勇者な俺は魔族な件
第二十四話 シーナの『魔力』
「う──おぉっ!?」
一瞬でやばいと判断した俺は、咄嗟にミノタウロスを投げ捨ててバックステップを取る。
ドォォォォォォォォォンッ!! と目の前で巨大な火の魔法が轟いた。
ギリギリで躱し、あまりの熱気に思わず顔を抑えてしまう。
やがて火魔法は消え、目の前に真っ黒な煙幕が出始めたところでほっと力を抜いたのが間違いだった。
「──っ!??」
次の瞬間、煙幕の向こう側から飛んでくるバスケットボールぐらいの大きさの火球。
俺は間一髪といった感じで躱す。
若干、髪の毛にチリッという嫌な音が聞こえたのは気のせいではないだろう。
そして煙幕の向こうから放たれる火球はこれで終わらない。
その数、一つ、二つ、四つ、八つ……まだ増殖し続けている!?
「くっ!」
迫り来る火球に氷魔法をぶつけて凍らせていく。
凍った火球は重い音を鳴らしながら地面に落ちていった。
そうしている内に煙幕の向こう側から聞こえてくるのは、パリッ……パリッ……という嫌な音と青白い閃光。
そして雷魔法が放たれた瞬間、地面に手をつき土魔法で巨大な土の壁を作る。
だが、雷魔法は土壁をぶっ壊して俺へと襲いかかってきた。
「ぐ──ぅっ!」
躱しきれず、雷魔法を直撃してしまう。
電撃は俺の身体中を巡り、筋肉が硬直するのが感じ取れた。
そのせいか、急な冷気が足元に広がるのを俺は気がつかなかったらしい。
「なっ……!?」
気がつくと、足元が凍っていたのだ。
今度は氷魔法か!
と、目の前から一つの光が見えてくる。
その光はどんどん収束され、大きく……って。
う、嘘だろ……この魔法……まさか!
「高放出砲撃!」
──光と火の最上級複合魔法!
体内から盾を生成し、俺は身を守る。
次の瞬間、ドンッという衝撃が盾を襲った。
「──おおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!」
ガリガリガリという何かが削られるような音を鳴らしながら、必死に耐える。
しかし、勢いは止まらず二、三メートルほど下がってしまう。
それでもと耐えること十数秒──ようやく高放出砲撃が収まった。
「……っ!!」
砲撃が終わるなり素早く煙幕の中へ突っ込んで、風魔法を繰り出して黒い煙を吹き飛ばす。
そして大きく息を吸うと、森全体に響き渡るような大声を出した。
「ストォォォォォォッッップ!!」
という俺の声が聞こえたのか、目を瞑ったまま次の攻撃に備えていたシーナがパッチリと目を開く。
「…………あれ?」
彼女はようやく現状を理解し、ようやく安心しきった俺はその場でへたりこんでしまった。
* * *
「俺を殺す気か!?」
「ひぅっ! ご、ごめんなさい!」
怒声にビクリと体を縮こませるシーナ。
どうやら彼女は初めての戦闘で少し緊張していたせいで、無我夢中に攻撃を繰り返していたようだ。
「そ、その、『思いっきりかましてみろ』って言われたものだから」
「一発って言っただろ、一発って!」
「で、でも、まだあれ、魔力を半分も使ってなくて……」
「お前は魔力オバケか!」
「オ、オバッ……?」
最上級の炎魔法に、火球の連撃、土壁を吹っ飛ばすような高威力の雷魔法、足元を凍らせた氷魔法、そして最後の高放出砲撃……。
これだけ連続して魔法を発動させたのにまだ魔力が半分以上残ってるとか、あり得ないだろ!
ちなみに、ミノタウロスは骨だけという無残な姿となってしまった。むしろ骨が残っていたことが奇跡だと言うべきだろうか。
「というか、デルドニ、ベレドニ! お前らも何で止めなかった!?」
「い、いや、止めようとはしたんですよ?」
「でも、兄貴なら無事だと思いやして……それに……」
「それに?」
「「自分の命の方が惜しかった」」
「よし、お前ら歯を食いしばれ」
怖がらないようにニッコリと笑いながら拳を握ったというのに、小物臭する二人はもの凄い速度で下がっていったのは何故だろうか。
「はあ……とりあえずシーナは戦闘に慣れて、魔法の威力調整をすること。毎回あんな大攻撃されちゃ、溜まったもんじゃないしな」
「は、はい……」
確かにシーナの魔力は即戦力となりうるが、味方の俺たちにも被害が及ぶのであれば問題だ。
元々冒険者としてやっていく気があるのだから、努力していけば何とかなるだろう。
「そうだな、一人で戦闘出来る辺りが合格点といったところだろ」
「出来ますか……? その、私なんかに、そんなことが……」
「あ?」
「だって、私……今もこうして、アズマくんを攻撃しちゃって……」
シーナは俯きながら、かの泣くような声でボソリと呟く。
……ちょっと言いすぎたかもしれない。
「ああ、出来る。これは断言していい」
「で、でも」
「あのな、シーナ」
まだ不安げなシーナの柔らかい両頬を掴んで無理矢理上へと持ち上げる。
シーナの目元は少し濡れていた。
「あ、あじゅまくんっ?」
「別に俺みたいな才能がなくても努力すればいいだけの話だ。俺は努力なんてしたことないが……別に努力を否定なんかしてない。むしろ努力する人間は素晴らしいと思っている」
「…………」
「だからシーナが戦闘の才能がなくても、努力すれば絶対に出来る。俺はそう信じてる……その、さっきはちょっと言いすぎた。悪かったよ」
人に向かって謝る、ということはこういう気持ちになるのだろうか。
少しぶっきらぼうな口調になりながら生まれて初めての謝罪をすると、シーナは一瞬だけ目を見開いてニヘラッと笑う。
「……えへへ。あじゅまくん、かわいいれす」
「と、とにかくだ! クエストは成功したから、一旦町に戻るぞ!」
と言って頬を離すと、「はいっ」と聞こえてくる元気な声。
どうやら元気を取り戻してくれたようで、何よりだ。
「なんだあの二人の空間は……」
「絶対俺らのことを忘れてるぜ、あれ……」
「お前らもそんなところでぶつくさ言ってないで、帰るぞ!」
距離を取ってコソコソと話し合うデルドニとベレドニに声をかける。
あっと、そうだ。
「後、これも持ち帰らなくちゃな」
そう言って持ち上げたのは、先程のミノタウロスの頭蓋骨。
え、これをどうするのかって?
そんなの、決まっている。
勿論、『偶然』遭遇したのだとギルドに報告する為だ。
一瞬でやばいと判断した俺は、咄嗟にミノタウロスを投げ捨ててバックステップを取る。
ドォォォォォォォォォンッ!! と目の前で巨大な火の魔法が轟いた。
ギリギリで躱し、あまりの熱気に思わず顔を抑えてしまう。
やがて火魔法は消え、目の前に真っ黒な煙幕が出始めたところでほっと力を抜いたのが間違いだった。
「──っ!??」
次の瞬間、煙幕の向こう側から飛んでくるバスケットボールぐらいの大きさの火球。
俺は間一髪といった感じで躱す。
若干、髪の毛にチリッという嫌な音が聞こえたのは気のせいではないだろう。
そして煙幕の向こうから放たれる火球はこれで終わらない。
その数、一つ、二つ、四つ、八つ……まだ増殖し続けている!?
「くっ!」
迫り来る火球に氷魔法をぶつけて凍らせていく。
凍った火球は重い音を鳴らしながら地面に落ちていった。
そうしている内に煙幕の向こう側から聞こえてくるのは、パリッ……パリッ……という嫌な音と青白い閃光。
そして雷魔法が放たれた瞬間、地面に手をつき土魔法で巨大な土の壁を作る。
だが、雷魔法は土壁をぶっ壊して俺へと襲いかかってきた。
「ぐ──ぅっ!」
躱しきれず、雷魔法を直撃してしまう。
電撃は俺の身体中を巡り、筋肉が硬直するのが感じ取れた。
そのせいか、急な冷気が足元に広がるのを俺は気がつかなかったらしい。
「なっ……!?」
気がつくと、足元が凍っていたのだ。
今度は氷魔法か!
と、目の前から一つの光が見えてくる。
その光はどんどん収束され、大きく……って。
う、嘘だろ……この魔法……まさか!
「高放出砲撃!」
──光と火の最上級複合魔法!
体内から盾を生成し、俺は身を守る。
次の瞬間、ドンッという衝撃が盾を襲った。
「──おおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!」
ガリガリガリという何かが削られるような音を鳴らしながら、必死に耐える。
しかし、勢いは止まらず二、三メートルほど下がってしまう。
それでもと耐えること十数秒──ようやく高放出砲撃が収まった。
「……っ!!」
砲撃が終わるなり素早く煙幕の中へ突っ込んで、風魔法を繰り出して黒い煙を吹き飛ばす。
そして大きく息を吸うと、森全体に響き渡るような大声を出した。
「ストォォォォォォッッップ!!」
という俺の声が聞こえたのか、目を瞑ったまま次の攻撃に備えていたシーナがパッチリと目を開く。
「…………あれ?」
彼女はようやく現状を理解し、ようやく安心しきった俺はその場でへたりこんでしまった。
* * *
「俺を殺す気か!?」
「ひぅっ! ご、ごめんなさい!」
怒声にビクリと体を縮こませるシーナ。
どうやら彼女は初めての戦闘で少し緊張していたせいで、無我夢中に攻撃を繰り返していたようだ。
「そ、その、『思いっきりかましてみろ』って言われたものだから」
「一発って言っただろ、一発って!」
「で、でも、まだあれ、魔力を半分も使ってなくて……」
「お前は魔力オバケか!」
「オ、オバッ……?」
最上級の炎魔法に、火球の連撃、土壁を吹っ飛ばすような高威力の雷魔法、足元を凍らせた氷魔法、そして最後の高放出砲撃……。
これだけ連続して魔法を発動させたのにまだ魔力が半分以上残ってるとか、あり得ないだろ!
ちなみに、ミノタウロスは骨だけという無残な姿となってしまった。むしろ骨が残っていたことが奇跡だと言うべきだろうか。
「というか、デルドニ、ベレドニ! お前らも何で止めなかった!?」
「い、いや、止めようとはしたんですよ?」
「でも、兄貴なら無事だと思いやして……それに……」
「それに?」
「「自分の命の方が惜しかった」」
「よし、お前ら歯を食いしばれ」
怖がらないようにニッコリと笑いながら拳を握ったというのに、小物臭する二人はもの凄い速度で下がっていったのは何故だろうか。
「はあ……とりあえずシーナは戦闘に慣れて、魔法の威力調整をすること。毎回あんな大攻撃されちゃ、溜まったもんじゃないしな」
「は、はい……」
確かにシーナの魔力は即戦力となりうるが、味方の俺たちにも被害が及ぶのであれば問題だ。
元々冒険者としてやっていく気があるのだから、努力していけば何とかなるだろう。
「そうだな、一人で戦闘出来る辺りが合格点といったところだろ」
「出来ますか……? その、私なんかに、そんなことが……」
「あ?」
「だって、私……今もこうして、アズマくんを攻撃しちゃって……」
シーナは俯きながら、かの泣くような声でボソリと呟く。
……ちょっと言いすぎたかもしれない。
「ああ、出来る。これは断言していい」
「で、でも」
「あのな、シーナ」
まだ不安げなシーナの柔らかい両頬を掴んで無理矢理上へと持ち上げる。
シーナの目元は少し濡れていた。
「あ、あじゅまくんっ?」
「別に俺みたいな才能がなくても努力すればいいだけの話だ。俺は努力なんてしたことないが……別に努力を否定なんかしてない。むしろ努力する人間は素晴らしいと思っている」
「…………」
「だからシーナが戦闘の才能がなくても、努力すれば絶対に出来る。俺はそう信じてる……その、さっきはちょっと言いすぎた。悪かったよ」
人に向かって謝る、ということはこういう気持ちになるのだろうか。
少しぶっきらぼうな口調になりながら生まれて初めての謝罪をすると、シーナは一瞬だけ目を見開いてニヘラッと笑う。
「……えへへ。あじゅまくん、かわいいれす」
「と、とにかくだ! クエストは成功したから、一旦町に戻るぞ!」
と言って頬を離すと、「はいっ」と聞こえてくる元気な声。
どうやら元気を取り戻してくれたようで、何よりだ。
「なんだあの二人の空間は……」
「絶対俺らのことを忘れてるぜ、あれ……」
「お前らもそんなところでぶつくさ言ってないで、帰るぞ!」
距離を取ってコソコソと話し合うデルドニとベレドニに声をかける。
あっと、そうだ。
「後、これも持ち帰らなくちゃな」
そう言って持ち上げたのは、先程のミノタウロスの頭蓋骨。
え、これをどうするのかって?
そんなの、決まっている。
勿論、『偶然』遭遇したのだとギルドに報告する為だ。
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