魔法世界の例外術者《フェイク・マジック》 - 魔力とは無力である -

風見鳩

第三種目「午後の部・玉入れ」

 午前の部も全て終わり、俺たちはテントが張ってある自分のクラスの控え室で昼食を取ることにした。
 体育祭という事でみんなそれぞれ弁当を持って来ている。
 俺はというと、料理などしたことないので、近くのスーパーにある弁当にしようとしたところ、

「ケンジくんの分も私たちで作ります!」
「え? 私“たち”? それって、もしかして、私もケンジの弁当を作るってことなの?」
「間違えました。私と京香ちゃんと千恵子ちゃんで作ります!」
「より具体的に!?」

 との事で俺の弁当は優梨と京香と豊岸の合作弁当になっていた。
 そしてその弁当は今まさに俺の目の前にあるのだが。

「…………」

 おかずはキャラ弁のように可愛らしく作られていて、野菜と鶏肉とで、バランスよく作られている。
 ご飯は牛肉を焼いて乗せた、牛丼みたいな感じになっている。
 更にスープまで作られていてポッドの中には豚汁が入っていた。

「合同で作るなら、もう少し話し合ってバランスよく作ってくれ……」

 なんだこの、どこから食べても肉が必ずある弁当は。
 俺に胃もたれでもさせる気か。

「いえ、バランスいいでしょう? 牛、豚、鶏で」
「そういうバランスじゃねえ!?」
「……と、これを京香さんと優梨さんに説明したら二人とも納得したわ」
「馬鹿ばっかりじゃねえか!」

 優梨はともかくとして、京香まで納得されるなよ。お前、Aクラスだろ。
 という風に京香を見ると、京香は「心外ね」と言いたげな顔をする。

「私はケンジに決勝前にスタミナをつけて欲しくて千恵子の案に乗ったのよ」
「……胃もたれしたら、意味なくないか?」
「…………あ」
「あ、じゃねえよ。今更か」

 最近、京香は馬鹿なんじゃないかと思ってきた。

「っていうか、私聞いてないんですけど!? 何で三人でそんな楽しそうなことしてるの!?」

 と、叫ぶのは自宅勢の三縁だった。

「いや、三縁は寮生じゃないし、というか唐突に優梨が提案しだした事だし……まあ仕方ないんじゃないか?」
「うぅー……」

 と、宥める俺に三縁は納得がいかないような顔をしていたが、急に何か思いついたようにパアッと顔を明るくする。
 三縁は自分の弁当のおかずを一つ摘まむと「はい、どうぞ」という風に俺の弁当の中に入れる。

「これで私もみんなとの合作弁当の中に仲間入りだね!」
「なんか違う気がするが……まあ三縁が納得しているならいいか」

 と、俺は三縁が入れた食材を箸で持ち上げる。

「で、三縁。これはなんだ?」
「うん? ソーセージだよ? 魚肉ソーセージ」
「また肉類か!?」

 しかも被せてないという所がむかつく!

「あら、志野くんのキャラ弁当みたいな野菜のおかず、美味しそうね……。私の豚肉と交換しましょう?」
「あ、私もそれ欲しい! ケンジ、私の牛肉と交換しましょう?」
「お前らはそんなに俺に肉を食わせたいのか!?」

 と、わいわいと食事をしている中、俺は暗い顔をして食事をするシュウを見つけた。

「ようシュウ。どうした?」
「……おお、ケンジか……」

 いつも元気なシュウがこんなにも暗くなる時があるのか……。少し気になった俺は声をかけてみると、シュウは力なく答える。
 こいつがこんなに落ち込むだなんて、珍しい事もあるな。

「何かあったのか?」
「……けた」
「え?」
「準決勝で……負けたんだ」
「シュウたちがか!?」

 俺は思わず声をあげてしまう。

 いや、確かに優梨たちが勝つ可能性があるとか、実際にシュウたちがどのくらい強いのかわからないが、俺にとっては衝撃的であった。
 なんだかんだ言いながらも、シュウは強い、というのを俺は知っているから。

「ケンジ、気を付けろ。彼女達は……手強いぞ」

 優梨と実里。
 彼女達は――手強い。

「ま、まあ、そんなに落ち込むなよ」
「いや、僕が油断したから……」
「そ、そういえば準決勝でお前の妹とあったぞ」
「何? リンにあったのか?」

 俺は何か他の話題がないかと適当に話題を振ってみると案の定、シュウはぴくりと反応した。

「おう、なかなか強かったぞ」
「ふふ、そうだろう……? あれでも魔法の方は僕と互角だったんだ……」
「ちなみに三位決定戦ではお前はリンと戦うってことになるんだぞ?」
「……そうか!」

 シュウが何かに気がついたように声をあげた。

「そうだ、僕たちにはまだ三位決定戦があるじゃないか! ここで落ち込んでいても仕方ないな!」

 ちなみに、魔法闘技大会は一位から三位までに得点が貰える、という風になっている。

「ふははは! 兄として、妹には負けてはいられないな!」
「……そ、そうだな」

 とりあえず、シュウが元気になってよかったとは別に、立ち直り早いなー、とある意味関心した。


 * * *


 昼休みは終わり、午後の競技へとプログラムは進む。
 とは言うものの、午後の競技は玉入れと魔法闘技大会の三位決定戦、決勝戦の三つしかないのだが。
 まあこの午後の方は更に盛り上がるらしいのだ。……そういうと何だか午前の部はまるで盛り上がってないように聞こえるが、決してそんなことはない。

「ようやく私の出番ね」

 と、仁王立ちするのは豊岸千恵子である。

「……って、お前、運動とか出来たっけ?」
「嫌ね、出来るわけないじゃない」
「そんな威張るように言えることじゃねえよ」

 玉入れも魔法式とは言えど体を動かすものである。
 では何故豊岸は玉入れに挙手をしたんだ?

「ふふ、志野くんは何もわかってないわね」
「そりゃ悪かったな」
「だからあなたは志野ケンジくんなのよ」
「悪い要素がどこにも見当たらねえぞ」
「わからないの? まあ、可哀想」
「どうして俺がそんな哀れみの目で見られるんだよ。……まあ、それはともかく」

 俺はちらりと自信ありげな豊岸を見る。

「どうして玉入れを選んだんだ?」
「必勝法よ」
「必勝法?」

 俺が首をかしげると豊岸は頷く。

「そう、必勝法……と言っても必ず勝つわけではないから必勝法というより戦法が正しいと言えるわね」
「戦法……」
「なんか戦法って響きが憲法に似ているわね」
「何故憲法が突然出てきたのかよくわからないけど、まあそうだな」
「そして憲法と私の名前って響きが似ているわね」
「似てねえよ全然似てねえよ。どこら辺に似ているような響きがあるっていうんだ」
「いや、千恵子せんとしすと」
「すげえ無理矢理に読ませたな。しかもとしなんて普通の読み方じゃないだろ」
「ちょっと待って。その読み方だと『戦と死す』みたいじゃない!」
「いや……それがどうしたんだ?」
「つまり私の名前は戦法に由来するとも言えるわね」
「ただのこじつけじゃねえかよ」
「と、まあおふざけはこれくらいにして。ちゃんと見ていなさいよ?」
「若干、本気だったろお前……」

 もう少しで出番である豊岸は腰を浮かせて、立ち上がる。
 と、ちょうど帰ってきた京香とばったり出くわす。

「あ、千恵子、出番なの?」
「あ、京香さん。ええ、そうよ」
「そっか、頑張ってね!」
「ありがとう。京香さん達も決勝戦頑張ってね」
「ええ!」

 なんか……二人の距離も縮まった気がするな。
 うんうん、いい事だ。

「それと京香さん。志野くんで遊ぶ計画は後ほどで」
「ええ、また、後でね!」

 それととんでもないことを考えていやがった。


 * * *


 豊岸を含む赤組がグラウンドへ入場する。
 抽選の結果、A・B・Fクラスが赤組で、C・D・Eクラスが白組とわかれた。

「豊岸はどんな作戦を立てたんだ……?」

 豊岸の言う戦法とはどんなのだろうか。
 と、少し気になる中、豊岸は大きな本を両手に何やらじっと魔法陣を見つめていた。
 ちなみにいい忘れていたが、全競技で魔法道具の使用は許可されている。

 そして審判が開始の合図である空砲を宙に向けて――――パァン!
 瞬間――突如として、赤組ゴールを守る白組と投げ入れる赤組選手の間に水の壁が湧き上がった。


 ☆ ★ ☆


 突如水の壁が現れ、白組のキーパーである結々宮 篠江ゆゆみや しのえは戸惑いつつも、壁をじっくりと観察する。
 大きさはゴールより少し大きい程度。噴水の原理を利用した魔法なのか、水は白くなっていて、向こう側が見えない。

 ――なるほど、視界を遮ってキーパーを錯乱させてからどこから来るのか見えない玉を投げ入れるって作戦か。……でも。

 篠江はニヤリと笑い、ポケットから魔法道具であるカードを取り出すと水の壁に当てる。

 ――この壁を逆に利用させてもらうわ!

 カードに書かれている魔法陣が光った瞬間。
 水は凍って、一瞬にして氷の壁へと変化した。

 ――私の得意な魔法とは相性が悪かったわね。この壁に触れているだけで、この氷の壁が崩れることはないわ。

 ボールが壁に触れた瞬間、ボールを凍らせる事が出来る魔法も発動させておき、とりあえず自分のゴールは安泰だと篠江は確信していた。
 だが、しばらくして篠江はある疑問は浮上してきた。

 ――……攻撃が全く来ない?

 そう、一発もボールが壁に当たって来ていない。それどころか選手がいる気配すらないのだ。
 篠江は今自分がここから離れて攻撃されたら、と警戒しているので壁の向こう側を覗くことができない。

 ふと、隣を見てみると、隣のキーパーも不思議そうに首を捻っていた。どうやら隣も篠江と同じように氷の壁を作ったようだ。
 更に奥の方へと視線を向けていくと――。

「なっ……!?」

 奥の二つのゴールにボールが襲いかかっていて、そこには三十人ほどの赤組――つまり敵側の攻撃選手全員が二つの箇所に集中的にボールを投げていた。
 ゴールキーパー二人は氷系魔法が苦手なのか、氷の壁が展開されていなく、他の魔法で応戦していた。
 が、数に圧されていて悪戦苦闘しているという事は篠江でも十分理解出来た。

 ――視界を遮るだけではなくて、水の壁に上手く対処できないゴールを集中攻撃する、というのが狙いだったのか!

 このままではまずい――そう思った篠江は自分の持ち場から攻撃されている最中のゴールへと駆け出す。
 見ると、他の攻撃が来ていない二人も移動していて、それぞれ応戦していた。

「手伝うわ!」

 と、篠江は一言告げて、キーパーの風魔法に氷魔法を加え、防御に徹する。
 二つのゴールには既に数十個ものの玉が入っていた。
 水の壁は消えてしまっていて、応用できないので篠江は内心舌打ちをする。

 ――とりあえず、今はゴールを守らないと!

 と、篠江は必死に魔法を使い、向かってくるボールを止めていく。
 そんな中、抱えるほどの大きな本を持った青髪の少女に目が止まる。
 彼女はキーパーである五人全員がここに集結した事を確認すると、本のページを捲っていく。
 すると、本が青白く輝き、そして――。

 ドォォォン!という何かが壊れるような音がし、篠江は思わず音の方を見てみると。

「……っ!?」

 自分の作った氷の壁が崩され、いつの間にか複数人がそこにボールを無人のゴールに投げていた。

「しまった……!」

 と、篠江は自分の浅はかな考えを後悔する。
 すなわち、敵の狙いはこれだったのだ。
 目の前の視界を遮り、それに対してのキーパーの対処を一つ一つ確認する。
 そして狙うゴールを二つまでに絞り、一斉に猛攻撃を仕掛ける。
 攻撃されてない側のキーパーが攻撃されている方へと助太刀へ向かわせる。
 そうして、今度はがら空きになったゴールに攻撃を仕掛ける、というわけだ。
 篠江のように何らかの対策をしていても、本人がそこにいなくては意味を為さないのだ。

 助太刀に来ていた二人は慌ててゴールへと戻っていた。
 篠江もすぐに自分の持ち場へ戻ろうとするが、もう手遅れだという事を察して、この場に留まる。

 ――作戦を変えよう。二つのゴールは捨てて、あと三つのゴールを五人で死守する。あとは……白組こっちの攻撃側に任せるしかない!

 と、動かない篠江を青髪少女はじっと見つめ、再びページを捲っていき、手を当てる。
 少女の目の前に水の球体が現れ、近くにあるボールを複数球体の中に取り入れていくのを見て、篠江はカードを構える。
 そしてボールを含めた球体が放たれ、ゴールへと入る前に篠江はカードを持っている手を伸ばす。
 篠江の魔法により、球体は凍って相手の攻撃を防ぐことが出来た。
 ……だが。

「これって……!」

 凍らせた球体の中にある十個はあるだろう、ボールを見て篠江は目を見開いていた。
 玉入れのルールとして、玉に書いてある番号のゴールに入れないと無効とされる。
 そのゴールに入れても得点に入らないボールだけが球体の中に入っていた。
 つまり今の攻撃は全くの意味が無いこと。そして――。

「くぅっ……!」

 迫り来る本当の攻撃に篠江は手を伸ばす。
 いくつか攻撃は防げたが、数個はゴールへと入ってしまった。
 青髪少女はチッと舌打ちすると、次の攻撃を始める。
 とりあえず守るしかない篠江は必死に攻撃を防ぐ事しか出来なかった。


 結果、赤288対白183で、赤が百の差を付けて圧勝した。


 * * *


「ただいま戻ったわ」
「おかえり千恵子! なかなか良い作戦だったわね!」

 競技を終え、帰ってきた豊岸を京香は笑顔で迎えた。

「そんな対した事はないわよ」
「それでも勝ったじゃない! 対した事よ!」

 とクールに返す豊岸だが、少し嬉しそうにも見えた。

「ところで私たちと同時に行ってた棒倒しの結果は?」
「三位だってよ」
「私たちは一位だっていうのに、奴らは何をしているの……!?」
「そりゃまあお前の競技は一位かビリの二択しかないからな」

 棒倒しの方だって必死にやっていたんだぞ。

「まあ、私たちは勝ったんだから、当然志野くんたちも勝つのよね? 決勝戦」
「当然よ!」

 と、京香が答えて俺も頷く。
 折角決勝まで来たんだし、勝ちたいしな。

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