魔法世界の例外術者《フェイク・マジック》 - 魔力とは無力である -

風見鳩

閉会の辞「黒服の男1」

「優梨のあの魔法には弱点があるのよ」

 武闘場観客席。試合が終わった俺たちは他の試合を観ようという事になって観客席に腰を下ろしていた。
 そんな中、京香は足を組みながら、俺に説明をする。

「弱点?」
「ええ、補助魔法の特徴を知っていれば普通にわかるわ」

 補助魔法の特徴か。それなら授業で習ったことがある。確か――

「――確か、『魔力を増幅させる魔法』と『魔法攻撃の威力を増す魔法』の二つだっけか?」
「そうよ。特に魔法攻撃の威力増大魔法は特に難しくてね。魔法攻撃それぞれがそれぞれに合った形の魔法じゃないと意味を為さないのよ」
「それぞれにあった形?」

 俺が首を捻ると、京香は頷く。

「例えば私の火の玉の威力を増すにはそれに合った魔法陣を、さっきの実里みたいに雷の衝撃波の威力を増すにはそれに合った魔法陣を作らなくちゃいけないの」
「つまり……火の玉の魔法に雷の衝撃波の威力を増す補助魔法は意味がない、ってことか?」
「そういうこと」
「でも、その威力を増す補助魔法なんてどうやるんだ? 一つ一つ全て覚える、とか?」
「魔法なんて千はあるのに、そんな訳ないでしょうが。変色目カラーアイよ」

 と、京香は自分の目を指す。

「人によってそれぞれ違うけど、カラーアイには魔法を読み取る事も出来るの」
「読み取る?」
「そう、今目に映っている魔法の魔法陣や、どうしたら魔法の威力を増幅出来るのか、とかね」
「なるほどな」

 つまりそれを基に補助魔法は出来ている、ということか。

「優梨の場合は片目だけなんだけど、その目から情報を得ているの。どういう魔法陣を描けば増幅出来るのかって」
「ふうん」

 だから優梨の魔法道具は魔法陣を直接描くタイプなのか。

「で、もう一つの『魔力を増幅させる魔法』なんだけど、これを使うと自分の魔力がかなり消費されるのよ」
「自分の魔力を相手に渡すからか?」
「いや、魔力は空気中のM原子から魔力に変換して送るの」
「へえ……」

 つまり、と京香は指を一本立てる。

「『あの優梨』が使っていた魔法の原理は全く一緒なのよ。『魔力を減少させる魔法』と『魔法攻撃の威力をなくす魔法』の二つにね」
「というと、魔法攻撃を無効化させるには、それに合った魔法陣を形成しないと――」
「そう、意味がないってこと」

 だから、あの時京香の火の玉の魔法は消えることがなかったのか。
 初弾とは違う性質を持った、『追尾型』だったから。
 性質が違うのなら――それを無効化される魔法陣も違う。

「魔力を減少させる魔法も一緒。消費される魔力が大きいの。さっきケンジに説明した通り、増幅させる方は空気中のM原子を使って魔力に変換する。減少は逆になるだけ。どうやっているのかは知らないけど、相手の体内にある魔力を空気中に放ち、M原子に分散させる。けど『吸収』ではないから使用者の魔力も大幅に減るの」
「だからマジックデバイスも……」

 俺は黒い画面のままのマジックデバイスを見る。
 てっきり消費魔力が多すぎただけなのかと思っていたのだが、あれはデバイスの中にある魔力があの光によって減少していたのか。

 それなら俺があの光を浴びても平気だった理由も説明がつく。
 俺に魔力は宿っていない――『0』であるのならば、抜き取られる事がなかったのだ。

「まあ最後にわざと発動させたのはその為よ。最後の私の魔法攻撃を相手が無効化できなかったのは単に魔力不足だったから。魔力を減少させる魔法を使い、逆に自分も浴びる。消費量は半端じゃないはずだったわよ」
「あ、そうそう。最後の魔法といえば」
「ん?」

 ふと、俺はある疑問が思い浮かんだので率直に聞いてみることにした。

「なんで魔法に技名なんかつけているんだ? ……中二病ってやつか?」
「ち、ちがっ! 私は魔法を使う時にはイメージを思い浮かべなくちゃいけなくてっ! ああいう風に名前をつけた方がイメージしやすいのよ!」
「イメージねえ……ん?」

 あれ、魔法ってイメージしないと出来ないものだっけ?
 確かに威力の増減をさせるのには意識しなくちゃいけないっていうのは教科書に書いてあったけど、魔法の形自体は魔法陣で自動的にやってくれているようなものだから、脳内にイメージなど本来ならしなくてもいいはず……。
 ???
 そういえば京香の魔法陣って何もせずに勝手に出てくるよな……。普通ならそんな事は出来ないはずなのに。

「何急にボーッとしているのよ」
「えっ、ああ、いや……」
「それより、今は試合を観ましょうよ」
「……そうだな」

 俺は視線を中央に向ける。
 試合は二年生の団体戦の最中であった。
 どちらも二対二の大接戦であって白熱している。

 ……と。
 俺が目に入ったのはそんな激戦ではなく。
 観客席の出入り口に立っていた少女の姿であった。
 少女は悲しそうに出ていこうとしていく。

 その少女は――。

「……すまん、京香。ちょっと席を外す」
「えっ、あっ、ケンジ!?」

 戸惑う京香に構うことなく、俺は出入り口へと駆け出す。

 席がないので、立って観戦している人も多い中、なんとか掻き分けて少女の後を追う。


「――優梨!」
「……っ!」

 なんとか走ってさっきの少女まで追いつくと、俺は容姿が似ている知り合いの名を呼ぶ。

「……!」
「あ、おい!」

 だが、相手は振り返ることなく、駆け出す。
 俺も追いかけようと走り出そうとするが――。

「あっ」

 走ろうとして何もないところで躓いて、ズザーッと音を立てながらすっ転んだ。
 顔からスライディングさせるという、見事なコケ方である。
 すっげえ痛そう……。

「……えへへ。自分が運動音痴だって事を忘れてました」

 と、起き上がった赤目の少女――優梨は力なく笑った。

「少し、お話をしませんか? ケンジくん」


 * * *


「私には双子の姉がいて、私たちは仲が良かったんです。
 一緒にゲームをしたり、外でかけっこしたり……。
 本当に仲良しだったんです。

 あっ、京香ちゃんやケンジくんとも勿論仲良しですよ? お姉ちゃんと同じくらいに。
 え、そんな事は聞いてない? ……えへへ、そうでしたね。

 話を戻して……お姉ちゃんは凄い人でした。
 勉強も運動も何でも私よりこなせる、憧れの存在でした。
 優しくてかっこよくて、妬みなどは不思議と起きませんでした。

 ただ……魔力は私の方が強かったです。
 いえ、お姉ちゃんが低いわけではありせん、平均的ですよ。
 私の魔力は平均を大きく上回っている――とお医者さんは言っていました。

 当時の私は正直何がどうすごいのか、いまいちよくわかりませんでしたが、お姉ちゃんは凄いと私を褒めていました。
 優梨は自慢の妹だよって。
 私は……正直魔力のことなんかどうでもよくて、お姉ちゃんに褒められるのがただただ嬉しかったです。

 あっ……ご、ごめんなさい、嫌味とかじゃないんです。本当に当時は魔力とかよくわかってなかったですし、今はちゃんと重要な――。
 き、気にしなくていい? そ、そうですか?



 そんな私達姉妹にある日、事故が起きました。
 いえ、事故というより――事件と言った方が正しいでしょうか。

 小学六年生の夏休みの時です。
 夏休みの宿題で押し花を作ることになり、私とお姉ちゃんで花を探しに行くことになったんです。
 近くに昔からよくそこで遊んでいた小さな山があったので私とお姉ちゃんはそこで花を探す事にしました。

 色んな所を二人で巡って、見たこともないような綺麗な花を見つけました。
 私はそれが気に入って、それを摘もうと思ったのですが……。
 その花が咲いていたのは崖の途中途中の凹凸させたところ。
 しかも、崖の上から取ろうとしても、取れるか取れないか位置にあり、しかもてっぺんは崩れやすそうな土の足場でした。

 私はその時……見栄を張りたかったのでしょうか。危ないからやめようというお姉ちゃんに対して大丈夫だと言い張って、一人で採ろうとしたんです。
 道を迂回して、別ルートから崖の上まで登って、胸を地面に向けた状態――そう、うつ伏せの状態になりながら。
 上半身を宙に浮かして、足で今の状態を保ちながら手を花に伸ばして。

 もう少しで届きそう――必死に手を伸ばしたその時でした。
 身体を保たせていた足場の土が突然崩れたんです。
 何の音も立てずに呆気なく崩れました。
 多分重さに耐えられなくなったのでしょう。

 当然、私は何も掴む物もないので頭から真っ逆さまです。
 その時、同じように崖の上まで登ってきていたお姉ちゃんが咄嗟に私の足を掴んでくれました。
 何とか私を持ち上げようとしてくれたのです。
 でも――いくら文武両道の強いお姉ちゃんでもまだ小学六年生。
 当然、私を持ち上げる力もなく、私とお姉ちゃんはそのまま下に落ちてしまいました。
 ふいに私の視界から突然お姉ちゃんが現れて、気がついたらお姉ちゃんに抱きかかえられていました。
 そこからゴロゴロと何度も何度も転がって――。
 そこで私の記憶は一旦途切れます。

 気がついたときには近くの病院のベッドに横たわっていました。
 ふと、見てみると隣でお母さんとお父さんが泣きそうになりながら、起き上がった私を抱いてよかった、よかったと言ってました。
 私は辺りを見回し、ある人がいない事に気がつきます。
 私のことをいつも見守ってくれていた。
 私と仲が良かった。
 私の憧れ。
 私の――たった一人のお姉ちゃん。

 お姉ちゃんはどこ? と私はお母さんやお父さんに聞くと、二人は急に表情を暗くさせ黙り始めました。
 そんな沈黙の中、口を開いたのはお父さんの方でした。

 ――いいかい、優梨。
 ――お父さんが今から言うことを落ち着いて聞いてくれ。
 ――お姉ちゃんはもう会えないんだ。
 ――お姉ちゃんは……もう、死んじゃったんだ。

 落ち着けるわけがありません。
 私は訳がわからなくなって、病室を飛び出してしまいました。
 病人がまだ起きたばかりでいきなり走り出すなんて危険な行為ですが……それくらい私はショックでした。
 お姉ちゃんには、もう会えない。
 いつも優しくて。
 時折かっこよくて。
 ずっと私の憧れだった私のお姉ちゃんに。
 もう会えない。

 だから――事故ではない。
 私という犯人がいる――事件です。

 ――私が悪いんだ。
 しばらくして病室に戻り、私は私を責めました。
 ――私がお姉ちゃんの言う通りにやめておけばよかったんだ。
 お姉ちゃんがいなくなり、心にぽっかりと穴が空いたような感覚でした。
 ――私のせいだ。
 目の前は真っ黒で何もかもが見えなくなってました。


 ――そんな事ない。

 ふと、そんな声が聞こえました。
 周りを見回しても、深夜なので私以外、誰もいません。
 いえ、私の病室は個室じゃないので周りには同じく患者さんが数人いましたが。
 誰も起きているような気配は全くありませんでした。

 ――優梨は悪くないよ。

 また、声が聞こえました。
 すぐ近くにいるはずなのに、誰もいません。
 それに……この声には聞き覚えがありました。

 ――私が悪いの。

 そう、お姉ちゃんの声でした。
 でも、姿は見えません。

 ――お姉ちゃん、どこにいるの?

 私は問いかけます。
 すると、お姉ちゃんは答えます。

 ――ここにいる。優梨の中に。

 そう、私の意識の中にお姉ちゃんの意識があったのです。


 それからよく理解していないまま、私は退院することになりました。
 お姉ちゃんは生きている――それだけで私はいつものように気持ちも明るくなりました。
 けれど世間一般ではお姉ちゃんは死んだ事になっています。
 夏休みが明け、先生は私を悲しませたくなかったのでしょうか、何も触れずにいつも通りの笑顔で接してくれました。

 私自身、曖昧な気持ちでした。
 私の中には確かにお姉ちゃんがいる。
 でも、みんなからしたら周りにはもうお姉ちゃんはいない。
 お姉ちゃんがいて悲しくないけど、みんなからいない扱いされるのは悲しい。
 そんなモヤモヤとした気持ちを抱えたまま、小学校最後の一年を過ごしていきました。

 そんな風に過ごした中、私は気がつきました。
 自分の記憶力などが下がっていることに。
 何を聞いても、大事な事以外はすぐに忘れちゃうし、テストの点数も夏休みを境にして著しく下がって。
 多分、あの時に頭を打った後遺症なのでしょう。

 そんなこんなであっという間に卒業式を迎えます。
 卒業式も終わりに近づき、泣いている子も多くいました。
 多分、みんなと別れるのが悲しかったんでしょう。

 私もその時に泣いていました。
 でも――泣いていた理由は少し違います。
 確かにみんなと別れるのは悲しかったです。
 でも、それ以上に。
 卒業証書を貰う時って、自分の名前が呼ばれますよね。

 その呼ばれた名前の中にお姉ちゃんの名前がなかった事が悲しかった。

 当たり前といえば当たり前です。お姉ちゃんは死んでいるんですから。
 でも、私の中ではまだ生きているんです。
 まだ生きているのに死んだ扱いされた事に――私は涙を流しました。



 私の住んでいる区域は小中学校が多くあって、地域ごとにみんなと違う中学校に行く事もあります。
 私の家は多分一番小学校から遠くにあって登下校に不便という事で、近くの中学校に通う事にしました。
 小学校の頃の友達だったみんなは違う中学校に行ってしまい、私一人だけがその中学校に通います。

 まだ誰も知らない空間で私は知り合いがいない中、大丈夫なのだろうか、と不安でいっぱいでした。
 でも、お姉ちゃんは優梨なら大丈夫、と優しく言ってくれました。
 結論から言うと――お姉ちゃんの言った通り、大丈夫でした。
 みんな、優しく私に接してくれて、すぐに友達が出来ました。
 みんな、優しく声をかけてくれます。

 そう、柏原さん――と。

 小学校の時は苗字で呼ばれると、私とお姉ちゃんがいてややこしかったので、小学校のみんなは下の名前で呼んでました。
 でも――その事を知っている人はここにはいない。
 私のお姉ちゃんを知っている人はここにはいない。
 お姉ちゃんの事を知らない人達だから――苗字で呼びました。
 ――柏原さん。
 別に相手に悪気はないのでしょう。
 でも、私はどうしても許せなかったのです。
 私を苗字で呼ぶって事は、まるでもうお姉ちゃんがこの世にいないみたいで。
 私の中にいるお姉ちゃんを否定されているみたいで。
 私は許せませんでした。

 だから、笑顔でこう言いました。

 ――私は『柏原さん』じゃなくて『優梨』ですよ?
 ――友達なんだから、下の名前で呼び合いましょう。
 ――え? 何でそんなに下の名前にこだわるかって?
 ――うーん……それが、私の……友達論……。
 ――そう、それが私の、『優梨の友達論』だからですよ。


 この時からでしょう。
 この時から京香ちゃんやケンジくんに言った事がある、『優梨の友達論』が生まれたのです」

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