魔法世界の例外術者《フェイク・マジック》 - 魔力とは無力である -

風見鳩

京香の異変5

 あの後、俺は死んだように眠っていたらしい。まあ、最近よく寝れなかったからであろう。

 だから俺が目を覚ましたのは午後3時半を過ぎた時だった。……が、あまり快適な目覚めとは言えないと断言出来るのは確かだ。

 何故ならば。

「起きなさい!」
「ぐぇっ!」

 いきなりバンッという大きな音を立てて女子の大声が聞こえたと思うと、脇腹に衝撃が走り、俺はそのままベッドの向かい側の壁にぶつかった。

 どうやら俺が気絶してから誰かが俺の部屋まで運んでくれたらしい。――まあそれについて、今は置いといて。

 俺は目を開け、目の前にいる少女を見る。

「き、きょうか……」
「おはよう、ケンジ。目覚めはどう? きっちり起きることが出来たでしょ?」
「た、確かに起きる事は出来たが、目覚めは最悪だな……」
「何よ、あたしのドロップキックに不満でもあるっていうの?」
「起こす時にすることじゃねえだろ、それ」

 完全に起きた俺はそのまま立ち上がる。よくみると、いつの間にか寝巻きに着替えられていて、壁にはボロボロになった俺の制服が。

「あー……」

 学ランのところどころが裂けたり、焦げたり、穴が空いていたりととても着る物とは思えない状況だった。
 まだ一ヶ月と少ししか着てないのにもうこの有様だ。これ、どうすればいいんだろうなあ……。
 そして再び京香に視線を向ける。

「?」

 あのパジャマは流石に捨てたのだろう、新しいパジャマ姿となっている。大した怪我はしていないらしく、数箇所に湿布が貼ってある程度。さっきの行為からしてもう普通に体を動かせるのだろう。
 そんな風に見ている俺に何をしているのだろうとばかりに不思議そうな顔をする京香。
 まったく……お前のせいでこっちはどんだけ心配したと思ってんだ。そんな気楽な顔をしやがって。
 でも、まあ――

「よかった……」

 本当に――本当に、元気になって良かった。

「え? 何が?」

 と、当の本人はよくわかっていない模様。なんでわからないんだ、こいつ。鈍すぎだろ。

「……いや、何でもない」
「そう。それよりあんた、あたしが寝込んでいる間ずっと稽古サボってたんだって? 優梨から聞いたわよ?」

 ずずいっと、身を寄せる京香は何だかお怒りの様子だ。

「い、いや、あれは身に入らなかったというか、なんというか……」
「言い訳は無用! サボった分は、きっちりとやるわよ!」
「わ、わかった……ああ、そうだ京香」

 京香が「何?」と聞いてくる。

「稽古の事なんだが――炎系の魔法を使ってもいいぞ」
「えっ」
「いや、トラウマだからって逃げてばっかりじゃ良くないだろ? そういうのは克服しておかないと、強くはなれないからさ」

 これは建前で、本当は今回みたいな事が起きないようにする為だった。……まあ、建前の方も結構重要だったりするが。

「…………」

 京香は少し考えるような素振りをすると、やがて「そうね」と納得する。

「確かにただ強くなったところで弱点があるんじゃ、どうしようもないわね。その弱点を無くす、補うものがないと意味がないわ」
「おう」

 よしよし、納得してくれたようで何よりだ。京香は立ち上がり、部屋のドアへと体を向ける。

「じゃあ私はまだやる事があるから。また夕食の時にでも会いましょう」
「わかった」
「そ、それと……ありがと」
「え?」

 なんだ? 俺は何かお礼されるような事でもしたのか?

「ああ、なんだ。さっきの武闘場での事か。いや、お礼を言われる程じゃない、むしろ俺が謝罪するべきなんだあれは」

「そうじゃないわ! いえ、それもそうなんだけど……それだけじゃなくて……かっ、かん……び……う……とか……」

「……?」

 モジモジとしている京香が何を言いたいのか、さっぱりわからない。

「もういいわ! この鈍感!」

 と思ったら何故か急にキレた。何故だろう。っていうか、お前に鈍いって言われたくねえよ。
 京香はズンズンと怒るように部屋を出て行った……何なんだ、一体。


 * * *


 その後、夕食を三人で摂って、いつも通りに稽古場で二人で稽古する事になった。……いや、いつも通りというか久しぶりという方が正しいか。

 ちなみに優梨はというと三人で食事するのが久しぶりだとかなんとかで食堂で号泣し出したので慌てて二人で泣き止ませた。
 まったく大袈裟なんだ、あの子は……。まあ、自分が泣かせるような事にさせた原因だけど。
 まあそんなこんなで久しぶりに稽古を行う事になったのだ。

「……って、やっぱりサボっていた分だけ落ちてるわね、体力」
「まあ、な……」
「これじゃ、また一からやり直しね……」
「うう……」
「何よ、そんな悔しそうな顔をしても何もしなかった自分が悪いんじゃない。だいたい私抜きでも稽古ぐらい出来たでしょ」
「いや、そうなんだけどさ……」
「何よ?」
「京香がいないとあまり気が乗らないっていうかなんというか……」
「……それって、私がいつもいた方がいいって事?」
「まあな。稽古には相手がいた方がいいし、お前みたいに強いとやっぱり勉強になるし……。それに京香に一番頼みやすいというか信頼しているというか、まあ今の俺の記憶上じゃ、一番長い付き合いだし」
「…………」
「……ん? どうした、顔を赤らめて……まさか、また熱出してるんじゃ!?」
「ち、違うわよ! ちょっ、おでこを触るなあああ!」
「うおぉ!? 至近距離で火の玉を投げるな! あぶねえじゃねえか!」
「大丈夫って言ってるでしょ! 今回のことを反省して、もう無理はしないから!」
「そ、そうか……」
「ふん!」

 まったく。こいつには困ったもんだ。
 でも――。


 はあいつに背を向け、自分の頬をこっそりと触って確かめる。……熱い。
 まるで熱を持っているようで。何かに反応しているようで。
 ここでやっと私は確信できた。


 この二週間。度々に頬を赤らめていたのは熱のせいだけじゃない、ということを。
 ただ、この熱はなんなのだろうか。
 私は結局何も知らないまま、時は進んでいく。


 * * *


「やあやあ、ただいま一郎。何かあったみたいだね」
「いやいや、別に大した事じゃないですよ理事長。もう解決したし」
「ん? そうかい? あと、もうお互い勤務時間は過ぎてるから今は別に『理事長』なんて堅苦しい名称を使わなくていいよ」
「それにしても、出張長かったですね。予定では昼間に帰る予定じゃなかったんじゃないですか?」
「それが、思わぬ事故現場に遭っちゃってね……。足止めを食らってたんだ」
「……本当ですか?」
「もちろんだとも。……それより一郎も嘘をついてないかい?」
「僕が、ですか?」
「そう。『私と同じ能力』を持った生徒の暴走が――本当に大したことじゃないのかい?」
「……いやあ、そう言われましても。もう解決しましたし。一件落着ですよ」
「『終わりよければ全てよし』って意味かい、それは?」
「さあ……どうでしょうね。じゃあ僕はこれで。もう仕事は終わりましたし」
「うん、お疲れ様。私は少し調べたいことがあるから先に行ってていいよ」
「最初からそのつもりですよ」
「そうかい」
「ではお疲れ様です」
「……………………。……ふふ、やっぱり。ケンジくんをこの学園に入れてつくづくよかったと思っているよ。やはり私の計画に彼は必要な存在だ。――さて、次のステージを用意してあげよう。そう、それが君へ世界の真理へと進ませる道なのだから――」

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