魔法世界の例外術者《フェイク・マジック》 - 魔力とは無力である -

風見鳩

夏休みといえば:夏祭りと花火大会3

「ケンジくん、ケンジくんっ! 次はあっちに行きましょう!」
「ケンジくーんっ! 早く、早くぅっ!」
「ちょっ、待ってくれっ。と、とりあえず、落ち着かないか……?」

 屋台に囲まれる道に入って五分。人が多いから離れないように行動しようと話しあったのに、優梨や三縁はそんな事にお構いなくヒョイヒョイと移動していく。
 ……なんだろう、さっきの運転手の苦労がわかった気がするぞ。

「……ん? あれ、叶子ちゃんは?」

 と、みさとが辺りを見渡す。
 俺もキョロキョロと周りを見るが、叶子の姿がどこにも見当たらない。

「ああっ、もう! 次から次へと! お前らはここに残って優梨と三縁を止めといてくれっ! 俺は叶子を探してくるから!」
「ちょっ、ケンジ!」

 今にも駆け出しそうな京香を止め、俺は人ごみをかき分けていく。
 この場合、比較的背が高い俺が行った方がいいだろう。なんたって叶子はあの中で一番小さいのだから、その後みんなと合流するために苦労しないだろうから。
 京香が後ろから何事か叫んでいた気がしたが、よく聞こえないのでとにかく叶子を探す事に専念する。



「い、いたっ……!」

 溢れんばかりの人という人を細やかに探していき、俺はようやく屋台の下にいる赤髪のサイドポニーをしている小さな姿を見つけ出す。

「おい、かな――」

 俺が、叶子に声をかけようとした時。
 叶子は構えていた銃(もちろんモデルガンだろう)を飾ってある商品に狙いを定めている。
 俺は叶子のいる屋台にチラリと目を向けてみると『射的』と書いてあった。
 ポンッという軽い音が鳴り、商品が一つドサッと落ちる音がする。

「お嬢ちゃん、上手いねえ」
「えへへ、やったあ!」

 叶子は嬉しそうに屋台にいるおっさんから商品を受け取る。

「ん、しょっと……」

 かなり大きな柴犬のぬいぐるみで、叶子の姿をすっぽりと隠してしまうくらいである。視界が塞がれている状態で歩けるのかよ、お前は。
 ……仕方ないな。

「ほら、持ってやるから貸せよ」

 という俺の声に、叶子は顔を俺の方に向ける。

「あっ、ケンジさん――いえ、お義兄ちゃん」
「言い換えなくていい。あと、その呼び方はやめろって言ってるだろうが」
「もしかして、照れてるんですか?」
「呆れてるんだよ」

 俺は叶子からぬいぐるみを受け取る。確かに大きいが、これなら片手で持てそうだ。
 俺が歩き出すと、叶子も続く。

「お前、射的が得意なのか?」

 ふと射的をしている叶子の姿を思い出して、そんな質問をしてみると叶子はえへへと照れたように笑う。

「まあ、叶子の唯一の特技というか、好きというか……」
「すごいな。俺は射的が苦手なんだよなあ」

 つい口走ってしまったが、本当に射的が苦手なのか俺自身もわからない。だが、そんな気がしたので反射的にそう答えたのだろう。
 そんな気がした――そんな『記憶が片隅にあった』気がした。

「まあそれは置いといて、勝手に行動するのは良くないからな」
「あっ、ごめんなさい……一度言おうとしたんですが、みんなはどんどんと進んでっちゃって……」
「…………それは、悪かった」

 それは優梨と三縁のせいなのだが、まあそんなことを言う必要はないだろうと俺は謝る。と、叶子がブンブンと首を振る。

「ケンジお義兄ちゃんは悪くありません、それでも叶子はみんなに言うべきだったので」
「そうか。その反省する気持ちに言うことは何もないが、俺を『お義兄ちゃん』と呼ぶのに言うことは山ほどある」
「じゃあ……お義兄さま?」
「さまを付けろって意味じゃない」
義兄にいにっ」
「可愛らしく言っても駄目だ」
義兄あに上!」
「それで『あにうえ』と読むのには結構無理があるな……」
「むー、あれも駄目、これも駄目……なら何がいいんですか?」
「そもそも俺は義兄じゃないんだよ」

 閑話休題。俺は空いてる手で叶子に手を伸ばす。

「とにかく、早く行くぞ」
「えっ」

 早く合流しなければ。優梨たちが問題を起こさないか心配である。
 そんな事を考えながら、叶子の手を握った瞬間だった。

「――ッ!」

 急に叶子の顔が強張り、手を振り払うと――どこに隠し持っていたのか手に銃を取り出して、気がついたときには銃口を俺の背中に押し当てていた。

「か、叶子?」
「あっ……ご、ごめんなさいっ! わ、私っ……そのっ……!」

 叶子ははっとしてもの凄い勢いで頭を下げる。

「あのっ……えっと……!」
「……別に大丈夫だ。無理に説明しなくてもいい」

 今にも泣きそうな叶子に俺は出来るだけ優しく言う。
 何故ならばその反応の仕方に心当たりがあるからだ。
 トラウマ。
 頭では分かっていても、身体が勝手に反応してしまうこと。
 俺が炎がトラウマであるように。
 叶子は他の何かがトラウマなのだろう。

「まあ、はぐれると困ると思ったんだが……何とかなるか」
「あっ、それならっ!」

 と、叶子は慌てて俺の腕に絡みつく。

「こ、これなら……まだ、大丈夫です」
「……そうか」

 俺は歩き出す叶子の歩幅に合わせて足を進める。

「そういえば、さっきの銃。あれって魔法道具か?」
「……はい」

 今は何処にしまってあるのかわからないが、俺はチラリと見えた銃を思いだす。

「へえ、そうなのか。武器系の形をしているのは他にみさとやリンしかいないな」
「……リン?」
「ああ、俺の知り合いだ」

 みさとは刀、リンはグローブ。……正直、リンのは果たして武器なのかどうかと聞かれると答えにくいが、一応武器っぽいので武器と言ってもいいだろう。
 他の人と言ったら優梨はペン、三縁はチップ、豊岸は本、シュウはカードで、どっちかというと筆記用具って感じがするしな。

「……ん、ちょっと気になったんだが」
「はい?」
「京香って昔から魔法陣を書かずに発動できたのか?」

 俺の質問に叶子は少し何か考えた後、頷く。

「……はい、叶子とお姉ちゃんが知り合った時、既にお姉ちゃんは魔法が使えてました。頭に思い浮かべただけで」
「そうか……」

 小さい頃から――京香はそういう特異な体質なのか。
 魔法陣を必要としない少女。
 ……ますますわからないな、あいつは。

「そのことはお姉ちゃん自身もよくわかってないらしくて……」
「まあ不思議ではあるがな」
「あの、ケンジさん……」
「ん?」

 と、叶子がそんな俺におずおずとした感じで口を動かす。

「京香お姉ちゃん、そういう自分が他の人と違うことを探られるのが嫌いで……。多分普段はいつも通りを振舞っているかと思いますが」
「……ああ、わかった」

 『わかった』と俺は言ってはみたが、心の中では納得できなかった。
 本当に知りたくはないのだろうか。
 自分は何故、他人とは違うものを持っているのだろうか。
 京香は――本当に知りたくはないのだろうか。


 * * *


 俺と叶子が歩いてくる姿を京香は見つけ、駆けつけてくる。

「叶子! 一人で勝手に行動しないでって言ったでしょ!」
「ご、ごめんなさいっ」

 しかりつける京香に叶子は少し俺の背中に隠れる。

「まったく、本当に心配したんだから!」
「ま、まあまあ京香。みさとに言われるまで気がつかなかった俺たちにも問題があるんだし……」

 と、俺が京香をなだめようとすると、京香はジロリと俺を睨む。

「あんたにも言ってるのよ、ケンジ! 叶子と入れ違いになったら今度はケンジがはぐれちゃうじゃない!」
「いや、それは……」
「しかも見つかったら見つかったで連絡しないし! 私たちがどんなに心配したと思っているの!」
「は、はい……」

 京香の最もな指摘に俺も縮こまる。
 俺には連絡手段をもう持っていることをすっかり忘れていた……というか、そもそも叶子本人に連絡すれば一発で解決したのだ。
 考えなしに動いたのは俺の方だったのか。

「ご、ごめんなさい……」

 気がつくと俺は京香に向かって頭を下げていた。
 その光景に何か引っかかるものを感じる。

「そうですよ、ケンジくん。勝手に行動したらいけませんよ?」
「『みんなで行動しよう』って約束したのに。もう、ケンジくんったら」
「あんたたちは言える立場じゃないでしょうがっ!」

 真っ先に自由行動を取った優梨と三縁に京香は怒鳴る。
 うん、それは俺も同感……なのだが、また何か引っかかるものを感じる。
 なんだろう、別に京香の言い方は何かに似ているような似てないような……。

「まったく、あんたたちは……」

 と、クドクドと説教する京香を優梨はじーっと見て一言。

「京香ちゃん、なんかお母さんみたいです」
「なっ!?」
「おー、確かに」

 京香は赤面し、三縁が納得したようにポンと手を打つ。

「お姉ちゃんは昔からお母さんみたいだもんね」
「叶子まで! お母さん言うなっ!」

 うんうんと首を縦に振る叶子。
 なるほど、さっきからの引っかかりはそれか。京香はどこか母親に似ているのだ。

「みんなして人が老けているような言い方をしないでよ、もうっ……」

 と、京香は不機嫌そうにぷいっとそっぽを向いてしまう。

「で、さっきから抱えているそれは何?」
「ああ、これか?」

 俺が抱えているぬいぐるみをチラチラと見る京香。なんだ、これがそんなに気になるのだろうか?
 と、叶子がぬいぐるみを自分に渡すように手をちょいちょいと動かす。俺は叶子にぬいぐるみを渡すと、叶子はそれを京香に差し出す。

「はいっ、これあげる!」
「えっ?」
「お姉ちゃん、犬が好きでしょ?」

 ニコリとする叶子に京香は目を丸くする。

「叶子、射的は得意だからお姉ちゃんにプレゼントしようと思って……それで」

 ああ、なるほど。ただ射的がしたかったって理由だけで勝手に行動したわけじゃなかったのか、この子は。
 京香は叶子が言っていることを理解したのか、ゆっくりとぬいぐるみを受け取る。

「……例えそれが理由でも一人で行動するのは許されないわよ」
「うん……」
「でも、まあ……あ、ありがとね、叶子」
「……うんっ!」

 顔を赤らめそれを隠すように顔を埋める京香を見ると、叶子は嬉しそうな顔をする。喜んでもらえたことが嬉しいらしい。

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