魔法世界の例外術者《フェイク・マジック》 - 魔力とは無力である -

風見鳩

夏休みといえば:夏祭りと花火大会6

 どうやらこの夏祭りには花火大会的なものがないらしく、「それなら自分たちでやってしまおう」とのことで俺たちは近くにある小さな公園に移動して、三縁と叶子が買ってきたスーパーの花火で花火大会をすることになった。
 まあ『大』と付ける程、特に大きくない会だから別に『花火会』でもいいのだが、そこは気分的に『花火大会』の方がいいってわけで。

「あっはははは! ロケット花火ぃーっ!」

 三縁が花火を片手で持ちながら、危なしげに火花を振り回している。

「こら、三縁! 危ないでしょうがっ!」

 と、飛んでくる火花を恐がる様子もなく、三縁に叱る京香。……怪我人が出ないように気をつけて欲しいものだ。
 俺はまだ火をつけてない花火を片手に別の方角へ足を向けると、一人ぽつんと花火をしている優梨の姿が見える。
 優梨が一人でいるだなんて珍しい、と思いながら俺はそのまま優梨の方へと逃げ込んだ。

「よう、どうしたんだ?」

 と片手をあげて声をかけると、優梨は体をビクリとさせ、恐る恐るといった感じでこっちの方を向く。

「……なんだ、ケンジくんか」

 俺の姿を確認すると、安堵したかのように青く光る左目を閉じる。ああ、今は悠恵なのか。

「他の人じゃなくて良かった……」
「なんだ悠恵。やりたいならみんなとやればいいじゃねえか」
「やれるわけないでしょうが」

 と、悠恵は少し不安げに向こう側をチラリと見る。

「私の事情を知っているのは、現状この場所では貴方だけなのよ? そんな状況下でみんなで一緒に、とか出来るわけないじゃない」

 ……まあ、確かにわからなくもないが。
 もし仮に事情を話したとしても、よくわからなくて首を捻るのが普通だろう。俺はたまたま悠恵だった時の優梨に違和感を覚えたわけなのだから、まだ理解が出来たわけだし。なので、悠恵の言いたい事はわかる。
 だけど。

「別に大丈夫だろ」
「いや、大丈夫って……」
「だって、全部理解しなくちゃいけないわけじゃないんだろ? ならいいじゃねえか」

 俺だって理解しているとはいえ、実はそこまで理解はしてない。わかっているのは、優梨の意識の中に死んだ姉がいるってことだけなのだ。
 だが、それだけで十分だった。

「それにお前、花火がやりたいから優梨と替わってもらったんだろ?」
「それはそうだけど……」
「だったら大勢でやった方が楽しいぞ。だから、向こうに行こうぜ」

 悠恵の一人でいたいという気持ちはわかる。入学したばかりの俺もそういう風にしていたのだから。
 一人の方が気楽だし、一人の方が悩まずに済むし、一人の方が自由だ。

「誰にだって触れられたくない部分があって、他人と関わった瞬間にそれが壊れてしまいそうな脆い部分を持っている。それを保守する簡単な答えは『誰とも関わらないこと』だ。だから、俺も一人の方がいいと思っていた」

 だけど――それが絶対の答えではない。
 魔力がないことを引け目に感じていた俺に、周りの連中は「別に気にすることじゃない」という風に接してくれた。
 この夏休みまでに俺が学んだことだ。

「他人とは少し違う俺でも、人と関わるのも悪くないと教えてもらった。それを俺に教えてくれた奴らの中に」

 悠恵――お前の優梨いもうとも入っているんだぜ?

「こういう時、優梨なら話すと思う。あいつは……いや、俺らはお互いを信頼しあってるんだから」
「……私は優梨に持ってるものは持ってないのよ。だから……」
「いいから。ほら、行くぞ」

 俺は地面へとうつむく悠恵の手を取ると、みんながいる方へと強引に引っ張っていく。

「ちょっ! 待ちなさいってば!」
「誰が待つか。今じゃねえといけないんだよ」

 抵抗する悠恵を無視してどんどんと歩いて行く。

「ん、優梨ちゃん?」

 と、近くにいたみさとがまず気がつき、それにつられるかのように全員俺たちの方を向く。

「え、えっと……」

 悠恵はどうしていいのかわからず、キョロキョロと視線を泳がせる。
 まあ、ここまで無理やり連れてきたのは俺なのだから、説明の方は俺がするべきなのだろう。

「ちょっと聞いてくれ。突拍子もない話だが、真面目な話だ。実は――」
「……待って。話さなくていいわ、ケンジくん」

 と、説明しようと口を開いた俺を手で制す悠恵。

「ちゃんと、自分で話せるから」

 悠恵はそう言ってぎこちなくではあるが、それでもしっかりと自分のことを話していった。



「ああ、そういう事ね。やっと合点がいったわ」

 と、京香は納得したような顔をして、みさともうんうんと頷く。そうか、二人も悠恵とは面識があったんだよな。

「なるほど、なるほど……」
「三縁はわかったか?」
「全然!」
「そんな満面な笑みで言われてもなあ……」
「でも、わかったこともあるよ!」

 と、三縁は満面な笑みのまま悠恵の手をぎゅっと掴む。

「よろしくね、悠恵っち!」
「よ、よろしく……」

 テンションが高い三縁に若干引き気味になる悠恵。だが、まあ嫌ではなさそうだ。

「なるほど、優梨さんにもお姉ちゃんがいたんですねっ。悠恵お姉ちゃんですねっ」
「ま、まあ、そうなるわね……」
「その法則でいくと、悠恵お姉ちゃんは叶子のお姉ちゃんとなるわけですねっ」
「いや、それは違うと思うんだけど……」
「一体、どういう法則でそうなるんだ……」

 まだ会って間もないのにこう言うのもなんだが、叶子ってどこか抜けてるよな……。
 だが豊岸というと、少し考え込むようにしている。

「優梨さんの意識の中にお姉さんの意識があることはわかったのだけど、まだよくわからないところがいくつかあるわね……」
「なんだ、よくわからないところって?」
「頭が悪い志野くんにはわからないところよ」
「誰が『頭が悪い』だ……」
「あっ、そうね、ごめんなさい。悪いのは頭じゃなくて志野くんよ」
「そういう意味じゃねえよ!?」
「だから『頭が悪い志野くん』じゃなくて『志野くんが悪い頭』が正解ね」
「それだと俺が頭の一部みたいじゃねえかよ!」

 細胞の一つか、俺は。

「それはさておき、私が気になるのは悠恵さん、あなたについての話よ」
「私に……ついて?」

 首を捻る悠恵に豊岸は頷く。

「今の話を聞いている限り、悠恵さんの話が少ない……というより、全くないわ」
「ない? いや、そんな事は――」
「あなたが言った話はどうも優梨さん視点が多い気がするのよ。まるで自分の話をしたくないみたいに」
「…………」
「もしかして、何か隠しているんじゃない?」

 視線を鋭くさせる豊岸に答えられない悠恵は視線を下へ向ける。

「千恵子」

 と、京香が豊岸の背中にそっと手を添え、黙って首を横に振る。
 どうやら、無理に訊かなくていいという意味らしく、その意図を察した豊岸はふう、と小さくため息をついた。

「……ごめんなさい。少し言い過ぎたわ」

 ペコリと頭を下げる豊岸。というか、豊岸が頭を下げるところなんて初めて見た……。

「この責任は京香さんに任せるわ……」
「いや、それ責任転嫁じゃない。すごく頼りにしているような雰囲気で言ってるけど完全に責任転嫁じゃない」
「だってだって、お母さん」
「駄々をこねる子供か、あんたは。そして誰がお母さんよ、私はそこまで歳をとってないわ」
「あっ……そうよね、京香さんもまだ子供よね。ごめんなさい」
「こらあっ! 胸を見ながら言うなあっ! しかも変に同情するなあっ! いっそ馬鹿にしてくれた方がいいっ!」
「ははっ、本当に胸がないな京香は」
「死ねえっ!」
「ごふっ!?」

 馬鹿にしてくれた方がいいと言うものなので実際に言ってみたら、返ってきたのは右ストレートの拳。一体、お前はどっちがいいんだよ……。

「まあ、とにかく花火がしたいなら一緒にやろ、悠恵っち!」
「え、ええ……」

 と、三縁は悠恵の手を取る。悠恵はあまり人と接したことがないせいか、頬を赤らめて三縁の先導のままについて行く。
 世話を焼くのが好きなのか、こういう時の三縁は頼もしいな。

「じゃあ、共同技! 回転花火ぃーっ!」
「ちょっ、ちょっ! 目がまわっ……! いやあああああああああああああっ!」
「こらぁ、三縁ぃっ!」

 楽しそうに火花を散らしながらクルクルと回転する三縁と目を回す悠恵、そしてそんな三縁に怒鳴る京香を見て俺はため息をつく。
 ……前言撤回。駄目だこりゃ。



 その後も花火大会は続き、俺が少し離れたベンチで色とりどりの火花を散らして遊ぶ友人たちの姿をボーッと眺めている時だった。

「やあ奇遇だねケンジくん。ここで何をしているんだい?」

 どこかで聞いたような声が耳に入り、振り返ってみると茶髪のチャラそうなおっさんがそこにいた。

「……ここで何をしてるんだ、お前は」
「おいおい、先にそれを聞いたのは僕じゃないか。まずは僕の質問に答えなくちゃ」

 と言いながら俺の隣に腰を下ろしたのは遊楽太一郎――学園長である。いつものスーツ姿だと思っていたが、今日は珍しく私服を着ていた。

「別に、見りゃわかるだろ」
「僕には火花を使って危なしげに遊んでいるようにしか見えないんだけど?」
「…………」

 本当は反論すべきところだったのだが、本当に危なっかしく遊んでいるので反論が出来なかった。

「普通に花火だよ、花火」
「へえ、花火か。暇じゃない僕はしばらくやってないなあ」
「暇じゃないなら、お前はどうしてここにいるんだ……」
「見てわからないかい? 見回りだよ、見回り。君たち生徒が夏休み――というより夏祭りで何か騒ぎを起こしてないかどうかの」
「見てわかるか、そんなもん」
「まあ、君たちをたまたま見かけたから、声をかけてみたというわけさ」

 学園長は長く息をすると、視線を上に向ける。

「いやあ、疲れるものだね見回りってやつも。いつ、どのタイミングで来るのかさっぱりわからない」
「……ん? その言い方、少しおかしくないか?」
「そうかい?」
「見回りの、話をしてるんだよな?」
「そうだよ、見回りの話をしてるんだよ」

 それにしては違う意味に聞こえるような言い回しだったような……。

「おっと、こんな所で無駄話してたら理事長に怒られてしまう。じゃあ僕はこれで失礼するよ。二学期でまた会おう」
「ああ、じゃあな」

 と、短く話を終え学園長はさっさと帰ってしまった。何だったんだ、一体……。

「あれ? 今の、学園長?」

 と、こっちにやってきた三縁が闇の中にある学園長の後ろ姿を目ざとく見つける。

「ん、なんか見回りやらなんやでここまで来たらしいぞ」
「ああ、なるほどね」

 三縁はくるくるとツインテールを弄りながら納得したような顔をする。

「ところで、どうしたんだ?」
「あっ、そうだった。はい、ケンジくん!」

 と、三縁は手に持っていた線香花火を俺に差し出す。

「これ、ケンジくんの分! 最後、一緒にやろ!」



 火をつけると、パチパチと音を立てながらオレンジ色の火花を散らす様子を俺はじっと見つめる。
 やっぱり、線香花火は最後にやるものだな。締めくくりにちょうどいい花火だ。

「楽しかったね、ケンジくん」
「ああ、そうだな」

 すぐ隣に座っている三縁がニッコリと笑い、俺はそれに頷く。

「まあ、私が騒ぎ立てたから京香っちとケンジくんは特に大変だっただろうけど」
「なんだ、自覚があるのかよ」
「まあね。あっ、やめろとかいう命令は聞けないよ? 何故なら、あれが私の本能なのだから!」
「そんな自信満々に言うな」

 ふふん、と鼻を鳴らす三縁に俺は苦笑する。

「またこうやって、みんなとワイワイやりたいね」
「……そうだな、こうやって来年の夏もみんなで浴衣を着て、一緒に花火をしたいな」
「またまたぁ。京香っちの浴衣姿を見たいんでしょう?」
「なっ! そ、そんなわけないだろ!」

 三縁の言葉に俺の線香花火がぐらりと揺れる。
 ……ごめんなさい、少し考えてました。

「それに三縁っちの浴衣姿も見たいんでしょう?」
「いや、それはないな」
「なんだと、このーっ!」
「ちょっ、こら、やめっ!」

 と、暴れていたせいなのか、俺の線香花火と三縁の線香花火がぶつかり合い、お互いにポツンと地に落ちた。

「「あっ」」

 と、俺と三縁も同時に声をあげて既に光が消えた花火を見る。
 三縁はすくっと立ち上がると、俺に手を差し出す。

「じゃあ、そろそろ片付けて帰ろっか」
「おう」

 俺はその手を握ると、立ち上がってワイワイとはしゃいでいる所へと向かっていった。

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