魔法世界の例外術者《フェイク・マジック》 - 魔力とは無力である -
第四種目「魔法闘技大会団体戦・決勝戦2」
そして、後は戦えない優梨のみ。
「優梨……痛くしないから、その場に止まってなさい」
怯えた優梨に対して、京香はそう声をかけ、魔法陣を目の前に出す。
「い、いや……! 駄目……!」
優梨は涙目になりながら、蹲っている。
……京香の攻撃に怯えているのだろうか?
いや。
優梨は何か『違うもの』に怯えている――?
京香は火の玉を出すと、優梨に向かって飛ばした。
そしてそのまま火の玉は優梨に当たって――。
「ひっ――!」
ボウッ!という音を立てて。
優梨に当たる前に『消えた』。
「……え?」
予想外の事に京香は言葉を失う。
今――京香の攻撃が、消えなかったか?
と、俺も目を丸くしていた。
「……だから、私に任せなさい『優梨』」
と、『優梨』はそう言って立ち上がる。
そして俺と京香に目を向けた。
「――!」
いつもの赤い右目は黒く、普通になり。
代わりに黒い左目は『青く』なっていて。
いつもとは違って、凛々しい顔立ちをした『優梨』が俺らを見ていた。
いや、違う。
こいつは『優梨』じゃない――!
青目の『優梨』はキュッと細め、俺と京香に笑いかけた。
「さて、続けましょうか? お二人さん」
* * *
「ゆ、優梨……?」
突然の優梨の豹変に京香は戸惑っている。
「さて……始めましょうか」
青い瞳を持った優梨はニヤリと笑うとペンで大きく魔法陣を描いていく。
――まずい!
俺の本能がそう告げ、俺は思わず優梨の方へと駆け出していく。
マジックデバイスから火の魔法を繰り出す。
すると、優梨は舌打ちをして途中で書くのをやめ、新しく魔法陣を描く。
ボウッという音と共に、火の玉はやはり消えてしまった。
魔法を消す、だなんて普通じゃ有り得ない事だ。おそらくほとんどの人は見た事なんかないだろう。
だが、俺はそれを――これと同じ現象を見たことがある。
「反魔力魔法……!」
「あら……何で知っているのかしら?」
思わず名前を声に出してしまった俺を優梨は一瞬驚いた顔をしたが、「ああそうか」という風に笑う。
「そういえば知っているのよね。『優梨』から聞いた事があったわ」
ちなみに京香は頭に「?」マークを浮かべていた。
お前の事なんだぞ、お前の。
……まあ、あの時は無意識状態だったらしいから気がつかないのも仕方がないのか。
「……お前は、誰なんだ」
さっきから、優梨ではないような口ぶりをする『優梨』に俺は聞いてみると、優梨はニコッと笑う。
「勿論、私は『優梨』よ。あなた達のよく知ってる、ね」
「…………」
わざと挑発をする為に、そう言っているのだろうか。それとも、本当のことなのだろうか。
「優梨!」
と、京香から魔法陣が現れ、火の玉を作り出すと優梨に向かって飛ばす。
が、優梨の描いた魔法陣によってその火は途中で消えてしまった。
「無駄な事はやめなさい」
と、優梨は冷たい目で見るが、京香は構わず体に炎を纏いながら優梨に接近していく。
優梨は再び魔法陣を描くと、京香が纏っていた炎は消えてしまった。
「だから、無駄って言ってるでしょう?」
うすら笑いをする優梨。
「……まだだ!」
俺はそう叫び、マジックデバイスで実里の雷魔法を発動させると、優梨に向かって駆け出す。
優梨はそんな俺に気がつき、再び魔法陣を描いていく。
すると、纏っていた雷は消えてしまっていた。
だが、俺はそれに構わずに突っ込んでいき、火の玉を作り出すと至近距離で優梨に放つ。
「……!」
優梨はその魔法を躱す。――その隙を逃さず俺は優梨を羽交い絞めにしようと手を伸ばした。
しかしそれを分かっていたのか、その手を逃れて隙が出来た俺に蹴りを放つ。
「がっ……!?」
俺はその攻撃をまともに食らってしまい、そのまま地面に転がった。
「『優梨は』体術を苦手だと思って接近戦に持ち込んだところ悪いのだけど、『私は』むしろ得意な方なのよ?」
俺の考えを見透かしたのかのように優梨が言った。
くそ、こっちの考えは丸分かりという事か……!
「さて、これでわかったでしょう? あなた達では私には勝てないのよ」
魔法も効かないし、体術でも劣る。
確かにこのまま続けても負けるかもしれない。
……だがな。
「そんなんで負けを認められないんだよ、俺は!」
俺は立ち上がると、優梨に再び突っ込んでいく。
「はあ……何度やろうが無駄よ!」
「そんなの、やってみなくちゃわからねえだろうが!」
俺は体に炎を纏わせると、優梨に突きを繰り出す。
だが、優梨は俺の攻撃を躱し、拳を固めると俺の腹に向かって拳を突き出す。
「――!」
俺は慌てて後ろへと下がる。
「何回攻撃しようがあなたじゃあ、私に――ん?」
見ると、京香が炎を纏って優梨へと突っ込んできていた。
そんな京香に優梨はため息をつき、魔法陣を描く。
「バカの一つ覚えってやつかしら?」
優梨の描いた魔法陣に京香が近づいていくと――京香の全身から纏っていた炎が消える。
「――!」
だが、京香は減速することなく、そのままの勢いで優梨に走っていき、突きを繰り出した。
「っ!」
この京香の行為は予想外らしく、優梨は顔を歪ませると大きく後ろに下がる。
京香は何かに気がついた顔をする。
「あんた、もしかして……」
「ちっ……」
優梨は京香を見ると舌打ちをする。
「――遊んであげようかと思っていたけど、予定変更ね。すぐに終わらせてあげるわ!」
……? なんだ? 急に態度が変わったぞ。
さっきまで余裕にしていた表情は消え失せ、どこか焦るような感じが滲み出ていた。
優梨は再び魔法陣を大きく描いていく。
そうはさせるか、と攻撃しようとして俺は踏み出すが、京香がそれを遮るかのように俺の前に手を伸ばす。
「京香?」
「黙って見てなさい」
「いや、あいつが何かする前に手を打たないと――」
「黙ってろという言葉が聞こえなかったのかしら?」
「……はい」
ニコニコと拳を固める京香に、反射的に俺は萎縮してしまう。
というか、何をしているんだこいつは。向こうが何かする前にこっちがやらないと意味がない、というのに。
「……賢しい子ね。でも、その行動は命取りになるのよ!」
優梨は何やら魔法陣を複数描いていく。その形はどれも見たことがないやつばかりであり、それも文字列が複雑である。
「ケンジ、マジックデバイスはまだ動く?」
と、京香に言われて俺は確認をする。
見てみると――うん、半分以上のエネルギーが残っている。
「ああ、まだ動くぞ」
「よかった。それとあんた、魔力がないのよね」
「え? そうだけど、それがどうした?」
突然京香がそんな事を言ってくる。
いや、今はそんな事は関係ないと思うんだが……。
と不思議に想っている俺に、京香は優梨の方を見たままこう言った。
「なら、この魔法が発動してもあんたは『動ける』。その時に今から優梨が使う魔法と同じ魔法を使いなさい」
「え?」
「いいから!」
「お、おう。わかった」
何を考えているのかよくわからないが……ここは京香に従ったほうがいいみたいだな。
「これで終わりよ!」
と、優梨は魔法陣を生成し終えると、不気味に輝きだす。
「…………?」
だが、何も起きないことに首を捻っていると――
「う――ああああああああああああああぁぁぁぁ!」
「きょ、京香!?」
隣にいた京香が突然頭を抱え、その場に跪く。
「おい、京香! どうした!」
「い……いから! 早く、やりなさい!」
京香にそう言われ、俺はマジックデバイスで読み取った優梨の魔法を発動させる。
「なんで……なんで貴方は立ち上がっているの!? なんで私と同じ魔法が――」
と、向こうは平気な俺に狼狽していた。
そして魔法陣が現れ、同じく光を放っていき――
「ぐ……あああああああああああああ!」
その光に優梨も苦しみ出す。
何なんだこの光は。どういう事なんだ。
どうして俺は平気なんだ――!
と。向こうの魔法陣が消え、こっちの魔法陣もマジックデバイスの魔力切れなのだろうか、消滅してしまった。
「よくやったわケンジ。後は私に任せなさい!」
いつの間にか立ち上がった京香は蹲っている優梨の方へと駆け出す。
「ぐっ――」
「食らいなさい!」
京香は優梨の足元に魔法陣を形成させると、炎の渦を発動させる。
「こんな――もの!」
と、対する優梨の声が聞こえ、炎の渦をかき消す優梨の姿があった。
だが、京香は手を休めることなく、次の攻撃へと火の玉を発動させる。
「――!」
それをギリギリといった形で躱した優梨は後ろへ跳び、距離を置く。
すかさず京香が魔法陣を生成し、火の玉を優梨に放つ。
「無駄だって――言っているでしょうがっ!!」
優梨は再び魔法陣を発動させ、火の玉を消す――。
――かのように思われた。
「っ!? な、なん――!?」
一度ボウッと音を立てた火の玉だが、後ろにあった『もう一つ』の玉が突き抜けてきたのだ。
優梨は必死に横へと回避するが――。
火の玉もぐんっと曲がり、優梨に直撃する。
「うあっ――!」
追尾型の火の玉。
優梨に放った二発目は京香の意思によって動くものだ。
「終わらせましょうか」
と、京香の周りが無数の魔法陣で囲まれていく。
「な――なんで、『あれ』を食らっておきながらまだそんなに魔力が残っているの!? あ、貴女は一体――」
「魔力が莫大なのが――私の取り柄よ!」
そう叫ぶ京香に呼応するかのように。
魔法陣から火柱が噴き出す。
一、二、四、八、十六……いや。
二十以上ものの数の火柱が京香を囲っている――!
み、見たことないぞ、こんな魔法。
こんな――大規模な魔法を。
「優梨なら手加減しようかと思ってたけど――今の『あんた』には手加減なしでいかせてもらうわよ!」
これが――京香の力。
小さい頃から魔力を生まれ持ち、膨大に増えていった――。
「火柱の大蛇!!」
ゴウッと。
火柱が生きているかのように動き、それらが全て優梨へと向かっていき――!
ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンンンンッッッ!!!
と大爆発を起こした。
周りが火で溢れ、全てを焼き付かせるように舞って――。
そして突然、全ての火が消えた。
これは――『魔術抑止結界』が発動したのだ。
その証拠に優梨は大爆発が起こった箇所の中心で気絶していた。
審判が手を挙げる。
「試合終了! 勝者、志野・篠崎ペア!」
シィ……ン、と周りは一瞬、静まり返り。
うぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおお!!という観客の声と溢れるような拍手で周りの音はかき消された――。
「優梨……痛くしないから、その場に止まってなさい」
怯えた優梨に対して、京香はそう声をかけ、魔法陣を目の前に出す。
「い、いや……! 駄目……!」
優梨は涙目になりながら、蹲っている。
……京香の攻撃に怯えているのだろうか?
いや。
優梨は何か『違うもの』に怯えている――?
京香は火の玉を出すと、優梨に向かって飛ばした。
そしてそのまま火の玉は優梨に当たって――。
「ひっ――!」
ボウッ!という音を立てて。
優梨に当たる前に『消えた』。
「……え?」
予想外の事に京香は言葉を失う。
今――京香の攻撃が、消えなかったか?
と、俺も目を丸くしていた。
「……だから、私に任せなさい『優梨』」
と、『優梨』はそう言って立ち上がる。
そして俺と京香に目を向けた。
「――!」
いつもの赤い右目は黒く、普通になり。
代わりに黒い左目は『青く』なっていて。
いつもとは違って、凛々しい顔立ちをした『優梨』が俺らを見ていた。
いや、違う。
こいつは『優梨』じゃない――!
青目の『優梨』はキュッと細め、俺と京香に笑いかけた。
「さて、続けましょうか? お二人さん」
* * *
「ゆ、優梨……?」
突然の優梨の豹変に京香は戸惑っている。
「さて……始めましょうか」
青い瞳を持った優梨はニヤリと笑うとペンで大きく魔法陣を描いていく。
――まずい!
俺の本能がそう告げ、俺は思わず優梨の方へと駆け出していく。
マジックデバイスから火の魔法を繰り出す。
すると、優梨は舌打ちをして途中で書くのをやめ、新しく魔法陣を描く。
ボウッという音と共に、火の玉はやはり消えてしまった。
魔法を消す、だなんて普通じゃ有り得ない事だ。おそらくほとんどの人は見た事なんかないだろう。
だが、俺はそれを――これと同じ現象を見たことがある。
「反魔力魔法……!」
「あら……何で知っているのかしら?」
思わず名前を声に出してしまった俺を優梨は一瞬驚いた顔をしたが、「ああそうか」という風に笑う。
「そういえば知っているのよね。『優梨』から聞いた事があったわ」
ちなみに京香は頭に「?」マークを浮かべていた。
お前の事なんだぞ、お前の。
……まあ、あの時は無意識状態だったらしいから気がつかないのも仕方がないのか。
「……お前は、誰なんだ」
さっきから、優梨ではないような口ぶりをする『優梨』に俺は聞いてみると、優梨はニコッと笑う。
「勿論、私は『優梨』よ。あなた達のよく知ってる、ね」
「…………」
わざと挑発をする為に、そう言っているのだろうか。それとも、本当のことなのだろうか。
「優梨!」
と、京香から魔法陣が現れ、火の玉を作り出すと優梨に向かって飛ばす。
が、優梨の描いた魔法陣によってその火は途中で消えてしまった。
「無駄な事はやめなさい」
と、優梨は冷たい目で見るが、京香は構わず体に炎を纏いながら優梨に接近していく。
優梨は再び魔法陣を描くと、京香が纏っていた炎は消えてしまった。
「だから、無駄って言ってるでしょう?」
うすら笑いをする優梨。
「……まだだ!」
俺はそう叫び、マジックデバイスで実里の雷魔法を発動させると、優梨に向かって駆け出す。
優梨はそんな俺に気がつき、再び魔法陣を描いていく。
すると、纏っていた雷は消えてしまっていた。
だが、俺はそれに構わずに突っ込んでいき、火の玉を作り出すと至近距離で優梨に放つ。
「……!」
優梨はその魔法を躱す。――その隙を逃さず俺は優梨を羽交い絞めにしようと手を伸ばした。
しかしそれを分かっていたのか、その手を逃れて隙が出来た俺に蹴りを放つ。
「がっ……!?」
俺はその攻撃をまともに食らってしまい、そのまま地面に転がった。
「『優梨は』体術を苦手だと思って接近戦に持ち込んだところ悪いのだけど、『私は』むしろ得意な方なのよ?」
俺の考えを見透かしたのかのように優梨が言った。
くそ、こっちの考えは丸分かりという事か……!
「さて、これでわかったでしょう? あなた達では私には勝てないのよ」
魔法も効かないし、体術でも劣る。
確かにこのまま続けても負けるかもしれない。
……だがな。
「そんなんで負けを認められないんだよ、俺は!」
俺は立ち上がると、優梨に再び突っ込んでいく。
「はあ……何度やろうが無駄よ!」
「そんなの、やってみなくちゃわからねえだろうが!」
俺は体に炎を纏わせると、優梨に突きを繰り出す。
だが、優梨は俺の攻撃を躱し、拳を固めると俺の腹に向かって拳を突き出す。
「――!」
俺は慌てて後ろへと下がる。
「何回攻撃しようがあなたじゃあ、私に――ん?」
見ると、京香が炎を纏って優梨へと突っ込んできていた。
そんな京香に優梨はため息をつき、魔法陣を描く。
「バカの一つ覚えってやつかしら?」
優梨の描いた魔法陣に京香が近づいていくと――京香の全身から纏っていた炎が消える。
「――!」
だが、京香は減速することなく、そのままの勢いで優梨に走っていき、突きを繰り出した。
「っ!」
この京香の行為は予想外らしく、優梨は顔を歪ませると大きく後ろに下がる。
京香は何かに気がついた顔をする。
「あんた、もしかして……」
「ちっ……」
優梨は京香を見ると舌打ちをする。
「――遊んであげようかと思っていたけど、予定変更ね。すぐに終わらせてあげるわ!」
……? なんだ? 急に態度が変わったぞ。
さっきまで余裕にしていた表情は消え失せ、どこか焦るような感じが滲み出ていた。
優梨は再び魔法陣を大きく描いていく。
そうはさせるか、と攻撃しようとして俺は踏み出すが、京香がそれを遮るかのように俺の前に手を伸ばす。
「京香?」
「黙って見てなさい」
「いや、あいつが何かする前に手を打たないと――」
「黙ってろという言葉が聞こえなかったのかしら?」
「……はい」
ニコニコと拳を固める京香に、反射的に俺は萎縮してしまう。
というか、何をしているんだこいつは。向こうが何かする前にこっちがやらないと意味がない、というのに。
「……賢しい子ね。でも、その行動は命取りになるのよ!」
優梨は何やら魔法陣を複数描いていく。その形はどれも見たことがないやつばかりであり、それも文字列が複雑である。
「ケンジ、マジックデバイスはまだ動く?」
と、京香に言われて俺は確認をする。
見てみると――うん、半分以上のエネルギーが残っている。
「ああ、まだ動くぞ」
「よかった。それとあんた、魔力がないのよね」
「え? そうだけど、それがどうした?」
突然京香がそんな事を言ってくる。
いや、今はそんな事は関係ないと思うんだが……。
と不思議に想っている俺に、京香は優梨の方を見たままこう言った。
「なら、この魔法が発動してもあんたは『動ける』。その時に今から優梨が使う魔法と同じ魔法を使いなさい」
「え?」
「いいから!」
「お、おう。わかった」
何を考えているのかよくわからないが……ここは京香に従ったほうがいいみたいだな。
「これで終わりよ!」
と、優梨は魔法陣を生成し終えると、不気味に輝きだす。
「…………?」
だが、何も起きないことに首を捻っていると――
「う――ああああああああああああああぁぁぁぁ!」
「きょ、京香!?」
隣にいた京香が突然頭を抱え、その場に跪く。
「おい、京香! どうした!」
「い……いから! 早く、やりなさい!」
京香にそう言われ、俺はマジックデバイスで読み取った優梨の魔法を発動させる。
「なんで……なんで貴方は立ち上がっているの!? なんで私と同じ魔法が――」
と、向こうは平気な俺に狼狽していた。
そして魔法陣が現れ、同じく光を放っていき――
「ぐ……あああああああああああああ!」
その光に優梨も苦しみ出す。
何なんだこの光は。どういう事なんだ。
どうして俺は平気なんだ――!
と。向こうの魔法陣が消え、こっちの魔法陣もマジックデバイスの魔力切れなのだろうか、消滅してしまった。
「よくやったわケンジ。後は私に任せなさい!」
いつの間にか立ち上がった京香は蹲っている優梨の方へと駆け出す。
「ぐっ――」
「食らいなさい!」
京香は優梨の足元に魔法陣を形成させると、炎の渦を発動させる。
「こんな――もの!」
と、対する優梨の声が聞こえ、炎の渦をかき消す優梨の姿があった。
だが、京香は手を休めることなく、次の攻撃へと火の玉を発動させる。
「――!」
それをギリギリといった形で躱した優梨は後ろへ跳び、距離を置く。
すかさず京香が魔法陣を生成し、火の玉を優梨に放つ。
「無駄だって――言っているでしょうがっ!!」
優梨は再び魔法陣を発動させ、火の玉を消す――。
――かのように思われた。
「っ!? な、なん――!?」
一度ボウッと音を立てた火の玉だが、後ろにあった『もう一つ』の玉が突き抜けてきたのだ。
優梨は必死に横へと回避するが――。
火の玉もぐんっと曲がり、優梨に直撃する。
「うあっ――!」
追尾型の火の玉。
優梨に放った二発目は京香の意思によって動くものだ。
「終わらせましょうか」
と、京香の周りが無数の魔法陣で囲まれていく。
「な――なんで、『あれ』を食らっておきながらまだそんなに魔力が残っているの!? あ、貴女は一体――」
「魔力が莫大なのが――私の取り柄よ!」
そう叫ぶ京香に呼応するかのように。
魔法陣から火柱が噴き出す。
一、二、四、八、十六……いや。
二十以上ものの数の火柱が京香を囲っている――!
み、見たことないぞ、こんな魔法。
こんな――大規模な魔法を。
「優梨なら手加減しようかと思ってたけど――今の『あんた』には手加減なしでいかせてもらうわよ!」
これが――京香の力。
小さい頃から魔力を生まれ持ち、膨大に増えていった――。
「火柱の大蛇!!」
ゴウッと。
火柱が生きているかのように動き、それらが全て優梨へと向かっていき――!
ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンンンンッッッ!!!
と大爆発を起こした。
周りが火で溢れ、全てを焼き付かせるように舞って――。
そして突然、全ての火が消えた。
これは――『魔術抑止結界』が発動したのだ。
その証拠に優梨は大爆発が起こった箇所の中心で気絶していた。
審判が手を挙げる。
「試合終了! 勝者、志野・篠崎ペア!」
シィ……ン、と周りは一瞬、静まり返り。
うぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおお!!という観客の声と溢れるような拍手で周りの音はかき消された――。
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