勇者な俺は魔族な件

風見鳩

第二十六話 トラブルの『予兆』

「あたしはアーミャ! 『二牙ふたつがの野犬』が二つ名だ!」
「……なあ、その“二つ名”ってのは誰が付けるんだ?」

 前々から気になっていたことを訊いてみると、アーミャの代わりにゴーラが答えてくれた。

「それなりに名が知れた冒険者に冒険者たちが付けるんだ。もしくは自称をしている奴もいる」
「へえ、そうなのか」
「へえ、それは知らなかったな」
「アーミャ、何でお前も知らないんだよ!」

 まだ冒険者に成り立ての俺ならともかく、アーミャも知らないようであり、ゴーラが横からツッコミを入れた。

 まあ、半分渾名みたいなものか。
 っていうか、自称するやつもいるのかと思いつつも、なんか二つ名を自称してそうな二人組が浮かび上がる。

 ちなみにその自称疑惑の二人組は目の前で呑気に歌を歌っています。

「ちなみに俺は『蒼剣の指揮官』と呼ばれている。まあ、お前ならいずれ二つ名をつけられるだろうよ」
「二つ名ねえ……」

 お前の二つ名、そのまんまじゃねえかという言葉を飲み込みつつ、皿に残っていた中身も真っ赤に染まっているリンゴを六等分に切り分けたやつを口に放り込む。

 確かに、考えたこともなくはないが……俺は人からどう呼ばれるのだろうな。

「あ、これ食うか?」
「なんと、くれるのか!? 本当に貴様はいい奴だな!」

 ひと切れの真っ赤なリンゴを試しにぽいっと放り投げると、口でキャッチするアーミャ。
 本当に犬みたいだな。

「そういえばゴーラから聞いた話だが、アズマは赤竜を倒したのか?」
「まあな」
「そうか……ゴーラのことだからてっきり法螺話だろうと思っていたのだが、本当だったのか……」
「なんで法螺話だと思われた!? 俺、そんな嘘をついたことないだろ!?」
「うむ、ゴーラは嘘をつきそうな顔だからだ」
「いやいや、そんな事ないぜ!? なあ、みんなもそう思うだろう?」
『…………』
「なんで、みんな目を逸らすんだあああああっ!」

 信用されてねえな、こいつ。
 いやむしろ──これは信頼されている証なのか。

 俺は周りに弄られて涙目になって騒ぐゴーラを横目で見やる。

「しかしあの赤竜を倒せるというなら、実力はあたしよりも上なのか……」
「アーミャの冒険者ランクはいくつなんだ?」
「私はゴーラと同じA級だ。ゴルドクスとネルエカリア……ああ、私のパーティーは三人組なのだが、私以外の二人はS級冒険者なんだ」
「へえ」
「二人とは子供の頃から一緒なのだ」

 アーミャは(ゴーラの)皿に乗っていた竜肉を(勝手に)食いながら、思い出を話してきた。

「現在に至っても獣人族が人族に差別を受けることがあるってのは、知ってるな?」
「知らん」
「なんだ、知らないのか。貴様、あたしより馬鹿なんじゃないのか?」
「いやいや、俺って頭良いし」
「自分が頭良いことを自分で言うのか……で、その頭が良いアズマは、なんでこんな常識を知らんのだ?」
「こっちにも事情があるんだよ、事情が」

 という俺の言葉が信用ならないのか、「ふぅん」と納得してなさそうな返事をする。

「で、獣人族が差別されるのはやっぱり魔力がないからか?」
「獣人族に魔力がないのは知ってるんだな……奇妙な奴だ」

 そりゃまあ、ゲームの設定で獣人族は魔力ないって説明あったし。
 しかし、こういうところもゲームと同じなのか……。

「まあそれもあるが、もう一つの理由として人族より数が少ないからというのもある」
「ふうん……まあ、普通に考えてみればおかしいよな。魔族と敵対していたり、マがつく名前を不吉だと言ってたり、『魔』という文字を毛嫌いしているこの世界なのに、普通に魔法は活用しているところが」
「『この世界』とは妙な言い回しだな……」

 まあ、どうせ『自分たちの中にある魔力は魔族とは一切関係のないものだ』とか、都合のいい解釈をしたのだろう。

 で、人口でも魔力でも下の獣人族には『獣人族は魔力を持たない劣った種族だ』だとかなんとか言い出したのだろうと考える。

 数が多ければ多いほど、優勢だしな。

「で、獣人族が差別されているのがどうしたんだ?」
「うむ、小さい頃あたしもいじめられていたのだ……ここから西にあるハイレイ村という小さな村が私の故郷でな。『劣った種族』呼ばわりされ、石を投げられたりしたこともあった」

 あー、そういえば俺も高校の時にあったな、そんなこと。俺の場合は「目立ちすぎているから」という、なんとも下らない理由だったが。

 同じくいきなり色んなモノを投げられてきたものだから、その時は確かデジカメを使いこっそり動画を撮って教師に見せつけたんだっけ。
 「こいつらに処分を言い渡さなければ、教育委員会やマスコミに流して、お前の人生を滅茶苦茶にしてやる」っていう脅し付きで。

「その時、助けてくれたのが二人でな。以降、あたしはいじめられなくなった」
「助けられただけじゃ、いじめはなくならないんじゃないのか?」
「うむ、ゴルドクスとネリエカリアは悪ガキ大将として有名だったからな」
「なるほど、そりゃいじめられなくなるか」
「ああ、そうだアズマよ」

 と、何か思い出したようにアーミャが俺の耳に口を寄せる。

 内心何事だと心臓が跳ね上がった。
 こいつもシーナとは違う美人の部類だから、こうして急に顔を近づけられるのは困る。

 どうやら周りに聞かせたくない話らしく、アーミャが耳打ちをしてきた。

「最近、お前をよく思ってない冒険者たちが何かやるかもしれないと、忠告しておく」
「なんだ、この年になっていじめられるか?」
「そんな可愛いもので済めばいいのだがな……とにかく注意しておけ。何かあったらあたしやゴーラに相談しろ」
「……ああ、ご忠告うけたまわった」

 と言いながらも、これは想定内のこと。
 そりゃ俺がこうして目立てば、良くなく思うヤツなんて山ほど出るだろう。

 むしろ──この時を待っていたというべきなのだろうか。

「ありがとな、アーミャ」

 一応感謝の言葉を述べると、アーミャはふっと笑う。

「なに、あたしとアズマの仲だ。感謝されることはない」
「…………」

 安い仲だなあ。
 こうして、食べ物一つ二つだけで出来てしまった奇妙な関係をアーミャと結び終え、約一時間後に夕食会は閉じたのであった。

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