魔法世界の例外術者《フェイク・マジック》 - 魔力とは無力である -

風見鳩

●魔法学講座1

 結局、優梨が言っていた京香の様子がおかしいところは見ることなく、そのまま一時限目が始まろうとしていた。

 俺はやっぱりいつも通りの京香だと安堵する反面、では優梨が言っていたのはなんだったのかと、少し不安気味でもあったりする。
 彼女が嘘をつく可能性はまず考えられない。残るは見間違えという選択肢だ。何せ風呂に入っていた時のことだから、少しリラックスしていただけなのだろう。

 そんな風に考えていると、チャイムが鳴ってから数分もしないうちに教師が入ってくる。
 俺は一旦考えるのをやめ、席に着く。何せ、一時限目は魔法学だ。この魔法学という科目は俺が学んできた中で一番面白いと思っていた教科であるからだ。

「起立、礼!」

 教師の号令に俺は礼をする。


 ☆ ★ ☆

「やあ読者の生徒諸君。
「これから魔法学について、桟橋学園理事長であるこの私、宮代瑠美絵が君たちに授業を始めるよ。
「まあ魔法について詳しくは知らなかったケンジくんは今まで読者に説明してなかったからね。
「だからケンジくんの代わりに特別講師として私が教えることにしたんだ。
「え? どうして私がいきなり出てくるのかって?
「まあ気まぐれというやつだ。気にしないでくれたまえ。
「少し長くなるが、付き合ってくれ。
「居眠りは許さないよ?
「じゃあ授業を始めるよ。ノートの準備はOKかな?

「ではまず魔法の素であるM原子から――。
「地球の大気には窒素、酸素、アルゴン、二酸化炭素が含まれている事は皆も知っているだろう?
「1990年、その大気中にもう一つ原子らしきものが発見された。
「それは特殊なものでね。
「『どんなものにでも変化できる一つの原子』という特殊なモノなんだ。
「どんなものにでもと言ったが、厳密には違うね。
「『どんな原子にでも変化できる一つの原子』というのが正しい、かな。
「そうそう、CとかOとか。
「その原子――後に『M原子』と名付けられるものだからそう呼ぼう――M原子一つで今発見されている原子全てに変わることが出来るんだ。
「しかし、M原子を応用して複数のM原子を使うと更に物質や現象を起こすこともできる。

「例えば水。
「水は2H2O……水素2、酸素1で作ることができる。
「つまり水素を二つ、酸素を一つをM原子を使ってそれらを作れば水を作ることができる。
「ではこのM原子をどのようにすればHやOになるのか?
「そこで出てくるのが魔法陣だよ。
「M原子を吸い込ませたインクペンで、ある規則性の形を書いていく。
「その形に合わせてM原子たちは繋がりあい、その書かれた形の原子として生成される。
「つまり形によってM原子は変わる、というわけさ。
「そしてM原子一つでは変わることが出来ない。
「水素に変えるには十五ほどのM原子が、酸素に変えるには二十ほどのM原子が必要になる。
「そうして作られた規則性のある形を『魔法陣』と呼ばれるようになるんだよ。
「水素になる魔法陣を二つ、酸素になる魔法陣を一つ書いてそれらを繋ぎ合わせれば。
「『水になる素が集まった魔法陣』の完成だ。

「でもこれだけじゃ水には変化しない。
「そこで必要なのが人間の持つ『魔力』だ。
「このM原子は地球が出来た時からあり、それを生物たちは呼吸によって吸ったり吐いたりしていた。
「だが、高度な知量を得る脳を持っている人間たちは違った。
「脳の命令でM原子を体に取り入れたら吐き出せないよう、体内に取り組むようになっている。
「そうして何千年と続いた中で人間には『魔力タンク』と呼ばれるものが出来ていた。
「この魔力タンクはM原子を取り入れ、体の中で変化させた『魔力』と呼ばれるもののみが入っているまさにタンクのようなものでね。
「個人によって数は違うけど一定数を保ち続け、数が増えたら排出、減ったら供給するようになっている。
「この魔力タンクは大体十四年程、中学生になれば普通に生きていれば出来るものなのだよ。
「この魔力タンクの魔力を動力の素に使う。

「どう使うかって? 簡単なことだよ。
「魔法陣に何かしらの形で直接体に触れさせる。
「それだけ。
「後は魔力が魔法陣というM原子の塊に引かれていく。
「君たちの知るところで言う『磁石』のようにね。
「引かれていったM原子と魔力が一定の位置まで近づいた時に魔法は発動する。
「こうして『水』というのがようやく出来るんだよ。
「え? よくわからない? もっと簡単に説明しろ?
「うーんと。
「魔法陣という繋がったM原子の塊と人間の中にある魔力が一定の距離まで近づいたときに魔法は発動する。
「まあこういう風に覚えてもらえば結構だよ。
「曖昧ですまないね。
「何せ、魔法学というのは曖昧なものでね、こう説明するしかないのだよ。
「何で魔法学なんて分野があるのに曖昧なんだろうね? ふふふ。

「まあそれは置いといて。
「この魔法を発動させるには、M原子を含んだ物で魔法陣を書かなければならない。
「そこで今生活必需品として売ってるのがケンジくんが前に言っていた『魔法道具』だ。
「この魔法道具にはM原子が使われていて、それが元となるわけだ。
「これで魔法の仕組みの大体はわかってくれたかな?



「次はその限度についてだ。
「何でも出来ちゃう魔法を発動するにも限度ってものがあるんだよ。
「一つ、生命に関する物質・現象は使えない。
「二つ、M原子を使うには限りがある。
「一つ目はまあわかるよね。
「原子だけじゃ生命は生まれない。ただし、干渉することは出来るけど。
「二つ目、これはいわゆる制限というやつだ。
「そりゃ制限されないと何もかも作れてしまい、いずれ人類は滅亡されるよ。

「そうだね……例えば。
「例えば一万もの魔力を体内に持ったAさんがM原子を含んだインクペンでM原子十万個を使い、魔法陣を描いたとする。
「そしてそこに魔力を流し込むとしよう。魔法陣は起動するだろうか?
「結果はNOだ。
「魔力の数とM原子の数が一致しないと魔法というのは発動しない。
「つまりどんなに頑張って世界を揺るがすような現象を描いても、それに釣り合う魔力がないと発動されない。
「例えば核爆発をさせるような現象を起こすには一億ほどのM原子が必要だそうだ。
「対して人間の平均魔力は一万程度。
「つまり魔法は万能ではあるが、何もかも出来るわけではない、というわけだ。



「次に永久魔法について。
「ありえないことだけど、ケンジくんみたいに魔力を持たない人でも使える魔法が永久魔法だ。
「まあ元々は魔力が安定しない、子供の為に作られた技術なんだけどね。
「これはどういう原理なのかというと、人工的に魔力タンクを作ればいいだけだ。
「空気中にあるM原子を常時集め、魔力に変える装置。
「そしてそれと魔法陣を繋ぎ合わせて魔法を発動させる。

「君たちの知っている言葉で表現すると『無限に使える電池』というわけだ。
「ただ、この装置にも当然供給できる魔力は制限されている。
「その一定以上の魔力を供給できる装置を作った時点で法に触れることになる。
「これが永久魔法の仕組み、かな。



「そして最後に魔法を組み合わせて行うことのついて、少し。
「私は魔法は武力だと言った。
「しかし、その攻撃魔法というのは一つの複合魔法なんだ。
「例えば京香ちゃんが使った火の玉。
「あれも複合魔法の一つなんだよ。
「まずは火を起こす魔法陣。
「そしてそれを圧縮し、一定時間『形』として保たせる魔法陣。
「更にそれを飛ばすだけのエネルギー量の魔法陣。
「この三つで初めて京香ちゃんが使っていた攻撃魔法が出来るというわけさ。
「まあ魔法の弱点といえば、魔法陣に触れなくちゃ魔法は発動しないってところかな。



「さあ、今日の授業はここまで。
「みんな、ちゃんと起きてたかい? 大丈夫?
「ん? 質問? どうぞどうぞ。
「何でケンジくんのように魔力の持たない人がそんな中で出てきたって?
「さあ、なんでだろうね。
「今の内容によればケンジくんにも魔力があるはずなのにね。
「矛盾しているよね、しまくっているよね、ふふふ。
「京香ちゃんが魔法陣を描かなくても自動的に出てきて、尚且つ触れずに魔法を発動させることが出来る理由?
「まあ、それは京香ちゃんもイレギュラー要因ってことだよ。
「おっとこれ以上は話せないな。
「では読者の諸君、お疲れ様。
「最後に号令を――」



「起立、礼!」
 という号令と共に魔法学の授業は終わった。

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