魔法世界の例外術者《フェイク・マジック》 - 魔力とは無力である -

風見鳩

京香の異変1

 それから三日くらい経過した頃。

 学校の授業もそろそろ本格的に始まっていて俺が楽しみにしていた魔法学の授業も当然始まっていた。

 昔の記憶がないので、もしかしたら失った過去で既に魔法学を学んでいたからなのか、若しくは真逆で何も学んでなかったからか――俺は魔法学という科目に徐々に惹かれていっていた。
 そして同じく魔法学が好きと主張する俺の真後ろの席にいる優等生――篠崎京香とよく魔法学の予習復習を一緒にしていたりする。

「なあ、そもそも“魔法”って誰が発見したんだ?」
「知らないの!? 中学の歴史で習う事よ!?」
「……生憎、その時の記憶は思い出せなくてな」
「あ、そういえばそうだったわね」

 確かに自分に過去の記憶、それに魔力がないことに同情をしないで欲しいとは思っているが、だからと言って忘れろと言った覚えはない。

 さっきの京香の反応からして、本気で忘れていたっぽいので反応に困る。

「最初に発見、そして世間に公表したのは『科学者』と呼ばれる者がいた1990年代頃――二人の日本人科学者である南川みながわ令子りょうこ吉乃澤よしのざわ浩司こうじ。二十五歳という若い歳から誰にも発見されなかった技術分野を見つけたという事で、二人は偉く注目されていたわ。それから魔法陣の定義を全て一つ一つ彼女らによって明かされていき、それが応用などされて今や存在する魔法の種類は千を超える。つまり彼女らが今の世の中を創ったと言っても過言ではないわね」
「ふうん……科学者、ねえ……」

 『科学』という言葉に何か違和感を感じる。そういえば、科学って科目はないよな、教科に。

「今でも名称が変わっているけど『魔法学者』と呼ばれる人たちはいるのよ」
「じゃあその二人も今現在、現役で魔法学者をやっているのか?」
「それが……1993年、二人は突然姿を消したの。世界中に捜索願いが出されて、捜したけど結局見つからずに死亡した、と認識されたのよ」

 偉大な魔法学者の突然の消失。それは大事件になりそうだな。

「なるほどなあ。……なんで二人は消息を絶ったんだろう?」
「これは確定されている事じゃないからわからないけど……彼女らが魔法を世間に公表する前に指名手配された人物が二人いた。その二人と南川博士と吉乃澤博士に何らかの繋がりがあったとか、なかったとか」
「それが姿を消した原因ではないか、と言われていると」
「そういう事よ」

 とまあ、こんな風に放課後の教室や自分の部屋で京香と話していたりする。
 また、稽古の方も毎日行っていた。京香には気が向いた時だけでもいいと言っているが、彼女は毎日当然のように付き合ってくれるだから、その辺は本当に頭が上がらないでいるのである。
 それは物理的な意味でもある――どうしても京香に勝てないのだ。
 まあ、京香が本気を出して火炎系の魔法を使えば俺は足元にも及ばないだろうが、それを制限してでも、彼女に勝ったという事がなかった。
 所詮は稽古。されど稽古も勝負のうちでもあると俺はどこかで考えていて、毎回京香に負かされる度に『悔しい』という感情が積もっているのを俺は感じていた。


 * * *


「あ、ケンジくん!」

 その稽古の後、いつものようにシャワーを浴び、寮へと戻った俺とばったり会ったのは、優梨である。

「お風呂上がりですか?」
「おう。優梨もか?」
「そうですよ」
「随分と遅く入るな……」

 ちらりと寮にある壁時計を見ると既に九時半になっていた。
 まあ、俺も人の言えた事じゃないが。
 優梨も何かやっていたのか?

「ちょっと前に一回入ったんですが、京香ちゃんと一緒にもう一回入ったんです! 二度風呂です!」
「ああ、なるほどな」

 優梨なら頼まれなくても「一緒に入ります!」とかなんとか言って入りそうだよな。別に京香も嫌、ってわけじゃなさそうだし。
 仲良さそうだもんな、なんか。

「ケンジくんもたった今風呂に入ったとなると、京香ちゃんと何かしていたんですか?」
「まあ、そうだな」

 別に隠すことでもないのだが、俺は言葉を濁した。何でだろうな。
 と、優梨は少しふくれ面をさせる。

「何だか最近京香ちゃんとケンジくんの仲が急接近している気がしますね」
「そうか?」

 どちらかというと、京香と優梨の方が接近しているような気もするが。

「はい、新幹線並みですね」
「超特急だな」

 早すぎてぶつかると思うんだが。

「だから私もケンジくんに急接近しようと思うんです!」
「お、おいっ!?」

 俺の返事を遮るように、優梨はずいっと体を寄せるように近寄ってくる。

 俺の腕を絡め取るように身をくっつけるようにして密着して来た。――なるほど、本当に、文字通りに急接近したなこいつ。ってそうじゃなくて。

「ちょっ……優梨、近い!」

 俺の腕には育ち盛りの十六歳の少女の身体が密着している。そして俺の腕はどの部位に密着しているのかといえば、十六歳女子の平均よりは明らかに大きいであろう、ふくよかな胸が押し付けられていた。
 そういえばこの前、パジャマ姿を見たときもはっきりとラインが出ていたな、と今になっていらない情報を思いだし、慌てて頭の中から追い出す。

「なんですか、京香ちゃんとはこうしたんですよ? それなのに、ケンジくんはしてくれないんですか!?」
「それは相手が女子だからだろうが!」

 しかも、ムキになったように更に顔を俺に近づける優梨。気のせいかそれとも雰囲気のせいか、優梨の右目の真っ赤な瞳が潤んで見えるのが更に色っぽく見えるのが困る。
 風呂から上がったばかりであるのがわかるように、若干黒髪のストレートから雫が垂れている。
 更にその雫は頬を伝って徐々に徐々に下へと向かって、首元まで落ちていく。
 俺はつい、その無防備な首元部分に目が行ってしまい、慌ててあさっての方向を見る。

「? どうしてこっちを見てくれないんですか?」
「いや……どうしてと言われても、な。お前は恥ずかしくないのか?」
「恥ずかしい? 何がですか?」
「……これ、傍から見たら完全に恋人みたいだぞ?」 

 と俺が言うと、優梨はビクッとして赤面し、周りをキョロキョロする。
 まあ乙女の恥じらいというのだろうか、それくらいあるだろうな。ついでにこの絡んでいる腕を離してくれると更に助かるのだが。
 しばらく周りをキョロキョロと確認していた優梨は、三百六十度それを二回ほど繰り返し見回した後、ほぅとため息をつき、俺に笑顔で答える。

「周りに人がいませんから、セーフです」
「そういう問題なのか、これは!?」

 根本的にもっと何かが違うような気がする。

「えへへー」

 と、ニコニコしながらすり寄る優梨は――正直言って、可愛い。
 何この可愛い生き物、猫みたい。結論づいてるじゃねえか。
 と自分に自分で突っ込みつつ、さてとりあえずどうしようかと思い、まずは話しかけてみることにする。

「そ、そういえば京香は?」
「京香ちゃんはもう自分の部屋です。覗きに行きますか?」
「行かねえよ!」

 なんでそんな流れになるんだ。

「というか、自分の部屋か。てっきりまた俺の部屋に勝手に入っているとばかり思い込んでいたぞ」
「……いえ、なんだか様子がおかしかったですし」
「おかしかった? 京香の様子が?」

 優梨の言葉に俺は怪訝な顔を向ける。
 思ってみれば京香や優梨と出会ってまだ数日しか立っていないのだが……二人とも強烈な性格をしているせいだろうか、いつの間にかもう一ヶ月は一緒にいたような感覚になっていた。

 京香と言えば人をぐいぐいと引っ張っていって、いつも元気そうなイメージに俺の中でなっている。それに、京香とはいつも一緒なのだ。
 その京香が様子がおかしいと言われると、聞き逃せない言葉であった。あの京香の様子がおかしい?

「おかしいってどんな風にだ?」
「私が話しかけても反応しないんです。なんか、ぼーっとしちゃっていて、どこか火照っているような、そんな感じに」
「そうなのか……俺の時は普通だった気がするんだけどな」

 少なくともそんな様子は見られなかった。

「いいえ、あれは絶対何かあったんですよ」
「そうか……なら、ちょっと明日確かめるか」

 優梨がそこまで言うなら、という気持ちと半々に、俺も京香の容態が少し気になっていたりする。
 大丈夫なのだろうか、あいつ。

「じゃあ、今日は寝るか。ほら、離れろ優梨」
「え? 今から私とパジャマパーティーをする予定なのではないのですか?」
「なんでそうなるんだよ!?」
「いや、いつも京香とやっているんですが、今日は出来ないみたいですし、なら代わりにケンジくんとやろうかなと」
「いや、他の女子とやれよ!」


 * * *


 翌日。いつものように俺と京香と優梨の三人で朝食を取る。
 だが、今日はいつもと少し違っていた。

「…………」
「…………」
「……なによ、二人して。私の顔に何かついているの?」

 と、京香は不思議そうに俺と優梨を見る。
 昨日、優梨が言っていたことは真実なのか、どうか。二人で確かめることにしたのだ。

「なんか食べ辛いんだけど?」
「いえいえ、京香ちゃんはお気にせずに、いつも通りの朝食を摂っていただいて大丈夫です」
「そうだぞ、俺らはただ京香を見ているというか観察してるだけだから気にしなくていいんだぞ?」
「余計に気になるわ!」

 と、観察する俺たちに京香は顔を真っ赤にしてキレた。なるほど、確かに顔を赤らめてはいたが……なんか違うような気がした。

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