魔法世界の例外術者《フェイク・マジック》 - 魔力とは無力である -

風見鳩

●理事長の言葉「魔法学講座2」

「やあやあ生徒諸君。
「お久しぶり……いや、そこまで長くはないかもね。
「ではでは楽しい楽しい体育祭を始める前に、楽しい楽しい理事長の講義が始まるよ。
「え? つまらないって?
「いやいや、これも一旦の休憩だと思って、気楽に見てくれるといいよ。
「あくまでも気楽に、ね。
「考えすぎは駄目だよ?



「では今日は“魔力”について。
「ん? それはこの前話したって?
「いや、あれが全てじゃないよ?
「まだ魔力については『全人類の体内にある魔法に必要なもの』としか言ってないからね。
「魔力の“性質”については――まだ言ってないだろう?
「うむ、では始めようか。
「M原子とは“万能原子”だと教えたね。
「なら魔力は、なんなのだろうか、と聞かれると。
「いわば“エネルギー”だよ。
「運動・位置・弾性・化学・イオン化・原子核・熱・光・電気・静止・音・ダーク。
「M原子が“どんな原子にでもなる”のであれば。
「魔力は“どんなエネルギーにでもなる”のだよ。

「例えば氷を作るとき。
「簡単なのは『水を冷やして融点に達す』だ。
「しかし、それには水を冷やすというエネルギーが必要になる。
「そこで魔力の出番。
「まずは水を作る魔法陣を描く。
「そしてその次に温度を冷やす意味を表す魔法陣も描く。
「そうして魔法を起動。
「それだけ。
「魔力は書かれた通りのエネルギーへと変化し、魔法陣に魔力が流し込まれる。
「そうすることによって。
「瞬く間に氷が完成するんだよ。

「他にも『魔力のもつエネルギーだけを使う』魔法陣もあるんだ。
「例えば――そうだね、ケンジくんと千恵子ちゃんが会った第35図書館の時を思い出して欲しい。
「あの時、千恵子ちゃんは位置エネルギーを使って本を浮かせていた。
「千恵子ちゃんがそれをする為に使った魔法の解説をしよう。
「まずは『空間を選択』。
「そしてその空間に『位置エネルギー』を送り、重力に逆らうような形をとって終了。
「ね、簡単でしょう?
「いやいや、簡単じゃないよ。
「え? たった二動作だけ?
「確かにそれはそうなんだけど――普通に見れば簡単なんだけど。
「実は空間を選択するという行為はとても難解なんだよ?
「確かにその物体に“触れていたら”誰だって簡単にできる。
「でも千恵子ちゃんは“触れてないで”魔法を発動させた。
「言わば遠距離法と呼ばれるやつなんだ。
「ただ、この方法は非常に高度な魔法が必要でね。
「彼女は相当優秀であるという事がわかる話だよ。
「さすがAクラスだね。

「さて、これらの魔力が持つ“性質”――すなわちエネルギーの事を。
「“魔力エネルギー”と呼ばれる。
「はいここテストに出るよー。
「ノートにチェックだよ?
「いいかい?



「さて、今回はここまで。
「どうだい? 今回は前回より短かっただろう?
「楽しい楽しい体育祭の時に、理事長の話が長いとつまらないからね。
「ではみんなも魔法体育祭を楽しむように。
「じゃあ、号令……は、今回はなしで。
「また次の講義で会おうね」

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