魔法世界の例外術者《フェイク・マジック》 - 魔力とは無力である -

風見鳩

夏休みといえば:図書館で勉強会3

 そんなこんなで、俺たちは日が暮れるまで図書館で勉強した後に俺と三縁は家への帰路を歩いていた。
 まあ勉強会というか最後の方はただの雑談しかしていなかった。今度はみんなでプールに行こうだのなんだのと話していたのは覚えている。
 お前ら本来の目的忘れているだろ、と思いつつも、勉強に飽きたから図書館の本を読んでいた俺が言えることじゃないので、決して口には出さなかったが。

「いやあ、今日は楽しかったね!」

 三縁は満足げの様子だ。まあ、それはいいんだが……。

「そうだな。……ところで三縁、読書感想文の本は借りたのか?」
「え? ……ああああっ!」
「やっぱり……」

 予想通り、話すのに夢中で忘れてたのか。俺は発狂している三縁を冷ややかな視線を送る。

「っていうか、知ってたんだったらちゃんと教えてよケンジくん!」
「いや、ちゃんと言ったからな? そしたら軽く流してたじゃねえか、お前」

 それなら、ただの自業自得だろう。
 三縁はむぅと不満げに頬を膨らませていたが、まあいいかという風に再びニコニコと笑う。

「まあ、また今度行けばいいか。……ところでさ、ケンジくん」
「ん?」
「あの図書館にいる時、魔法についてのことについて調べたんだけどさ」
「ああ、そういえば本を読んでいたよな」

 どこから持ってきたのか、分厚い辞書みたいな本を持ってきてパラパラと暇そうにめくってたっけ。……あれを借りればよかったのに。まあ小説が対象だから、意味ないけど。

「うん。それでね、ケンジくんって魔法道具持ってるじゃん? えーっと、何だっけあれ。マ、マジ何とか」
「マジックデバイスな」
「そう、それそれ。そのマジックデバイスって魔力がないケンジくんでも使えるでしょ?」
「まあな」

 学園長曰く現代の技術を遥かに超えた機械だとか言ってたっけ。

「それが本当だとすると、それってかなり凄いことなんだよね」
「え? そうなのか?」
「そうだよ、だって固定じゃなくて、自由に魔法が使えるんでしょ? それって、機械に人間の魔力タンクを搭載させているんだよ! どの世界の科学者たちがまだ出来てないし、まるで未来の機械だよね!」
「未来の機械、ねえ……」

 少し興奮気味に喋る三縁に、俺はだんだんと暗くなって星が見え始めてきた空を眺める。
 もし未来の機械だとしたら――何故、それを俺が持っているのだろうか。
 記憶がないときの俺が作ったとしても――何故、その技術を世間に公表しなかったのだろうか。
 それで――何故、それで俺の魔力が消えたのだろうか。

「……ケンジくん?」
「んっ……ああ、悪い。なんでもない」

 俺は大丈夫だという風に三縁に笑いかけ、「それで、なんだっけ?」と続ける。

「だから、そのマジックデバイスも結構興味深いんだけど、そのマジックデバイスと繋がっている魔導式コンピュータみたいなものにも興味あるんだ」
「ああ、あれか」

 マジックデバイス以上に使用用途がわからない、見た目が魔導式コンピュータのことか。
 ただ、普通の魔導式コンピュータとは違って持ち運ぶことが出来るサイズなので、やはり一般とは違うものなのだろうと思う。

「それって、荷物の中に入ってる? よかったら私に見せてほしいなって」
「あぁ、いいぞ」

 別に減るものではないので、俺は頷くと三縁の表情がパアッと明るくなる。

「それなら早く帰ろ! よし、家まで競争だ!」
「まだそんなに元気があるのか、お前は……」

 俺なんかもう疲れ切っているのに……。

「ほら、夕日に向かって走れぇ!」
「こっちは東だけどな……」
「何を言ってるの、ケンジくん! 西から昇ったお日様は東に沈むんだよ! テレビで言ってたんだし、間違いないよ!」
「間違った知識が植えつけられている!」

 本当、どうして京香や三縁は上位クラスなのだろうか、と時々疑問に感じることがある。


 * * *


「へえ、これが例の物! なるほど、魔導式コンピュータにそっくりだね!」

 帰宅後、俺が自分の荷物の中からそれを取り出すと、三縁は目を輝かせる。

「でも持ち運び可能っていうのがすごいねこれ! 中身はどうなっているんだろうなあ……っと、分解するつもりはないよ、うん」

 三縁は少し興奮気味で、電源ボタンを入れて立ち上げる。

「へえ! ……。…………。……ねえケンジくん。これどうやって使えばいいの?」

 最初は画面が切り替わるごとに目を輝かせていた三縁だが、その表情はだんだんと曇っていくのが見て取れた。

「ええとだな、ここにあるタッチパッドを使って……」
「おお、すごい! ポインタが動いた!」
「まあ、そこら辺はまだよくわからないから置いといて、このコードでマジックデバイスと接続して……」
「おお、すごい! なんか接続された!」
「このくらいしかまだよくわからないけど……」
「すごいねケンジくん! 何が、って言われるとよくわからないけど……こう、すごい!」
「…………」

 そんなにすごいことなのかなぁ……? と思うくらい、すごいすごいと連発する三縁である。

「ねっ、ねっ! ちょっと弄ってもいいっ?」
「まあ、別に構わないが……」

 まるで新しい玩具を見つけたようなはしゃぎようの三縁に、俺は苦笑しつつも頷く。
 三縁はへぇやら、ほぉやら、と楽しそうに弄っていて、俺にはそれの何が面白いのかよくわからないので、しばらく借りてきた本で読書することにした。


 それから三十分程度経った頃。

「ん? これって……マジックデバイス?」

 という三縁の一言に、読書に集中していた俺は顔を上げた?

「え? マジックデバイスがなんだって?」
「いや、なんか色々弄っていたら、マジックデバイスのデータ的なものが出てきたから……」
「データ的なもの?」

 少し気になったので、俺は三縁の傍に寄って、画面を覗き込む。
 と、そこには確かにマジックデバイス的なアイコンと『Magic』というフォルダが表示されていた。
 フォルダを開いてみると何やら色々出てきた中、『Device』という名前のアプリケーションファイルに目を引く。
 これはもしかするとマジックデバイスに関係があるのかもしれない。思わずクリックしてみると、果たしてアプリは起動された。

 画面には『デバイスの接続を確認しています...』と表示されて、やがて『デバイスの接続が確認されました』という表示に変わる。

「わあっ……!」
「これって……!」

 そのあとに展開されたものに三縁は感嘆な声を、俺は驚愕の声を上げる。
 そこには、マジックデバイスについて、何やら色々なものが表示されていた。

「え、ええと、これはどうすればいいんだ……?」
「ちょっと貸して!」

 チンプンカンプンで困惑気味な俺に三縁はずいっと身を乗り出して、色々とポインタを忙しく動かしていく。

「へえ、なるほどなるほど……」
「何かわかったのか?」

 俺が問うと、三縁はコクリと頷く。

「うん、多分だけどこれってマジックデバイスを色々弄れるんだと思うよ」
「弄れる、っていうと……?」
「例えばね……」

 と、三縁がキーボードを叩いていく。

「うーんと、これでセットして、と……。ケンジくん、マジックデバイスの電源を入れてくれる?」
「? 別に構わないが……」

 俺はマジックデバイスの電源を入れると、三縁は部屋の隅まで離れていく。……? 何をするつもりだろう?

「少し離れててね、危ないから!」
「は? うおっ――!?」

 三縁の言っている意味が分からなく疑問に感じていた俺だったが、突然飛んできた火球に慌てて横へ転がる。

「あ、あぶねえじゃねえか!」
「だから言ったじゃん。えーっと、威力は弱くしたけど、これで検知されたかな?」

 三縁は俺の文句をさらりと受け流して画面を見つめる。なんかそういうところ、京香に似てるなこいつ……。
 と、予想通りなのか、三縁は満足げに頷く。

「うん、やっぱりそうだ」
「何がだ?」

 俺も画面をのぞき込むと、そこには一つの魔法陣が表示されていた。

「これが今、マジックデバイスで使える魔法……つまり、今私が使った火球の魔法だよ」
「ふうん……それで、どうするんだ?」
「これをね、こうすると……」

 三縁が『分解』と書いてある箇所をクリックすると、

「こういう風に火魔法、球体魔法、エネルギー魔法に分かれるんだよ」
「へえ……」

 俺は三つに分離した魔法陣と三縁の説明を聞いて、思わず感嘆な声を漏らす。
 要するに――マジックデバイス内にある魔法を分解できるっていうのか。

「で、もう一つ機能があって……。ケンジくん、ちょっと離れててね」
「お、おう」

 俺は慌てて後ろへ下がると、今度は近くに氷柱≪ひょうちゅう≫の魔法が発動される。

「これで、よしと」

 三縁がまたアプリを弄っていくと、今度は今の氷魔法を分解していた。

「で、この魔法陣をこっちの魔法陣を組み合わせて、と……」

 と、何度か弄っていき、『インストール中...』と画面に表示される。

「これで、どうなるんだ?」
「まあまあ、見ればわかるよ」

 しばらくして『インストール完了』と表示されたと同時に、三縁がデバイスをコードから取り外す。

「はいっ! じゃあ威力を弱めにして、そこの魔法を使ってみて!」
「ええと……」

 威力は弱めに設定で、発動っと……。
 と、俺が発動を押した途端――。
 ゴウッ! という音を立てて、小さく火柱が出現した。

「ね、わかったでしょ?」
「いや、これだけじゃ意味わからねえよ。今のって、普通の火魔法じゃ――あれ?」

 読み取ったのは確か火球であって、火柱じゃないはず……だよな?
 じゃあ、なんで今――。
 三縁はふふんと少し自慢げに胸を張る。

「今のはね、火球魔法の火魔法と氷柱魔法の柱を形成させる魔法を合成させた魔法なんだよ」
「ご、合成?」
「そう、つまりこれは魔法陣を『解析』、『分解』してそれらを組み合わせた『合成』ができる機能なのだ!」
「――!」

 その言葉に――俺は息を呑む。

「まあ、まだ使える機能はたくさんあると思うけどね。それはもう少しこれ……名称が欲しいな……えーと、そうだ、この『マジックコンピュータ』を調べてみればわかると思うよ」

 『マジックコンピュータ』というのは三縁が今命名した、この例のもののことだろう。
 今のが本当だとすれば、このマジックコンピュータは今後、大いに役立つ可能性があるかもしれない。
 しかし……俺は改めて秋原三縁という人物を見直す。
 やはりA組なだけあって、頭の回転が速い。
 そういう才能もあって、三縁は三縁なんだな……。

「……とりあえず今日はやめよっか。もう時間も時間だし」

 ふと、壁にかかっている時計を見てみると、時刻は既に午後8時を過ぎていた。

「よし、少し遅くなっちゃったけど夕飯にしよ!」
「そうだな」

 三縁の言葉に俺は返事をして、腰を上げ、二つの機械を残してリビングへと向かっていった。

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