魔法世界の例外術者《フェイク・マジック》 - 魔力とは無力である -

風見鳩

入学式1

 私立桟橋学園。私立なだけにいくつもの校舎や学生寮がある巨大なこの学園に、俺は今日から入学することになる。

「……はあ」

 と言っても、あまり気乗りしないというのが正直な気持ちである。別にこの学園でやりたいことなど、特にないからだ。

 周りの入学生を見てみると、新しい学生生活は希望で満ち溢れているらしく、どいつもこいつもキラキラとした目で学校内へと入っていく。

 それは羨ましくでもあり――妬ましくでもあった。

「行くか……」

 俺は大きくため息をつき、ゆっくりと一人で入学式がある体育館へ歩いていく。


 * * *


 特に何も面白みのない、長話を聞かされるだけの入学式が続いていく。
 こんなのをまだ半分やるのか――入学式が始まって約三十分、俺は気が滅入っていた。
 というのも、飽きてきたのは俺だけではないらしく、寝ていたりしている奴らも複数見られる。当然だ、何が面白いんだこの式は。
 ……まあ、面白い入学式なんて、聞いたことないが。

「次に、学園長の祝辞。学園長先生、お願いします」

 と、『学園長』という言葉に俺は反応し、床を眺めていた目線をふと舞台の方へと向ける。
 この学校の学園長とは面識があるからだ……というより、あの学園長との面識があるからこそ、俺はここにいるのだ。

 茶髪の三十代前半という、学園の長としては随分若い男性が歩いてくる。そのスーツ姿は恐ろしい程に似合っていない。

「えー、皆さん本日はご入学おめでとうございます。僕――じゃなかった、私がこの学校の学園長、遊楽太ゆうらくた一郎いちろうです」

 若学園長は敬語に慣れてないらしく、ところどころ言葉が崩れながらも挨拶から始まり
、話を進めていく。……どうやって学園長になれたんだろうな、あいつ。

「……とまあ、文武両道に三年間学校生活を過ごしましょう。もちろん、それは『魔法学』以外の学問の意味もありますので、魔法が全て、だなんて思わないように」


 * * *


 魔法という技術概念が生まれたのは1990年頃からだ。
 天才と呼ぶべき科学者達が研究を重ね、『人間には高い演算能力と記憶能力があり、それを利用して魔法という高度な技術が出来る』という結論を導き出した。

 その後、全人類が『魔法に必要なエネルギー源である魔力』を持っている事を証明するために一人一人を検査し、基礎知識を学習させ、基本的に至る魔法をやらせてみせる。

 結果、全人類が魔力を持っている事がわかった。

 魔法の出し方は至って簡単。専用の道具で魔法陣を描き、それに魔力を流し込むだけだ。作られる魔法陣によって魔法は変わり、その魔法陣のパターンはこの時から既に百を越えていた。

 更に研究は進み、『魔力の暴走防止の為の定期的検査』が実施される。この時から既に魔法に関する新しい法が出来ていて、経済や政治にまで発展していた。

 しかし、良いことばかりではなくて、国によっては魔法を使って軍事力の向上、と戦争などが勃発しているのが現状だ。

 我が国、日本は戦争はしないものの、自衛隊の訓練に魔法技術訓練が取り組まれている学校もある。

 魔法はもうすでに日常化している人間の新たな力――そんな風になっているのであった。


 * * *


 ボーッとしていたらいつの間にか学園長の話は終わっていて、既に新入生代表の言葉になっていた。

 燃えるような赤い目に、これまた赤い髪をボブカットにした女子生徒が壇上へ登り、話している姿が目に入る。

 ――変色髪カラーヘアー変色目カラーアイか。俺は新入生代表を見ながら少し関心する。

 変色髪とはその名の通り、髪色が普通ではあり得ない色になる事だ。変色目も同様な意味である。

 人によって魔力のパラメータは違っていて、『魔力が一定水準より強い者は身体の一部が他の人とは違う、特徴的な色へと変色する』らしい。変色髪と変色目もその一つであり、他にも爪などにも変色する部位はあるようだ。
 そういう人は決して少なくはないのだが色が鮮やかである程、その人の魔力が表れているらしい。この前、読んでいた教科書にそう書いてあった。

 そして、あの女子生徒は混じり気のない、綺麗な赤髪である。しかも髪の一部分ではなく全てが。更に目も白目以外、同様に真っ赤なのである。相当な魔力の持ち主らしい。

 俺はそんな『優等生』である彼女を見ていると、少し鬱な気分になってきた。
 なので、優等生が見える目を閉じ、優等生の声が聞こえる耳を遮断して自分の世界へと逃げ込む。
 そう、それは現実から逃げるようにして――。


 * * *


 長い入学式をようやく終え、次はクラス分けによって各クラスへと分かれるプログラムになっている。

 俺は掲示板に貼り出されている紙の中から、自分の名前があるクラスを確認し、移動する。

 人気の私立校であってか、一クラス五十人前後と随分多い。それがAからFの、六つのクラスに分けられていることから新入生の人数は三百を超えている。

 『1-A』と書かれたプレートがある教室に入る。既にクラスの半数は自分の席へと着いていて、近隣の人達と話していた。
 そう、Aクラスはこの学年の中で上位の成績を収めている、いわば優等生クラスである。

「……なんで俺はこのクラスになったんだろう?」

 俺はそんな疑問を抱きながら、周りと同じく自分の指定された席へ座る。場所は真ん中の一番前だった。
 この席について良く言えば勉強に集中できる、悪く言えば目を付けられやすい位置である。

 俺は特にする事もないので鞄から表紙に『魔法学』と書かれている教科書を取り出しパラパラと読む。どんな物であれ、本を読むのは楽しいと感じる自分がいることに最近気がついた。

 と、そうしている内にチャイムがなり、先生らしき女性が教室に入ってきたので、俺は教科書を閉じる。

「はーい、皆さんご入学おめでとうございます。今日からこのクラスを担当させていただく、さくら仁美ひとみです」

  焦げ茶色のロングヘアの女性が優しい口調で話しかける。優しい先生でよかった、と少し安心する。

「これから一年間、仲良くやって行きましょうねー」

 ニッコリと微笑む桜先生は他の誰が見ても魅力的であった。

「さて、まずは自己紹介から始めましょうか。名前と趣味、それから得意な魔法を答えていって下さい」

 と、五十音順に自己紹介がされていく。

 何で得意な魔法を言わなくてはいけないんだ、と一瞬顔をしかめたが、まあ魔法が主軸として社会が発達している今だから得意な魔法を言うのは当たり前か。魔法も学問で例えるのであれば教科みたいなものだし。
 それに、この桟橋学園では特に、だ。

 人によって得意不得意な魔法があり、攻撃魔法を得意とする人もいれば、防御・支援魔法が得意な人もいる。

 これは生まれた時から既にパラメータでわかりきっていること、らしい。

 一人一人が自己紹介を終えていき、遂に俺の番まで回ってきた。
 俺は重い腰をあげると皆の方を向く。
 ふと見渡してみると、別に全員が俺の方へと注目しているわけでもなく、中には既に飽きた生徒も数人見える。
 これなら変に注目されるわけでもないだろう――と思うと、俺は緊張が少しほぐれた。

志野しの ケンジです。趣味は読書で、得意な魔法は――ありません。これからよろしくお願いします」

  と、淡々と自己紹介して座る。何の変哲もない、普通の自己紹介なので皆は聞き流す――そんなわけがなく、俺の言葉にクラスメイトがざわつく。

 そう、俺は今、さらりととんでもない事を言ったのだ。
 それは自分が人間であることを否定しているような言葉であるのだが――まあ、その理由は後で話すとしよう。

 何やら自己紹介が終わった後でも視線を感じるのだが、そういう事は無視と決め込んでいる俺はヒソヒソという声を気にせずに次の人が自己紹介をするのをただ待つ。

 次の人は特に気にしなかったのか、俺が座ると、少し間をおきながらすぐに立ち上がる。

篠崎しのざき京香きょうかです。趣味は魔法学における勉学で、得意な魔法は火炎系です」

 どこかで聞いた声だな、と振り返ると入学式に新入生代表として壇上に上がっていた、あの赤髪赤目のボブカット少女であった。
 今の自己紹介から聞くに、魔法学にとことん興味があるらしい。
 勉強熱心な上に魔力にも恵まれているなんて、将来はどこかの教授とかになっていそうだなと思った。
 と、他にも自己紹介はされていったが、俺個人としてはほとんど興味がない。
 すぐ後ろにいる代表生以外の人の自己紹介は聞き流していたので、頭に入ってこなかった。


 * * *


 そうして自己紹介も終わり、やっと学校も終わりかと思いきや、予定より多く時間が余ったということで少しの雑談タイムとなった。まあクラスに馴染むいい機会なのだろう。
 かくいう俺は教科書を取り出し、さっきの続きから読み始め、再び自分の世界へと入り込む。
 別に人と関わるのが嫌いなのではない。だが、どうしても他の人と比べて劣等感を感じてしまい、あまり話したくないという気持ちになる。

「ねえ、魔法学にそんなに興味あるの?」

 と、後ろから声がする。どうやら俺が魔法学の教科書を読んでいるのが気になったらしい。

「まあ、読み物として楽しんでいるだけだが。えーっと……篠崎だっけ? 篠崎は魔法学が好きなのか?」

  俺はすぐ後ろに座っている赤髪の女子――篠崎京香の方を向く。
 と、篠崎は目をキラキラと輝かせて頷く。

「うん、大好きよ!  将来は魔法工業系の仕事に進みたいと思っているの!」
「へえ」

 篠崎の言葉に素っ気なく答える俺。
 っていうか、この時期でもう将来の事を考えているのか。何も考えていない俺なんかより立派だな。
 何も考えてないというより――何も知らないという方が正しいかもしれないけど。
 それでも、たとえ仮に知っていたとしても――結果的に俺は何も考えていないだろう。
 何も考えられないし――何も考えたくない。
 そんな、暗い表情の俺に篠崎は構わず聞いてくる。

「あと、気になってたんだけど……得意な魔法はないの?」

 ああ、やはりそれが気になって俺に話しかけてきたのか。まあ誰もが思う疑問だしな。

「ああ、ない」

 俺はその事に関して嘘偽りもなく答える。

「でも一つくらいあるでしょう? パラメータ検査である程度の結果は出ているはずよ」
「無いものは無いんだ」
「魔法は使えるのに得意なのは無いって、矛盾してない?」

 と、しつこく聞く少女に少しイラついた俺は後ろを振り返り、彼女の机の上に魔法で使う専用の鉛筆、別名『魔法鉛筆』でちょうど開いていた教科書に描いてあった魔法陣を描く。
 そして自分の鉛筆をその上に置き、手を陣に触れる。

 鉛筆は、重さや大きさから浮遊魔法や移動魔法の基礎を練習するのに、文房具の中で最適な物だ。普通、中学生くらいから全員が出来ると言われる簡単な魔法だ。

 しかし――。
 俺の手からは何も起きず、鉛筆もピクリとも動かなかった。
 ただの静止。直接手で触れなくては、何の運動エネルギーも働かずにいたのである。

「これでわかっただろ?」

 俺は軽くため息をついて鉛筆を手に取る。
 目を丸くしている優等生に、いや自分にも、事実を突きつけるように。


「俺には魔力がない・ ・ ・ ・ ・んだ」

「魔法世界の例外術者《フェイク・マジック》 - 魔力とは無力である -」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「その他」の人気作品

コメント

コメントを書く