勇者な俺は魔族な件

風見鳩

第二十三話 まずは『下積み』

 翌日。朝日が昇り始め人がポツポツと動き始める時間に、俺たちはギルドへと向かう。

 ドアを開けてみると、既に何人かの冒険者がギルド内にいた。
 俺の姿を初めて見る冒険者は身体を強ばらせ、昨日見た者は「またか」というようなうんざりした目で俺を見てくる。

 その視線を気にすることなく、俺はクエスト依頼が貼ってある掲示板へと向かう。

「ふむ……」

 顎に手を当てながら、何十枚も掲示されているクエスト依頼紙を一つ一つ見ていく。

 確か規定では、『その階級と同じかそれ以下のクエストしか受けることができない』だったな。
 F級のクエストは……ほとんどが運搬系や採取系ばっかだな。

 その中で一つのクエストを選び、掲示板から破り取る。

 クエスト内容は『ボーンキャットの討伐』。
 依頼者は外で植物を研究している人からで、どうやら栽培していた『レイテイソウ』という植物がボーンキャットに荒らされているから討伐してほしいとのことだ。

 これがF級クエストということは、ボーンキャットはそれほど強くないようだ。
 場所は──ブゾウテナの南西にある、森の入口付近。

 達成条件は討伐した証明としてボーンキャットの死体を持って帰ること、報酬金は鉄貨三枚。

「よう、昨日ぶりだな」
「あっ、おはようございます」

 昨日、丁寧に教えてくれた水色髪ショートカットの受付嬢に声をかけると、彼女はあくびをする為に大きく開けていた口を慌てて抑えながら挨拶を返してくれる。

「このクエストを受注したい」
「はい、このクエストですね?」
「それとパーティー申請もしたいんだが、大丈夫か?」
「あ、パーティー申請ですか? そうしましたら、パーティーに加入する冒険者は証明書をご提示ください」

 と言われるがままに、俺たち四人は証明書を机に提示する。

 俺とシーナの証明書はアイアンで、デルドニとベレドニはゴールド。
 ゴールドってことは、こいつらC級なのか。結構頑張っているんだな。

「リーダーはどなたかというのは決定してますか?」
「ああ、俺だ」

 これは事前に決めていたことだ。

「ちなみに、質問いいか? リーダーの冒険者階級がC級なら、パーティー内のF級冒険者もC級クエストを受けることができるのか?」
「はい。ただしリーダーでなくても、パーティー内にいるメンバーがC級であれば、そのメンバーと共にC級クエストを受けることが出来ます」

 なるほど、もしリーダー限定であればデルドニかベレドニをリーダーにするのもいいかと思ったのだが、その必要はないようだ。

「もしよろしければ今からでもクエストを変えることは可能ですが……いかが致しますか?」
「……いや、今回はそれを受けさせてもらうことにするよ」

 可愛らしく小首を傾げる受付嬢に、俺は手を振って否定する。

「そうですか。あっ、パーティー名はどうしますか?」
「それも決まっている」

 俺は出来るだけ天使の優しく微笑む。
 もしかしたら、悪魔のような黒い笑みかもしれないが。

「『魔の月ノワルーナ』だ」


 * * *


 ブゾウテナから南西にある森の入口付近。
 ここには魔物と遭遇する可能性は結構低いらしく、確かに見渡す限りでは魔物と遭遇しそうになかった。

「レイテイソウってのはこれか?」

 ふと道の端っこに咲いている水色の花に近づくと、ふわりとした甘い匂いが鼻をくすぐる。

 花は十つほど綺麗に並べられてあった。
 だが、その横は何かに荒らされたかのような、無残な花の姿が見える。

「ああ、それがレイテイソウですよ兄貴。一部の魔物や魔獣はその花から発する匂いにつられてやってくるんです」

 と、横から助言を入れてくるデルドニに、「ふうん」と相槌をうつ。

「魔物を寄せ付ける花をこんな無防備にしておくなら、荒らされても仕方ないと思うんだがな……」
「とは言ってもほんの一部ですから。この辺りだと森奥に生息しているS級魔獣のフォレスタイガーですからこんなところに寄ってはきませんし、今回のボーンキャットという魔物は森の中で生息してません。なので、この場所で荒らされる可能性は極めて低いんですよ」
「へえ……」

 デルドニの知識量に少し感心する。
 やっぱこいつらを捨てずに連れてきてよかったな。

「さてと……」

 俺は大きく息を吸うと、周りの気配の集中する。

 ボーンキャットというのは逃げ足がびっくりするくらい速く、その後どこにいたのかわからないくらいの小型だそうだ。
 その為、探すのは骨が折れる──とここまでがデルドニから聞いた情報だ。

「……見つけた」

 だが、そんなことは俺にとって苦ではない。

 かすかに聞こえた骨と骨がぶつかる音がした左前の草むらに向かって、瞬時に氷魔法を発動させる。
 一秒もしない内に草むら周辺が完全に凍りつき、確認の為に凍らせた場所へと向かう。

「ボーンキャットってこいつか……」

 俺は草むらの影で体を丸めていた間抜けな姿の魔物を見る。

 っていうか、猫の骨だけじゃねえか。
 なるほど、それならばあのネームは妥当と言うべきだろう。

「えーっと、これってもう死んじるのか? というか、こいつはどうやって生きてるんだ……?」
「ああ、兄貴。ボーンキャットの首に黒い骨があるでしょう? それを抜き取るか破壊すれば、そいつは死にますよ」

 と、デルドニからの助言。

「ほうほう、なるほどな。流石、骨同士なだけあってよくわかってんだな」
「いやだなあ、兄貴。そんなに──褒めてないですよね、それ!? 絶対、褒めてないですよね!?」

 ボーン男の騒ぐ声はほっといて、体内から小型のナイフを生成して黒い骨に向かって一撃。
 パキッと乾いた音を立てて、黒い骨が砕かれた。

 炎魔法を使って氷を溶かし、動かなくなったボーンキャットの死体を布袋の中に詰め込む。

「よし、クエスト成功だな」
「恐ろしく早いっすね……」
「まあ、これはただの口実だからな。早めに済ますつもりだったし」

 本番はここからだ。

 さっきの索敵で聞こえたもう一つの音。
 重々しく荒い鼻息とずっしりとした足音の大物。

 俺はすぐさま奴の位置を特定すると、木々をかきわけて音がした方に突撃する。

 そして視界に何か黒い影を見つけ、すぐさまそいつの首根っこと思わしき部分を力強く掴んで再び元の場所へと戻った。

「よし、シーナ。お前の相手はこいつだ」
「えっ……えぇっ!?」

 牛を二足歩行させたような二メートル弱ある魔物の首根っこを離す。
 例えるならミノタウロスだろうか?

「あ、兄貴! そいつ、A級魔獣の『ミノタウロス』ですよ!?」

 というデルドニの焦ったような声。どうやらこっちでも有名な名前らしい。
 俺は今にも暴れだしそうなミノタウロスの頭を抑えて、怯えるシーナに視線を向ける。

「とりあえず、こっちで抑えといてやるから。思いっきり一発、かましてみろ」

 動かないように雷魔法で痺れさせておく。それでももがくミノタウロスの首根っこを掴み、シーナの前に突き出す。

「わ、わかりましたっ」

 シーナも腹をくくったのか、杖を構える。
 さて、確かシーナは自分で魔力が高いと言っていたが、実際はどんなものなのだろうか。

「や、やぁあーっ!」

 ギュッと目を瞑り、何とも可愛らしい掛け声の直後。


 俺とミノタウロスの頭上に現れる直径十メートル大の真っ赤な球体。


「………………は?」


 思わずポカンと口を開けてしまう。
 おそらくミノタウロスも同じ顔をしているのだろう。

 そしてそれは──重力に従うがごとく、そのまま落下してきた。

「勇者な俺は魔族な件」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「その他」の人気作品

コメント

コメントを書く