魔法世界の例外術者《フェイク・マジック》 - 魔力とは無力である -
夏休みといえば:図書館で勉強会2
「……小学三年生ぐらいの時かな。ある男の子と出会ったんだ」
「ある男の子?」
「うん。少なくともその子は私の小学校に在学していた子じゃない、っていうのはわかってる」
「在学していた子じゃない、ねえ……」
だから――曖昧なのか。
「私はいつも通りに家への帰り道を歩いているといつも川辺にその子はいたんだ」
必ずいたんだ――みさとは続けていく。
「見た感じは同い年だし、何より小学生の頃だったから……私はその男の子に話しかけたの、『ここで何をしているの?』って」
今だと警戒して話しかけようだなんて思わないけど、とみさとは苦笑する。
「そしたらその男の子、『通り過ぎる人たちを観察してる』なんて答えて……今思い返すとその歳で人間観察かよってツッコミを入れたくなるね」
「それは同感だな」
性格暗いだろうな、そいつ。子供ならもっと子供らしく元気に遊んでいろよ。
「毎日夕方になると必ずそこに座っていて、ボーッと川の向こう側を観ている……そんな男の子だった」
「なんだそりゃ。そいつ小学校は行ってなかったのか?」
「うん、ランドセルも持ってなかったし……同じ服装だったし」
「同じ服装だった?」
と俺が反応すると、みさとは頷く。
「うん、確か全部真っ白の服装だったなあ。夏の日も長袖長ズボンだったから暑くないのかなって」
「ふうん……」
「あ、話が逸れちゃったね。あとその男の子は読書が好きみたいで色んな面白い本を教えてくれて、本を読むのが好きになったんだ」
「毎日、学校の帰宅途中でその男の子と話していたのか?」
「うん、だから私たちは次第に仲良くなっていった。……でも」
でも、とみさとは悲しそうな表情を浮かべる。
「一年経った時、あの子はぱったりと来なくなったの。私に何も言わず、まるで元からそこにいなかったように……ね」
「…………」
「で、今に至るんだけど……ケンジくんの顔立ちとかがあの子にそっくりだなあって思って」
「……ほほう」
うんうんと頷きながら考えているかのように腕を組んでいた三縁がカッと目を見開く。
「それは間違いなくケンジくんだね!」
「お前、最後の部分で決めただろ……」
「そんなことないよ! 読書が好きだってところが決定打だよ!」
「この世にどのくらいの人が読書好きだと思っているんだ」
何か考えているようで、何も考えていなかった。
「いや、絶対ケンジくんだって! ねえ、みさとっち?」
「うーん……でも、外見で大きな違いがあるんだよね」
「大きな違い?」
うん、とみさとは頷いて俺を指差す。
正確には――俺の髪を。
髪?
「あの男の子の髪は『藍色』だった。あと目も、かな。すごく綺麗な色だったから相当魔力が高い人なんだろうなあって思って……」
「――っ!」
みさとにとっては何気ない言葉であったが――俺にとっては重大な事実だった。
もし仮に、みさとの言っている『男の子』が俺の事だとする。
そうなると、『過去の自分には魔力があった』という事実が発覚するのだ。
つまり……過去の志野ケンジには魔力があった、ということなのか?
「まあそれはわかったんだけど……みさとっちが図書館に来る理由とどう繋がるの?」
「……理事長が教えてくれたんだ」
「理事長が!?」
俺は思わず声をあげて、椅子を倒しながら立ち上がってしまう。その為、三縁とみさとはビクリと体を震わせた。
「あ、ああ、悪い……」
我に帰った俺ははっとして椅子を起こして席に座る。
だが、みさとの言ったことが未だ耳に残っていた。
理事長が――みさとをここに連れてきた?
何の為に?
俺の過去の一部を――俺に教える為?
でも――何が目的なんだ、あの理事長は?
まるで彼女の手のひらで踊らされているかのような――。
と。
「っ!?」
突然俺の頭に衝撃が走り、パアンという音が響いた。
わけもわからずに頭を叩かれ、俺が頭を抑えていると上から呆れたような声が聞こえてくる。
「まったく、図書館では静かにするっていうルールを守りなさいよ」
「えっ……京香……?」
上を見上げるとそこには赤髪の少女が立っていた。
そして、その隣には優梨もいる。
いきなり現れた友人二人に混乱する俺に三縁が説明してくれる。
「さっき、二人も呼んでおいたの。よかったら一緒に図書館で勉強しようって」
そう言っている三縁の手にあるのは参考書ではなく、お金が。
「さあ折角カフェにいるんだし、何か頼もっか!」
……最初から勉強する気なんてないだろ、お前。
* * *
「みさとは苦手な科目とかあるの? よかったらそこを勉強しましょうか」
「うーん……数学とか、かなあ」
「確かに数学難しいですよね、みさとちゃん!」
「……あの、二人も私をそう呼ぶの?」
「何言っているのよ、友人を渾名で呼ぶのに理由はないでしょう?」
「みさとちゃんはみさとちゃんですよ?」
「……はあ」
吉岡実里――もといみさとは、諦めのため息をつく。
俺と三縁がみさとと呼んでいることに疑問を感じていた京香と優梨の為に、今さっき決めた渾名だと言うことを告げると二人は目を輝かせて「私も呼ぶ!」とばかりに乗ってきた、というわけだ。要約すると、『みさと』という渾名が定着したというわけである。
「じゃあ数学を勉強しましょうか。そうね……ケンジ、あんた数学出来るのよね?」
「まあ、それなりにわかるが」
「三縁は?」
「んー? ケンジくんくらいの成績だったはず」
「そう。ならケンジは優梨の方を見てあげて。私と三縁はみさとの方を教えるわ」
と京香が言うと、優梨は目を丸くする。
「え? 私も勉強するんですか?」
「当たり前じゃない。優梨、あんたは何でここに呼ばれたのか覚えてないの……?」
「もちろん遊ぶためですよ?」
「もちろん遊ぶためだよ?」
「違うわ、勉強するためよ! っていうか、呼んだ本人の三縁も何で忘れてんのよ!?」
「えっ、いやあ何を言ってるの京香っち。『勉強会』っていうのは『一緒に遊ぼう』の隠語だよ? 常識だよ?」
「初めて聞いたわよ、そんな専門用語!」
「……とりあえず俺は優梨に数学を教えればいいんだな?」
京香と三縁のアホな会話を横目に、俺は優梨の隣へと移動する。
バッグからあらかじめ持ってきておいたルーズリーフとシャーペンを取り出すと、テーブルの上に置く。
「とりあえず、何がわからないんだ?」
「全部です!」
「そんな自信満々の顔で言われてもな……」
というか数学が悲惨なことになっていて、よくクラス一位だな……と、何故かふふんと胸を張っている優梨を呆れた目で見る。
「えーっと、そうだな……問題集があればいいんだが……」
多分、今の様子からだと優梨は問題集なんて持ってきてないだろう。俺は適当に思い浮かんだ公式をルーズリーフに書いていく。
「じゃあ簡単な問題から……エックスの2乗足す2エックス足す4イコール0。エックスの解を求めよ」
紙に『x2+2x+4=0』という式を書くと、優梨は眉間に皺を寄せる。
「うーん……わかりません……」
「これでもわからないか……ええとだな、これはだな……」
「何故、エックスの解を求めないといけないのでしょうか……?」
「そこかよ!」
俺が出した問題と違う、別の問題に悩んでいる!
「あのな優梨、そういうことはどうでもいいから……」
「どうでもよくありません! ケンジくんはエックスさんの気持ちをもっと考えるべきです!」
「お、おう」
普段聞かない優梨の真剣に怒っている声に、思わず背筋がピンッと伸びる。
「何故、エックスさんは解を求めてほしいのでしょうか……もしかしてそれが本当のエックスさんを知ることが出来るのでしょうか……?」
「…………」
エックスというただの文字について、こんなに真剣に悩むような子は優梨以外そんなにいないだろう。
「でも、本当の自分を知ることが果たして本当に幸せなのでしょうか……。知りたくないのなら、知らない方がエックスさんにとってはいいことなのでは……」
「……優梨?」
「そもそも、それなら私はエックスさんの本当の姿を教えてあげないといけないんでしょうか……? 大体自分のことを知りたいなら、自分から考えているのではないのでしょうか……? それならむしろ解かない方が」
「あのう、優梨ぃ? ええとだな……エックスさんは自分一人じゃ考えることができないから優梨が教えてあげないといけないんじゃないか?」
俺は優梨を説得させるために適当なことを言ってみると、優梨はハッと何かに気が付いたかように目を見開く。
「なるほど……そうだったんですね! 自分では気が付けない、だからこそ私が教えてあげないといけないんですね! 答えはエックスイコールマイナス2です!」
「即答か……もうわかってたんじゃねえかよ」
それならどうでもいいことを考えてるんじゃねえ。
問題が解けて嬉しそうな優梨を見ながらふと、『x=-2』と書かれた解を見る。
「……でも、本当にそれでいいのかな?」
「え?」
「本人一人じゃ考えることが出来ない、ってことは『問題とされていること自体を問題としてない』からだろ? そんな人に本当のことを教えるのは残酷なことなんじゃないか?」
まるでその人の今までを否定するみたいで。
そんな独り言をつぶやくが、不思議そうに俺を見ている優梨に気がついて我に返る。
「あっ、いや、ただの独り言だ。気にしなくていいぞ」
「……それでも私はそれでいいと思います」
「え?」
笑顔を作って誤魔化す俺だが、優梨は真剣な表情で俺を見る。
「それがどんなに残酷なことでも……私は本当のことを教えます。いえ教えないといけないんです」
「優梨……」
「だってそれが――エックスさんの為ですから」
そう言って優梨はふっと微笑む。
その笑顔は俺には少し眩しい、全てを包み込むような優しい笑顔だった。
……って言ってもこれ、ただの数学の二次方程式の話なんだけどな。
「ほら、優梨もケンジもふざけてないでちゃんと勉強しなさい、勉強」
と、向かい側でみさとに寄り添って数学を教えている京香が持っている赤ペンで俺達のことを指す。
俺としては全く遊んでいるわけじゃないんだが……まあそういうのであればそろそろ真面目に勉強するとしよう。
俺はペンを握りなおすと、次の式を書いていく。
「じゃあ次の問題だ。マイナス2エックスの2乗引く6エックス足す16イコール0。エックスの解を求めよ」
「今度はエックスさんが二人に!?」
「いい加減にしろ」
「ある男の子?」
「うん。少なくともその子は私の小学校に在学していた子じゃない、っていうのはわかってる」
「在学していた子じゃない、ねえ……」
だから――曖昧なのか。
「私はいつも通りに家への帰り道を歩いているといつも川辺にその子はいたんだ」
必ずいたんだ――みさとは続けていく。
「見た感じは同い年だし、何より小学生の頃だったから……私はその男の子に話しかけたの、『ここで何をしているの?』って」
今だと警戒して話しかけようだなんて思わないけど、とみさとは苦笑する。
「そしたらその男の子、『通り過ぎる人たちを観察してる』なんて答えて……今思い返すとその歳で人間観察かよってツッコミを入れたくなるね」
「それは同感だな」
性格暗いだろうな、そいつ。子供ならもっと子供らしく元気に遊んでいろよ。
「毎日夕方になると必ずそこに座っていて、ボーッと川の向こう側を観ている……そんな男の子だった」
「なんだそりゃ。そいつ小学校は行ってなかったのか?」
「うん、ランドセルも持ってなかったし……同じ服装だったし」
「同じ服装だった?」
と俺が反応すると、みさとは頷く。
「うん、確か全部真っ白の服装だったなあ。夏の日も長袖長ズボンだったから暑くないのかなって」
「ふうん……」
「あ、話が逸れちゃったね。あとその男の子は読書が好きみたいで色んな面白い本を教えてくれて、本を読むのが好きになったんだ」
「毎日、学校の帰宅途中でその男の子と話していたのか?」
「うん、だから私たちは次第に仲良くなっていった。……でも」
でも、とみさとは悲しそうな表情を浮かべる。
「一年経った時、あの子はぱったりと来なくなったの。私に何も言わず、まるで元からそこにいなかったように……ね」
「…………」
「で、今に至るんだけど……ケンジくんの顔立ちとかがあの子にそっくりだなあって思って」
「……ほほう」
うんうんと頷きながら考えているかのように腕を組んでいた三縁がカッと目を見開く。
「それは間違いなくケンジくんだね!」
「お前、最後の部分で決めただろ……」
「そんなことないよ! 読書が好きだってところが決定打だよ!」
「この世にどのくらいの人が読書好きだと思っているんだ」
何か考えているようで、何も考えていなかった。
「いや、絶対ケンジくんだって! ねえ、みさとっち?」
「うーん……でも、外見で大きな違いがあるんだよね」
「大きな違い?」
うん、とみさとは頷いて俺を指差す。
正確には――俺の髪を。
髪?
「あの男の子の髪は『藍色』だった。あと目も、かな。すごく綺麗な色だったから相当魔力が高い人なんだろうなあって思って……」
「――っ!」
みさとにとっては何気ない言葉であったが――俺にとっては重大な事実だった。
もし仮に、みさとの言っている『男の子』が俺の事だとする。
そうなると、『過去の自分には魔力があった』という事実が発覚するのだ。
つまり……過去の志野ケンジには魔力があった、ということなのか?
「まあそれはわかったんだけど……みさとっちが図書館に来る理由とどう繋がるの?」
「……理事長が教えてくれたんだ」
「理事長が!?」
俺は思わず声をあげて、椅子を倒しながら立ち上がってしまう。その為、三縁とみさとはビクリと体を震わせた。
「あ、ああ、悪い……」
我に帰った俺ははっとして椅子を起こして席に座る。
だが、みさとの言ったことが未だ耳に残っていた。
理事長が――みさとをここに連れてきた?
何の為に?
俺の過去の一部を――俺に教える為?
でも――何が目的なんだ、あの理事長は?
まるで彼女の手のひらで踊らされているかのような――。
と。
「っ!?」
突然俺の頭に衝撃が走り、パアンという音が響いた。
わけもわからずに頭を叩かれ、俺が頭を抑えていると上から呆れたような声が聞こえてくる。
「まったく、図書館では静かにするっていうルールを守りなさいよ」
「えっ……京香……?」
上を見上げるとそこには赤髪の少女が立っていた。
そして、その隣には優梨もいる。
いきなり現れた友人二人に混乱する俺に三縁が説明してくれる。
「さっき、二人も呼んでおいたの。よかったら一緒に図書館で勉強しようって」
そう言っている三縁の手にあるのは参考書ではなく、お金が。
「さあ折角カフェにいるんだし、何か頼もっか!」
……最初から勉強する気なんてないだろ、お前。
* * *
「みさとは苦手な科目とかあるの? よかったらそこを勉強しましょうか」
「うーん……数学とか、かなあ」
「確かに数学難しいですよね、みさとちゃん!」
「……あの、二人も私をそう呼ぶの?」
「何言っているのよ、友人を渾名で呼ぶのに理由はないでしょう?」
「みさとちゃんはみさとちゃんですよ?」
「……はあ」
吉岡実里――もといみさとは、諦めのため息をつく。
俺と三縁がみさとと呼んでいることに疑問を感じていた京香と優梨の為に、今さっき決めた渾名だと言うことを告げると二人は目を輝かせて「私も呼ぶ!」とばかりに乗ってきた、というわけだ。要約すると、『みさと』という渾名が定着したというわけである。
「じゃあ数学を勉強しましょうか。そうね……ケンジ、あんた数学出来るのよね?」
「まあ、それなりにわかるが」
「三縁は?」
「んー? ケンジくんくらいの成績だったはず」
「そう。ならケンジは優梨の方を見てあげて。私と三縁はみさとの方を教えるわ」
と京香が言うと、優梨は目を丸くする。
「え? 私も勉強するんですか?」
「当たり前じゃない。優梨、あんたは何でここに呼ばれたのか覚えてないの……?」
「もちろん遊ぶためですよ?」
「もちろん遊ぶためだよ?」
「違うわ、勉強するためよ! っていうか、呼んだ本人の三縁も何で忘れてんのよ!?」
「えっ、いやあ何を言ってるの京香っち。『勉強会』っていうのは『一緒に遊ぼう』の隠語だよ? 常識だよ?」
「初めて聞いたわよ、そんな専門用語!」
「……とりあえず俺は優梨に数学を教えればいいんだな?」
京香と三縁のアホな会話を横目に、俺は優梨の隣へと移動する。
バッグからあらかじめ持ってきておいたルーズリーフとシャーペンを取り出すと、テーブルの上に置く。
「とりあえず、何がわからないんだ?」
「全部です!」
「そんな自信満々の顔で言われてもな……」
というか数学が悲惨なことになっていて、よくクラス一位だな……と、何故かふふんと胸を張っている優梨を呆れた目で見る。
「えーっと、そうだな……問題集があればいいんだが……」
多分、今の様子からだと優梨は問題集なんて持ってきてないだろう。俺は適当に思い浮かんだ公式をルーズリーフに書いていく。
「じゃあ簡単な問題から……エックスの2乗足す2エックス足す4イコール0。エックスの解を求めよ」
紙に『x2+2x+4=0』という式を書くと、優梨は眉間に皺を寄せる。
「うーん……わかりません……」
「これでもわからないか……ええとだな、これはだな……」
「何故、エックスの解を求めないといけないのでしょうか……?」
「そこかよ!」
俺が出した問題と違う、別の問題に悩んでいる!
「あのな優梨、そういうことはどうでもいいから……」
「どうでもよくありません! ケンジくんはエックスさんの気持ちをもっと考えるべきです!」
「お、おう」
普段聞かない優梨の真剣に怒っている声に、思わず背筋がピンッと伸びる。
「何故、エックスさんは解を求めてほしいのでしょうか……もしかしてそれが本当のエックスさんを知ることが出来るのでしょうか……?」
「…………」
エックスというただの文字について、こんなに真剣に悩むような子は優梨以外そんなにいないだろう。
「でも、本当の自分を知ることが果たして本当に幸せなのでしょうか……。知りたくないのなら、知らない方がエックスさんにとってはいいことなのでは……」
「……優梨?」
「そもそも、それなら私はエックスさんの本当の姿を教えてあげないといけないんでしょうか……? 大体自分のことを知りたいなら、自分から考えているのではないのでしょうか……? それならむしろ解かない方が」
「あのう、優梨ぃ? ええとだな……エックスさんは自分一人じゃ考えることができないから優梨が教えてあげないといけないんじゃないか?」
俺は優梨を説得させるために適当なことを言ってみると、優梨はハッと何かに気が付いたかように目を見開く。
「なるほど……そうだったんですね! 自分では気が付けない、だからこそ私が教えてあげないといけないんですね! 答えはエックスイコールマイナス2です!」
「即答か……もうわかってたんじゃねえかよ」
それならどうでもいいことを考えてるんじゃねえ。
問題が解けて嬉しそうな優梨を見ながらふと、『x=-2』と書かれた解を見る。
「……でも、本当にそれでいいのかな?」
「え?」
「本人一人じゃ考えることが出来ない、ってことは『問題とされていること自体を問題としてない』からだろ? そんな人に本当のことを教えるのは残酷なことなんじゃないか?」
まるでその人の今までを否定するみたいで。
そんな独り言をつぶやくが、不思議そうに俺を見ている優梨に気がついて我に返る。
「あっ、いや、ただの独り言だ。気にしなくていいぞ」
「……それでも私はそれでいいと思います」
「え?」
笑顔を作って誤魔化す俺だが、優梨は真剣な表情で俺を見る。
「それがどんなに残酷なことでも……私は本当のことを教えます。いえ教えないといけないんです」
「優梨……」
「だってそれが――エックスさんの為ですから」
そう言って優梨はふっと微笑む。
その笑顔は俺には少し眩しい、全てを包み込むような優しい笑顔だった。
……って言ってもこれ、ただの数学の二次方程式の話なんだけどな。
「ほら、優梨もケンジもふざけてないでちゃんと勉強しなさい、勉強」
と、向かい側でみさとに寄り添って数学を教えている京香が持っている赤ペンで俺達のことを指す。
俺としては全く遊んでいるわけじゃないんだが……まあそういうのであればそろそろ真面目に勉強するとしよう。
俺はペンを握りなおすと、次の式を書いていく。
「じゃあ次の問題だ。マイナス2エックスの2乗引く6エックス足す16イコール0。エックスの解を求めよ」
「今度はエックスさんが二人に!?」
「いい加減にしろ」
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