魔法世界の例外術者《フェイク・マジック》 - 魔力とは無力である -
桟橋学園高等部1-A1
「へえ、理事長に会ったんだケンジくん」
学園長、遊楽太一郎は少し考えるように答える。
朝。今日こそは遅刻するまいと3人で早めに出たのは良かったのだが、あまりにも早く来すぎて暇だった。
なので、俺は一人でフラフラと校舎を歩いていたら廊下で偶然にも学園長に会って学園長室にお呼ばれされて、今に至るのである。
「なんか『そのマジックデバイスで君は何を望む?』みたいな事を言われてだな」
「マジックデバイスっていうのは理事長が付けた名称か。はは、いかにもあの人が付けそうな名前だ」
学園長は薄く笑う。
「何を望む――か。それは君が望めばその通りになるのか、はたまたその真逆を進むのか。色んな意味が取れるね」
「後者は嫌だな。というか、こいつにはそんなにも力があるのかよ?  世界規模の力が」
そんな俺の問いを学園長は素直に首を縦に振るのかもしくは横に振るのかと思っていたのだが、意外にも首を振らず、考えるようにこめかみに手を当てるのだ。
「どうだろうね。僕にもそのマジックデバイスの力全てを知っているわけじゃないんだ。多分、知っているのは理事長のみだと思うんだ」
「理事長ね……」
俺は昨日会ったあの黄緑色の髪をした少女を思い出す。
あの人はなんなのだろうか。底が知れないような、何か隠しているような、何もかも見透かしているような……。
俺の何もかもを知っているような。
なんとなくだがそんな感じがした。
「これは忠告だけどね、ケンジくん。あまり宮代理事長には会わない方がいい」
「……どうした、急に?  そんな深刻そうな顔をして」
「いやいや、流石に僕も自分の生徒を巻き込みたくはなくてね。出来れば宮代先輩をあまり好きなようにさせたくないのさ」
という学園長の発言にちょっと気になる事があった。
「え、宮代“先輩”?  おい、あの人って」
「うん、僕の大学の頃からの先輩だよ?」
「えええぇぇ!?」
驚愕の事実に声を荒げてしまう俺。
だってあの十歳くらいにしか見えない姿で、この三十は過ぎているであろうおっさんの先輩だというのだから、驚くのも無理はないと思う。
「大学生の時はまだ普通の大学生って見た目だったんだけどね……暫く見ないうちに久々にあったら、あんな風になってたんだよね」
「いやいや、どういうことだよ。若返りの薬でも飲んだのかよ」
「さあね」
多大なる理事長の謎に学園長は興味がないようだ。
「おっと、少し話し過ぎたね。教室に戻るといいよ」
ふと時計を見ると、既に普通にみんなが集まっていそうな時間である。
「じゃあ、またな」
「うん、またねケンジくん」
俺は学園長室を出ていき、自分の教室に戻っていったのである。
* * *
俺が教室に戻ると、既にクラスの半数は教室内にいた。
「おはよう、ケンジ!」
と、俺に歩いてくるのはシュウである。
「……おはよう、シュウ」
俺は満面な笑みのシュウに対してぎこちない笑顔で答える。
何せ、昨日の件で誤解されていると思うからな……いや、なんの誤解もないけど。
何を言われるのかとビクビクしていると、シュウは
「今日も半日授業だな。僕としては早く通常授業を受けたいものなのだが」
と、なんら変わりない日常会話をしてきたので俺はその場で滑る。
漫画だったらひっくり返って、盛大にこける表現である。……思ったんだけど、あれってめっちゃ痛そうだよな。
「ん? どうしたケンジよ」
「いやいやいや! なんで昨日のことがありながらお前は平然といられるんだよ!?」
昨日、俺が女子寮に住んでいることがバレたので、そのことを引きずられるのかと思いきや。特に気にしている様子もないので、逆にびっくりする。
「昨日? ああ、あの事か。僕もあの後よく考えたら別に大したことないと気づいてだな」
「大したことだから! その解釈は明らかに間違ってるから!」
「はっはっは、そんなの慣れれば問題ないだろう? 君は立派に胸を張るといい」
「そんなことで胸なんか張れねえよ……」
頭を抱える俺。クラスメイトからは「ああ、昨日の対決のことか」と思われているだろう。……そうであってほしい。
「ほら、やっぱり気にすることないじゃない」
と、なぜか自慢げに話すのは俺の後ろにいる京香である。
「おはよう、京香くん!」
「はいはい、おはよう。あんたは朝から元気がいいわね……」
「まあ、元気が取り柄だからな!」
どわはははと豪快に笑ってからゲホッゲホッとむせるシュウ。馬鹿だ。
「というかあんたどこにいたのよ?」
「ああ、学園長に会ったから話してたんだ」
「ふうん、なんかケンジって学園長と仲がいいよね」
「いや、仲がいいと言うか、ただの話し相手というか」
今のところ、多分あいつが俺の事情を一番理解していると思うので、話しやすいだけなんだけどな。
「はーい、ホームルームを始めますよー」
と、教室に桜先生が入ってきたので一旦雑談を中断して俺たちは自分たちの席に着いた。
* * *
「志野くん!」
「ん?」
一時間目が終わって休み時間。俺は本(もちろん教科書)を読んでいると誰かに呼ばれた。
振り返ると、そこには黒髪黒目のツインテールの女子生徒がいた。
「え、えっと確か名前は……」
「秋原 三縁よ。ちゃんと名前くらい、覚えなさいよ学級委員」
と、答えてくれたのは予習をしているもう一人の学級委員である。
「おお、篠崎さん、覚えてくれたんだー!」
「で、俺に何か用か?」
「あ、うん! 桜先生からの伝言で、この本を図書館から持ってきてほしいんだってさ」
と、秋原が本の名前がメモされた紙を俺に渡す。
「おう、わかった。…………?」
紙を渡し終えた秋原はじーっと俺を見る。
それが何秒、いや何分かもしれない。それくらい、長く見られている感じがした。
我慢の限界に達した俺は、おずおずと聞いてみる。
「ま、まだなんか用があるのか?」
「いや、別に? ただ志野くんを見てるだけ」
「落ち着かないからやめてくれ!」
ただ見てるだけかよ!  尋問か何かか、これは!
「いやあ、志野くんってなんか自然と周りに囲まれてて、最初の印象と少し違うなあって思って」
「そ、そうか……?」
まあ、最初は周りに嫉妬していたしな。自分でもだいぶ変わったなあと思う。……いや、変わったか?
「うん、まるで犯罪者から犯罪者を取り締まる警察みたいに変わったよ!」
「それはすごい変わりようだな」
「あるいは幼虫から蝶へと変わったような感じかな!」
「それはもうただの成長だろ」
なんかシュウと雰囲気が似てるな……無駄に元気なところとか。
「それもこれも、最近夫婦ではないかと噂の篠崎さんのおかげなのかな?」
「「誰が夫婦だ!」」
勉強している京香も顔をあげ、俺とハモる。
というか、誰だそんな噂をたてたのは。どうしたらそう見えるんだ。
「ああ、あと京香でいいわよ。私も三縁って呼ばせてもらうけど」
京香が少し嬉しそうに秋原を見る。
ああ、このクラスでの友人が欲しいんだな。優梨は別のクラスだし。シュウはどうやらカウントされてないらしい。
「オッケー京香っち! これからよろしくね!」
「き、京香っち……うん、よろしくね三縁」
今にも万歳しそうなテンションの秋原に若干引き気味の京香である。
「じゃあ志野くんもケンジくんって呼んでもいい?」
「まあ別に構わないが」
「ケンジくんも、よろしく!」
「ああ、よろしくな秋原」
「向こうが下の名前で呼ぶんだからケンジくんも対等に下の名前で呼ぶべきですよ?」
「うおぉ!? 優梨、いつからそこに!?」
いつの間にか、俺の隣に優梨がニコニコとしていた。
「えっと、このクラスの人じゃないよね……どちら様で?」
秋原は突然現れた優梨に首をかしげる。
「初めまして、ケンジくんと京香ちゃんの友達の柏原優梨です」
「おお、これはご丁寧に。初めまして、秋原三縁です!」
ぺこりとする優梨に返すように同じくぺこりとする秋原。
「私はFクラスなんです」
「あ、なるほど。だから見たことないのか。……ん? じゃあどうして京香っち達と知り合いに?」
「いや、それは同じ寮だから……」
あ、しまった。つい自分が女子寮にいることを話してしまった。
「あー、そっか! そうだよね!」
しかし、秋原は特に気にすることもなく、話を続ける。どうやら秋原も女子寮にいるから、男子である俺がいると言われても最初に自己紹介されたので気にしてないようだ。……男子である俺が女子寮にいても違和感ない方がよほどおかしいが。
「というか優梨。なんでここにいるんだ?」
「ちょっと京香ちゃんに用事があったので」
「なるほどな」
「ところで、ケンジくん。『三縁ちゃん』、ですよ?」
「そうだよケンジくん! 優梨っちの言う通りだよ!  私は『三縁ちゃん』だよ!」
と、二人に迫られる。
まあ例の『優梨の友達論』なのだろうが。女子を下の名前で呼ぶのは若干抵抗があるのだ。出来るならば普通に苗字で呼ばせてほしいくらいだ。
「い、いや、その……」
「「み・よ・り!」」
「ちょっ……なんとかしてくれ京香!」
「諦めなさいケンジ。さっさと『三縁』って変えた方がいいわよ」
「…………はあ」
優梨に言われた時点でもう逃げ道はないのか。
「わかったよ……三縁」
ガクリと項垂れる俺に対し、ガッツポーズをする優梨と秋原……じゃなかった、三縁。
「なんで俺の周りには女子しか集まらないんだ……」
男友達といえばシュウがあげられるが、もう少し落ち着いた人とも知り合いになりたい。もちろん男で。
「なんでって、そりゃあんたが女子寮に住んでるからじゃない?」
『なにぃっ!?』
京香の何気ない一言にクラスの男子が反応する。
「お、おい、京香!」
「あっ……やっちゃった」
京香は本当にやってしまったという感じで、慌ててそっぽを向いて予習を再開。知らないふりをする気だな、お前!
「どうりで志野の周りは女子が多いと思ったんだ!」
「つまり一人で複数の女子を独占しているのか!」
「なんて、羨ましいことを!」
いくらAクラスといえど男子は男子。こういうことには反応するのが普通である。
どんどんヒートアップしていく男子。そしてついに、
「さあ、白状しろ志野! なんで女子寮に住んでいる!」
「そして俺と代われ!」
「一人だけいい思いしやがって!」
ズンズンとこちらにくる男子勢に何も言えない俺は。
曖昧な笑みをして、くるりと背を向け、そのまま一直線に教室から出る。
つまりは、逃亡だ。
追いかけてくる男子。俺は必至に足を動かして逃げる。
『逃がすかっ!』
「うるせえ! どうだっていいだろうが!」
そう言いながら、俺は廊下を駆けていく。
* * *
「……やっぱりケンジくんの周りに、自然とみんなが集まってくるね」
逃げたケンジと追いかけた男子を傍観しながら、三縁が呟く。
「ケンジくんは優しいですからね!」
という優梨に「今のあれに優しさは関係ないんじゃ……?」と京香は疑問を抱いていた。
「あ、そうだ。私は京香ちゃんに用事があったんですよ!」
「そういえばそうだったわね。何かしら?」
「今日もパジャマパーティー、一緒にやりましょうね!」
「そ、そそそそんな事を学校で言うなぁーっ! 優梨のばかぁーっ!」
京香が恥ずかしさのあまりに赤面し、脱兎のごとく、先程出て行った男子たちの後に続いて走り出す。
「……やっぱりケンジくんの周りに、自然とみんなが集まって……いるのかな? あれは……」
「ケンジくんは優しいですからね!」
最早ケンジ関係ないのである。
学園長、遊楽太一郎は少し考えるように答える。
朝。今日こそは遅刻するまいと3人で早めに出たのは良かったのだが、あまりにも早く来すぎて暇だった。
なので、俺は一人でフラフラと校舎を歩いていたら廊下で偶然にも学園長に会って学園長室にお呼ばれされて、今に至るのである。
「なんか『そのマジックデバイスで君は何を望む?』みたいな事を言われてだな」
「マジックデバイスっていうのは理事長が付けた名称か。はは、いかにもあの人が付けそうな名前だ」
学園長は薄く笑う。
「何を望む――か。それは君が望めばその通りになるのか、はたまたその真逆を進むのか。色んな意味が取れるね」
「後者は嫌だな。というか、こいつにはそんなにも力があるのかよ?  世界規模の力が」
そんな俺の問いを学園長は素直に首を縦に振るのかもしくは横に振るのかと思っていたのだが、意外にも首を振らず、考えるようにこめかみに手を当てるのだ。
「どうだろうね。僕にもそのマジックデバイスの力全てを知っているわけじゃないんだ。多分、知っているのは理事長のみだと思うんだ」
「理事長ね……」
俺は昨日会ったあの黄緑色の髪をした少女を思い出す。
あの人はなんなのだろうか。底が知れないような、何か隠しているような、何もかも見透かしているような……。
俺の何もかもを知っているような。
なんとなくだがそんな感じがした。
「これは忠告だけどね、ケンジくん。あまり宮代理事長には会わない方がいい」
「……どうした、急に?  そんな深刻そうな顔をして」
「いやいや、流石に僕も自分の生徒を巻き込みたくはなくてね。出来れば宮代先輩をあまり好きなようにさせたくないのさ」
という学園長の発言にちょっと気になる事があった。
「え、宮代“先輩”?  おい、あの人って」
「うん、僕の大学の頃からの先輩だよ?」
「えええぇぇ!?」
驚愕の事実に声を荒げてしまう俺。
だってあの十歳くらいにしか見えない姿で、この三十は過ぎているであろうおっさんの先輩だというのだから、驚くのも無理はないと思う。
「大学生の時はまだ普通の大学生って見た目だったんだけどね……暫く見ないうちに久々にあったら、あんな風になってたんだよね」
「いやいや、どういうことだよ。若返りの薬でも飲んだのかよ」
「さあね」
多大なる理事長の謎に学園長は興味がないようだ。
「おっと、少し話し過ぎたね。教室に戻るといいよ」
ふと時計を見ると、既に普通にみんなが集まっていそうな時間である。
「じゃあ、またな」
「うん、またねケンジくん」
俺は学園長室を出ていき、自分の教室に戻っていったのである。
* * *
俺が教室に戻ると、既にクラスの半数は教室内にいた。
「おはよう、ケンジ!」
と、俺に歩いてくるのはシュウである。
「……おはよう、シュウ」
俺は満面な笑みのシュウに対してぎこちない笑顔で答える。
何せ、昨日の件で誤解されていると思うからな……いや、なんの誤解もないけど。
何を言われるのかとビクビクしていると、シュウは
「今日も半日授業だな。僕としては早く通常授業を受けたいものなのだが」
と、なんら変わりない日常会話をしてきたので俺はその場で滑る。
漫画だったらひっくり返って、盛大にこける表現である。……思ったんだけど、あれってめっちゃ痛そうだよな。
「ん? どうしたケンジよ」
「いやいやいや! なんで昨日のことがありながらお前は平然といられるんだよ!?」
昨日、俺が女子寮に住んでいることがバレたので、そのことを引きずられるのかと思いきや。特に気にしている様子もないので、逆にびっくりする。
「昨日? ああ、あの事か。僕もあの後よく考えたら別に大したことないと気づいてだな」
「大したことだから! その解釈は明らかに間違ってるから!」
「はっはっは、そんなの慣れれば問題ないだろう? 君は立派に胸を張るといい」
「そんなことで胸なんか張れねえよ……」
頭を抱える俺。クラスメイトからは「ああ、昨日の対決のことか」と思われているだろう。……そうであってほしい。
「ほら、やっぱり気にすることないじゃない」
と、なぜか自慢げに話すのは俺の後ろにいる京香である。
「おはよう、京香くん!」
「はいはい、おはよう。あんたは朝から元気がいいわね……」
「まあ、元気が取り柄だからな!」
どわはははと豪快に笑ってからゲホッゲホッとむせるシュウ。馬鹿だ。
「というかあんたどこにいたのよ?」
「ああ、学園長に会ったから話してたんだ」
「ふうん、なんかケンジって学園長と仲がいいよね」
「いや、仲がいいと言うか、ただの話し相手というか」
今のところ、多分あいつが俺の事情を一番理解していると思うので、話しやすいだけなんだけどな。
「はーい、ホームルームを始めますよー」
と、教室に桜先生が入ってきたので一旦雑談を中断して俺たちは自分たちの席に着いた。
* * *
「志野くん!」
「ん?」
一時間目が終わって休み時間。俺は本(もちろん教科書)を読んでいると誰かに呼ばれた。
振り返ると、そこには黒髪黒目のツインテールの女子生徒がいた。
「え、えっと確か名前は……」
「秋原 三縁よ。ちゃんと名前くらい、覚えなさいよ学級委員」
と、答えてくれたのは予習をしているもう一人の学級委員である。
「おお、篠崎さん、覚えてくれたんだー!」
「で、俺に何か用か?」
「あ、うん! 桜先生からの伝言で、この本を図書館から持ってきてほしいんだってさ」
と、秋原が本の名前がメモされた紙を俺に渡す。
「おう、わかった。…………?」
紙を渡し終えた秋原はじーっと俺を見る。
それが何秒、いや何分かもしれない。それくらい、長く見られている感じがした。
我慢の限界に達した俺は、おずおずと聞いてみる。
「ま、まだなんか用があるのか?」
「いや、別に? ただ志野くんを見てるだけ」
「落ち着かないからやめてくれ!」
ただ見てるだけかよ!  尋問か何かか、これは!
「いやあ、志野くんってなんか自然と周りに囲まれてて、最初の印象と少し違うなあって思って」
「そ、そうか……?」
まあ、最初は周りに嫉妬していたしな。自分でもだいぶ変わったなあと思う。……いや、変わったか?
「うん、まるで犯罪者から犯罪者を取り締まる警察みたいに変わったよ!」
「それはすごい変わりようだな」
「あるいは幼虫から蝶へと変わったような感じかな!」
「それはもうただの成長だろ」
なんかシュウと雰囲気が似てるな……無駄に元気なところとか。
「それもこれも、最近夫婦ではないかと噂の篠崎さんのおかげなのかな?」
「「誰が夫婦だ!」」
勉強している京香も顔をあげ、俺とハモる。
というか、誰だそんな噂をたてたのは。どうしたらそう見えるんだ。
「ああ、あと京香でいいわよ。私も三縁って呼ばせてもらうけど」
京香が少し嬉しそうに秋原を見る。
ああ、このクラスでの友人が欲しいんだな。優梨は別のクラスだし。シュウはどうやらカウントされてないらしい。
「オッケー京香っち! これからよろしくね!」
「き、京香っち……うん、よろしくね三縁」
今にも万歳しそうなテンションの秋原に若干引き気味の京香である。
「じゃあ志野くんもケンジくんって呼んでもいい?」
「まあ別に構わないが」
「ケンジくんも、よろしく!」
「ああ、よろしくな秋原」
「向こうが下の名前で呼ぶんだからケンジくんも対等に下の名前で呼ぶべきですよ?」
「うおぉ!? 優梨、いつからそこに!?」
いつの間にか、俺の隣に優梨がニコニコとしていた。
「えっと、このクラスの人じゃないよね……どちら様で?」
秋原は突然現れた優梨に首をかしげる。
「初めまして、ケンジくんと京香ちゃんの友達の柏原優梨です」
「おお、これはご丁寧に。初めまして、秋原三縁です!」
ぺこりとする優梨に返すように同じくぺこりとする秋原。
「私はFクラスなんです」
「あ、なるほど。だから見たことないのか。……ん? じゃあどうして京香っち達と知り合いに?」
「いや、それは同じ寮だから……」
あ、しまった。つい自分が女子寮にいることを話してしまった。
「あー、そっか! そうだよね!」
しかし、秋原は特に気にすることもなく、話を続ける。どうやら秋原も女子寮にいるから、男子である俺がいると言われても最初に自己紹介されたので気にしてないようだ。……男子である俺が女子寮にいても違和感ない方がよほどおかしいが。
「というか優梨。なんでここにいるんだ?」
「ちょっと京香ちゃんに用事があったので」
「なるほどな」
「ところで、ケンジくん。『三縁ちゃん』、ですよ?」
「そうだよケンジくん! 優梨っちの言う通りだよ!  私は『三縁ちゃん』だよ!」
と、二人に迫られる。
まあ例の『優梨の友達論』なのだろうが。女子を下の名前で呼ぶのは若干抵抗があるのだ。出来るならば普通に苗字で呼ばせてほしいくらいだ。
「い、いや、その……」
「「み・よ・り!」」
「ちょっ……なんとかしてくれ京香!」
「諦めなさいケンジ。さっさと『三縁』って変えた方がいいわよ」
「…………はあ」
優梨に言われた時点でもう逃げ道はないのか。
「わかったよ……三縁」
ガクリと項垂れる俺に対し、ガッツポーズをする優梨と秋原……じゃなかった、三縁。
「なんで俺の周りには女子しか集まらないんだ……」
男友達といえばシュウがあげられるが、もう少し落ち着いた人とも知り合いになりたい。もちろん男で。
「なんでって、そりゃあんたが女子寮に住んでるからじゃない?」
『なにぃっ!?』
京香の何気ない一言にクラスの男子が反応する。
「お、おい、京香!」
「あっ……やっちゃった」
京香は本当にやってしまったという感じで、慌ててそっぽを向いて予習を再開。知らないふりをする気だな、お前!
「どうりで志野の周りは女子が多いと思ったんだ!」
「つまり一人で複数の女子を独占しているのか!」
「なんて、羨ましいことを!」
いくらAクラスといえど男子は男子。こういうことには反応するのが普通である。
どんどんヒートアップしていく男子。そしてついに、
「さあ、白状しろ志野! なんで女子寮に住んでいる!」
「そして俺と代われ!」
「一人だけいい思いしやがって!」
ズンズンとこちらにくる男子勢に何も言えない俺は。
曖昧な笑みをして、くるりと背を向け、そのまま一直線に教室から出る。
つまりは、逃亡だ。
追いかけてくる男子。俺は必至に足を動かして逃げる。
『逃がすかっ!』
「うるせえ! どうだっていいだろうが!」
そう言いながら、俺は廊下を駆けていく。
* * *
「……やっぱりケンジくんの周りに、自然とみんなが集まってくるね」
逃げたケンジと追いかけた男子を傍観しながら、三縁が呟く。
「ケンジくんは優しいですからね!」
という優梨に「今のあれに優しさは関係ないんじゃ……?」と京香は疑問を抱いていた。
「あ、そうだ。私は京香ちゃんに用事があったんですよ!」
「そういえばそうだったわね。何かしら?」
「今日もパジャマパーティー、一緒にやりましょうね!」
「そ、そそそそんな事を学校で言うなぁーっ! 優梨のばかぁーっ!」
京香が恥ずかしさのあまりに赤面し、脱兎のごとく、先程出て行った男子たちの後に続いて走り出す。
「……やっぱりケンジくんの周りに、自然とみんなが集まって……いるのかな? あれは……」
「ケンジくんは優しいですからね!」
最早ケンジ関係ないのである。
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