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勇者な俺は魔族な件

風見鳩

第十八話 『シルエがいなくなった』日

 ということでシルエを攫った二人組──デルドニとベレドニに協力を求めたのだ。

 最初の計画は、俺が街に出ていくと『偶然』別の地域に向かおうとしている商人たちに荷車に乗っていかないかと誘われる。

 そして、その荷台に乗せられてこの国を去るという簡単な計画だった。

 しかし、一つだけ誤算があった。
 シルエがいないと発覚する時がいつ知られるか、だ。

 まさかあんなに早く察知されるとは……もう少し時間がかかると思っていたのに。

 シルエが隠れている荷車を先に見つけられるのは非常に不味かったので、仕方なくあんな滅茶苦茶な逃亡方法になったのだ。

「でも、不思議です。何でアズマ様は私を攫ったかのように振舞ったのですか?」
「わかってないな、シルエは」

 不思議そうに尋ねてくるシルエにやれやれという風に肩を竦める。

「こうやって俺が庇うように逃げれば、庇われた相手は俺に罪悪感とかが生まれるだろ? そこにつけ込んで、相手に貸しを作らせておくんだよ。今後にも絶対使えるから、覚えておくといい」
「あ、あはは……」

 と、シルエは返事の代わりに苦笑で返す。

 いや、本当は庇われた相手にこんな事を言うべきじゃないんだが、シルエだから別に話してもいいだろう。

 まあ、実は他の理由もあるっちゃあるんだが……言う必要はないしな。

「ああ、そうだった。後、名前も変えとこう」
「え? 名前を?」
「まあ、国外の人達に一国の王女だなんてバレることはほぼないと思うんだが……一応の処置だ」

 と、説明すると、シルエは「なるほど」と感嘆な声をあげる。

「何か希望あるか?」
「うーん……特にないので、アズマ様が決めてもらえませんか?」
「……そうだな」

 俺はじっとシルエを見る。
 美しい紺色の長髪に、金色に輝く瞳……あ。

「『シーナ』ってのはどうだ?」
「『シーナ』……」

 シルエの容姿が夜に浮かぶ満月のイメージがしたのだ。
 シルエの『シ』に、月をイタリア語やスペイン語の『ルーナ』を合わせて、『シーナ』である。

 シルエは繰り返すように何度も復唱すると、やがて満面の笑みを俺に向けた。

「……はい、これからは『シーナ』でよろしくお願いします!」

 こうして、シルエはいなくなって。
 シーナが新たに仲間となったのだ。

「兄貴たちめ、イチャイチャしやがって……」
「俺たちは次の目的地の為に、必死に地図を見ているのに……」

 と、そんな不満そうな声が前方からブツブツと聞こえてくる。

「いや、俺とシーナじゃ道なんてわかんねえし。お前らだけが頼りなんだよ……ダメか?」

 少し弱々しげにそう言ってみると、途端に二人の調子が変わった。

「まったく、しょうがないですねぇ!」
「これからもどんどん頼ってくだせえ! ヘッヘッヘ!」

 まったく、チョロい奴らだ。

「……あれ?」

 と、シーナが何かに気がついたように木箱から何かを取り出す。

「どうした?」
「いえ、私が城を出て行く際に、いざという時に前から荷造りをしておいたバッグを持ってきたんですけど」
「どんな時だよ」

 家出する気満々じゃねえか。

「そのバッグの中に見たことないものが入ってて……」

 と、シーナが取り出したのは布で巻いてある細長いモノ。
 彼女は恐る恐るといった感じで、布を取り除いていると……。

「……っ!」
「おおっ……」

 そこから出てきたモノに、俺も思わず感嘆な声をあげてしまった。

 少し灰味かかったマットな色──いわゆるオーク色の木が掴みやすそうな太さに調整されていて、一メートルぐらいの長さの杖に作られている。

 そして杖の先端は少し膨らんでいて、そこには黄金に輝くこぶし大の鉱石を加工ような球体がはめ込まれていたのだ。

「お、重いっ……!」

 予想より重かったのか、シーナは杖を持ち上げて顔を歪める。

 杖を持ち上げて次に出てきたのは一枚の羊皮紙で、そこには人族語でこう書かれてあった。

『その杖の名は“月  食ロート・フォルモント”。お前なら上手く使いこなせるだろう』
「こ、これ、お父さんの文字……ど、どうして……?」

 俺が読んでいる羊皮紙を覗き込んできたシーナ(何度も言うが、顔が近い)が、その筆跡を見て驚愕した表情を見せる。

「……ははっ」

 自然と笑みが溢れてしまう。

 さっき、俺があんな逃亡をしたことにはもう一つ理由があると言ったが……。
 困惑しているシルエと、立派な杖を眺める。

 ──どうやら、必要のないことだったようだ。


 ★ ☆ ★


 ロウ・ブロッサム国、王宮内。
 『シルエ姫の誘拐』騒動により未だ混乱が続く中、国王ソルガムは静かに玉座へ座っていた。

 シルエがいなくなったことに、何も考えられなくなったのだろうか?
 否。
 彼は安心しきっているから、静かに座しているのだ。

「ははっ、アズマ殿……別にわざわざあんな真似しなくとも、わかっておるよ」

 ソルガムは天井を見つめると、言葉を紡いでいく。

「冒険者としての覚悟、しかと見させてもらった」

 ──まるでそこに誰かがいるように。

「……行ってこい、わが娘よ」

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