魔法世界の例外術者《フェイク・マジック》 - 魔力とは無力である -

風見鳩

偽りの魔力2

 翌朝。
 思っていたより早く目が覚めた俺は特にやる事もないので、魔法学の教科書をパラパラと流し読みをする事にした。

 誤解しているかもしれないが、俺が好きな本は別に教科書ではない。今、手元に読める物が教科書しかないから、教科書を読んでいるだけである。

 そうしてしばらくしていると、閉めていた鍵が勝手に開き、ドアが勢いよく開けられる。

「朝よ、起きなさい! ――って、なんだ。もう起きてるじゃない」

 鍵を持った篠崎――もとい、京香が登場。どうやら、本当に合鍵を作っていたみたいだ。

「おはよう。昨日、あんだけ騒いでいたのに、随分と早いな」
「優梨よりかはしゃいでないわよ……。というか、何で起きてんのよ。寝てなさいよ」
「何で寝ておかなくちゃいけないんだ」
「あたしがあんたにドロップキック出来ないじゃない」
「最悪の起こし方だな。というか、それがやりたかっただけだろ」

 本当に早く目が覚めてよかった、と心から思った。

「それじゃ、また朝食で。私、まだ学校の準備してないから」
「ああ、それじゃ」

 と、京香は部屋を出て行った。俺は再び読書に戻る。

 しばらくしないうちに、ドアからノックがする。俺は「どうぞ」と短く返事をする。

「あら、起きてたんだ」

 入ってきたのは比良坂先輩。軽く頭を下げる。

「でも不用心ね。部屋の鍵くらい、掛けておきなさいよ」
「…………」

 本当は京香が勝手に鍵を開けて、そのまま出て行っただけなのだが……敢えて黙っておく事にした。

「まったく、昨日も夜遅くまで騒いで……」
「ああ……すみません」

 頭を深く下げる。比良坂先輩はため息をつく。

「はあ……まあ、本当はもっと重い処罰なんだけどね。当事者たちがあなたの部屋に自ら来たって言ってたからねぇ……」

 「ケ、ケンジくんは悪くありません! 私たちが部屋に押しかけて来たんです!」――優梨が慌てて擁護ようごしている姿が蘇る。(ちなみに京香は本当に見てるだけだった。優梨がいなかったら最悪な事態になっていたかもしれない。)


「いい友達が出来てよかったわね」

 と、少し優しい表情をしたが、すぐに厳しい顔に変わる。

「でも! あれは規律違反ですので、三人にはしっかりと処罰を受けてもらいます!」
「……わかりました」

 まあ、確かにそれだけで罰が無くなるわけがないよな……。

「今日の放課後、全員集まること!  それを伝えに来ました」
「なら、俺から二人に伝えておきますよ」
「あら、私に優しくしたって、罰は軽くならないわよ?」

 と言う先輩に「わかってますよ」と俺は苦笑する。

「じゃあ、もうすぐ朝食の時間だからね」

 そう言って先輩は出て行った。

 しばらくして、俺は教科書を閉じる。今日は学校案内などが主な内容の授業の為、教科書は必要ない。
 制服に着替えて、早く朝ごはんでも食べるか。俺はそう思いながら、食堂に向かうことにした。


 * * *


「あ、ケンジ! こっちよ、こっち!」

 食堂に着き、朝食のトレイ取って席を探していると既に京香が席を取っていて、俺に手を振ってくる。

「えっ、いつの間に下の名前で呼ぶ仲に……?」
「そういえば、昨日の夜にあの子の部屋が騒がしいから寮長が怒鳴りに行ったって噂が……」
「それって、もしかして……」

 ヒソヒソと話す女子たちの声を聞かないことにして、京香の方へ向かう。

「あれ、優梨はどうした?」
「起こしに行ったら『すぐに行く』って言ってたわ」
「優梨にはドロップキックしてないよな……?」
「馬鹿ね。優梨の部屋には入れないし、第一あんたにしかしない予定だったのよ」

 それもそうか。俺は京香の向かいに座る。

「どうする?  優梨が来るまで待つか?」
「うーん、あの子そういうの気にしなさそうだから、先に食べていいんじゃないかしら」
「そうだな、じゃあ先に食べてるか」

  俺は箸を持つと、鮭の塩焼きを口に運ぶ。

「そういえばなんで鮭の塩焼きが朝の定番メニューなのかしらね」
「朝ご飯にピッタリなんじゃないか?  あっさりした味だし」
「あっさりした味なんて他にもあるじゃない。塩を振ったポテトフライとか」
「塩味にすればなんでもあっさりするわけじゃねえよ。朝から油ものなんて食いたくねえだろ」
「あっさりしたければ塩でそのまま食べればいいじゃない」
「あっさりしすぎだ。食べ物ですらねえよ」

 大体、お前はそれでいいのか。
 と、何気なく会話していて気がつく。昨日はお互いだんまりだったのに、今じゃもう普通の友人って感じだな。これも優梨のおかげだろうか。
 そう思っていると、今まさに考えていた女子が一人、慌ただしくこちらに向かってきた。

「あ、朝ですよケンジくん! 起きてください!」
「…………」

 優梨がこっちに来た第一声。
 随分と遅いモーニングコールである。

「いや、もう起きてるからここにいるんだけどな……」
「はっ!? 言われてみれば!」

 言われなくてもわかることだと思うのは俺だけだろうか……?

「なら、こうしましょう。ケンジくんが再び部屋で寝てください。そしたら私と京香ちゃんで起こしに行きます!」
「なんでみんな、俺を起こしたがるんだよ……」


 * * *


 どこかへ移動する際、乗り物や徒歩などで移動する人もいるが、急ぎの用があれば魔法を使って移動する事の方が多い。浮遊魔法、加速魔法などが多く使われる。
 しかし、魔力を持たない俺が当然そんな事を出来る訳もなく、急ぎの用の中、必死に足を動かして走っていく。

 急ぎの用と曖昧にごまかしたが、要するに遅刻である。
  学校生活2日目から早くも遅刻しそうなのである。

「ご、ごめんなさい! 私が寝坊した挙句、ゆっくり食事なんかしていたからっ!」
「いいから、走りなさい! 遅れるわよ!」

 と、後ろからわたわたとしている優梨とぐんぐん前へ走っていく京香。
 あの後、色々と話しすぎていて気がついたら登校時間まで残り五分を切っていたので、俺たちは慌ただしく寮を飛び出したのだ。

 先に行ってていいと言ったのだが……「ケンジくん一人を置いていくなんて、私たちには出来ません!」「ん? 私“たち”? ねえ、もしかして私も同じ考えって事にされた?」と主張して一緒に走っているのである。

「それにしても、こんなに時間ギリギリになるだなんて……」

 学生寮から学校までの距離は徒歩で約五分。しかし、それはあくまで推定の距離であって、教室までの距離は加算されていない。
 無駄に広いこの学校は学校に着いて一年生の教室まで走っても三分くらいはかかるのではないのだろうか。

「あと二分! もう時間ないわよ!」

 腕時計を見た篠崎が叫ぶ。ここからどう頑張ってもあと四分以上はかかってしまう。やっぱり二人共、先に行くべきだ。まだ間に合うはず。

「お、おい! やっぱり二人は魔法を使って――」
「ああ、もう! 優梨、あんた浮遊魔法は得意!?」
「苦手ではないです!」
「よし、ならケンジを引っ張っていくわよ!」

 そう言うと、二人は一旦立ち止まって俺の腕を掴む。優梨はポケットからペン状のもの――魔法道具の一つであり、空中に魔法陣を描く事が出来るやつである――を取り出し、素早く魔法陣を描く。
 京香は少し念じるように目を閉じ、魔法陣を出す。――ん?
 そういえば京香はただ念じるようにするだけで魔法陣を作っているような……?


「行くわよ! ちゃんと掴まれてなさいよ!」

 と、これ以上考える事は出来なかった。何故なら、浮遊魔法を発動させた二人によって、一気に急上昇したからである。

「うおっ――!」

 声を出す暇もなく身体が上へ上へと飛び上がる。建物がどんどんと小さく見え始め、一気に目的の位置へと落下する。

「――!」

 次の瞬間加速していた俺たちの身体はゆっくりと減速され、自分たちの校舎への玄関口へと降り立った。

「よし! このまま一気に二階まで上がって行くわよ!」

 京香は勢いよく階段を上っていくので、俺たちもそれに続く。

「では、私はこっちですので! また後でです!」

 優梨は二階に上りきった所で逆方向へと走っていった。

「さあ、私達も急ぐわよ!」

 と、京香は俺の腕を掴む。

「お、おい? 何を――」
「加速!」

 京香の足元に魔法陣が現れる。次の瞬間、視界がぼやけ、正面から強烈な風圧を感じる。京香の加速魔法が発動されたのだ。
 加速された俺たちの体は風を切るような勢いで廊下を走っていく。『1‐A』のプレートが下がっている我が教室が数秒しない内に一瞬で目の前まで来た途端、ようやくブレーキがかかった。

「ふう……なんとか間に合ったわね」

 と、京香は掴んでいた俺の腕を離す。

「き、京香、お前……!」
「あんたの体にも加速魔法は発動させたんだから体に負担はそれほどないはずよ?」
「いや、いきなり加速とか減速とかするな! ビックリするだろうが!」

 こんなの毎日されたらと想像するとぞっとする。体がもたねえよ……。

「まあ間に合ったからいいじゃない。終わりよければ全てよしよ」
「そうとも言うがな」
「あたしの身が安全ならあんたの身がどうなろうと全てよしよ」
「それは全くよろしくない事だな」

「魔法世界の例外術者《フェイク・マジック》 - 魔力とは無力である -」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「その他」の人気作品

コメント

コメントを書く