魔法世界の例外術者《フェイク・マジック》 - 魔力とは無力である -

風見鳩

閉会の辞「黒服の男3」

 そう、『増援』――これが本当の目的だったのだ。
 俺は負傷していて、優梨は残りの魔力が残っていない。もし、万が一の場合に敵がまだ動けたらこっちの負けは確定する。

 だから――優梨を通じて、京香を呼んだのだ。
 そう、『テレパシー』で。

 まずは俺が敵を窓側まで引きつけ、敵の注意を優梨から逸らす。
 それは一秒でも二秒でもいい。
 その間に優梨がテレパシーを使って京香に連絡する。
 『助けてください、校舎にいます』ってな。
 そんな伝達、一秒あれば充分なくらいだ。
 テレパシーっていうのは人が起きていれば勝手に頭の中で再生されるようなものであり――寝てさえいなければすぐに気がつくそうだ。

 そして、居場所を教える為に、『わざと』大きな攻撃を窓際に撃ち出す。
 そう、空に向かって、だ。

 まあ、それを京香が気がつくがどうかは運だったが。
 どうやらその運に勝ったようだな。

「で? こいつが敵ってことね?」

 と、京香はガクガクと挙動不審な動きをしている機械人間を一瞥する。

「ああ、もう俺は動けないから……頼む」
「情けないわね……」

 仕方ないわね、と京香は言って改めて敵と向き合う。

「ならこいつは私が――」
「その必要は、今なくなったよ。――そう、私が来たことによってね」

 と。
 後ろから幼い声が聞こえ――タンッ。

 京香と敵の間に小さな女の子が入ってくる。
 緑髪の、体全体を黒いマントで覆った少女。
 そう、前にも会ったことがある。

「り、理事長……?」
「はあ……やれやれ。教室をこんな風にして問題にならないと思っているのかい、君は」
「……す、すみません」

 あっ。
 それを考えるのを忘れていた。
 そうだ、こんな事をして学校側から何も言われないわけがないのだ。
 すっかり忘れてた……。

「まあ……自己防衛って事にしておこう。実際にそうだったみたいだし」

 已然とニコニコしていたまま、機械人間を全く見ずにこちらを見ている理事長。
 と、相手が手から炎を噴き出す。

「あぶ――」

 危ない、と言おうとしたが勿論そんな警告は間に合わず、理事長に炎が降り注ぎ――。

 パアン!という何かが弾けたような音がして炎が一瞬にして消えた。
 何が起きたのか、一瞬理解出来なかったが――否。
 これで三度目であるからもうそれが何なのか、理解出来る。

「不意打ちとは卑劣だねえ。まあでも、“私に魔法は一切効かないよ”」

 反魔力魔法。
 魔力を媒体とする現象全てを無効化させる、常識外れした魔法。

 機械人間は拳を固めて理事長に突っ込んでいく。が――。

「だから無駄なんだってば」

 ひょいっと軽々しく跳んで機械人間の上を取り、ぽんっと機械人間の頭に手を置く。

「君が『魔力で動いている機械マシン』の時点で――私に攻撃は与えられないんだよ?」

 機械人間は動きが止まり――何かの糸が切れたようにその場に倒れて動かなくなる。

「さて――このロボットは公衆の前で見せてはならないものだからね。その点に関しては君たちに感謝するよ、ありがとう」

 と笑った表情を崩さないまま、理事長は動かなくなった鉄の人間を背負い込むと「三人とも、閉会式にはちゃんと出るんだよぉ」と言い残して教室を去っていった。

「ふう……」

 とたん、緊張の糸が解けた俺はヨロヨロとその場に倒れ込んだ。

「ケ、ケンジくん大丈夫ですか!?」

 優梨が心配して駆け寄ってくる。

「ああ、大丈夫だ……。ありがとな、優梨」
「い、いえ……私は何も」
「優梨」

 と、遠慮がちにする優梨に対し、俺はもう一度、強く彼女の名前を呼ぶ。

「何もしてないわけないだろ。もしお前がいなかったら、俺は死んでいて京香もきっと理事長も来てくれなかったんだぜ?」

 優梨がいなければ――出来なかった作戦だったのだ。
 それにこういう事は今回だけではない。

「ねえ優梨。私が倒れてる時にケンジを立ち直らせたのはあんただって聞いたわよ? それに関してもあんたは『何もしてない』って言うの?」
「い、いえ、それは――」
「遠慮するなよ、優梨」
「そうよ、優梨は凄いのよ」

 優梨、優梨――と。

 俺と京香は交互に名前を呼んでいく。

 だってそれは『柏原』でも、『優梨の中のお姉ちゃん』でもない。

 俺達の知っている『優梨』に対して言っている言葉なのだから。

「なあ優梨」
「……はい」
「お前は自分が思っている以上に強くて優しい子だ。友人が落ち込んでも元気を出させ、得体の知れぬ敵に対しても向かっていき、いつもみんなの中心にいるような――そんな存在」

 まだ知り合って二ヶ月しか経ってないけど。

「俺や京香、勿論三縁、豊岸、シュウも含め……あと実里。優梨がいてくれたから――今の俺たちが今ここにいるんだ」

 それほどまでに優梨という友人は凄いのだ。

「だから、もっと自信を持てよ。お前は別に他の人に助けてもらってばかりで何もしてないわけじゃないんだ。他の人を何度も助けているんだから」
「……!」

 優梨はと言うと。

 涙を流して泣いていた。

「ありが……とう……ございます……!」

 きっと。
 実の姉を失う以前からずっと控えめだったのだろう。
 でも、実際はもっと誇ってもいい程の力を持っていた。
 それは周りを明るくさせる、力。
 人の為に動ける、勇気。
 そんな、どんなに鍛えようとも、鍛えきれない器の大きさ。
 天性と呼ぶべきなのだろうか。

 優梨は誰とでも仲良く接する事が出来る才能を持った子なのだ。

 優梨は泣きじゃくりながらも、もう一度俺と京香にお礼を言う。


「あっ、ありがとう……ございます……ケンジくん、京香ちゃん」



 こうして。
 桟橋学園の魔法体育祭は終わりを告げた。
 そう、色々なものを俺たちに残して。


 * * *


「やあやあケンジくん、優勝おめでとう」

 閉会式を終え、無事に魔法体育祭も終わったと一安心した頃。
 後片付けに一人ベンチを運ぶ俺の元にひょっこりと現れたのは先程会ったばかりの少女――宮代瑠美絵理事長だった。

「……どうも」
「おやおや、そんなによそよそしくしちゃって、どうしたのかな? もっといつものように馴れ馴れしくていいんだよ?」
「いつも馴れ馴れしくした覚えはないんですが……」
「ほら瑠美ちゃんって」
「呼んだことありませんから」
「またまた、ケンくんったら」
「ケンくんって言うな」

 と、いつもの癖で突っ込んでしまい、慌てて口元を抑える。
 そんな俺に対し、理事長はクスクスと笑う。

「やっぱりケンジくんは面白いね」
「面白くなんかありません……で、何の用ですか?」

 やりにくい……と思いながら、俺が問うと理事長はニコニコとしたまま答えてくれた。

「勿論、優勝賞品を渡す為だよ」
「優勝賞品…あぁ」

 そういえば、優勝したら過去の俺を教えてくれるんだっけ。
 その後に色々とありすぎて、すっかり忘れてた……。

「さて、何を話したらいいかな……と言っても、もう既に決まってるんだけどね」

 と、理事長はマントの下から紙束を取り出す。

「これは……」

 見てみると何かの設計図のようだった。
 四角い形をしていて、側面に小さなボタンがいくつかと画面の下に大きなボタンが一つ。
 これって……!

「そう――マジックデバイスの設計図だよ」
「!!」
「もう一つ、マジックコンピュータの設計図もある。これは昔、ケンジくんが作ったものなんだ」
「俺が……作った……!?」

 つまり……魔力がない俺用に俺が作った、という事か?
 でも、何の為に――

「うん、それでね。このデバイスとコンピュータの動力源だけど……人間の約二人分の魔力となっている。これは京香ちゃんの魔力量と同じだね」
「えっ、きょ、京香?」
「おおっと、危ない。これ以上は話せないや、じゃあまたね」

 まだ聞きたいことは山ほどあるのに、理事長はそう言うと忽然と去っていった。
 俺に多くの謎を残して――。


 * * *


『ふーん、なるほどね。結局、Aクラスが優勝したんだ』

「ご、ごめんねお姉ちゃん、私が――」

『優梨。体育祭の事に関してもう謝らないって約束でしょう?』

「う、うん……」

『私がいいって言ってるんだからいいのよ。それにそんな顔してるとまたあの子たちに何か言われるわよ』

「……うん」

『……いい友達を持ったわね、優梨』

「……うん!」

『それより……謎の機械人間が気になるわね』

「え?」

『だってあれは、彼――ケンジくんを狙っていたのでしょう?』

「そ、そうみたいだったね」

『彼を狙うのは誰なのか、そしてその理由がわからないわ』

「た、確かに……。あっ、理由としては……魔力がないから?」

『魔力がない……いや、それだけじゃ理由としては薄いわ。もっと大きな理由があるはずよ』

「お姉ちゃんはケンジくんに魔力がないって信じてるの?」

『ん……それはまあ、信じ難い事実だけど。人類に魔力がない人間なんて“有り得ない”んだから』

「……うん、だから私も最初は信じられなかった。それが“常識”なわけだし」

『まあ、魔力がないことは彼に会う前から知ってたけどね。だって――』

「……?」

『……いえ、やめておきましょう。これはまだ話すべきことじゃないわ』

「……? ???」

『気にしなくていいわよ。それより、明日はケンジくんや京香ちゃん達と遊ぶんでしょう?』

「あっ、そうだった!」

『じゃあもう寝ないと。寝坊しちゃうわよ?』

「そ、そうだね。じゃあ……おやすみ、お姉ちゃん」

『ええ、おやすみ優梨』


 * * *


「まさかこんな強引に彼を消そうとするなんて、ね」

 深夜0時。理事長室。
 見た目十歳の理事長、宮代瑠美絵は動かない機械人間――いや、魔導式機械人間の中身を解体していた。

「これは向こうも焦ってるって事かな。私がいつ攻撃に転じるのかわからないから」

 少女は鼻歌交じりに慣れた手つきで機械をバラバラにしていく。

「でもまあ、それはまだ早い。私が動くには『まだ足りない』」

 その瞳は今よりも未来を見ているかのような、瞳である。
 不思議な光を灯した瞳を持つ少女は、ふと彼とその周りの人物たちが浮かび上がる。

「彼――いや、彼らにはもっともっと成長してもらわないと……私も困るんだよ。世界の真理に辿り着くには」

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