魔法世界の例外術者《フェイク・マジック》 - 魔力とは無力である -

風見鳩

第二種目「午前の部・障害物競走2」

 以前、三縁に聞いた事がある。

「なあ、三縁の得意な魔法ってなんだ?」
「んん? 興味あるの、ケンジくん?」
「まあ、お前だけ得意な魔法がわからないし、少し気になるからな」

 と言う俺に三縁は「それなら教えてあげよう」とニコニコとしながら言う。

「私の得意な魔法はざっくりと言ってしまうと『特にない』んだよ」
「……え?」
「ここだけ聞くとケンジくんとお揃いだね。ペアルック、ペアルック!」
「いや、ペアルックとは少し違うんじゃないか……?」

 あくまで同じというだけで――いや、同じ?
 いや、同じなわけがない。魔法が使えないのは俺だけのはずなのだから。

「まあ正確には『どれも平均的で特に秀でている部分はなく、特にない』なんだけどね」
「なるほど……全能ってやつか?」
「いやいや、全能だなんて。私はパーフェクトじゃないから」

 と、三縁は手をぶんぶんと横に振った。

「ただ、全ての魔法において、人の平均以上を持っているだけってこと」

 つまり魔法は全ての種類で少し優秀である。だが、特に秀でて伸びている魔法はない――ということか。
 確かにそれは全能ではないな。
 だが――万能ではあるな。

「まあそんなこんなで、私はどの部分も変色なんてしない、普通の子なんだよ」

 三縁は黒いツインテールの片方をくるくると弄りながら黒い瞳で俺に笑いかけた。


 * * *


 爆発の衝撃と共に吹き飛ぶように三縁は真っ先に前へと駆け出す。
 そして三縁の手のひらが少し光ったと思うと、黒い煙が三縁の走った跡の所に立ち込められた。

「煙幕……」

 そして何故か地面に飛び込むような形をとり、そのまま前転をする。
 いや……今の必要あったか?
 ただのパフォーマンスかよ。

 と、独走している三縁の後に煙幕の中から他の選手である男子が飛び出してくる。
 三縁に狙いを定め、魔法を発動とした――その時。

「なっ……!?」

 その男子の足下が光ったと思いきや、男子の靴が凍らされていく。
 そしてそのまま氷はその足下を中心に周囲の地面を凍らせる。

「きゃあ!?」
「うおっ!?」

 そしてその氷の地面に足を滑らせ転倒する人たち。

「これは……」
「三縁の仕掛けた罠ね」

 と、横にいる京香が教えてくれる。

「魔法陣をいつでも発動できる状態に仕掛ける。そしてそれを他の人が踏んだ時に……」
「……その人の魔力を使って魔法を発動させるってわけか」

 魔法を発動させるのに、意思はいらない。体のどこかに魔法陣が触れていれば魔法は勝手に発動するのだ。
 では靴を履いていた男子が何故発動されたのかと言うと、それは履いている靴にある。
 例えば加速魔法を発動させようと地面に魔法陣を描いたとして、普通の靴のまま踏んでも加速魔法は発動されない。
 そこで、ある魔法道具を販売する会社が発明した靴――魔法靴を発明する。
 魔法靴を履いたまま魔法陣を踏むと、魔法は展開されるのである。
 そしてその魔法靴は絶大な人気を出し、今や学校指定の運動靴や、私的に魔法靴を持っていない人はいない程である。
 桟橋学園の運動靴も魔法靴であり。
 だからあの男子は靴を履いている状態でも魔法を発動させられるようになっていたのだ。



 三縁はその後も宙返り、バク転と、パフォーマンスをしながらコースを走っていく。
 ……いや、確かに故意に足を止めてないけど。観客は結構盛り上がってるけど。普通に走れよ。

 と、そんな三縁の後を他の選手たちが追いかけてきた。
 いや、ただ単に走ってない。足下を見て魔法陣トラップが描かれてないかと注意しながら走っている。しかしそのせいか、少し走りづらそうである。
 と、まだ誰も触れてない地面から突如魔法陣が光りだし、白い煙を出し始めた。
 突然の出来事に戸惑う選手たち。
 それもそうだ。足下を煙で隠されたら――仕掛けてあるかもしれない魔法陣が見えなくなるから。

「っていうか、まだ誰も触れてないのに、どうやって……?」

 と疑問に思う俺に、

「時間差魔法よ、志野くん」

 と、返してきたのはいつの間にか近くに座っていた豊岸だった。

「時間差……?」
「そう、魔法陣に魔力を流し込み、一定の時間経ったら発動させるっていう魔法よ」
「そんな事、出来るのか?」
「現に出来ているから言ってるんじゃない」
「…………」

 確かにそうだった。
 三縁以外の選手たちは戸惑いながらもそのまま闇雲に走っていく。どうやら罠とか、考えるのをやめたらしい。

 そしてその途中バヂッと痺れるような音がしたのかと思うと選手の一人の足が痺れて足を引きずる羽目になり、パァンッという爆発音に飛び上がる選手もいた。

 人というのは自分の得意分野に偏ってしまう傾向があり、魔法も大体の人は得意な魔法を主軸として使う。京香や豊岸とかも同じだ。――しかし。

 得意な魔法がない三縁だからこそ、出来る事。

 煙魔法で見えるものを隠し、氷魔法で凍らせ、雷魔法で痺れさせ、火魔法で小さな爆発を起こさせる。

 三縁の魔力――万能である所以に発揮される。

 そうして、三縁は独走状態でゴールした時。

 観客から盛大な拍手が送られ、周りの人も拍手し始めたので、つられて俺も手を鳴らすのであった。


 * * *


「ケンジくーん!」

 障害物競走後、帰ってきた三縁がこっちにブンブンと手を振りながらやってきた。

「どうだった、どうだった? 三縁っちの活躍は!」
「ああ、かっこよかったぞ」

 三縁の質問に正直な感想を言うと、三縁は嬉しそうに笑う。

「でしょでしょ? そんなヒーローである三縁っちが君に握手をしてあげよう!」
「よくわからないが、話が飛んだな。……まあ、握手くらいなら」

 俺は手を差し出し、三縁は嬉しそうにその手を握る。
 そして次の瞬間、握手した手が凍りついた。

「ちょっ! つめたっ!」
「あははー! ケンジくんゲットー!」
「ゲットじゃねえよ! 溶かせ!」
「むー」

 仕方ないなあとばかりに三縁はもう片方の手を合わせると、氷魔法は溶けていった。

「はあ……。ところで三縁、ずっと気になってたんだが、どうやってお前は魔法を使ってるんだ?」
「ん? あぁ、これだよこれ」

 と言ってみせてくれたのは手のひらより小さな四角形のプラスチックだった。

「……なんだこれ?」
「私の自家製魔法道具だよ!」

 ふふんと得意げに鼻をならす三縁。

「一つ一つそれぞれ違う魔法で作られていて、しかも使い捨てタイプにもなる魔法道具なのだ!」
「へえ、自分で作ったのかこれ……」

 まじまじと四角いプラスチックを見る。
 確かに若干の手作り感はあるが、それでも良く出来てるなと感じた。

「なるほど……これなら魔法を気付かれずに使うことが出来るのか」
「そうだよ!」

 ということはあのパフォーマンスのような動きはしなくていい行為ではなかった、ということだ。
 あの動きをカモフラージュにして、地面にこれを仕込んだのだから。

 ゴールデンウィークの時も恐らくこれを使ったのだろうか。

「ふっふっふ、これでイタズラし放題なのだ!」
「いやいや、イタズラに使うなよ……」
「えっ、イタズラに使わなかったら何に使うの?」
「さも魔法がイタズラの為にあるみたいな言い方だな」
「魔法っていうのはイタズラが起源なんだよ! きっとそう!」
「現代の技術はそんなものを元に生まれたのか……」
「ケンジー! 二回戦いくわよー!」

 と、会話していると京香が走ってきた。

「あ、三縁! 一位おめでとう、凄かったわね!」
「いやいや、そんな褒められることじゃないよー」
「そんなことないわよ。私たちも一位取るからね!」
「おー、頑張って京香っち!」
「さあ、行くわよケンジ!」
「おう」
「二人とも、ファイトー!」

 と、意気込んでいく京香の後を俺はついて行った。


 * * *


「終了!」

 という審判の声が部屋に響く。

「ふう……」

 京香は纏っていた炎を消す。

「無事二回戦突破ね、ケンジ」
「ああ、そうだな」

 俺はちらりと床で倒れている相手の男子二人を見ながら返事をする。
 戦い方はさっきと同じく俺が囮となり、その間に京香が倒すという感じだった。

「準決勝はすぐですので、お二人共は次の場所に移動してください」

 という先生に従い、俺たちは教室を出て移動することにする。

 そうして廊下を歩いていると、シュウとばったりと出くわした。

「おお、ケンジではないか!」
「ようシュウ。お前は勝ち進んでるか?」
「はっはっは、無論だな! この僕たちが負けるはずがない!」
「だよな大崎!」

 ハイテンションなシュウと隣には同じくテンションの高い例のじゃんけん大会で勝ち残った鈴谷。

「確か鈴谷の得意魔法は氷、だっけ」
「おうよ! 大崎とのコンビで相手を一瞬で終わらせるぜ!」
「コンビか……なんか手ごわそうだな」
「そういう志野こそちゃんと勝ってるんだろうな?」

 と、鈴谷が厳しく俺を見ると、隣にいた京香がやれやれとという風にため息をつく。

「私がいるのに、負けるわけがないでしょうが」
「だよな! というかお前らが決勝まで勝ち進まないと意味がないからな!」

 どうして俺らが勝ち進まないと意味がないのかを聞きたいところだったが、敢えて聞かないことにした。

「僕たちはこれから準決勝だが、ケンジたちは?」
「ああ、同じくだ」
「そうか、お互い頑張ろうではないか! では決勝でな!」

 と、シュウたちは立ち去っていった。
 そしてそれに着いていくかように優梨たちとばったり出くわす。

「あ、ケンジくん、京香ちゃん!」
「おう、優梨か」
「私たちはこれから準決勝なんです!」
「へえ、そうなのか……」

 という事は、向かっている方向的にシュウチームと優梨チームが戦うのか……。
 と、思案している俺の顔を見て頭に「?」マークを浮かべているあどけない少女を見る。
 ここで優梨たちは負け、かもしれない……。いや、まだ決まったわけじゃないな。現にこうして勝ち進んでいるんだし、彼女たちにも実力はあるはずだ。

「優梨たちも勝ってきたのか」
「はい、実里ちゃんのおかげですよ!」
「いや、そんなんじゃないよ。優梨ちゃんの魔法が優秀だからね」

 と、優梨の言葉に少し照れる実里。

「京香ちゃんたちも勝ってきたんですね!」
「まあケンジのおかげよ」
「いや、そんなんじゃねえよ……」

 と、京香の言葉に少しも賛同できない俺。
 今のところ、京香が全部やっているからな……。

「謙遜している辺りがそっくりです」
「やっぱり似てるわね」
「「いやいや、そんなわけないから」」

 こいつと違って、本当に役にたってないしな。

「じゃあ、二人共頑張って下さい!」
「ええ、優梨も頑張りなさいよ」

 と優梨たちは歩いていき、俺たちも自分たちの行くべき場所にへと足を進めた。


 * * *


「うーん……」
「どうしたのよ、ケンジ?」
「よくみんなは平気で戦えるなあって……」
「はあ?」

 俺の言葉に京香はわけがわからない、という風な顔をする。

「いや、例えば優梨と戦うって事になると、どうもやる気が出ないというか、抵抗感があるというか……」
「……わからないわね。いい、ケンジ? これはあくまで“演習”よ? 実践じゃないんだから。魔力抑止空間があれば絶対に安全は保証されているのよ?」

 京香は諭すように言うが、俺にはどうにも納得できない。

「確かに知っている相手でも同性なら遠慮なんてしないんだが、異性だとな……」
「うーん、男子っていうのはわからないわね……」

 と、話していると目的地である体育館にたどり着き、中へと入る。
 体育館もかなりの大きさで観覧席もあるという、なんとも豪華である。

「うおっ、観客もいるのか……」
「準決勝となればそうなるでしょうね」

 保護者だけかと思いきや、体操着姿の生徒もいたりと観客席は半分と言った感じで埋まっていた。

「ケンジ、今回はデバイスを使いなさい。私一人じゃどうにもならないかもしれないし」
「ああ」

 俺はあらかじめ朝から電源を入れていたマジックデバイスを体操着のポケットから取り出す。

 少し体育館内で待っていると、相手がやってきた。
 相手は女子二人。俺はそのうちの一人に目が奪われる。

 サイドテールの白髪、整っている顔、どことなく似ているこの感じ。

「えっと……そこのあんた」

 と、京香も疑問に思ったのか、その女子に話しかける

「え? あたし?」
「そうそう。あんたの苗字って“大崎”だったりする?」
「そうだけど何で……ああ、“お兄ちゃん”の知り合いか」

 なるほどといった感じで手をぽんと叩く女子生徒。

「えっと、Cクラスの大崎リン、です」

 そう、あの同じクラスである大崎シュウの妹だった。
 それにしても……。まじまじと俺は彼女を見る。

「「似ている……」」
「いや、あんな馬鹿なお兄ちゃんと一緒にしないで」

 俺と京香のハモった台詞にシュウの妹――リンは心底嫌そうな顔をする。
 なるほど、シュウは妹にすら変な目で見られているのか……まあ、あの性格じゃ当たり前か。

「では準決勝を開始します」

 と、審判の教師が入ってきたので俺たちは一旦会話を中断する。
 さて、俺にとってはある意味で初の戦闘だ。気を引き締めなくては。

「では……開始!」

 と審判が手を挙げたと同時にリンは動いた。

 グローブを嵌めている手を思いっきり振りかぶってきて、俺はほぼ直感的に真横に避ける。
 すると、ドオン、と体育館の壁から音がした。

「なるほど、得意魔法は同じく風、なのか……」
「お兄ちゃんと違って、あたしは接近戦も得意よ!」

 と、駆けてくるリン。
 なるほど、あいつの魔法道具は両手に嵌めているグローブか。

「京香、こっちは任せろ。お前はもう一人を頼む!」
「わかったわ!」

 京香は頷き、後ろにいるもう一人を相手に駆け出す。
 リンは拳を固め振りかぶり、俺は避けていく。
 京香との特訓で接近戦は鍛えられている。俺はリンの繰り出す攻撃を一つ一つ確実に躱し、隙を図る。

「なかなか、やるわね!」
「お前も……な!」

 リンは攻撃を休める暇もなく攻撃を仕掛けてくる。
 まずいな……なかなか隙がない。

「さっきから避けてばっかりだけど、攻撃してこないの?」
「そう慌てるなよ、っと!」

 俺はマジックデバイスで風魔法の衝撃波を繰り出す。
 リンは手を交差させ、風魔法で防御する。

「あたしと同じ魔法……!?」

 と、リンは少し驚き、俺を見る。
 俺は手を休めることなくリンに風魔法を連続で射出する。

「くっ――!」

 それでもリンは俺から距離を置き、全て躱していく。
 流石、シュウの妹、といったところか。反応も動きも早い。
 だがな――。

「これは“団体戦”なんだぜ?」
「……っ!」

 リンは後ろを振り向くと、そこにはもう一人の相手が倒れていた。
 そう。狙ったのはリンじゃない。リンの真後ろで京香と戦闘していた、もう一人だ。

「ゲット、だ」
「なっ!?」

 一旦、距離を置こうとするリンの腕を掴み、その掴んだ左手に右手で持っているマジックデバイスを当てる。
 パキイッと音を立て、氷魔法が発動してリンの腕を凍らせた。

「京香!」
「わかっているわよ!」

 京香は加速魔法を使い、リンに接近する。

 リンもイチかバチかでまだ動ける腕を構え、迎撃態勢を取る。

 京香が手に炎を纏わせ。
 リンが手に風を纏わせ。
 二人の拳が交差した。

「……ふう」

 俺は大きく深呼吸するとデバイスをリンの腕から離す。
 すると、リンはその場で力が抜けたように倒れ込んだ。

「準決勝突破だな、京香」
「ええ、私たちの勝ちね」

 京香がニッと笑った。

「終了!」

 こうして、俺と京香は決勝への進出を決めたのだった。

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