魔法世界の例外術者《フェイク・マジック》 - 魔力とは無力である -

風見鳩

序章 - 魔力とは武力である -

 その瞬間、俺は全てを思い出した。
 自分が何を知ってしまったのか、何を実行しようとしていたのか。

「……くっ!」

 そして、それ以上の記憶がないということは、俺は『失敗』したということだ。
 俺は思わず拳を振り上げ――握った拳を開く。
 やめよう。いくら悔しがっても、結果が変わることはないのだ。
 俺は雲一つない青空を眺める。
 どうやら、知らぬ間に外に投げ出されてしまっていたようだ。

 俺にはやるべき事がある。
 それは俺でしか出来ないことでもあるのだ。

「一体、何を間違えた……」

 空を仰ぎながら、独り言のようにぼそりと呟く。
 何を間違えた?
 どこでミスをした?
 いつタイミングを逃した?
 誰が足りなかった?
 どのような状況にしなくてはならなかった?
 どうして失敗した?

俺は脳をフル回転させ、試行錯誤していく。
 いつ、どこで、誰が、どのように、どうしないといけなかったのか。
 考えに考えて、やがて導き出した結論は一つだった。

「全てが駄目だったのか……」

 何もかもが駄目であって。
 最初から、この計画は無駄だったのだ。
 しかし、だからといって落ち込んでいる場合ではない。
 そんな暇はないのだ。
 俺は必死に頭を回転させ、次の手を考える。
 この方法が駄目なら、どの方法が一番いい?
 何をどうすれば止めることが出来る?
 俺は、何をすればいい?
 その時、周りの人たちは――!

「……いや、違う」

 俺は黙って頭を振るう。
 何もかもが駄目な状態であるならば。
 そこから何をしようと、結果は変わらないのだ。
 だから、成功させる手はもうこれしかない。
 一番最悪で、手間がかかり、難関である最終手段。
 だが、考えうる限りには一番可能性を秘めている方法。

「――やり直そう、最初から」

 『世界の真理』を明かす為に。


 * * *


「……違う、これでもない」

 かつては機能していたであろう、元研究所。今となっては廃墟と呼ぶ方が正しいだろう場所である。

 俺は誰もいない薄暗い部屋の中、真っ白い紙に写し出された文章を全て読み終えると、ため息をつき床に投げ捨てる。
 この作業を続けて何時間、いや何日が経過したのだろうか――写し出した文章の紙の数はもう既に千は超えていた。
 その証拠に紙の束とは他に、飲み物や食べ物などのゴミも散らかっている。

「……よし」

 俺は買ってきておいた水を飲んで少し休憩した後、もう一度作業を再開する。



 それから何時間か経過した頃だった。俺は目的のものをついに見つけると思わず声をあげてしまう。

「これだ!」

 やっと見つけた嬉しさに思わず気分が高揚したが、自分が不法侵入している事を思い出し、慌てて口を抑える。

 大きく息を吸うと、写し出したばかりの文章を改めて読み直す。

「……やるか」

 俺は立ち上がると、眠っていた機材を動かし始める。
 やがて埃を被っていた機械の数々は光を灯して動き出す。
 暗闇だった研究所全体が機械の光に包まれていく。

「…………」

 紙の書かれていたように床に魔法陣を生成すると、陣は青白く光りだした。

 俺が今まさにやろうとしている事は未知の領域で、自分にどんなリスクがかかるのか全く想像が出来ない。

「それでも……俺はやらなくてはいけない」


 だが、それこそが俺の求めていたものであるのだ。
 恐怖心なんか抱いている場合ではない。
 これは、世界を救うためなのだから。

 自ら床に描いた魔法陣の上に立つ。すると、魔法陣の光は燃え上がるような赤い光に変わっていく。


「俺は暴かなくてはいけないんだ……この世界の秘密を――真理を」


 赤い光はやがて大きくなっていき――俺の視界は真っ赤に染まった。

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