女を中心に動く物語。

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