魔法世界の例外術者《フェイク・マジック》 - 魔力とは無力である -

風見鳩

開会の辞「ゴールデンウィーク 2日目」

 ゴールデンウィーク二日目。午後九時二十五分。
 今日もいつもの寮の玄関口での集合だという事で指定された時間の五分前に行くと、はたして秋原三縁は既に待機していた。
 比良坂先輩と仲良さげに話していながら。

 ふむ。
 俺の同じ学年で知り合いの女子四人の身長はそこまで大差ないと思っていたが、一番背が高いのは三縁かもしれないなと比良坂先輩と背が少ししか変わらない三縁を見る。
 ちなみに当然といえば当然だが比良坂先輩は更に身長が高い。下手すれば俺を越してしまうぐらいに。

「あ、来たわよ」
「おっはよーケンジくん!」

 と、そんな俺に気がついた比良坂先輩と元気に手をブンブンと振る三縁。手を振っている反動か、彼女のツインテールも揺れている。

「じゃあまたね三縁ちゃん」
「またねーやよいっち先輩!」

 と、ここで比良坂先輩は退場。というか、何で毎日この玄関口にいるんだあの人は。

「いやあ、いい寮長さんじゃないですか、ケンジくん!」
「ん? お前もこの寮だろ?」
「え? いやいや、私は自宅勢だよケンジくん」
「それで、なんでお前は俺が女子寮で暮らしているのに違和感がないのか!?」

 確か最初の自己紹介の時にうっかり彼女に「優梨と同じ寮に住んでいる」ということを口走ってしまい、それでも三縁は何の追求もしてこなかったから「ああ、こいつも同じ寮生なのか」って思っていたのだが……その認識はどうやら間違いだったようだ。

「え? うわあ! そういえばそうだ! 何でケンジくんが女子寮にいるの!?」
「反応がおせえよ! なんで最初から疑問に思わないんだよ!」
「いや、特に考えてなかったし。『ふうん、そっかー』程度しか」
「…………」

 もしかしたら、馬鹿なのかもしれない。Aクラスなのに。

「まあそれは置いといて。五分前行動とは偉いね、ケンジくん!」
「そういうお前はもっと早く来ていたけどな」
「うん? だって私は三十分前行動だし?」
「早すぎるだろ!」
「ただし遊ぶ時に限る」
「ただ、早く遊びたいだけじゃねえか!」
「ところでどうだい? 私の私服は?」

 と三縁はくるりとその場で一回転するが、回転力がありすぎてその後も勢い余って何回転もしていて、バレエのように見えた。
 薄い青の服に下は膝丈から上の、青いスカートを履いていた。スカートは裾の部分になればなる程、広がりを感じる。

「それをフレアスカートというのだよ、ケンジくん」

 と、三縁は得意げにふふん、と鼻を鳴らす。そのいらない情報はどうでもいいとして――

「そういうスカートで回転するんじゃねえよ……」
「うん? どうして?」
「だって、その――見える、だろ」

 俺はぎこちなく返す。俺だって男。そういうのにも反応してしまう。

「え? ああ、パンツ? ケンジくんにだったら別に見せてもいいけど?」
「お前ももう少し恥じらいとか感じろよ!」

 なんで俺の周りはこう、恥ずかしいという感情がないんだ! 京香とか、優梨とか!

「さてさて、立ち話もなんですし、早速参りましょうか!」
「俺はもう既に起きて半日を過ごした気分だ……」
「あっはっは、まだまだですなー少年! もっと体力をつけなさい!」
「…………」

 必要なのは体力じゃなくて精神力だと思う。
 そうして出ていこうとした矢先に、またいつもの女子グループが目撃。

「今日も違う女の子!?」
「モテモテだねえ志野くん」
「…………」

 どうか見ないことにして立ち去って欲しかった。


 * * *


「ところでケーキ屋って……どこに行くんだ?」

 と、俺が一応という感じに聞くと、「よくぞ聞いてくれました!」とばかりに元気にこちらを向く三縁。

「最近、駅前に新しいケーキ屋さんが出来たのだよ!」
「へえ、昨日豊岸と駅まで行ったけど気がつかなかったなあ……」

 そもそも駅の予想外の大きさで気を取られていた。

「というかケーキ屋って。別に新しい店が出来たところで今までのと味とかそこまで大差ないだろ」
「わかってないなーケンジくん。乙女心と呼ばれるべきものを」

 乙女の恥じらいと呼ばれるべきものをわかってない奴に言われたくない。

「女の子はね、味とかじゃなくてその店の雰囲気を楽しむ為に行くようなものなんだよ」
「へえ……」

 個人営業のラーメン屋それぞれの雰囲気の違い、という感じなのだろうか。いや、でもラーメンは味も重要だしなあ……。

「まあまあ。この三縁っちに任せたまえ」
「何を任せればいいんだよ」
「うーん……ケーキを食べさせる、とか?」
「俺は一人じゃ食えないのか……」

 と言いつつ、目的地へと到着する。



 見た目は確かに女子が来そうな、オシャレで少し小さめな店である。名前もよくわからない、外国語だ。
 意気揚々と入っていく彼女に続き、中に入る。
 中もなかなか落ち着いた雰囲気であり、開店してからまだそこまで時間が立っていないのか、店内には誰もいない。

「さあさあ、どれを頼む? 何でも注文したまえ、ケンジくんの財布から奢ってあげよう」
「それって、要するに俺が奢るって事じゃねえか。そうだな……」

 と、俺はざっとメニューに目を通す。そして、あることに気がついた。

「ケーキってパンケーキのことだったのか」
「そうだよー。気がつかなかったの?」
「そりゃ省略されてたらわからないな」
「いやいや。そんな略語、もっと昔からあったよ。きっと、かの有名な『パンがなければケーキを食べればいいじゃない』という名言の中で出てくるケーキも『パンケーキ』の事を指していたんだよ」
「そんな昔からパンケーキってあったのか?」
「パンケーキの歴史は古代エジプトまでさかのぼります」
「マジで!?」

 驚愕の事実である。

「ケンジくんは歴史に弱いからなあ」
「いや、近代が特に弱いだけであって、そんな歴史は習わねえよ」

 最も、記憶のない俺だからわからないが、もしかしたらどこかで習っているのかもしれない。

「で、ケンジくんは何を頼むの?」
「じゃあ、このフルーツが沢山乗っていそうなやつで」
「オーケーオーケー。すみませーん!」

 と三縁は手を挙げ女性店員を呼び、いくつか注文をする。
 程なくして二つのパンケーキがテーブルに並ぶ。……のだが。

「随分とボリュームがあるな……」
「そうでしょー? これが美味しいんですよ、また」

 目の前に現れたのは山盛りと言ってもいい程の生クリームが立体的に乗っており、その周りにフルーツが色とりどり盛り付けてあった。
 三縁の方も見てみると生クリームにチョコレートソースがかかっていて板チョコなどが刺さっている、なんともチョコづくしなパンケーキだった。

「チョコレート、好きなのか?」
「うん、甘いもの全般はね!」

 三縁は目を光らせて早速パンケーキを食べているので、俺も一口サイズに切って、口に運ぶ。

「あ、美味しいな」
「でしょでしょー」

 ニコニコとしながら三縁はパンケーキを口に運ぶ。あっちも、美味しそうだな……。

「ん? 何でジーッと私のケーキを見て……ああ、欲しいのかこっちも」
「い、いやそういうわけじゃないし……」
「まあまあそう言わずに。はい、あーん」

 と、三縁は自らのフォークにパンケーキを刺して俺の方に突き出す。

「って、いやいや! いいから! なんなら自分で取るから!」

 と、こんな恥ずかしいこと出来るものかと俺は手に自分のフォークを持つが、

「そんな遠慮しないのっ。ささっ、どうぞ」

 パキィッ。
 という音と共に、唐突に三縁の手に重ねられた俺の手が急に動かなくなり、急激な冷たさを感じる。

「――!」

 見ると、俺の手とテーブルが氷で縫い付けられているかのように凍らされていた。
 氷の魔法。しかも発動するところすらわからないくらい器用に凍らされていたのである。普通、そこまでするか!?

「はい、ケンジくん。あーん」

 こうなったら拒否していても仕方がないだろう。

「あ、あーん……」

 他の術なく、俺は大人しく口を開けると、三縁は嬉しそうに俺の口にパンケーキを放り込む。
 なんという、屈辱……。

「お、ケンジくん。ほっぺたにクリームがついてますよ? 取ってあげましょう」

 と、三縁は俺の手が動かないことを良い事に、紙ナプキンで俺の頬についたクリームを拭き取る。
 そんなやりとりをじーっとみる女性店員たち。やばい、めちゃくちゃ恥ずかしい。

「これでよし、と」

 と、満足そうに三縁が凍った俺の手から手を離す。すると、氷は瞬時に溶ける。

「美味しかった?」
「……あ、ああ」

 今のは一体、何だったのだろうか。魔法陣を描いた様子も見られないところを見ると、明らかに魔法道具なのだが――。

 まあ、今はそんなのどうでもいいか。

「じゃあ代わりにケンジくんのパンケーキも欲しいな!」
「勝手に取っていいぞ」
「きゃー。手が動かなーい」
「…………」

 自分の手を凍らせてまで、同じ事をしろというのか。
 俺はため息を吐いて、三縁の口元へと運ぶ。三縁は嬉しそうに食いついてきた。
 その様子は、なんだろう、餌にかかる魚の姿が頭の中で想像された。

 その後も食べていきしばらくの雑談。

「豊岸って、意外とオシャレだったんだな」
「おっ、ケンジくんも気がついた? そうそう、千恵子っちって女子力高いんだよねー」
「二人は仲いいのか?」
「うん、入学式初日からだけどね」
「まあ、俺と京香みたいな感じか……」
「いやいや、二人程ラブラブではないですよー」
「誰がラブラブだっ!」
「いや、本当に周りからしたらアツアツだよ? 熱々あつあつ、火炎魔法が得意な京香っちだけに」
「あまり上手くないぞそれ」

 と、まあこんな感じに二人で話していて、正午を過ぎた頃に三縁が立ち上がる。

「さて、次のところへ行きますか」
「次は何処へ行くんだ?」
「ゲームセンター!」
「…………」

 一気に男の子っぽい雰囲気の場所へ向かうことになった。


 * * *


 移動してすぐ近くにあったゲームセンターの中にあるのはガンシューティング、レースゲーム、音ゲー、クイズゲームなど、色々と置いてある。
 三縁は「どうせなら全部回ろう!」という案で、ほぼ全てのゲームを嗜む。
 そして――全て負けていた。

「く、くそうっ……」
「あははー、弱いですなケンジくん」

 ニコニコと余裕そうに笑う三縁。つ、強い……。

「まだだ! まだ、あれがある!」

 と、ガンシューティングゲームを指差す俺。
 これが最後のバトル。ここで負けるわけにはいかない!
 と、負け続けた悔しさに燃える俺と「うん、いいよー」というお気楽そうな三縁。
 お金を投入し、ゲームスタート。
 よし、ガンシューティングなら昔やったことがあるから大丈夫なはず――ん? やったことあったっけ?

「ケンジくん、始まったよ?」
「――!」

 おっと、いかんいかん。考えている場合じゃない。俺は画面に映る的に銃口を向け引き金を引く。
 どうやらこの手のゲームは昔にやったことがあるようで体が覚えていた。

「おおー、これは強いねケンジくん!」

 と言いながらも三縁の方がスコアが高い。

「くっ……」

 このままでは負ける――そう思った俺に、あるアイデアが思い浮かぶ。

「三縁!」
「ん?」

 これは卑怯だけど――さっきの仕返しだ!

 俺はポケットに手を突っ込んでそれを取り出すと、銃を握っている三縁の手に当て、発動する。

「ちょっ――!」

 パキィッという音と共に三縁の手が凍り、動かなくなる。
 その隙を見逃さずに、俺は次々とターゲットを仕留める。
 そしてゲーム終了――俺の勝ちだ。

「ずるい、ケンジくん!」
「はっはっは、負け惜しみを」

 不満そうな三縁に俺はわざとらしく高笑い。
 まあ本当はあまり使いたくなかった手だけど――今日は彼女にされるがままだったので最後くらいは、という無駄な負けず嫌いが湧き上がったのである。

「まあ楽しかったし、いいか」

 と、当の本人も気にしておらず「ところで」と俺の手に持っているもの――マジックデバイスを見る。

「電源つけてないと読み取れないんだよね、それ? いつも電源を入れたまま携帯しているの?」
「え? ああ、なんかその方がしっくりくるような」

 それが普通のような。

 そんな感じがして、いつも電源を入れたままでいつでもポケットに入れているのだ。

 それに関しては違和感はないし、むしろそれが当たり前のような気がしている。


「ふーん、そっか。――じゃあそろそろ帰りますか!」
「ん? いいのか? 時間的にはもう少し遊べるぞ?」
「出来ればそうしたいんだけどねー。財布がすっからかんです」
「あー……」

 と、よく見れば俺の財布の中も結構危なかった。

「じゃあ帰るか。送っていこうか?」
「え? いやいや、学校まででいいよ。悪いし」
「ん、そうか」
「ケンジくん」
「ん?」
「今日はありがとね! 三縁っちは満足です!」
「……おう。俺も楽しかったぞ」

 とゴールデンウィーク二日目はここで終わった。

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