勇者な俺は魔族な件

風見鳩

第六話 忍び寄る追っ手と『影』

 その後も何度か店を回ったりしていた。
 ほとんどはシルエ一人がはしゃぎ回って、俺は振り回されている立場だったのだが……。
 色々わかったことがある。

 まず、この世界はゲームと似ている部分が多々あること。
 貨幣やらアイテムやら、ほとんど見たことがあるようなものばかりだった。

 最も、ゲームからそのままこっちの世界に飛んできた俺はアイテムも貨幣も持っていない状態なのだが。
 これからのことを考えて、何かで稼ぐしかないようだ。

 それと、もう一つ。

「アズマ様、民家を眺めているようですがどうかしましたか?」
「あ、いや……どこもレンガを主に使って家が作られているんだなあって」
「レンガは頑丈で入手しやすいので、庶民の人からは人気ですね。石造りの家よりオシャレな感じがするのも特徴です」
「ふうん」

 元の世界の住宅街と比べて高さは低いが、それでもレンガでしっかりと建造されズラリと並ぶ家々を見て目を細める。

 どこの家も同じ三角屋根の形としていて家ごとに少しずつ違う屋根の色だ。
 いつかテレビ番組で見た、どこかの外国の住宅街と雰囲気が被るなあ。

 この時代の文化に合わせて例えるなら、中世ヨーロッパ風というべきなんだろうか。
 よくファンタジーを題材としたマンガやゲームは中世ヨーロッパ風が例えられるのだが……。
 成程、これ以上に異世界にぴったりな雰囲気はないだろう。

「ん? 窓は木造りで開閉式なのか。ガラスじゃないのか?」
「ああ、ガラス細工は最近ようやく無色透明なものを作れるようになりまして……しかしそのようなガラスはまだ貴重なもので、庶民の家で窓にガラスを付けている家はおそらくないかと」
「へ、へえ……無色透明のガラスは、そんなに、高価なものだったのか……」
「ええ、そうです……アズマ様? 顔が真っ青ですが、どうかされましたか?」
「だ、大丈夫だ。うん、問題ないぞ……」

 と口では平然を装っているのだが、手は小刻みに震えていた。

 やべえ、さっき兵士から逃げる前に窓ガラス割っちまったじゃねえか。
 元々いた時代は窓ガラスなんてどこにでもあるもので、一枚割ったところでどうもしないと思っていたのだが……。

 そうか、こっちの世界ではまだ高価なものだったのか。

 どうしよう、あれ……。

 ま、まあ、あの時はいきなり襲われたこともあったし、自己防衛のようなものだから仕方ないと自己完結させておく。
 最も、この世界に『自己防衛』たる言葉が存在するかどうかは知らないが。

「それにしても、結構歩いたな」
「えへへ、そうですね」

 外に出ていた頃はてっぺんに昇っていた太陽が、今は西の方角に傾き始めていた。

「さて、そろそろ帰ろうか……ん?」

 そう言って、くるりと宮殿へと体を向けた途端に見えたものは。

 銀鎧を纏った人の群れが、こちらへと近づいてくる瞬間だった。

「──っ!」
「姫様、こちらに!」
「え? きゃっ!」

 ヤバいと感じた俺は、咄嗟に誰もいなそうな路地裏へと飛び込む。

「失礼、ここにシルエ姫と黒鎧の男を見かけなかったか?」

 路地裏へと隠れてしばらくしない内に、そんな声が聞こえてくる。
 チラリと覗いてみると、視界には銀鎧で埋め尽くされていた。

「え、ええ、今さっきまでそこに……」
「そうか、感謝する。お前ら、この周辺を全て捜すぞ!」
「はっ!」

 それを聞いた途端、すぐさま路地裏の奥へと逃げ出す。

「まずいな……」

 薄暗い細い道を駆ける中、ポツリと呟く。

 見たところ、シルエ達は近くにいない。だがさっきの会話を聞く辺り、彼女達も見つかってないようだ。
 どうやら、あの二人もいち早く察知してシルエとどこかに隠れたのだろう。

 ならば、今するべきことは一つ。

「あいつらに合流するか……」

 今のところ、俺を警戒せずにいるのはあの三人だけだ。

 シルエんとこの兵士は敵対状態で、住民は忌み嫌われている『黒』を纏っている俺を大いに警戒するだろう。

 それなら何かローブ等を買って、隠せばいいんだが……あいにく、今の俺はお金を持っていない。
 なので、そのことも含めて今彼女らと離れるわけにはいかないのだ。

 さて、どうやって合流しようか。


 * * *


「アズマ様、大丈夫でしょうか……?」

 視点変わってシルエとその護衛兵二人。
 シルエは不安そうに路地裏から覗き込んでいる。

「今のところ、彼も見つかってはいないようです。おそらく、我々と同様に隠れたのでしょう」

 銀髪の獣人、レオナードは冷静に事を分析する。

「城内を逃げ切った彼のことでしょう、我々と合流するべく動き始めていると思われます。我々もこのままでは見つかってしまいますので、この場から離れましょう」
「え、ええ、そうですね」

 金髪のロン毛であるガリウムの言葉にシルエは頷くと、そっと薄暗い奥の道へと進んでいく。

 今回、シルエが無断で街を出ることが出来たのは彼がいてのことだが、その他にレオナードとガリウム──この二人もシルエを少なからず助力になってくれていた。

 誰も勇者として彼を認めなかった中、シルエの言葉を信じてくれたのがこの二人だった。
 そして、「ならば、一旦街へと逃げ出すのはどうだろうか」と提案したのも、この二人だった。

 いつもなら、周りと同じくお堅い(あくまでシルエの主観である)レオナードとガリウムが昔の冒険者の頃の話をしている以外の時はいつも口うるさくって耳を塞いで聞かないふりをしていたのだが……。

 きっと今日に限って甘やかしてくれたのは、今までのこともあってのことなのだろうとシルエは心の中で自己完結してあった。

 ふと、シルエの頭の中に一つの疑問が浮かんだ。
 どうして今、私達は──

「んっ!?」

 しかし、シルエが考えられたのはそこまでだった。

 いきなり背後から、シルエの鼻と口を覆うようにして布のようなものが当てられたからだ。
 抵抗しようとするも、それより強い力で両手首を掴まれて動くことが出来ない。

 ならば、と無詠唱で魔法を出そうと魔力を込める……が。
 カチリという音が首元から聞こえたかと思うと、途端に生成しようとした魔法が分散していくのをシルエは感じた。

(あ……れ……? な……んで……)

 布から漂う甘い香りをシルエは吸い込みながら、それでも必死にもがこうとする。
 だが異様な香りはシルエの意識を蝕み、抵抗する力がどんどんと抜けていき──最後にはガクリと膝を地面につかせた。

 急激に襲われる眠気にシルエは地面に倒れながらも、なんとか起き上がろうと力を込めるが、もうまぶたを開ける力すら抜けきっていた。

「……よし、さっさと運ぶぞ」
「あいよ」

 意識が薄れていく中に聞こえてきたのは、口やかましいくらいに聞いている低い声と渋い声。

 ドサリ、と先程買ったローブが入っている布袋が目の前に落ちて……。


 ──ここで、シルエの記憶は途絶えた。

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