魔法世界の例外術者《フェイク・マジック》 - 魔力とは無力である -

風見鳩

第四種目「魔法闘技大会団体戦・決勝戦1」

「あら、ケンジくんに京香ちゃん」
「あ、比良坂先輩」

 決勝戦である武闘場へと向かう途中、俺たちは比良坂先輩と会った。

「二人ともこれから決勝戦?」
「はい。先輩もですか?」
「当たり前でしょうっ!」

 という俺の質問に答えたのは目の前にいる寮長ではなく、隣にいる京香だった。

「比良坂先輩といえば“学校一の天才”と呼ばれている人よ!?」
「く、詳しいな、お前……」
「これくらい常識でしょうがっ! あんたは一体この歳まで何を覚えてきたのよ!?」
「いや、記憶喪失だし……」
「あ、そうだったわね。完全に忘れてたわ」

 しれっと言う京香。最近思うんだが、その忘れっぽい頭でどうして勉強の出来がいいのだろうか……?

「なら教えてあげるわケンジ」
「いや、京香ちゃん? 多分、京香ちゃんは勘違いを……」
「いえ、大丈夫です先輩。ちゃんとこの馬鹿に教えますから」

 そんな京香に対して当の本人は困った様子である。
 ……? 勘違いってどういうことだろうか?

「比良坂先輩は入学して間もない頃にAクラスの三年生を魔法模擬戦で倒したのよ!」
「へえ、それは凄いな」
「しかも話によると、相手に何の攻撃もさせずに勝負をつけたらしいわ!」
「京香ちゃん、それ違うから。元々相手は私に攻撃をしないっていうルールがあったから何の攻撃も受けてないだけだから」
「というか、何でそんな事になったんですか?」

 と、俺は少し気になり聞いてみることにする。
 そうなるにはそれなりの理由はあるはずなのだが……。
 すると、先輩はきょとんとした顔で言う。

「え、ムカついたから」
「……え?」
「確か相手は成績トップの人で、この世で魔法が一番だとか魔力の低い人は将来がないとか言って、それで」
「……それだけですか?」
「それだけよ」
「……無視すればよかったんじゃないですかね」
「いや、ムカつくじゃん」
「…………」

 なんとなく、比良坂先輩が有名になった理由がわかった気がする。

「他にも学校にいた不良ども全員を次々に倒していったり」
「そりゃ、向こうから襲いにかかってきたからね」
「学園長先生相手に普通に友人かのような関係だったり」
「それを言うのならケンジくんもだから」
「魔法体育祭における、魔法闘技大会・個人戦では一年二年と一位だったり!」
「……それはまあ、間違ってないか」
「その他諸々、色んな伝説があるというわけ! わかった、ケンジ?」
「ああ、なんとなくだがわかった気がするよ」

 比良坂先輩は見かけによらず、荒っぽいところがあるらしいという事が。

「それに私自身、比良坂先輩の事尊敬しているの」
「ああ、だから初対面の時にあんなに緊張していたんだな」

 あの時はほとんどコミュニケーション能力がないからだと思っていたんだが、そうではなかったらしい。

「という事は比良坂先輩は個人戦ですか?」
「ええ、まあね。今回は私は出たくなかったんだけど、クラスメイト達がどうしてもって……」
「出たくなかったって……どうしてですか?」
「だって……京香ちゃんみたいに、最近の下級生から変に注目されているし……」
「ああ、なるほど……。……でも他の競技に出たとしても、先輩ならどっちみち噂にされるのでは?」
「……まあ、そうなるんだろうけどね」

 はあ、とため息をつく先輩。

「それは置いといて、京香ちゃんとケンジくん決勝でしょ? 誰が相手とかわかっているの?」
「はい、優梨と確か実里って子です」

 と、俺が言うと比良坂先輩はふむ、と顎に手を当てる。

「ふうん、優梨ちゃんが相手なんだ……。あの子、そういうがらじゃないのにね」
「まあ、それは俺も思いましたけどね」

 俺も最初聞いたときはびっくりした。優梨とのイメージとは随分と違うと感じたからである。

「まあ、そんな事はどうでもいいか。二人とも頑張ってね」

 比良坂先輩はじゃあ私はこっちだから、と手を振って歩いて行った。

「じゃあ私たちも行きましょう、ケンジ」
「おう」


 * * *


「ところで、この試合に勝てば私たちのクラスは優勝確定らしいわよ」
「まあこれ、最終競技だからな」

 確定もなにも決定だと思うんだが。

「ここで負けられないわねケンジ。必ず優勝するわよ!」
「ああ、そうだな」

 ここまで三縁も豊岸もシュウも、クラスメイト全員頑張ってきたんだし。俺らも頑張らなくちゃな。
 それに……。

「それに……出来ることなら、知りたいからな」
「え? 何が?」
「あっ、なんでもない。気にするな」

 不思議そうに首を捻る京香に、俺は手を横に振る。これは俺個人の問題だからな、あまり他の人に話すべきことではないだろう。

「それでは志野くん、篠崎さん。そろそろ決勝戦が始まりますので、どうぞこちらへ」

 と控え室にいた俺と京香を係の人が呼んでくる。
 やはり決勝戦となると、こうも対応が違うんだな……いかん、緊張してきた。

「ケンジ、そんなに硬くならなくても大丈夫よ」
「……お前は随分と落ち着いているな」

 対して京香はいつも通りであり、少し羨ましいと思った。

「まあ私も緊張してないっていうなら嘘になるけどね。でもそんなガチガチになっているよりか落ち着いている方がいいでしょ」
「……そうだな」
「大丈夫、これまで色々と特訓してきたんだし。やれることを思いっきりやりましょう」
「おう」
「では二人とも、入場してください」
「「はい」」

 と、促されて俺と京香は武闘場へと足を踏み入れる。
 そうだ、大丈夫。この日の為に色々とやってきたじゃないか。

 俺たちが姿を現すと――周りにいる人たちの割れんばかりの歓声と拍手が聞こえてきた。
 そして向かい側には相手二人も姿を現していた。



 魔法体育祭での醍醐味は魔法闘技大会の決勝戦だと、誰もが言う。
 生徒だけではなく来ている人たち全員が武闘場へと足を運び、観客席をどんどん埋めていくそうだ。
 まあ決勝戦と言っても全部で六回もあるので見たい試合だけを見るという人もいるだろうが。

「……すごいな」

 俺は周りを見回す。
 そういえば京香が熱を出した時もここに来たことがあった。その時は体育館並に大きい円形の砂場とがらんとした観客席だなと思っていたが。
 こうして人が席を埋めているとやはり雰囲気は違うものだ。

 と、目の前にいる対戦相手に視線を向ける。
 相手は刀を抜いている実里と魔法道具である魔法ペンを手にしている優梨が立っている。
 ……のだが。

「……優梨?」
「…………」

 優梨の様子がどこかおかしかった。
 なんといえばいいのだろうか、どこか落ち込んでいるような。
 何かに怯えているような。
 そんな様子である。

「大丈夫だよ優梨ちゃん。私が何とかするから」
「…………はい」

 と、実里は優梨に優しく声を掛け、キッと俺たちの方に視線を向ける。

「それではこれより魔法闘技大会団体一年、決勝戦を始めます」

 という審判の声で俺もマジックデバイスを手に構える。
 優梨の事が気になるが、今は置いておこう。目の前の試合に集中するんだ。

 俺はそんな事を考えながら――。

 試合開始の合図が響く。

「では……開始!」



 試合が開始された最初に動いたのは実里だった。

 刀を構え、俺に向かって駆け出してくる。

 京香の作戦曰く、『まずは相手の動きをよく見ること』なので、俺は攻撃をせずに実里の動きをよく観察していく。
 実里の刀は日本刀だが、模擬刀だそうだ。
 日本刀なだけであり、それなりに攻撃範囲も広い。

 実里は俺の目の前まで来ると刀を振り上げる。
 瞬間。
 刀に刻まれた魔法陣が光りだし、刃の部分にバチバチという音を立てながら青白い何かが見える。

「……っ!」

 俺は振り下ろされてくる刀を横っ飛びで避ける。
 と、刀が触れた地面からバヂッという音と少し焦げた匂い。

「雷系の魔法か……!」
「こっ……の!」

 実里はそのまま横へと避けた俺に向かって刀を振りかぶる。俺は後ろへ下がり、その攻撃を避ける。

 実里は体勢を整えて再び俺と向き合うが、はっとして後ろを見る。
 京香が実里に向かって火の玉を撃ってきたのだ。
 実里はそれを刀で両断し、そのまま京香の方へと向かう。
 どうやら優先順位を俺から京香に変えたらしい。
 京香は構わずに実里に向かって火の玉を連射していく。
 それを実里は――。

 ギンッ!という鈍い音と火花と散らしながら全て斬っていく。

「くっ……!」
「はああああああああ!」

 怯むことなく迫りくる実里。京香はバックステップをして距離を取る。
 が、実里は素早い動きで京香に肉薄し、一瞬にして距離を詰めてしまう。

「……っ!」

 京香が目の前に魔法陣を繰り出す。

 ボンッという音と共に京香と実里の間に爆発が起き、実里だけではなく、京香も爆発によって吹き飛ばされる。
 二人の間に距離が出来る――『そこ』が狙い目だ。

「――ケンジ! 来なさい!」

 俺は実里の方へと駆け出していき、京香と実里を挟むようにして並ぶ。
 マジックデバイスから京香が撃った火の玉を撃ち出して、京香も同じように実里に撃つ。
 まずは、両面からの攻撃だ。

「――!」

 実里は俺と京香が同時に火の玉を繰り出したのを確認すると。
 持っていた刀を横にして、刀身に雷を纏わせる。
 そして体ごと三百六十度回転させ。
 迫り来る二つの火の玉を――。

 ガキッ、ガギンッ!
 という音を立てて、斬った。

「防御も出来るのか……!」
「はあああああああ!」

 実里は再び刀を構えると、再び京香へと肉薄していく。

 逃げても仕方ないと思ったらしい京香は体に炎を纏わせて実里へと迫っていく。
 大きく刀を振りかざす実里。空を斬るような音が聞こえる。
 京香はそれを躱し、身を屈めて実里の腹に拳を叩き込む。

「ぐっ……!」

 炎魔法を含めたその拳のダメージは大きかったらしく、実里は顔を歪めると後ろへ下がった。

「まだよ!」

 京香は実里に向かって数発の火の玉を撃つ。
 実里はそのまま刀を振りかざし斬り落とした。

 あそこまで刀を使いこなせるのは……すごいな。
 俺は心の中でそう思いながら実里の方へと駆け出していく。
 京香もそれに合わせて実里に接近していく。
 俺はマジックデバイスを使って体に炎を纏い、京香も同じように魔法を発動させる。

 そして二人交互に実里に向かって突きと蹴りを放つ。

「っ! くっ……!」

 京香の動きに合わせて俺は実里に攻撃し、また俺の動きに合わせて京香は実里に攻撃する。
 特訓で身につけた連携技。

 実里の腹部に腕に足に顔に首に、俺と京香の突きと蹴りが襲いかかる。
 実里はそれを必死に避けていく。

 その回避行動を見て、俺は確信した。
 思ったとおりだ。
 実里は超接近戦が苦手なんだ。
 だからさっきから刀を使わない――否、使えないのだ。

 実里は大きく後ろに跳ぶと同時に刀から雷を飛ばす。
 それを予測していた京香は炎で弾き、俺も同じように攻撃を防ぐ。

 実里はそのまま優梨の方へと逃げていった。

「行くよ、優梨ちゃん!」
「は、はい!」

 実里の声に優梨は反応し、ペンで大きく魔法陣を描いていく。
 そして出来上がった魔法陣は光を放ち、その光は実里へと移っていった。

「――っ!」

 実里は再び俺と京香に接近してくる。
 さっきと同じ行為に見える――のだが。

 バリバリバリィ!という耳をつんざくような音と共に巨大な雷が刀身に纏って――。

「食らえええええええええええええええええ!!」

 そのまま横へ振りかぶる。
 すると、振りかぶったと同時に何かが光って――。

「うっ――!」
「ぐあっ……!」

 俺と京香に襲いかかった。
 京香は炎魔法で相殺したが、俺はその攻撃をまともに受けてしまった。

 バヂリという音がして、身体中に電気を浴びせられたような痛みが走る。

「かはっ……!」

 俺は痛みによろめきながらも、足を踏ん張って座り込むのを抑える。

「ケンジ!」
「だい……じょうぶ、だ」

 焦る京香に俺はガクガクと震えながらそれでも返事をした。
 それよりも、さっきのは――。

「補助魔法……!」

 優梨の得意魔法。
 さっきの魔法陣は実里の魔法の威力を高める魔法で、実里はその魔力で衝撃波を飛ばした、というのか!

 実里は痺れて動けない俺に向かって駆け出してくる――どうやら、ここで俺を戦闘不能にするらしい。

「く、くそっ――!」

 俺は動くことが出来ず、その場にいることしか出来ない。
 ここで――終わってたまるか!

 ――と。
 俺と俺に刀を振りかざす実里の間に京香が間に入り、俺の手を引いて加速魔法を発動させる。

 グンッと俺は引っ張られていき、実里の攻撃を躱す事が出来た。……いや、正確には違うんだがな。

「ケンジ、大丈夫?」
「あ、ああ……」
「しばらく動けそうにないわね……。いいわ、そこにいなさい」

 と、京香は握っていた俺の手を放す。

 実里は京香に向かって跳躍し、優梨はまた魔法陣を宙に描き始める。

「次は君だよっ!」
「そうはいかないわね!」

 巨大な雷を纏い、そのまま振り下ろしてくる実里に。
 京香は魔法陣を生成し、火を放射する。
 その放射は確実に宙に跳んでいた実里を捉えていた。

「こんなもの――!」

 だが、実里の振り下ろす刀によってその放射は真っ二つに裂ける。
 なんて力だ。
 そしてそのまま京香に向かって――。

「甘いわね!」

 京香はニヤリと笑い、実里の周りに魔法陣を囲んでいく。
 すると、今さっき実里に斬られた火炎放射が魔法陣によって実里の周りを囲い――!

「うああああああっ!」

 実里を炎が包み込んだ。
 実里は叫び声を上げるも、後ろへ下がって距離を取っていった。

「み、実里ちゃん!」

 優梨の焦ったような声。
 京香は実里を逃がすことなく、肉薄していく。

 そして炎を身に纏うと、実里に攻撃を仕掛けてる。

「くっ……っ……!!」

 ダメージが大きかったのだろうか、実里は先程とは違ってギリギリといった感じで、躱していく。
 京香はそのまま刀を持つ実里の手に突きを出す。

「なっ……!?」

 反応が遅れた実里はその攻撃を受けてしまい、手から刀を離してしまった。

「これで、あんたは魔法が使えないわ――ね!」

 更に京香の攻撃は激化し、実里はひたすらに避けていくしかない。

 今、京香のやったことには二つの意味がある。
 一つは実里が魔法を使えなくなる、ということ。
 そしてもう一つは、優梨の補助魔法の効果をなくすこと。
 優梨は攻撃を一切していないことから、優梨自身に攻撃力があるとは思えない。
 つまり、実里が攻撃をできない状態になれば優梨を封じたのも同然、というわけだ。

「くっ……そっ……!」

 怒涛のような京香の攻撃に実里は円形のフィールドを周りながら躱していく。
 それは一瞬の隙も与えずにただひたすらに避けるしかないように京香は拳を固め、実里に襲いかかっていく。

 そして、もう一つ気がついたこと。

「終わりよ」
「……? ……っ!?」

 いつの間にか実里の後ろを取っていた俺に、実里は目を見開く。
 実里は俺の方へと向かって避けていき、俺もまた実里の方へと近づいていたのだ。

「しまっ――!」

 そう、実里はマジックデバイスの事をまだ知らない。

 俺はマジックデバイスを使って、読み取った雷の魔法をマジックデバイスに纏わせると、実里の首筋に当てる。

 バチッという音がして――実里はその場に崩れた。
 まずは一人、だ。

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