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勇者な俺は魔族な件

風見鳩

第十六話 勇者『大脱走』事件

「じゃ、またいつか会える日に」
「本当に、いいのかい?」
「ええ、もう決めたことなんで」
「……そうか。実に残念だ」

 翌日。

 空が青くなり始めた早朝。
 俺はソルガム国王の前に立っていた。

 俺の回答は……当然の如く、断った。

 やはり例の件もあるし、いずれはバレるかもしれない。
 そうなってしまった場合、俺の立場や信頼は失われてしまうだろう。

 ならば……俺の使命らしい、『世界の救済』を目指すとしよう。
 まだ何もわからないこの地だが、なんとかなるだろう。


 それに──ここにいられない、もう一つの理由が出来てしまったのだから。

「それにしても……シルエは何故来ないのだ」
「さあ? 寝てるんじゃないですか?」
「まあ、あの子も昨日は疲れていたしな」

 ソルガムに全力でとぼける。

 そうだ、バレるわけにはいかない。
 俺がここを出ていくまで、バレるわけにはいかないのだ。

「じゃあ、俺はシルエが寝ている隙に出て行きますね。あいつ、『自分も連れていけ』とか言いそうだし」
「はっはっは、確かにそうだな」

 俺はくるりとソルガムに背を向けて、そそくさと王室から出ていこうと扉を開ける。

 ……が。

「失礼します!」

 俺が出いくタイミングで、慌ただしく入ってくる執事と鉢合わせする。

 お、おいおいおい……ちょっと待てよ。

「シルエ姫が……姫様が寝室におられません!」
「なんだと!?」

 いくらなんでも早すぎだろうが!

 これで、わざわざ早朝に出て行くという意味がなくなってしまった。
 普通、この時間はまだ寝てると思っているから気がつかないんじゃないのかよ!

 もしや……シルエの部屋が開けっ放しだったのだろうか?
 普通なら考えられない話だが……決してありえない話ではない。

 ──最後になって足を引っ張るような行為をすんじゃねえよ!

 内心、舌打ちをしつつも、何とか平常心を保つ。
 落ち着け、時間を稼げばいいんだ。
 ならば……。

「きゅ、宮殿内は捜しました?」
「ええ、しかし誰も『見ていない』とおっしゃっており、門番も『誰も通ってない』と」

 だが、苦し紛れの時間稼ぎも無残に終わってしまう。

 ソルガムは大きく息を吸うと、指示を飛ばす。

「今すぐ外を捜せ!」

 ──まずい!

 出来ればやりたくないんだが……こうなったら作戦Bに移るしかない!

 俺は即座に光魔法を発動。強い光が部屋全体を包み込む。

「なっ──!」

 絶句する二人だが、構うもんか!

「じゃあな、そこそこ楽しかったぜ!」

 そんな捨て台詞と共に、窓を突き破って脱出。

 バリンと音と共に窓ガラスが割れる。
 二度目の高級な無透明ガラスを割ってしまった瞬間だった。


 今いる王室は五階。
 そのまま飛び降りず、途中で止まって外壁を飛び越える!

 俺は無事に下へと降りるために足裏と手のひらを擦って勢いを殺す。
 ザリザリザリッと生身の身体なら悲鳴をあげるが、今の身体なら余裕で耐えられる。

 そうして二階辺りまで降りきると、建物の壁を蹴って百メートルくらい先の外壁にしがみつく。

 普通なら登ることが不可能に見える外壁を軽々と乗り越えて、更にそこから近くの建物の屋根に飛び移る。

 そして、それに続くように銀鎧の兵士がワラワラと飛び出してきた。

「そこの黒鎧、待てぇ!」
「待てと言われて待つ奴はいねえよ!」

 そう言うと、屋根から屋根へ飛び移っていく。
 早く合流地点に向かわなくては。

 あそこを押さえられたらもう駄目なんだ。

 屋根から細い路地裏へ飛び降り、別の道へ逃げ込む。
 もの凄い勢いで路地裏から出てきた俺を見て、何もしらない住民たちはビクリとして自然と道を開けてくれた。

 ──助かる!

 その道を駆け抜けていき、後から追ってくる兵士たち。

「……っ」

 本当は魔法を使って足止めしておきたいのだが……それでは意味がない!

 振り返ることなく指定した場所へ向かい、兵士の視界から消えないように走っていくと。

 商人の格好をしたデルドニとベレドニの姿を見つける。
 二人は白い直方体のテントを張っている荷車をつけている角のある馬──ユニコーン(?)のような生き物に乗って呑気に雑談を交わしていた。

「デルドニ、ベレドニィ!」

 俺は割れんばかりの大声で叫ぶと、奴らは計画とは違う方向から出てきた俺に目を丸くする。

「あ、兄貴!? どうして……」
「な、なんで追われてるんすか!?」
「説明は後だ! いいから、早く走らせろ! 全速力にだ!」

 未だ状況が理解していないようである二人だが、とりあえずユニコーンのような生き物に鞭を打ってくれる。

 ユニコーンは馬のような鳴き声で鳴いて……って。

 め、めっちゃはええ!

 あの荷車、そんなに軽くないはずだぞ!?
 なんであんなスピードが出せるんだ!?

 風を切り裂くかのような速度で走り出す荷馬車。
 俺は全速力で後ろにある荷車の中へと飛び乗った。

 ゴロゴロと荷車内を転がっていき、目の前の木箱をかき分けてそのまま二人が乗っている前方に飛び出す。

「そこを、どけええええ!」

 迫り来る鉄製の門に向けて氷連弾を発動。
 門番たちをわざと避けさせるようなスピードでコントロールする。

 そして完全にフリーとなった門に向かって氷弾を連射すると、少しばかり門が開きかけた。
 よし、これで突っ込んでも問題ないだろう。

「よっしゃ、突っ込め!」
「「あいさ!」」

 俺の指示に二人は更に加速するよう、鞭を打つ。

 そして次の瞬間、鈍い音を立てながら門を突っ切った。

 ロウ・ブロッサム国から外へと出たのだ。

 広がる平原と青く澄んだ空、半分くらい昇りかけている太陽が目に入る。

 だが、これで終わりではない。
 今度は後ろの荷台へと回り込み、右半身だけを外に出してそれでも尚追いかけてこようとする兵士に手をかざす。

「はーっはっは! あばよ、お姫様は貰ってくぜ!」

 まるでどっかの悪役みたいだ、いやもう悪役だったな俺……。
 と自分で言った台詞に自分で突っ込みながら、素早く炎魔法を放つ。

 と言っても、対した威力は出さない。

 理由はただ単にさっき俺が放った氷弾の残骸を溶かすだけだからな。
 そう、その炎魔法で溶けた氷は兵士たちの足元に水たまりを張る為だ。

「足元にご注意、ってな!」

 続けて、雷魔法を水たまりに放つ。
 出来るだけ威力を抑えたが、それでもバヂリという耳をつんざくような音が鳴り響きその上にいた兵士は身体が痺れたようにバッタバッタと倒れていった。

 俺はその光景が豆粒まで小さくなるまでじっと見ていたが、やがて追っ手が来ないと確認するとその場で腰を下ろす。

「……はあっ、何とか成功したな……」

 全く、心臓に悪い。

「おい、デルドニ、ベレドニ。もう速度は出さなくていいぞ」

 わかってると思うが一応そう言っておくと、少しばかりか速度が落ちた感覚がした気がする。

 さっきまでに溜まった疲れを取るように、壁にもたれかかって休んでいると。

 荷台にある木箱の一つがガタガタと音を鳴りはじめる。

 そしてバカッと蓋が開き、一人の少女が顔を出した。

「上手く行きましたね!」

 藍色のローブを着た、紺色の長髪と金色の目をしている可愛らしい少女──シルエが満面の笑みで俺を見る。


 俺はその元気な姿に、力なく笑った。

「……どこも上手くねえよ、馬鹿」

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