勇者な俺は魔族な件
第十一話 王国『攻防戦』
同刻。
レオナードとガリウムが率いる王国軍は外との堺となっている西の門に着いていた。
レオナードは門番の男を見つけると、彼に詰め寄る。
「状況は?」
「すぐそばまで着ています!」
「よし……まだ纏まっているうちに殲滅するぞ!」
ガリウムの張り上げた声に、全員が頷き外へと飛び出す。
外は広大な平地が広がっていて、緑がどこまでも広がっていた。
もう空が薄暗い中、肉眼で視認できるほどの距離に何か黒い影が蠢いている。
──魔物だ。
「突撃!」
掛け声と共に、一斉に放たれる火の魔法。
赤く燃える光は直線上に飛んでいき、体の一部が黒く染まる醜い魔物の姿を照らし──戦闘が開始された。
「ルクザ、行きます!」
相手に火魔法が当たった瞬間、一人の兵士がもの凄い速さで駆けていく。
「ルクザも今や立派な兵士になったな……」
レオナードのしみじみとした声にガリウムも頷く。
たった今駆けていった兵士、ルクザはレオナードとガリウムの教え子である。
元SS級冒険者であり、シルエの護衛兵として任命されている彼らは数え切れない程の兵士たちに戦い方というものを教えてきた。
だが、ルクザは特別だった。
彼女は、モストーボルのとある村が魔族の襲撃された最中、王国に保護されたのだ。
小さい頃から兵士たちに世話されており、今や彼女は『ロウ・ブロッサム国兵の一人娘』とまで呼ばれていた。
それ故に、彼女の歳はまだ十四になったばかりである、のだが……。
ルクザは片手剣と盾を手に、魔物の群れへと突っ込んでいく。
手始めに、彼女は近くにいた豚のような顔をしていて猿のような動き方をする魔物の体を貫く。
次に黒い角を生やした狼のような魔物の角を掴むと、一般の成人男性ほどまである身体をいとも容易く持ち上げて勢いよく地面へ叩きつけた。
狼が怯んだ隙に、横薙ぎをして体を一刀両断する。
「っ!」
と、三本の黒い尾を持ったサソリがルクザに針を突きたててくる。
ルクザはいち早くそれを察知すると、慌てて横へ回避した。
三尾サソリの攻撃は終わらない。放った一本の尾を地面を突き、それを軸にしてコンパスのように回転する。
ぐるりと一周させ、残った二本の針をルクザの身体に突き立ててくる。
だが──ルクザはその針を盾で阻み、盾で弾いた衝撃で宙を彷徨うサソリの身体に銀色の刃を突き通した。
突き立てた部分からどす黒い体液が噴き出し、サソリは動かなくなる。
ルクザは次の標的へと向かう。
目の前にいる魔物を纏めて薙ぎ払おうと構えた途端、
「なっ!?」
右足が何か強い力に引っ張られるように浮き始め、ルクザの身体は宙へ放り出された。
そして、右手左手左足と黒い糸が彼女の身体を拘束する。
「っ……」
その糸は脅威の粘着力であり、ルクザの力にピクリとも動かない。
そして、身動きが取れなくなったルクザめがけて黒い糸を放った八本足の蜘蛛の魔物がルクザに牙を剥く。
「炎よ、燃え盛れ……『火炎』!」
だが、彼女はその魔物の対処法を知っていた。
ゴウッという音と共に燃え散る糸、そして完全に油断していた蜘蛛に突きを放つ。
「炎よ、燃え盛れ『火炎』!」
剣を突き立てたまま、彼女がもう一度下級魔法を唱える。
蜘蛛の身体に赤い火が燃え移り、蜘蛛はそのまま灰となって消えた。
「……よし」
彼女はそう呟くと、また次の魔物に剣を振りかざしていく。
「ルクザに続け! 魔法師たちは彼らを援護せよ!」
飛び交うガリウムの指示。
それに呼応するように、数十といった兵士たちがわらわらと行動を起こす。
正直、彼らが予想していたよりも状況は悪くなかった。
五千といえどそれほど強くない魔物ばかり、おまけに王国軍の兵士はそこらの魔物にやられる程、弱くない。
おそらく、レオナードと俺がほとんど動かなくても事は済んでしまうだろう……とガリウムは予想していた。
だが一匹の『魔獣』の出現により、事態は一変する。
夜になり、暗くなった空。
戦闘を開始して二時間経過。約半分の魔物を倒し切り、誰もが地上にいる魔物に目を奪われた時。
『魔獣』は出現した。
地上にいる魔物の十倍にも匹敵する大きな身体。
獲物を捕らえるための鋭い爪。
蛇のような身体と顔、そして──空中を浮遊させるのに必要な、巨大な翼。
金色の大きな目をギョロリと動かし、ゆっくりと降下していき、鋭い牙を見せながら大きな口を開く。
「オオオォォォォォオオオオオオオオオォォォォォォォッッッ!!!」
その咆哮に、兵士たちはようやく空を見上げて何が起こっているのか理解した。
「『黒竜』だとっ……!?」
物静かなレオナードが声を張り上げ、ガリウムも目を見開く。
『黒竜』。全身を黒に染めた魔獣で、魔獣の中でも極めて危険とされるSSS級指定の魔獣である。
その力はSS級冒険者が十人いても、討伐出来ないとされるほどなのだ。
最も、この黒竜はオーダーパドレー大陸にしか生息していない……はずなのだが。
「どうして黒竜がここにいる……!?」
レオナードはここにいるはずのない『化物』に焦燥を隠しきれなかった。
黒竜は金色の目で一番近くにいる兵士、ルクザを視界にすると……巨体では想像できないような速度で彼女を踏みつけようと襲いかかった。
「くっ!」
ルクザは踏みつけられるギリギリの位置で躱すが、巨大な足を地面に叩きつけた衝撃でバランスを崩してしまう。
そんなルクザにお構いなしと黒竜は手を振りかざす。
「がっ……!」
慌てて盾で防御するルクザだが、あまりの力に後ろへと吹き飛んでしまった。
彼女は雑草が生える平地をゴロゴロと転がっていく。
「~~~~ッ!」
しかし、彼女は諦めていなかった。
ルクザは即座に起き上がると、もの凄い速度で黒竜の真後ろへと回り込む。
そして死角となっている背中に片手剣を突き立てようと突進する。
だが。
「ぐっ!? あぁっ!!」
刃が背中にあと数センチというところで、彼女の身体は横から重い衝撃が走る。
それは太く、それは固く、それは長く。
凶悪な尻尾が彼女を襲ったのだ。
想定外の攻撃に彼女は防御することが出来ず、モロに衝撃を受けてしまい吹き飛ばされていく。
そして、もの凄い勢いで叩きつけられた彼女は──そのまま動かなくなってしまった。
「ルクザァ!」
それを見た兵士がルクザの元へ向かうが……魔物によって阻まれてしまう。
「うわああああっ!」
「がはっ!」
そして、黒竜も近くにいる兵士に攻撃を与えて吹き飛ばしていく。
さっきまで優勢だった王国軍の戦況が覆るほど、黒竜の存在は大きかった。
「くっ……!」
ガリウムは二本の剣を抜くが……動くことができない。
今、この場であの黒竜を討伐できなくとも、上手く対処できるのはレオナードとガリウムだけだろう。
しかし、まだ半数以上の魔物が残っている。万が一、魔物が残った兵士たちを圧倒して国へと乗り込まれてしまう危険性があるのだ。
つまり、今の王国軍は完全な火力不足だった。
どうする、どうする──ガリウムは必死に解決の糸口を探す。
今黒竜に挑んだら、国に魔物が侵入する危険性がある。
だが、黒竜が国に進撃しているのであれば、どちらにせよ国の危機が訪れる確率が高い。
どちらを選んでも最悪な状況であり、ガリウムが頭を抱えている中。
「どおりゃああああああっ!」
そんな声が頭上から聞こえ、ダンッという音と共に、ガリウムの目の前に降り立った。
「お前は……!」
レオナードとガリウムはたった今降りてきた男の姿に目を見開く。
「面白そうなことしてますね。俺も混ぜてくださいよ」
黒鎧の少年はそう言ってニヤリと笑った。
レオナードとガリウムが率いる王国軍は外との堺となっている西の門に着いていた。
レオナードは門番の男を見つけると、彼に詰め寄る。
「状況は?」
「すぐそばまで着ています!」
「よし……まだ纏まっているうちに殲滅するぞ!」
ガリウムの張り上げた声に、全員が頷き外へと飛び出す。
外は広大な平地が広がっていて、緑がどこまでも広がっていた。
もう空が薄暗い中、肉眼で視認できるほどの距離に何か黒い影が蠢いている。
──魔物だ。
「突撃!」
掛け声と共に、一斉に放たれる火の魔法。
赤く燃える光は直線上に飛んでいき、体の一部が黒く染まる醜い魔物の姿を照らし──戦闘が開始された。
「ルクザ、行きます!」
相手に火魔法が当たった瞬間、一人の兵士がもの凄い速さで駆けていく。
「ルクザも今や立派な兵士になったな……」
レオナードのしみじみとした声にガリウムも頷く。
たった今駆けていった兵士、ルクザはレオナードとガリウムの教え子である。
元SS級冒険者であり、シルエの護衛兵として任命されている彼らは数え切れない程の兵士たちに戦い方というものを教えてきた。
だが、ルクザは特別だった。
彼女は、モストーボルのとある村が魔族の襲撃された最中、王国に保護されたのだ。
小さい頃から兵士たちに世話されており、今や彼女は『ロウ・ブロッサム国兵の一人娘』とまで呼ばれていた。
それ故に、彼女の歳はまだ十四になったばかりである、のだが……。
ルクザは片手剣と盾を手に、魔物の群れへと突っ込んでいく。
手始めに、彼女は近くにいた豚のような顔をしていて猿のような動き方をする魔物の体を貫く。
次に黒い角を生やした狼のような魔物の角を掴むと、一般の成人男性ほどまである身体をいとも容易く持ち上げて勢いよく地面へ叩きつけた。
狼が怯んだ隙に、横薙ぎをして体を一刀両断する。
「っ!」
と、三本の黒い尾を持ったサソリがルクザに針を突きたててくる。
ルクザはいち早くそれを察知すると、慌てて横へ回避した。
三尾サソリの攻撃は終わらない。放った一本の尾を地面を突き、それを軸にしてコンパスのように回転する。
ぐるりと一周させ、残った二本の針をルクザの身体に突き立ててくる。
だが──ルクザはその針を盾で阻み、盾で弾いた衝撃で宙を彷徨うサソリの身体に銀色の刃を突き通した。
突き立てた部分からどす黒い体液が噴き出し、サソリは動かなくなる。
ルクザは次の標的へと向かう。
目の前にいる魔物を纏めて薙ぎ払おうと構えた途端、
「なっ!?」
右足が何か強い力に引っ張られるように浮き始め、ルクザの身体は宙へ放り出された。
そして、右手左手左足と黒い糸が彼女の身体を拘束する。
「っ……」
その糸は脅威の粘着力であり、ルクザの力にピクリとも動かない。
そして、身動きが取れなくなったルクザめがけて黒い糸を放った八本足の蜘蛛の魔物がルクザに牙を剥く。
「炎よ、燃え盛れ……『火炎』!」
だが、彼女はその魔物の対処法を知っていた。
ゴウッという音と共に燃え散る糸、そして完全に油断していた蜘蛛に突きを放つ。
「炎よ、燃え盛れ『火炎』!」
剣を突き立てたまま、彼女がもう一度下級魔法を唱える。
蜘蛛の身体に赤い火が燃え移り、蜘蛛はそのまま灰となって消えた。
「……よし」
彼女はそう呟くと、また次の魔物に剣を振りかざしていく。
「ルクザに続け! 魔法師たちは彼らを援護せよ!」
飛び交うガリウムの指示。
それに呼応するように、数十といった兵士たちがわらわらと行動を起こす。
正直、彼らが予想していたよりも状況は悪くなかった。
五千といえどそれほど強くない魔物ばかり、おまけに王国軍の兵士はそこらの魔物にやられる程、弱くない。
おそらく、レオナードと俺がほとんど動かなくても事は済んでしまうだろう……とガリウムは予想していた。
だが一匹の『魔獣』の出現により、事態は一変する。
夜になり、暗くなった空。
戦闘を開始して二時間経過。約半分の魔物を倒し切り、誰もが地上にいる魔物に目を奪われた時。
『魔獣』は出現した。
地上にいる魔物の十倍にも匹敵する大きな身体。
獲物を捕らえるための鋭い爪。
蛇のような身体と顔、そして──空中を浮遊させるのに必要な、巨大な翼。
金色の大きな目をギョロリと動かし、ゆっくりと降下していき、鋭い牙を見せながら大きな口を開く。
「オオオォォォォォオオオオオオオオオォォォォォォォッッッ!!!」
その咆哮に、兵士たちはようやく空を見上げて何が起こっているのか理解した。
「『黒竜』だとっ……!?」
物静かなレオナードが声を張り上げ、ガリウムも目を見開く。
『黒竜』。全身を黒に染めた魔獣で、魔獣の中でも極めて危険とされるSSS級指定の魔獣である。
その力はSS級冒険者が十人いても、討伐出来ないとされるほどなのだ。
最も、この黒竜はオーダーパドレー大陸にしか生息していない……はずなのだが。
「どうして黒竜がここにいる……!?」
レオナードはここにいるはずのない『化物』に焦燥を隠しきれなかった。
黒竜は金色の目で一番近くにいる兵士、ルクザを視界にすると……巨体では想像できないような速度で彼女を踏みつけようと襲いかかった。
「くっ!」
ルクザは踏みつけられるギリギリの位置で躱すが、巨大な足を地面に叩きつけた衝撃でバランスを崩してしまう。
そんなルクザにお構いなしと黒竜は手を振りかざす。
「がっ……!」
慌てて盾で防御するルクザだが、あまりの力に後ろへと吹き飛んでしまった。
彼女は雑草が生える平地をゴロゴロと転がっていく。
「~~~~ッ!」
しかし、彼女は諦めていなかった。
ルクザは即座に起き上がると、もの凄い速度で黒竜の真後ろへと回り込む。
そして死角となっている背中に片手剣を突き立てようと突進する。
だが。
「ぐっ!? あぁっ!!」
刃が背中にあと数センチというところで、彼女の身体は横から重い衝撃が走る。
それは太く、それは固く、それは長く。
凶悪な尻尾が彼女を襲ったのだ。
想定外の攻撃に彼女は防御することが出来ず、モロに衝撃を受けてしまい吹き飛ばされていく。
そして、もの凄い勢いで叩きつけられた彼女は──そのまま動かなくなってしまった。
「ルクザァ!」
それを見た兵士がルクザの元へ向かうが……魔物によって阻まれてしまう。
「うわああああっ!」
「がはっ!」
そして、黒竜も近くにいる兵士に攻撃を与えて吹き飛ばしていく。
さっきまで優勢だった王国軍の戦況が覆るほど、黒竜の存在は大きかった。
「くっ……!」
ガリウムは二本の剣を抜くが……動くことができない。
今、この場であの黒竜を討伐できなくとも、上手く対処できるのはレオナードとガリウムだけだろう。
しかし、まだ半数以上の魔物が残っている。万が一、魔物が残った兵士たちを圧倒して国へと乗り込まれてしまう危険性があるのだ。
つまり、今の王国軍は完全な火力不足だった。
どうする、どうする──ガリウムは必死に解決の糸口を探す。
今黒竜に挑んだら、国に魔物が侵入する危険性がある。
だが、黒竜が国に進撃しているのであれば、どちらにせよ国の危機が訪れる確率が高い。
どちらを選んでも最悪な状況であり、ガリウムが頭を抱えている中。
「どおりゃああああああっ!」
そんな声が頭上から聞こえ、ダンッという音と共に、ガリウムの目の前に降り立った。
「お前は……!」
レオナードとガリウムはたった今降りてきた男の姿に目を見開く。
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