魔法世界の例外術者《フェイク・マジック》 - 魔力とは無力である -

風見鳩

偽りの魔力4

 吹き飛ばされた大崎は廊下の壁に叩きつけられる。

「ふぅー……」

 一回限りの作戦が上手くいき、俺はゆっくりと溜め息をついて座り込む。
 と、観客側で見ていた京香がそんな俺に駆け込んで来た。

「ケンジ!」
「おお……言った通り、勝ったぜ?」

 と、片手を挙げる俺。だが、京香はそんな事はどうでもいいみたいだ。

「さっきの!  さっきのはどういう事!? あんた、魔法使えたの!?」
「ああ、これだよ」

 手に持っているモノを見せる俺。

「これで読み取った魔法を使ったんだ」
「……読み取った?」

 京香がわけがわからないという風に首を捻るので、俺は説明する。

「要するにだな。これが起動しているときに近くの魔法を感知すると、その魔法がこれを通して使えるようになるんだ」

 そう、魔法を読み取ってそれを使う。――それが“これ”の能力みたいなもの、である。
 これを起動してる状態にしていると、近辺に魔法陣の発動を感知して『読み取る』事が出来る。
 読み取った魔法陣は画面上に表示され、魔法の強弱などを設定でき、『使う』事が出来るのだ。
 ただし、この読み取った魔法はしばらく時間が過ぎると消えてしまうという時間制限付きであるという欠点を持つ。その時はもう一度、読み取らなくてはならない。

 俺はこれを昨日、京香に見せたときから起動してずっと制服のポケットに入れたままであった為、今朝に京香が使った加速魔法などが読み取られていたのである。 使えるかどうか若干不安であったが……上手く応用できたので、ほっと一安心をした。
 京香はというと、しばらく目をパチクリと動かし、信じられないような目で俺を見る。

「……つまり、相手の魔法を同じ出力で使えるってこと!?」
「大まかに説明すると、そうなるな」

 と、返す俺の肩を掴み、ガクガクと揺らす京香。やめろ、酔うだろうが。

「すごい……本当にすごいじゃない!  パラメータを無視して魔法を放てるだなんて!」

 嬉しそうにぴょんぴょん跳ねるがハッと我に返り、俺の肩を離す。

 「うぅ……」

 と、ドアの向こうでは大崎は打った腰を摩りながらヨロヨロと起き上がっていた。
 俺は立ち上がり、大崎へと進んでいく。

「……まあ、ムキになったのは悪かった。反省してる」

 俺が一言、そう言うと大崎は少し驚いた顔をして俺を見る。

「何故、君が謝るんだい?」
「いや、喧嘩両成敗って言うだろ?  どっちにも非はあるし」
「……つくづく、君は不思議な男だ」

 大崎は苦笑する。

「まあ、俺は別に学級委員になりたかった訳じゃないから、お前に譲るよ。やりたい奴がやった方がいいだろ」
「いや、僕もやりたいって訳じゃないから、その枠は勝利した君に譲ろう」
「………………え?」

 きっぱりと断る大崎をぽかんとする。

「え、ちょっと待て?  じゃあ、なんで立候補したんだ?」
「単に君と戦いたかっただけだよ。魔力を持たない少年がどうしてAクラスに配属されたのか、凄く興味があったからね」
「じゃあ、もしかして……」
「うん、本当に学級委員になりたかった訳じゃないし、あの挑発も君をやる気にさせるため。……とはいえ、酷いことを言ってしまったな。それは詫びよう、すまなかった」

 ぺこりと頭を下げる大崎だが、そんなことはどうでも良いのだ。つまりこれって……。

「男子の学級委員決定おめでとうケンジ。なんだ、そんなにやりたかったら素直に言えばいいのに!」

 とニコニコしながら言うのは誰であろう、京香である。

「い、いや、俺は……」
「もう男子は志野くんで決定じゃない?」
「そうだな、志野万歳!」
『志野、万歳!』

 と、みんなまで言ってくる。ま、待ってくれ、そうじゃないんだ!
 そしてダメ出しにと、先生のおずおずとした言葉。

「……志野くん、やってくれるかしら?」
「…………。…………はい」

 もう逃げられないと観念した俺はがくりと項垂れ、返事をする。
 こうして、めでたく俺は学級委員になったのだ。いや、全然めでたくねえよ!


 * * *


「……ということはみんなお揃いですね!」

 放課後。昨夜の件で寮の周りを掃除することを寮長に命じられた俺と京香と優梨は今日あった出来事を話していた。

「お揃い?」
「はい、私も学級委員になったので……」

 少し照れるようにして言う優梨。これは意外だ。ちょっと失礼だけど、優梨はそんな風には見えない。

「成績がクラスで一番というだけで、みんなに推されてしまって……」
「ああ、成る程。それなら確かにみんな同じだな」

 やっぱり進んでやる人より推されてやる人の方が多いのかな、こういう役目は。

「まあ、私はケンジのせいでこうなったのよね」
「俺だって京香が余計な事をしたから学級委員になったと思うんだ」
「何よ!?  簡単な挑発に乗っかったくせに!」
「勝手に候補として俺の名前を出した時点で、もう決定したようなもんじゃねえか!」

 と、口喧嘩を始めた俺達をまあまあと割ってなだめる優梨。

「夫婦喧嘩はそれくらいにして、掃除を続けましょう」
「「誰が夫婦だ!」」

 俺と京香のツッコミがシンクロする。

「おお、ケンジじゃないか!」

 と掃除をしているところに現れたのは、先程の大崎シュウである。

「よう」
「この人は?」
「クラスメイトの大崎シュウだ」
「初めまして!  ケンジくんや京香ちゃんの友達の、柏原優梨です!」
「初めまして。ケンジの友人、大崎シュウだ」

 スマイル100%の優梨と相変わらずのギザっぽい仕草の大崎。っていうか、大崎の方は勝手に友人にされてるし。

「ケンジくんの友達なんですね!」
「ああ、彼とは拳と拳で語り合った仲だ」
「おい待て大崎。拳なんか使ってなーー」

 と、言いかけた俺の裾をぐいぐいと掴む優梨。少し頬を膨らませている。

「ケンジくん。お友達には苗字じゃなくて?」
「…………拳なんか使ってないぞ、シュウ」

 優梨の友達論。半ば強制的になってきた気がする。

「ふむ、そういえばそうだな。なら、魔法と魔法で語り合った仲が良いな!」
「もうそれでいいや……」

 ハッハッハと高笑いするシュウに俺は諦めたようにテキトーな返事をする。

「ところでケンジよ。ここで何をしているのだ?」
「見ればわかるだろ?  掃除だよ、掃除」
「何故、女子2人となんだ?  しかも女子寮の周りを」
「それは俺がこっちの寮に入ることになって、京香と優梨が昨日、夜遅くまで俺の部屋で――はっ!?」

 会話するのが面倒になって何も考えずに話していた俺は自分のミスに気がつく。
 しまった、自分が女子寮に住んでいる事をうっかり話してしまった……。

「…………」

 シュウは口を開けたまま動かない。やばい、取り返しがつかないことになったぞ。

「そ、そうなのか……まあ、頑張ってくれ……。じゃあ僕はこれで……」

  肩を震わせながら去って行くシュウ。……最悪だ。

「男子には隠そうと思っていたのに……!」
「別に今バレなくてもどうせ今後に女子寮を出入りしている姿を目撃されて結局バレると思うし、いいんじゃないの?」

  と、気楽そうに言うのは京香。

「いや、明日から絶対変な目で見られる、これは……」
「別にそこまで気にしなくてもいいんじゃない?  ねえ、優梨?」
「そうです、きっと『男子なのに女子寮に住んでいるケンジくん』とみんなから認識される程度です!」
「最悪のパターンじゃねえか!」

 なんか、もう駄目かもしれない、色々と。

「……まあ、さっさと掃除を終わらせようか」
「それもそうね、早く片付けちゃいましょう」
「手分けした方がいいかもな。俺はあっち側でやるぞ」

 と、俺は今いる寮の側面から裏側へと向かう。
 本音を言うと、ちょっと落ち込んだ為、少し一人にしてほしいのだ。
 とりあえず、他の男子に見つからないように早く終わらせよう。
 俺は溜め息をつき、掃除を始めようとした時。
 背後からジャリッという小石を踏む音が聞こえ、後ろを振り返った。

 そこにいたのは一人の少女。
  黄緑色に近い、ショートカットの髪と瞳。
 背丈は俺の胸元に届くか届かないかくらいで、その幼いような顔から十歳児を思わせる。
 足にも届きそうな黒いマントを羽織った少女がじっと俺を見ると、ニコリと笑いかけた。

「志野ケンジくん」

 少女はゆっくりと口を開き、俺の名前を呼ぶ。

「そのマジックデバイスを使い、君は何を望む?」
「マジックデバイス……?」
「ああ、君が持っている『それ』の事だ。名称がないみたいだから勝手につけさせてもらったよ」

 と、少女はペラペラと喋りながら「おっと」と俺を見て何かに気がついたようだ。

「いきなり見知らぬ人がこんな事を言い始めたら気味が悪いね。初めまして、私は宮代みやしろ 瑠美絵るみえ。この学園の理事長だ」
「理事長……」

 俺はどう見ても小学生にしか見えない見た目の少女を見る。
 じゃあ、この人が俺をこの学園に呼んだのか。……でも何の為に?

「そのマジックデバイスは、この世界で唯一魔力を持たない君だけが使える専用アイテムだ。はっきり言ってそれは今後の未来を大きく左右する代物なんだ」
「はあ……」

 よくわからないが、このポケットにある例の物を『マジックデバイス』と呼んでいる事だけはわかった。

「マジックデバイスをどう利用するかによって、未来も変わるだろう。……志野ケンジくん、君はその力を――偽りの魔力を得て、何を望む?」

 『偽りの』というところにやや強調気味に問い出す理事長。

「えっと……」

 急にそんな事言われても、返事に困る。別にこれを手に入れてどうこうしようという訳ではないし……。
 と悩んでいると、理事長はそんな俺を見て再び口を動かす。

「なら質問を変えよう。君は魔法をどんな風に解釈している?」
「え?」
「魔法は現代の技術、日常には欠かせないもの、あって当たり前のもの……色々答えはあるだろう?」

 と促され、俺は少し考えてから自分の意見を述べる。

「なくてはいけないもの……なんじゃないですか?  あるのは、この世に生きている証みたいな……」
「それは魔力を持ってない君に対する自虐かい?」
「どうしょうね……ただ、そんな気がしただけです」

 と言う俺にふむ、と何か考えるように拳を唇に当てる仕草をする理事長。

「私はこう思うんだ。魔法は生活に使う便利な道具じゃない。何かに争ったりするときに使う武器・力。君はそうは思わないかい?」
「…………」

 『魔法とは武力である』。この学校の方針、理事長の考え。

「俺は、違うと――その考えは間違っている、と思います」
「……そうか」

 理事長はふっと笑う。

「じゃあ、少しだけヒントをあげよう」
「……ヒント?」
「君が魔力を持ってない、その秘密だ」

 俺が持っていない力の秘密……?

「魔力というのは絶対なんだ。元から無かったり失ったりするものではない――この世界においてね」
「それって……」
「まあ君は異例の中の異例、常識を超えた存在ってことだ――おっと、少し喋り過ぎちゃったね。それじゃ、私はこれで」

 と、理事長は言い残して去って行った。
 そんな姿を唖然と見つめていると背後から京香の声が聞こえてきた。

「掃除、終わったの?」
「え、あ、もうすぐ終わるからちょっと待ってろ」

 俺は慌てて返事をしながら理事長について、少し考える。
 俺の過去を知る人。そんなイメージともう一つの感じが俺の中で混ざり合う。
 直感だった。
 あの人には『勝てない』。
 負けず嫌いな俺であるが、もしあの人と戦うとしたら完膚なきまでに叩きのめされる――そんな感じがしたのである。
 そして理事長が最後に言っていた言葉。
 異例中の異例。
 常識を超えた存在。
 俺が魔力を持ってない秘密。

「……まあ、今考えても無駄か」 

 とにかく情報が足りないので、考えるのをやめる。俺は掃除用具を片手に京香達の方へと戻って行った。


 * * *


 それから掃除も終わって、夜。いつものように男子寮で浴場を借り、自分の部屋に戻ってゆっくりしようとしたが、ふとある事を思いついて寮内にある稽古場へと足を運ぶ。
 今日、理事長に言われた事で思ったことがあったのだ。
 稽古場の広さは学校の教室とあまり変わらない程度。しかし、それでも俺にとっては十分であった。
 軽いストレッチをしていると、ガラリと稽古場のドアが開き、京香が顔を覗かせる。

「あ、こんな所にいたのね」
「よう」
「……何をしてるの?」

 ストレッチを続ける俺に疑問を抱いたらしい京香は首を捻る。

「いや、今日理事長にあったんだけどな」
「あぁ……あの、どう見ても小学生にしか見えない理事長?」
「…………」

 間違っていないのだから、何も突っ込めない。

「『魔法というのは武力である』みたいな感じなのを言われて」
「この学園の学校方針みたいなものね、それ。それがどうしたの?」
「だから全てってわけじゃないが、ある程度は武力で決まる。実践的なこの学園では、特にな。それで思ったんだ。魔法じゃなくても何か武力の代わりになることはあるんじゃないかって――」

 今回は運良くシュウに勝った。それは敵が俺の情報を知らなかったからだ。
 だが、その先もそういうわけにはいかないだろう。きっと、何かしらの障害が出るのだ。

「それで、格闘面を鍛えようと?」

 という京香の質問にコクりと頷く俺。

「別にあんたにはそれがあるでしょう?」
「マジックデバイスの事か?」
「マジッ……? 名称あったんだ。うん、それ。マジックデバイスよ」
「これにも色々と制限が掛けられていてな。そういう時の為に、鍛えておきたいんだ」
「ふうん……?」

 と京香は少し俯く。

「……それはやって無駄じゃないものなの?」

 京香は俺に問いかける。

「ああ、無駄じゃない。やって無駄なものなんて、何もないからな」
「…………」

 と京香は少し黙り込み、やがて彼女は俺を見る。

「いいわ、手伝ってあげる」
「手伝って……? え……?」
「だから、鍛えるにも相手がいたりすると色々と助かるでしょ? だから私が手伝ってあげるって言ってるの! この鈍感!」

 最後の方をやや強い口調で言う京香。その為か、やや声が上ずっていた。

「そ、それに、そういう何かに熱心に頑張るの…………き、嫌いじゃないから」
「え? 熱心に頑張るの、がなんだって?」
「何でもないわ!」

 最後の部分がほとんど小声に近いもので聞こえなかったので聞いてみたらあっかんべーされた。わけがわからん。

「あ、でも、火炎系の魔法はあまり使わないでくれると――」
「そんなの知ってるわよ! ほら、始めるわよ!」

 と、京香の周りをいくつかの魔法陣が包み込む。

「あんたは魔法の使用を禁止。あたしは肉体強化系の魔力のみしか使わない。いいわね?」
「ああ」

 俺が頷くと同時に京香が動いた。俺もそれに応戦するように動いていく。
 こうして、俺と京香の毎日の特訓が始まったのである。


 * * *


 深夜0時、桟橋学園理事長室。暗闇が包み込む部屋の中、理事長こと宮代瑠美絵は彼女より背もたれが大きい椅子に座りながら魔導式コンピュータに指を走らせていた。

「志野ケンジ。異端なる存在。この世界での救世主。そう、彼なら――」

 何やらデータを書き込み、シュミレートを続ける。
 やがて何回かデータを変えていった彼女は満足げに笑う。

「じゃあ、次のステージを用意してあげようか――」

 宮代瑠美絵の瞳には野望という強い光を宿していた。

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